txt:西村真里子 構成:編集部

SXSWの特徴の一つは我々一人ひとりが次に向かうべき方向性を示してくれることにある。北斗七星を見つければ北に進むことができるように、SXSWの数多あるセッションから自分の直感でこれだ!とピンッとくるものがあれば、それがあなたのこれから目指す道。一人ひとり向かう先は別でも良い。自分が刺さるモノを見つければ良い。そんな北斗七星探しがSXSWだ。

SXSW 2021には230のセッションがあったのだが、大テーマは以下7つ。

(1)新たな緊急事態 / A NEW URGENCY
2020年は、人種差別、貧困、ナショナリズム、世界的なコロナパンデミック、気候危機などに強制的に目を向ける一年だった。ビジネス、非営利団体、政府、科学、テクノロジーの各コミュニティが協力していないと未来は作れない。迅速に、かつ、永続的な発展のためには何をすべきなのか?

(2)テクノロジーの進むべき道 / CHALLENGING TECH’S PATH FORWARD
私たちが真の社会変革を成し遂げようとするならば、テクノロジの影響をポジティブな力として活用する必要があります。より良い明日を築くために、私たちの生活に欠かせないテクノロジー産業は、どこに向かうべきなのか?今までの失敗を未来につなげるためのディスカッションが必要だ。

(3)芸術における文化的回復力 / CULTURAL RESILIENCE IN THE ARTS
優れた芸術は、しばしば混乱や混沌の時代に発展します。音楽、映画、体験型アート、文章、ビジュアルアートなど様々な分野で見られる創造性の爆発は、今後10年、そしてそれ以降の文化にどのような影響を与えるのだろうか。

(4)ビジネスの再誕生 / THE REBIRTH OF BUSINESS
スタートアップから中小企業、大企業に至るまで、世界経済の再構築に向けて我々は既存の資本主義を再検証する必要がある。2020年の様々な問題やパンデミックを、人種、性別、階級を超えたより公平な仕組みづくりを構築する機会と捉えれば、新たな産業の萌芽をたくさん見つけられそうだ。

(5)エンターテインメントの世界を変える / TRANSFORMING THE ENTERTAINMENT LANDSCAPE
進化する消費者の習慣、技術の進歩、社会問題への関心の高まりの前に、エンターテインメント業界の従来の常識は輝きを失っている。音楽、映画、テレビ、スポーツ、そしてゲームは、社会変化に対応するために、どのような道を進むべきなのか。

(6)断絶の中のつながり
社会的孤立がもたらす影響は何年も前から指摘されていたが、コロナパンデミックによりオンラインプラットフォームは、コミュニティの感覚を育むための強力な手段となっている。この新たな時代に人間性を感じるようなオンラインコミュニケーションとはどのようなものか?

(7)未知なる未来
バイオハッキング、民間人の宇宙旅行、量子物理学、延命措置、ドローンによる配達など、かつてはSFの世界のものだったコンセプトは、今や私たちの身近な未来の一部となっている。次世代のイノベーターたちは、どのような世界を作ろうとしているのか?

この7つのテーマを知るだけでもいま世界が向かうべき方向性が見えてくるが、当記事では上記のテーマすべてがあてはまるようなセッションを紹介する。

それが「障がいのある方が活躍する未来のワークプレイス(Disability-Led Innovation in Future Workplaces)」だ。盲目のイノベーター、フューチャリスト、心理療法士がパネリストとして登場し、コロナにより7年分の進化を8ヶ月で体験した我々が今後目指すべき組織のあり方、テクノロジーとの向き合い方が語られた。

結論から言うと、3、4年前のSXSWで語られていた「テクノロジー」と違う「テクノロジー」がそこにはあった。以前はテクノロジー(特にAI/ロボティクス)が人間のビジネスを置き換える恐る対象"人間の外にあるテクノロジー"を話すことが多かったが、コロナパンデミックやナショナリズムなどの困難を経て我々が今向き合うべきテクノロジーは"人間を補完するテクノロジー"という位置づけに変更していた。セッションの中ではそれを「Augmented Workforce拡張ワークフォース」と紹介している。

パネリストの一人、フューチャリストのキャシー・ハックルの言葉が印象的だった。

AIはこれからの我々の生活にはなくてはならないものだ。実際に巨額の投資がAIには注ぎ込まれている。ただ我々"人間はAIに直接触れられない"。テクノロジーの世界では人間中心型デザインの必要性も語られている中、人間がAIに触れるための触覚、視覚、聴覚デバイスを考える方がAIそのものよりも、人間にとって・社会にとって大きなインパクトにつながる。

確かにそうだ。AI、ビッグデータ、デジタルトランスフォーメーションが語られているがそれがいまいち人間としてピンッとこないのは我々人間が直接触れることができないからだ。

