txt:平野陽子 (大広) 構成:編集部

2020年1月7日~1月10日、米国ラスベガスにて「CES 2020」が開催された。すでに多くのメディアで語られているが、再度振り返ってみたい。開催期間中の展示を通じて感じた「各企業の“未来へのアプローチ方法」「IoTやAI、5Gが現実化した私たちの暮らし」について、筆者の新規事業の開発・PM経験からのアングルで紹介したいと思う。

IoT、AIで日常が“つながる”最後の一押しとしての5G

主催のCTAは「CESから先につながるテクノロジートレンド」として「Trends to Watch」を発表した。ポイントのみまとめると、私たちの生活やビジネスに影響を与える部分はこの「新たなIoT」に集約される。

Vol.01でも触れたが、IoTが単なる「モノのインターネット化」のInternet of Thingsではなく、「日常の様々なモノが分析・判断・提案をする“知性”を持って社会と“つながる”」Intelligence of Thingsになる。

その肝となるAIの処理能力や活用範囲は、「大量のデータ処理と通信」が可能になる5Gの浸透が後押しし、対象領域も社会から個人に関わる範囲まで拡大。

本格的にIoT(Intelligence of Things)が進み、日常生活が社会と“つながる”ことで「個人の暮らし」へのサポート領域が拡大するという内容だ。

CES 2020では、“新たなIoT”「Intelligence of Things」の時代の幕開けが伝えられ、各企業が“未来の暮らし”の実現可能性を高める発表を行った。「IoTやAI、5Gが現実化した私たちの暮らし」を楽しくする具体的な商品やサービスについてさらに紹介していく。

リアル「鏡よ鏡…」の世界へようこそ!美しきスマートミラーたち

白雪姫では、女王が「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰だ」と問いかけるシーンが印象的だ。鏡が単純に「それは、白雪姫です」と答え、女王がキーッ!となって物語が始まる。けれども、鏡が「あなたのシミ指数は6点、シワは7点…10点にするには、改善する保湿ケアのステップをご紹介します」と的確かつ具体的に返す未来がすぐそこに迫っている。

2016年の調査によると、私たち東アジアの人たちが身だしなみにかける時間は週に2.9~3.6時間。実は、欧米諸国に比べてかなり時間が少ない。

GfK Japan「身だしなみに関するグローバル調査」より

他のことで忙しいが、時間をかけず美しくありたいという意識が、東アジアには根強いとも考えられる。

そのようなニーズを解決する「スマート版白雪姫の鏡」こと「LUMINI Home」が、CES 2020の「Unveiled」では大人気だった。サムスンの子会社「lulu lab」によるアイテムだ。

鏡に搭載されたカメラで顔を撮影すると(左)、スコアが表示される(右)

おすすめの美容ステップと美容家電(サムスン製)が表示され、みんな興味津々になる

美容意識の高い、しっかりしたソリューションが登場。「Daft Punk」みたいになれる

AIによる顔の画像解析からスキンケアのソリューションまでがつながった製品といえる。

美容とはまた別軸で、「身だしなみの間も他の情報をチェックしたい」というマルチタスク向けのアイテムが「Smart Home」のカテゴリーでも展示されていた。

YouTubeを見ながら、身だしなみができてしまう

この「Capstone Connected」のスマートミラーはインテリアとしてもデザイン性が高く、Google Chromeなどのブラウザやアプリを起動できるようにできている。

洗面台用から姿見まで、大小サイズがあるが、プライバシー配慮のためカメラだけは優先度を下げているというところが、先ほどの「LUMINI Home」とは違っている。

このほかにも「Smart Home」の展示では、冷蔵庫のドアがきれいな液晶になっている商品もあり、リアルに「日常の様々なアイテムがメディアになる未来」が垣間見えた。

日常が“メディア化”したら欲しくなるのは、プロフェッショナルなクリエイティブ

ここまで日常のプロセスがソリューションと“つながる”ケースや、生活用品そのものが“メディア化”するケースに触れてきたが、そうなると重要性が高まるのが「コンテンツ」となる。

身近に触れるものだからこそ、素人の自分が一から作るより、手っ取り早くプロのクリエイターの手を借りたいというニーズを感じるアイテムも見られた。

この、Prinkerの「Tattoo Printer」は、お風呂に入ると落ちる1日限りのワンポイントタトゥーのイラストを、わずか10秒程度で体に印刷できる。

自作かクリエイターによるイラストを選択し、右奥のハンディプリンターを使い印刷する

専用プライマーをスプレーしサッとハンディプリンターで印刷。再度コートして完成

プロセス自体は10秒以内だが、なかなか順番が回ってこない。原因は、いざ自分の体に印刷するとなると、老若男女問わずものすごく迷ってしまうからで、多くの人がクリエイター作品内で選ぶ光景が見られた。

LINEスタンプ同様、ポップなイラストが描ける人の発表の場として、人間の体が選ばれる日もそう遠くなく、イベント会場などで使うのも非常に楽しい製品だった。

同様のケースはGuangzhou Taiji Electronicの「O’2 NAILS」でも発生。こちらは2日くらいでペロッと剥がれる、簡易ジェルネイルのプリンターだ。

画像を選び、下地をUVライトで固めた後に印刷(左)トップコートを塗って完成(右)

この「日常を彩るコンテンツを作れ、選べる」製品は、形あるものだけにとどまらない。「Digital Health」の文脈の一つとして、メンタルケアに有効とされる「香り」の分野でも同様のアイテムが登場している。

フランスのCOMPOZのカスタマイズできるアロマディフューザーは調香師おすすめの香りブレンドをアプリでレコメンドしてくれる。

アプリでアロマオイルをカスタムブレンドを作り、ディフューザーから出せる仕組み

一応、アロマテラピーアドバイザーの資格を持つ身としては、各社から発表される香り系のアイテムは嗅ぎまくってみたが、このCOMPOZの香りが質的にも住空間に最適だと感じた。

日常が“つながる”のは悪くない。何と“つながる”か、コンテンツは選べた方がいい

この他にも、今回のCES 2020では、日常が“つながる”ことで生活がより安全・快適にできるもの、楽しくできるものが、数多く現実味を帯びて展示されていた。

日常の生活が、IoT化されデータを通じ社会と“つながる”良い側面をたくさん知ることができた一方で、様々なものが“メディア化”し「即時の判断や決断を迫ってくる」という忙しさもまた予期できてしまう。

生活のあらゆるものが、社会との接点やメディアになった際、意志決定の負荷は大きくなる。その負荷を軽減するものや、ある程度悩まなくても大丈夫な質の良いコンテンツのニーズがより大きくなるのでは?と個人的には感じる「CES2020」となった。

txt:平野陽子 (大広) 構成:編集部


Vol.07 [CES2020] Vol.09