txt:長谷川朋子 構成:編集部  VR内写真:ぴちきょ(VRジャーナリスト)

世界最大級の映画、音楽、テクノロジーの祭典「SXSW」初のオンライン版が今週16日に開幕した。今回の目玉は間違いなくXR開催だ。VRヘッドセットのOculus Quest2を装着すれば、目の前にバーチャルのオースティンの街が広がっている。

そこでVR制作の隠れた名作に出会うことができた。アルゼンチンのクリエイターによるその作品のタイトルは「4 Feet High」。「ディサビリティ」と「アイデンティティ」がテーマの青春コメディをVRで見るべき理由がある。

車椅子に乗る青い髪の17歳の美少女ファナが主役の青春コメディVR映画

今年は米オースティンからオンラインで開催中のSXSWでバーチャルの祭典が展開されている。世界でも有数のイベントがXR開催されるとあって、映像コンテンツビジネスや作品解説を専門とする筆者もテック弱者ながらOculus Quest2に初トライし、おぼつかない操作でバーチャルのオースティンの街に飛び込んだ。

SXSW伝統の音楽ライブやセッション、ネットワーキング等の体験がソーシャルVRプラットフォームの「VRChat」内に作られたSXSWワールドで可能にしている。対応作品数は限定されるが、フィルムスクリーニングも行われ、オースティンの街中にあるシアターで視聴した過去のSXSW体験が蘇ってくるのだ。

そんななか、出会ったのがアルゼンチンのVR短編映画シリーズ「4 Feet High」だった。VR作品と言えば、自然や動物、宇宙・科学のジャンルが多いが、この作品は違った。車椅子に乗る青い髪の17歳の美少女ファナが主役の高校を舞台にした青春コメディだったのである。見始めた瞬間からVRらしい主観的なカスタムメイドの視点でドラマの世界に入り込んでいく。

そして、実生活でも車椅子生活の主演女優Marisol Agostina Irigoyenの吸い込まれそうな目力に惹かれる。インディペンデント映画の祭典、サンダンス映画祭で今年、公式セレクション作品としての実績を持つ実力派であることに納得。毎エピソード約10分の4話で構成される短編映画シリーズを、VR酔いを忘れるほどにイッキ見した。

実際にVRで視聴体験

見るべき理由は親しみやすい青春物語に乗せながら、VR制作が活かされた演出とアニメーションを駆使したポップな映像美から、唯一無二のオリジナリティを作り出していることに集約される。例えるならば、Netflixで人気のティーン作品「セックス・エデュケーション」のトレンド要素と、「エターナル・サンシャイン」を代表作に持つフランス人監督のミシェル・ゴンドリー作品のような没入感、巨匠スタンリー・キューブリックのような色彩美が組み合わされている。

ストーリーは転校したばかりの高校で主人公のファナが自我を追求しながら、性に目覚め、「今こそ性教育が必要だ!」と抗議する学生グループに巻き込まれていくというもの。ファナと同じ目線で撮影されていることもこの作品のユニークさのひとつで、VRで視聴するとさらにファナの息づかいを感じる距離感がある。

それによって、感情移入しやすい。だが、そんな珍しさに気を取られる以上に、「ディサビリティ」と「アイデンティティ」2つの明確なテーマが芯にあることで、思考に誘う作品として昇華させている。力強い作品であることを間違いなく実感できる。

障碍者セクシュアリティに一石を投じる女性監督コンビ

制作したのはアルゼンチン在住のインディペンデントの監督、脚本家、オーディオビジュアル・プロデューサーであるMaría Belén Poncioと、自身も障害のあるRosario Perazolo Masjoanの女性コンビの若きクリエイター。VR監督はアルゼンチンのVR制作集団360 Argentinaに所属するDamian Turkiehが務めた。フランス/ドイツのテレビ局ARTEも出資し、フランスとアルゼンチンの合作になる。

社会にインパクトを与え、ジェンダーの視点を持つアートコンテンツを生み出すことに拘るMaría Belén Poncio監督と、障害者のセクシュアリティに一石を投じることを信じ、メガホンをとったRosario Perazolo Masjoan共同監督のクリエイティビティが炸裂するシーンが満載であることも保証する。

それは記憶に残るシーンに象徴される。車椅子を持ち上げながら、段差の先に向かったポルノショップでの一場面や、車椅子のベルトをひとつひとつ外す初体験、学校のホールでファナを含む高校生男女がジェンダーを越えて戯れる締め括りに至るまで、これまで描かれていないような視点がある。VRの没入感とラテンミュージックとコメディタッチの軽さも加えられ、文句の付け所がないぐらいだ。

SXSW参加者はSXSWオンラインXR期間中、ワールドにあるミュージアム・ギャラリー「The Contemporary Austin」を目指して欲しい。オースティンに実際、足を運んだことがある人はコングレスアベニューにあるそれとの再現性にまず驚くかもしれない。

2階のギャラリー・ルームに行くと、映画ポスターが並ぶ中に「4 Feet High」のポスターがある。その前に立って手持ちのコントローラーを操作すれば、シアタールームにワープ、ストーリーが始まる。

シアタールームに一緒にジョインできる参加者がもしいれば、感想を言い合いながら、感動を分かち合える瞬間をバーチャル空間で共有することもできる。オンライン開催ながら、オースティンのシアターにいる気分になること間違いない。

サンダンス映画祭でも注目され、SXSWでも「4 Feet High」をオススメ作品に挙げる参加者は多い。コロナ禍によってホームエンターテインメントに目が向けられている今だからこそ、VRコンテンツが浮上し、日の目を浴びた作品とも言える。VR体験を始めるきっかけを作るほどの力も持っている。ファナの物語はまだ無限にあるようで、シーズンが続いていく作品になっていくことにも期待したい。

txt:長谷川朋子 構成:編集部


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