txt:伊藤格 構成:編集部

SIGMA fp firmware version 2 & Blackmagic Video Assist 12G HDR

Blackmagic Video Assist 12G HDR(以下:Video Assist 12G)シリーズのアップデートがリリースされた。双方のアップデートで、SIGMA fpからのHDMI出力でBlackmagic RAW(以下:BRAW)での映像収録が可能になった。

SIGMA fpは、本体とUSB-C接続したSSDでロスレスRAW収録が可能。10bitで非圧縮とされるデータ容量の大きさで、あまり現実運用には好まれない形式を採用しているが、フルサイズセンサーであることの描写の精細さから、この収録形態が改善されれば、仕事の現場でも使えそうだと期待を持たれる読者も少なくないであろう。

それらを改修すべく提供されたのがSIGMA fpの新しいファームウェア2.0である(※原稿執筆後にVer2.01が公開された)。Version 2.0はVideo Assist 12GのBlackmagic RAWフォーマットに対応。今回編集部からVideo Assist 12G 7インチをお借りしたのでSIGMA fpとの組み合わせでBRAWでの収録を検証してみた。なお、本稿の執筆はSIGMA fpファームウェアVer.2.00で行った。すでに公開中のVer.2.01では、いくつかの問題が解決されている。

Video Assist 12Gのファームウェアをアップデートする

Video Assist 12GのファームウェアはBlackmagic Desigh社のWebページから、Blackmagic Video Assistの3.2.3アップデートをする。MacもしくはWindowsを選択してダウンロードし、アプリをインストールする。インストール後ソフトウェアを起動して、USBでVideo Assist 12G本体を接続すると、ファームウェアが古ければアップデートを促してくるので、アップデートのボタンをクリックする。正常に完了すれば、終了の表示がされる。

Blackmagic Video Assist 12G HDRのファームウェアをアップデート

SIGMA fpのファームウェアをアップデートする

fpのファームウェアアップデートもシグマのWebサイトからダウンロードするが、こちらはアプリではなく、ファームウェア用のデータである。これをダウンロードして、SDにコピーする。そしてfp上のメニュー画面でファームウェアアップデートページを選択して、SDにコピーしたファームウェアデータを選択すればアップデートが始まる。無事ファームウェアアップデートが終われば、これで接続準備完了だ。

SIGMA fpとVideo Assist 12Gの設定を行う

まず、カラーモードがOFFになっていることを確認する。SIGMA fpのメニュー設定でHDMI出力を選択し、さらに記録映像出力を選択。出力信号をRAWに設定し、解像度を4K、UHD、FHDから選択、そしてフレームレートを選択する。

次にSIGMA fpのHDMI出力からVideo Assist 12GのHDMI入力にケーブルを配線して(HDMI 1.4以上のケーブルを使おう)、Video Assist 12Gの画面上にあるCodec表示をタッチし、Blackmagic RAWと圧縮比を選択する。自分はREDを使う時もなるべく二桁のビットレートを選択しないようにしているが、一般的には8:1で十分だろう。5:1や3:1はよっぽど画面いっぱいに複雑な動きがある場合等に活用するといい。またコンスタントビットレートとコンスタントクオリティと2種あるが、Q0やQ5は映像の要求に対して可変でビットレートが変異する。Q0ができるだけ高品質に保つ形式で、Q5はできるだけファイルを小さく保つ形式だ。筆者はあまりこの2形式の予測ができてないので、REDでも慣れた固定ビットレートで運用している。

SIGMA fpの設定が正しく、HDMIケーブルも機能していれば、Video Assist 12G側の入力信号は自動的に設定される。

今回はHDMI入出力の「2160p29.97」の信号を受けている

収録してみよう

収録には下記映像の様にVideo Assist 12G側のRECボタンを押さなくてはならない(※2020年8月27日に公開したVer2.01では、RECトリガーが動作しない問題は解消されている)。

