txt:西村真里子・猪蔵・編集部 構成:編集部

各社が次に問うモビリティとは?

CESには世界160カ国から6,000人以上のメディア関係者が集まる。そのメディア関係者が取材をする際に、取材相手の企業に問いかける言葉として「What’s Next?~この発表の次は何を目指しているの?」というものがある。

CESで大きな発表をしたその直後に「この次は?」と聞かれる企業の立場に立つと、なかなか酷な話なのかもしれない。偶然にも会期前に「この次」を考える回答が数社から出された。今年CES 10年目を迎えたダイムラーAG/メルセデス・ベンツ(以下:メルセデス)の代表のオラ・ケレニウスは「What’s Next?」の答え導き出すパートナーをハリウッドに求めた。

ハリウッドに次を求めたメルセデス

地球環境に優しいモノづくりが企業の姿勢に求められる昨今、メルセデスとしても3R(リユース、リサイクル、リデュース(削減))の取組や、カーボン・フリーの車を2039年までに徹底する計画はじめ様々なサステナビリティを意識した計画がある(工場の改善、リサイクル可能なバッテリーの開発など)。

ただ、それを数字上の達成率だけで示すのではなく、「車」そのもので表現することを計画し、映画「アバター」のジェームズ・キャメロン監督率いるライトストーム・エンターテインメントと組んでインパクトのある車をCES 2020でお披露目をしてくれた。それが「AVTR(エー・ブイ・ティー・アール)」だ。ステージ上にはAVTRとジェームズ・キャメロンも登壇した。

バイオメトリック・コネクション(人間と車、自然がつながる)を意識し、ハンドルやクラッチは無い。手のひらをかざすと操作が可能で、車のリアにはエラ呼吸をしているかのようなウロコも存在している。

メルセデスのオラ・ケレニウス代表は映画「アバター」を見て、これこそ自分たちが目指したいサステナビリティのあり方であるとジェームズ・キャメロンに相談にいったようだ。ジェームズ・キャメロンも、メルセデス・ベンツのような社会にインパクトがある会社と組み、映画ではなく「車」として世界観を発表することはとても喜ばしいことだと捉え、彼の率いるライトストーム・エンターテインメントのデザイナーやアーティストと組んで「AVTR」を作り上げた。

出来上がった車はまさに呼吸をするようで、いままでの「車」のメカメカしいイメージとは一味違ったものとなっている。実際に発表後ラスベガスの街を走行するAVTRを目撃した人も多い。

TOYOTAが始めるまちづくり

TOYOTAも新たな「What’s Next?」をCES 2020で発表した。豊田章男氏が二年ぶりに登壇し紹介したのは「Woven City」。人と車と自然、建物などがシームレスに共存できる自動運転&ロボットが人間とともに共存する時代にふさわしい街自体を作ろうという大胆なコンセプトだ。プロトタイプシティーは富士山の麓を予定しているらしい。

また、この構想を実現させるために世界で注目されている若手建築家の一人であるビャルケ・インゲルス(火星移住住居なども手掛けているデンマークの建築家)とパートナーシップを組んで進めているところは、新たなスマートシティ、コンセプトシティーというテクノロジー観点での注目だけではなく、建築業界、アート業界からも注目される取組になりそうだ。

この「Woven City」の“Wovenとは“紡ぐ”という意味だ。TOYOTAの創業時のビジネスである自動織機製作所の布を紡ぐ思いを現代に活かし、人・動物・建物・自然・車&ロボットという街に存在する構成要素をAI活用してつないで行く構想だ。2021年から徐々にお披露目を目指すようで、トヨタ社員、関係者、そしてこの取組に協力したい企業やプロジェクトを誰でもウェルカムする、と豊田章男氏は語る。

メルセデスもTOYOTAも社長自ら登壇し「What’s Next」を切り開いている。しかも車メーカーと映画監督、車メーカーと建築家、という新しいパートナーを得て切り開いている。「What’s Next」を探るためにはいままで組んだことないパートナーと組むというのも一つの近道なのかもしれない。

まさかのSonyが送り出したVISION-Sとは?

例年、ソニーのプレスカンファレンスでは、新製品のアナウンスと新領域の取り組みが紹介される。今回もその次を探りつつPS5の発表がありこれが今回の目玉かと思いきや、最後に驚きのモビリティーに関する発表が行われた。社内でも知る人は少なく青天の霹靂だっという。当然プレスカンファレンスの参加者は、戸惑いを隠せない様子だった。

ソニー独自のセンシング技術「Safety Cocoon(セーフティコクーン)」で自動運行などをTOYOTA、レクサスと協業すると発表したまでは既定路線と思われたが次に発表されたのが、EV車そのものであった。モビリティにおける安心・安全から、快適さやエンタテインメントなども追求する取り組みを、新たに「VISION-S」としてコンセプトカーを紹介した。

ソニーは最先端テクノロジーを組み合わせることで、安心・安全かつ、新たな感動をもたらす車内エンタテインメントの実現を目指して行くという。驚きはあったが、違和感はなく、次の回答として非常に興味深い発表だったと思わされた。

もう何があっても怖くない

自動車メーカーが街を作り、ハリウッドにその答えを問い、家電メーカーが車を作る。数年前までは考えられなかった事業ドメインのピポッドが今目の前で同時多発で起きている。

ダイバシティー(多様性)という言葉をここまで見せつけられた瞬間はないだろう。明日からの展示会開催に一抹の不安を感じつつも、その次の向こうへ何があるのか?知りたくなったプレスデイだった。

txt:西村真里子・猪蔵・編集部 構成:編集部


Vol.01 [CES2020] Vol.03