txt:伊藤よしこ 構成:編集部

2021年のSXSWは3月16日から20日(米テキサス州オースティン現地時間)の5日間、「SXSW online 2021」と題して完全オンラインで開催された。Film部門も作品がオンライン配信となり、バッチホルダー(参加チケット購入者)なら、誰でもどこからでもインターネット経由で作品を観ることができた。

ただコンペティション作品の中には、ワールドプレミア上映のためアメリカのみアクセス可能となるジオ・ブロック(地域制限)がかかっており、日本からは観ることができない作品も多くあったが、それでも2021年のSXSWらしさを感じる作品に多く出会うことができた。

Demi Lovato: Dancing with the Devil

オープニング作品「Demi Lovato: Dancing with the Devil」は、アメリカの歌手で現在28歳のデミ・ロバートについてのYouTube・オリジナル・ドキュメンタリーだ。10代でテレビドラマでデビューした彼女が2018年に薬物の過剰摂取で入院した後、いかに過去のトラウマを乗り越えたかを描く内容だ。

日本から作品を観ることはできなかったが、HeadlinerとしてYouTubeのオリジナルドキュメンタリーがプロモーションを兼ねたラインナップになっていることは興味深い。SXSWはクリエイターの見本市として、最先端のプロダクト(アイデアも含む)のプロモーションの場でもあるからだ。

Interview still from Demi Lovato: Dancing with the Devil | Credit: OBB MEDIA

またデミは自身の映画とは別に「Beyond the Gender Binary」というセッションにも登壇しており、ノンバイナリ(自身を男女の性別に当てはめない人)の対談相手に対して「自分自身のままで生きること」に共感し応援している。エンターテインメント業界で女性として子供から成長する難しさを体験している彼女の言葉に、ライブチャットで参加している視聴者からも共感するコメントが多く集まっていた。

SXSWで出会う映画には、アメリカの映画祭として、クリエイターたちがこの1年間で敏感に感じ取ったインサイト(潜在意識)を見ることができる。特に今年は、コロナ禍の1年間であり、トランプ政権の影響やジェンダー平等、Black Lives Matterなど、偏見や感情による分断の兆しの中で、より良く生きるために答えを見出そうとするメンタルヘルスにつながる要素を含んだテーマが多くあったように思う。特にドキュメンタリーというアプローチで見せてくれた作品に力強さがあった。

The Lost Sons

Credit: Giulio Biccari

Documentary Spotlight部門の「The Lost Sons」は、驚愕の事実が二転三転し続ける98分間だった。1960年代に米シカゴの病院で誘拐された男の新生児が、15週間後にニュージャージー州で見つかり、無事に両親の元に戻った事件をきっかけに、主人公が自分は何者なのかを問うドキュメンタリーだ。この作品で観客は、家系図を調べていくうちに次々と明らかになる想像を超えた事実を見ながら、自分の本当の誕生日すら知らずに生き続ける主人公の姿に共感し、何者でもない自分との折り合いに葛藤する姿を通して真実とは何かを自問することになる。

Kid Candidate

Credit: Homero Salinas

またDocumentary Feature Competition部門の「Kid Candidate」も興味深い作品だった。米テキサス州の小さな町アマリロの議員選挙に出馬する20代の青年を追うドキュメンタリーだ。スーツ姿が議員みたいだと友人に言われたことがきっかけで出馬した主人公は、寄附金を募るつもりもなく、ハーモニー・コリン監督による映画「ガンモ」(1997年公開時、要点がわからないと賛否が分かれた映画)みたいな選挙活動のプロモーションビデオを作ったところネットでバズり、勢いに任せて選挙活動に没頭していく。

その実際のバスった映像

しかし物語が進むにつれ、彼は幼い頃から父親に常に否定的な言葉で非難され続けていたことを告白する。非難されないように、とにかく何でもやり続ける性格になったというのだ。さらに選挙活動をし続ける彼の姿を追うことで、生まれ育った街にもかかわらず見えていなかった人種差別や貧困の格差、議会の不正なシステムなどが明らかになっていく。そして選挙活動を続けた結果、助けを必要としているコミュニティと出会い、本当の自分と居場所を見つけることになるのだ。

一人の青年が自分で出来る限りの行動をし続けることで、測らずも政治の不正が露呈し、彼自身も子供から大人へ成長する物語になっている点は、観客に共感させながら主題を伝える秀逸なストーリーテリングだ。

Recover

Blake (Mallory Everton) steels herself to exit the car during a pandemic and handle a sticky gas pump, armed with nothing but sandwich bags for gloves—and they’re snack-size. | Credit: Brenna Empey

一方、フィクションに目を向けるとNarrative Spotlight部門のロードムービー「Recover」は、コメディというアプローチでパンデミック下の日常を描いていた。離れて暮らすお婆ちゃんを新型コロナウイルスから救うため、車での道中で起こる様々な「パンデミックあるある」を繰り広げる2人姉妹の姿は爆笑シーン満載だ。

パーティでのガールズトークでマスクなしで耳打ちされるのは困るけど断れなかったり、バーベキューでスイカの種飛ばし大会は飛沫量がハンパないし、マスク必須派といらない派の噛み合わない会話は微妙な間が生まれて笑えないなど、誰もが気になるパンデミック下の行動に爆笑しながらも考えさせられるシーンになっている。

Joe Buffalo

また、Shorts部門にも今年らしいテーマとアプローチを見ることができた。ドキュメンタリー部門の「Joe Buffalo」では、カナダにおける先住民に対する寄宿学校での非道な教育について伝説のスケードボーダーとなった主人公のモノローグと美しい映像で描かれている。

Are you still there?

Narrative部門の「Are you still there?」では、ひとりの少女が車の故障で身動きできない状態の中、言葉も通じず、移動もできない不安を、移民の不安に重ねながら、心の中にはいつも愛する人がいるのだと笑顔になる物語だった。

Marvin’s never had coffee before

また、自宅勤務の主人公が毎朝のZoom会議でコーヒーを飲まないと仲間になれない空気を察してみんなに合わせようと奮闘するコメディ「Marvin’s never had coffee before」では、自分らしく自信を持って生きることをコミカルに見せてくれた。

「Marvin’s never had coffee Before」(Credit: Patrick Ouziel)

今年のSXSWでは、ドラマやコメデイ、ミュージカルなど様々なアプローチがある中で、ドキュメンタリーに2021年らしさを強く感じた。かつて経験したことのない事象が起こる毎日を生きているからこそ、目の前の事実を理解したいという思いを伝える手段として最適だったのかもしれない。未曾有のパンデミックの中で過ごした経験がどのような形になるのか、来年のSXSWで出会える映画にも期待したい。

txt:伊藤よしこ 構成:編集部


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