RECボタンを押した後に全画面を確認したければ、画面下部の部分を下にドラッグすると、コントローラー部分が全て消える。また、Pocket Cinema Camera(以下:BMPCC)同様、収録中でもズームしたいところをタッチすると、2倍の拡大表示になり、ドラッグすれば見たい部分に移動できる。もう一度タッチすると通常表示に戻る仕様になっている。REDでも見習って欲しい機能である(Komodoでは達成したらしい)。

fp本体の収録をHDサイズにしておき、同時に収録できればオフライン編集用データとして良いと思ったが、HDMI出力設定でRAW設定の場合、本体での収録はできないようである。せめて映像収録開始は、本体の映像収録開始・ストップボタンでできると思ったが、働かないようである。今後の改善点として期待したい。

収録中だが、fp本体のQSモードを表示しながらVideo Assist 12G側で収録できる。QSモードで表示される項目を変更できるのは便利だ。

簡単に設定することができるQSメニューを表示しておくと便利

今回のバッテリーオペレーションは、SIGMA fpは純正バッテリー、Video Assistはソニー製のバッテリーで行った。アイ・ディー・エクスから発売されているD-tap付きのLバッテリーを使ってVideo Assist 12Gに取り付け、fpの電源はD-tapから取れば、同一のバッテリーを使ってカメラとレコーダーの両方に電源供給ができないのか?と考えたこともある。しかし、検証はしていない。fp本体のバッテリーのみでは動画撮影をする上では容量が足りなさすぎるので、何か対策を考えたい。

シグマはfp対応のDCコネクター「CN-21」を発売しているが、純正のカプラーよりこちらの方が不慮のプラグハズレなどの事故が少なくなって良い。またケーブル間違いのためにfp本体に過大電流が流れてしまうことも防げる。映像の仕事ではVマウントバッテリーの使用が基準だが、fpにしろPocket Cameraにせよ、小さいカメラは大容量バッテリーの取り付けが悩ましいところであるが、上記のD-tap付きLバッテリーのアイデアはVマウントバッテリーより小さく、マウントするのに余計なプレートなどを必要としないので、なかなか良いのではないだろうか?

サードパーティ製のカプラーを使用

Video Assist 12Gの表示機能を活用する

Video Assist 12Gには、そもそもビデオカメラをアシストするための様々な機能が搭載されている。まずは波形モニター、パレード、ヒストグラム、などの表示モードである。ちょっと残念なのが、波形モニターなどの表示は透明度を変えたり、映像を背景に映したりができたり、映像を小さいウインドウに移すことができるものの、波形モニターなどをフル画面の映像の中に小さく表示させる機能はない様である。今後のアップデートに期待したい。

映像を背景に映すことが可能

映像を小さいウインドウに移すことも可能

他にゼブラ、フォーカスアシスト、フレームガイド、グリッドなどのアシスト機能も便利だが、Display 3D LUTに関しては、fpの場合は709LUTが別途LUT画面で選択されているので、この機能を有効にすると、LUTが二回かかっている表示になるので注意したい。もちろんRAW収録となっている。

収録したファイルをDaVinci Resolveで処理

さて、SDに収録したRAW映像素材をDaVinci Resolveで検証してみよう。まずはそのまま素材を開いた状態(キャプチャー)。RAW項目の“Decode Using”でカメラメタデータを選択。

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ただし、これが素材の持つ内容を正しく表示しているかというとそうではなさそうだ。見ての通り、白トビして、暗部が潰れた状態で“表示”されている。

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ではDecode UsingをClipに変更してみる。Color SpaceやGammaは709に設定され、Apply LUTの項目はチェックされている。先に述べた通り、SIGMA fpからVideo Assist 12GへのHDMI経由RAW収録に関しては、どうやらSIGMA fpが709を載せているようで、BMPCCに慣れている自分はLUTをファイルに追加する項目を有効にしていたからかもしれないが、このように素材を開いた状態では、Apply LUTで有効になる709と、メタデータのColor SpaceやGammaで選択された709が重複して施されている。