さてどのようにして人間がAIに触れられるようになるのだろうか?その糸口の一つが障がいがある方からのニーズを拾うことにある、というのがこのセッションのメインテーマだ。「障がい」といっても体に不具合がある方のみを指すわけではなく、乳母車を押しての行動や、昨年の私のように足を折って一時的に行動が制限される人もなど含まれる。

メタバースの可能性

フューチャリストのキャシー・ハックルはメタバースの世界こそ、理想の世界の一つであると語り、その中でも"アバター"の存在が未来に良い影響を及ぼすと語った。

彼女の娘は小学生なのだがバーチャルユニバースの「Roblox」にはまっているという。日本ではバーチャルユニバースといえば「Fortnite」が有名だが、ミュージシャンのLil Nas Xも昨年このバーチャルステージでライブを行った。

この世界観の中ではアバターの肌の色も髪の色も容姿そのものも自分の好きなものを選択して友達と遊べる。キャシーはこの選べる環境で育った子供たちの未来をポジティブに感じると語る。確かにそうだ。私が幼少の頃はバービー人形で遊んでいたのだが、一度購入したら肌の色を変えられるわけではないのでずっと白人のバービー人形で遊び続ける。しかもそのバービーが可愛いと認識して大人になるので、いまでも「バービー人形のような」肌の色や髪の色を見ると「可愛いな」と思う。でもこれが自分の好きなミカンやサメをアバターに、みんなと遊びながら大人になるとどれほど違う認知が芽生えるのだろうか?

肌の色も髪の色も選べて人間以外のキャラクターでも遊んで良いバーチャルユニバースは、これからの「平等性」を養う上でも「個性」を生かす上でもとても重要である。

盲目の人間が考えるバーチャルワールドの魅力

パネリストの一人ズビー・オンウタ(Zuby Onwuta)は盲目(Blind)のイノベーターだ。彼は盲目の方のためのテクノロジー(BlindTech)のスペシャリストで、脳をコンピュータとつなぐ「Brain-Computer Interface」(BCI)を活用した自動運転制御の仕組みなどにも携わっている。彼から見るバーチャルワールドの魅力は極端に拡大することができることだという。盲目と一言で言っても完全に見えない方は全体の5%で、残りの95%の人は極端に文字を大きくすると読めたりするらしい。

そんな彼からするとバーチャルワールドの魅力はモノやテキストを自由に拡大縮小できるし、関連技術に繋ぎ込み自分の最適な環境を作れることだ。例えば、脳制御とつなげて目が疲れると脳の一部分にサインを送り音声モードに切り替えてコンテンツを楽しめるのだという。もちろん今は商業化の前だろうが、そのようなバーチャルワールドがあるのであれば私もすぐに参加したい。

Text to Speechが実現されているのであれば、いま私がヒーコラ言いながら書いているこの原稿もSpeech to Text変換で音声から原稿を興せるようになりそうだ。意外と原稿を書くときはバーチャルワールドに入った方が早くできるという世界も身近に起きそうである。

ボードメンバーが耳を傾けるべき相手は障がいがある方々

オンラインが当たり前になりバーチャルリアリティへのアクセスがコスト的にもデバイス的にも容易になる現在、企業の経営者層が耳を傾けるべき相手は「障がい」を持っている人だとパネリストの一人心理療法士のジョナサン・カウフマン(Jonathan J. Kaufman)は語る。なぜならば人類全員に役立つソリューションを考えられるのはそのような方々だからだ。

例えばナイキが2021年2月に販売開始したFlyeaseは車椅子を利用する方向けに作られたものかもしれないが、靴を履く人すべてにとってありがたい発明である。また、キッチンウェアのOXOはデザインが素晴らしいと評価が高いが、創業者の奥さんがパーキンソン病を患っていたので彼女を助けたい思いから生まれている。イノベーティブなアイデアが生み出される源泉の一つの米国東海岸MITの学生の6割は自閉症だという。AppleやMicrosoft、Amazonの優れたソリューションの源泉も障がいを克服したいというものから始まっているという。我々が普段使っているテキストメッセージも元々は耳が不自由な方のコミュニケーション手段から発達している。

コロナパンデミックや様々なジェンダー問題を目の当たりにし、我々は身近に困っている人の声に耳を傾け寄り添う大切さを実感し始めている。その声を聞き「どうしたら平等が保てるのか?」「どうしたら過ごしやすくなるのか?」考えること、それにふさわしいツールやテクノロジーを考えることが次世代の住みやすい環境を構築する一歩なのかもしれない。

SF作家ウィリアム・ギブソンの言葉で当記事を締めよう。

「未来はすでに存在している、まだみんなに行き渡ってないだけだ
“The future is already here, it is not evenly distributed yet.”」

未来を発見するも提供するもあなた次第だ。

txt:西村真里子 構成:編集部


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