txt:島村漱 構成:編集部

テレビCMの始まり

NHKしかなかったラジオ放送、1950年代を迎え民間ラジオ放送がラッシュのごとく誕生。そんな中で1953年(昭和28年)2月1日、NHKが日本初のテレビ放送を開始した。

当時、最初のテレビ番組は歌舞伎の中継で、この映像を受信したテレビ契約数866台、1953年全体では1485台だった(出典:Web電通報・電通広告景気年表)。そして同年8月28日、民間テレビ放送<日本テレビ放送網(NTV)>も開始された。

※関西における民間テレビ局開局はOTV大阪テレビ(現:朝日放送<ABC>)で1956年12月1日開局

テレビCM第一号は精工舎(現:服部セイコー)の正午の時報だった。「セイコー舎の時計が正午をお知らせいたします!」。しかしここには大きな歴史的事故が起こったことをご存じだろうか。

※参考 広告会社:電通・制作会社:電通映画社

このCM放送第一回の12時の時報は、慣れない担当者がフィルムを映写機に反対にかけてしまい(一説にはリハーサルで映写機にかけ、巻き戻しをせずに本番でラストからかけたとか?)、当然、画は逆に、音も「?」の途中でストップ。放送は中止となり、このCMの7時版が夜の7時にかけられたという記録が残っている。初のテレビ放送事故が初日に起きたわけだ。もちろん12時の時報は翌日以降に放送された。

民放テレビコマーシャル第1号となるセイコーの時報CM

当時は、テレビが自宅にはないのは当たり前で「街頭テレビ」は黒山の人だかりだったことは言うまでもない。筆者自身学生時代に、父と近所の喫茶店の前売り券を購入し、お茶とケーキ付でプロレス中継(力道山・木村VSシャープ兄弟戦 1954年)を観た経験がある。もちろんカラーではなく、白黒テレビだったのは言うまでもない。

CM 16mmプリント初号

CM 16mmプリント初号

当所の番組間のCMは、16mmフイルムで放送されていた。もちろんCMも白黒。スタジオCMは生放送(通称:ナマコマ)でスタジオで制作し放送されていた。当時は映像をビデオ録画する技術はなく、それ以外の番組と番組の間などに入るCMは、前もってフィルムで制作・撮影・編集され、16mmのプリントをつくって全国の民放テレビ局に発送していた。今のCM作品のデーター発送と比較してみると大変な差にお気づきだと思う。しかし撮影時に行う作業や内容は何も変わっていない。

※注 日本独自の言葉となる「CM」は「Commercial message」の省略である。商業上の広告・伝言のことを指す

※上記情報出典は電通広告景気年表、CM25年史、ウェブ電通報など参考。

CM制作のプリプロダクション

CM制作におけるプリプロダクションの流れ

CM制作の現場における制作目的は当然ながら映画製作のように劇場で観客に観てもらうこととは大きく異なる(ある時点から35mmフイルムによるテレビ用CFフィルム上映も劇場で実施されている)。それは新商品の告知であったり、売り上げ促進を目的としており、商品などに関してテレビの視聴者や近年増加しているWebを通じての宣伝・告知を目的にしたものが多いからだ(最近では社会情勢から公共広告も増えている)。

ある企業が新製品を出すとして、発売日に合わせてPRを行う必要がある。最初に新製品のCM制作のためのオリエンテーションが行われる旨の知らせを各広告代理店営業部の担当はクライアント担当者から受領し社に持ち帰る。予算などを含め内容検討の上、そのオリエン実施に参加し、企画競合に参加するか否かも含めて検討する。広告代理店で参加することが決まれば、その意思を示した広告代理店に向けて商品の「オリエンテーション」が決められた期日にクライアントから行われる。

ただし、この「オリエンテーション」の内容はクライアントにとっての秘密情報となり、その内容は当然ながらオリエンを受けた側は外部に絶対漏らすことはできない。

■オリエンテーション(オリエン)

広辞苑によれば“オリエンテーション”とは、「物事の方向づけ、進路を定める事、またそれを定まるように指導すること」とある。クライアント(広告主)が広告代理店などの制作サイドに向けて、広告のためのコマーシャル制作に先立って開催されるもので、多くの場合参加する広告代理店の競合となる。通常オリエンテーションには広告代理店の営業担当者とクリエィティブ ディレクターなどが参加する。

オリエンテ―ションで提示される項目

  • 商品名
  • 広告の目的
  • 広告目標
  • 購買ターゲット(年齢・性別など)
  • 広告の訴求点
  • キャンペーン期間
  • キャンペーン予算
  • プレゼンテーション期日・場所
  • 商品コンセプト
  • マーケティング目的・目標
  • 販売戦略
  • 競合商品との比較など

これらが競合参加広告代理店に向けて提示され、各社持ち帰り、企画作業体制に入る。

■企画会議

オリエンテーションで得られた情報を基に代理店の担当CD(クリエイティブディレクター)は企画会議を実施し、プランニングにかかります。そこには、プランナー(企画制作担当)・コピーライター(主にコピーなどのコトバを担当)・アートディレクター(主に画を担当)などの関係者が参加。また、元々代理店に在籍したCDなどが独立し、クリエイティブエージェンシーを設立して活動する人も増えた。こうしたメンバーに代理店サイドから参加を依頼するケースも最近は多い。

この時点ではまず競合に勝つことが最重要である。企画会議は魅力的なプレゼンテーションに向けた大切な作戦会議である。オリエンテーションで得た材料を基に「コンセプト」を考える。「コンセプト」とは基本的な考え方、主張のこと。商品広告であれば、その商品のセールスポイントは何か?またなにを中心にして売り出すのか?どんなところで使ってほしいか?などを伝える事である(※参考広告流通用語辞典より引用)。「コンセプト」はその広告の中心(へそ)となる部分を一言で表現しなけらばならない。チーム全員が意見を出しアイデアづくりに専念する。大変だが、なかなか魅力のある仕事ではないだろうか?