Apply LUTのチェックボックスを外すとキャプチャー通り、空の雲のディテールは出てきた。ハイ飛びしない様に撮影したせいか、暗部に関しては、これでもレベル0を下回る。リフトを持ち上げると、隠れた暗部の信号が復活してくるが、これでもあまりパッとしない画だ。BRAWとして最大限素材の持つダイナミックレンジを活かすには、Camera RAW設定でColor SpaceはBlackmagic Designを選択して、GammaはBlackmagic Design Filmを選択して、クリップの3D LUTをPocket 4K Film to Video V4にするのが一番しっくりきた。そこからCamera RAWのサチュレーションや色温度などを調節し、ノードで各エリアをパワーウインドウで選択してパッキリさせた状態が例である。

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もともと曇りのかなりどんよりした状態だったが、RAW動画だからこそ、ここまでパッキリさせても、映像が崩壊せず質の良い4K映像が得られる。SIGMA fpではCinemaDNGのRAW動画を使うこともできるが、ファイルが大きくなりすぎるため、はっきり言ってBMPCCでのBRAW収録と比べると、沢山作品に携わる上では現実的ではない。なので、どちらにしろfpなどの小さいカメラでは必要になる外部モニターの機能と、扱いやすいBRAWの収録ができるこの組み合わせは非常に価値が高い。

BRAWのISOが固定になってしまう

このカラーグレイディングを行っている際、自分がRAW動画として多用する項目が利用できないことが分かった。Camera RAWのISO項目である。ISOに関してはBRAW自体では変更が可能ではあるものの、SIGMA fpでのBRAWは固定になってしまい、変更ができない仕様になっている。

RAW収録の場合は、カメラが持つダイナミックレンジを超えたカラーグレイディングをすることでシネマティックな映像が得ることが可能だ。例えば撮影時にISOを低くして撮影し、カラーグレイディング時にISOを上げるなどは、必須の作業である。なので、今後は対応できるアップグレードを期待したい。

ノイズレベルが少ない

今回、少しBMPCC4Kとの比較もしてみた。夜間の低照度撮影で、SIGMA fp+Video Assist 12Gとの組み合わせの方が、ノイズレベルがずいぶん低くて感心した。逆にMetabones SpeedBoosterとSimga 24-70mm F2.8との組み合わせでは、解像度に関してはフルセンサーのSIGMA fpと比較して、それほど大きな違いには感じなかった。

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まとめ

もし貴方が既にSIGMA fpユーザーなら、今回のアップグレードは朗報である。BRAW対応以外にも機能的アップデートがたくさん追加されている。アップデートリリース当時よりさらに新しいバージョンがリリースされて、当初稼働しなかったFHDでの120コマ撮影なども対応したそうだ。

記事内ではVideo Assist 12G 7インチで運用したが、バランスが合うサイズは5インチモデルだろう。ただ、5インチではフォーカスが厳しいと思われる方は、7インチモデルでしっかりリグを組むというチョイスもあるだろう。少数人数体制の撮影で、クライアントに見せる上でも7インチの方が印象が良いこともある。今回さらに驚いたのは、BMPCCと比べてSIGMA fp内蔵マイクの方が圧倒的に良い音で収録できることだ。近接だったら外部のマイクが必要ないくらい音質が良い。

SIGMA fpの内蔵マイクの例

こういった他社の製品との組み合わせで機能や用途が広がることはとても良いことである。自分としてはSIGMA fpを利用する際、ちゃんとした撮影ではVideo Assist 12Gとの組み合わせ。普段バッグに入れてパンケーキレンズなどをつけて撮影する際はSIGMA fp本体のみなど、スタイルが幅広く利用できるのはこれらの機材を持つ価値が非常に高くなると言える。今後一層実利用に合ったアップデートを期待する。

伊藤 格|プロフィール
テクニカルプロデューサー。撮影、DIT、カラーグレイディング、編集も手掛ける。Red Weapon Helium 8K、Epic Dragon 6K、Epic-MX 5K、BMPCC4Kなどを所有している。

txt:伊藤格 構成:編集部


Vol.10 [Camera Preview 2020] Vol.12