CMの構成要素
CM制作に必要な大切な四つの要素、それは「映像」「言葉」「音」(音楽・効果音)そして「時間」だ。どんなに映像が良くてもコピー(言葉)が陳腐でバランスが悪かったり、映像もコピーも良いのに音楽が適切でないと見る人は不快である。時間は当然与えられた時間(最近ではほとんど15秒.30秒、時折60秒がある)に正確な長さである必要がある(一齣たりとも違ってはならない)。

CM企画はどんな切り口で?表現はどうする?
CM企画をする際にただ商品眺めていても案は出てくるものではない。その商品を縦にみるか?横にみるか?それとも斜めにみるか?下から見るか?上から見るか?色々ある。一例をいくつか挙げてみよう。

  • 自社の他製品と比較してみる(海外では他社と比較はあるが日本では基本的にできない)
  • 実際に使って見せる
  • 何回も繰り返してみる
  • 思い切り綺麗に見せてみる

など、まだまだある。これは今実際にオンエアーされているCMを見てこれはどんな切り口かを読者の皆さんがそれぞれ考えてみるのも良いのではないでしょうか?

切り口が決まると次は表現方法だ。こちらも少し例を挙げてみよう。

  • ドキュメンタリー的な表現あるいは実際に使うところを記録して見せる形の表現
  • 有名タレントのプロの説得力の力を借りる
  • 説明は排除し、美しい映像の力で観るひとの感性を動かす表現
  • 新しくキャラクター(人形やその他の動物などを象徴的に作ったもの)を作り、観る人に記憶してもらう表現方法
  • 新たにCMソングを作ったり、有名歌手の新曲とタイアップなどによる表現
  • 現実にはない世界をCG(コンピュータグラフィックス)で創り表現する

など、まだまだあるが、あらゆる手を借りて表現し、視聴者の心を掴むことがこの表現方法だ。こうした見方から様々な「アイデア」を引き出し次の絵コンテボードに集約していく。

また、企画段階で「消費者はどのように購買行動に動くか?」というマーケティングの基本として出てくるのが以下の事項だ。

「AIDMA」
Attention:注意・注目
Interest:興味・関心
Desire:欲求
Memory:記憶→Action:行動

この頭文字で消費者が品物やサービスを認知して「買う」という行動に出る。しかし最近では別の行動モデルも出てきた。

「AISAS」
Attention:行動・注目
Interest:興味・関心
Swarch:検索
Action:行動
Share:共有

新しい行動モデルは今のパソコン・携帯時代の象徴でしょう。こうした購買行動までを考慮した企画作業は大変重要であると考える。

■プレゼンテーションにおけるクライアントへの説明用「絵コンテボード」とプレゼンテーション

架空のプレゼン用絵コンテ

「絵コンテ」と一口に言っても、このプレゼン用絵コンテと演出用絵コンテはかなり異なる。プレゼン用絵コンテではまずクライアントにいかにCM企画意図がわかるかを目的としている。60cm×90cm程度の白いボードにメインとなるイメージ画といくコマかの画がきれいに描かれたもの。関係者以外はあまり見ることがないものだ。直接仕事がとれるか否かの決め手となるものでもある。

プレゼン用コンテ(模擬的に作られたもの)

このプレゼン用絵コンテをもとに代理店側CDはクライアントに企画意図などを説明していく。最近では映像でコンテを作成した「ビデオコンテ」によるプレゼンなども良く行われている。

また、当該の作品に参加してもらえるスタッフやキャストなども「わが社ならこの監督をお呼びできます」とか「この有名タレントに依頼可能です」といった必要な告知事項などを全ての力を出し切ってプレゼンする。このプレゼンで競合に勝ち、制作依頼決定の知らせが届いた際には、直ちに制作プロダクションを決定しなければならない。これも従来から何社かのプロダクション競合が実施され、最終的に決定となる。決定の要素はメインスタッフの充実性や力量のあるスタッフがどれだけ参加できるかにある。

結果、発注プロダクションが決定すれば直ちに次の段階「PPM」を行う準備に入る。

■PPM(Pre Production Meeting)

クライアントから制作代理店が決定すると、最終のクライアント(広告主)・広告代理店・制作会社の担当者や制作スタッフのうちプロデューサー・制作・ディレクターなどが撮影前に実施する会議「PPM(Pre Production Meeting)」が行われる。

PPMは、企画意図の確認・演出プラン・出演者・衣装・ロケ地・セットデザイン・小道具・音楽・スケジュールなどの詳細について確認する会議である。こうしてすべてクライアント・広告代理店・制作プロダクションでのプリプロダクション作業は終わりプロダクション段階へ進む。

演出用絵コンテ(架空)。これはまだ完成形ではなく、ここからより詳細な演出が書き加えられる

一部分ではあるが、次回からは撮影現場で活躍するスタッフを部署単位で紹介しようと思う。お楽しみに。

島村 漱(しまむら そう)
1960年立命館大学経済学部卒、某広告代理店系映像制作会社 技術部撮影課に入社。1993年に同社を定年退職後、映像関連人材派遣会社大阪支社立上げをサポート後退社。1995年フリー撮影者となり、その傍ら映像系専門学校の講師を務める。2001年に宝塚大学(旧宝塚造形芸術大学)映画コース教授、2007年に立命館大学映像学部の立ち上げに協力後、撮影・照明技術担当の一員となり客員教授として授業担当、現在に至る。(協)日本映画撮影監督協会所属監事

txt:島村漱 構成:編集部


Vol.02 [映像基礎講座] Vol.04