今回のARRI祭を通して、改めて日本の映画界でも改めてその存在感を示した、ARRI。業界における、その絶対的信頼の中心にあるものとは何なのか?ここでは今回の取材を通して見えてきた「ARRIの絶対的信頼」に裏付けられるものを少し考察してみたい。

映画を支えるエッセンシャルツールとして

映画・映像制作関係者としては、ARRIが日本でプライベートイベント、しかも京都・太秦のスタジオで開催!これだけでもARRI祭に興味をそそられることは確かだ。しかし、それ以上に今回のイベント開催の意味は大きいと感じている。映画の現場にとってカメラは中心的な存在であり、それがなければ映像を撮影できない。映画や映像作品を成立させるためには、中心にいつもある、必要不可欠な道具である。

その世界的な映画カメラメーカーが、日本映画の伝統と文化を継承してきた京都・太秦でイベントを開催した部分がとても大きな意味合いを持つ。現にゲストスピーカーのトークの中でも、映画文化とARRIの継承してきた技術と製品が様々な作品を生んできたことなどが、いくつも語られていた。来場者同士の話の中でもそうした会話も多く聞かれた。

さらにワークショップでは、ARRIの最新カメラであるARRI ALEXA LF、ALEXA Mini LFを中心に、このイベントで実機日本初披露となったSigneture Zoomレンズ2本(45-135mm、65-300mm)、そしてLED照明Orbiterといった、最新機材のお披露目の場にもなった。

東映京都撮影所の伝統芸「雲の演出」

これに加えて東映京都撮影所に今や伝統として伝わる、雲の演出の仕掛けやアークライト(稲光効果)といった、もはや伝説の照明機材も併用することで、最新・最先端のテクノロジーと、東映京都撮影所の伝統芸能(と撮影所の方は呼んでいた)の融合を目の当たりにすることができる貴重な機会になった。

重要なのはそれを演出しているのが、日本アカデミー賞受賞者の撮影・照明マンと、京都の熟練のスタッフだったことで、まさに温故知新を具現化した内容が成立したのだ。これだけでも、従来イベントにはないダイナミズムを感じたのも言うまでもない。

だからこそ最新機材のパフォーマンスや技術にも逆に目がいくわけで、ライティングやレンズなどの機材ごとの詳細はもちろん、実機からのSDRとHDRのサイドバイサイドでのスルーアウトの画質比較が生きてくる。そしてまた専門家同士の議論もそこに生まれ、それをメーカーにフィードバックするような仕組みが自然と生まれていた。このエコサイクルを生み、自然に促せるそこが、ARRIのARRIたる所以、つまり絶対的信頼が生まれる起点であると言える。

とかく主催者本位でユーザー側が本当に欲しい"モノ"には、あまりフォーカスされていない展示会が多い中で、本当に価値を見出した参加者は多かったのではないだろうか?

ほとんどのオスカー作品を支える実績

ARRIのカメラが映画界やフィーチャーフィルム(Netflix作品等含む)の分野で、毎年多くの作品を支えていることは周知の事実だろう。特集記事でも様々に語られているように、その画質と安定性に加えて、フィルムカメラ時代から培われ継承される操作性の良さに加えて、堅牢性や耐久性、データの安定性など、どんなに過酷な現場でも耐えられる仕様が、今なお世界の多くの撮影現場で好まれている。

2009年のIBCでALEXAが発表時に丸焦げのボディが登場し驚いた記憶がある。炎の中に焼べても撮影済みデータは大丈夫!という意味だった。この演出も映画の現場をよくわかっているARRIならではのメッセージだったと言える 。

ARRIが今日の映画において、非常に特別な存在であることは、多くの映画賞受賞作品がARRIのカメラを使用していることからもわかるだろう。

今年の米アカデミー賞の発表もあり、で、2021年度 第93回のアカデミー賞ノミネート作品でどれだけARRIが使用されたか確認してみたい。まず撮影賞のノミネートについては、以下の通りだ。

撮影賞

  • 1.「ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(Judas and The Black Messiah)」(DP:Sean Bobbitt)
    カメラ:ARRI ALEXA LF and Mini LF
    レンズ:ARRI Prime DNA
  • 2.「マンク(Mank)」(DP:Erik Messerschmidt、ASC)
    カメラ:RED Ranger HELIUM Monochrome
    レンズ:LEICA Summilux C
  • 3.「この茫漠たる荒野で(News of the World)」(DP:Dariusz Wolski、ASC)
    カメラ:ARRI ALEXA LF、Mini LF
    レンズ:Panavision Sphero 65
  • 4.「ノマドランド(Nomadland)」(DP:Joshua James Richards)
    カメラ:ARRI ALEXA Mini、AMIRA
    レンズ:ARRI Ultra Prime
  • 5.「シカゴ7裁判(The Trial of The CHICAGO 7)」(DP:Phedon Papamichael、ASC、GSC)
    カメラ:ARRI ALEXA Mini LF
    レンズ:Panavision Anamorphic C and T-Series, Canon K 35

そして注目の作品賞は、

作品賞

  • 6.「ファーザー」(Sony Pictures Classics)
    カメラ:Sony VENICE
    レンズ:Zeiss Supreme Prime
  • 7.「ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア」(Warner Bros.)
    カメラ:ARRI ALEXA LF and Mini LF
    レンズ:ARRI Prime DNA
  • 8.「マンク(Mank)」(Netflix)
    カメラ:RED Ranger HELIUM Monochrome
    レンズ:LEICA Summilux C
  • 9.「ミナリ」(A24)
    カメラ:ARRI ALEXA Mini
    レンズ:Panavision P Vintage
  • 10.「ノマドランド」(Searchlight Pictures)
    カメラ:ARRI ALEXA Mini、AMIRA
    レンズ:ARRI Ultra Prime
  • 11.「プロミシング・ヤング・ウーマン」(Focus Features)
    カメラ:ARRI ALEXA Mini
    レンズ:Panavision G-Series Anamorphic
  • 12.「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」(Amazon Studios)
    カメラ:AATON Penelope
    レンズ:Sigma Cine
  • 13.「シカゴ7裁判」(Netflix)
    カメラ:ARRI ALEXA Mini LF
    レンズ:Panavision Anamor-phic C and T-Series、Canon K-35

今年のオスカー受賞(最優秀作品賞)は、ARRI ALEXA Miniで撮影された、「ノマドランド」となった。

オスカー受賞作のノマドランドをはじめ、多くの作品がその8割がARRIのカメラが使用され、特にラージフォーマットのALEXA LF、ALEXA Mini LFの進出も目立つ。また昨年まで最も多くの現場で使用されていた、ALEXA Miniの存在感もまだまだ健在だ。

リアルイベントにおける「感覚交歓」

2021年4月現在もコロナ禍の影響で、いまだ多くのイベントが中止や延期となり、オンラインでの開催に変更されている中で、ARRI祭2021は、参加者と直接交流ができるリアルイベントがいかに貴重で、大切さを改めて感じる良い機会になった。

リアルイベントでは、人伝に聞いたり偶然見かけて、想定外の新進展につながることも多くある。こうした実体験で起きるシンクロニシティ(意味のある偶然の共時性)を体感することを「感覚交歓」と呼んでいる。そもそもイベントに行くこと行為自体に単に情報だけではなく、むしろ期待はその「感覚交歓」の部分が多い。

袖擦り合うも人の縁、というかやはり実際に現場にいかないと、今まで縁のなかった人に会えたり、違った見方や使い方を知るきっかけにも触れられなかったりする。だからリアルイベントに皆、足を運ぶわけだ。

ちょうど桜満開時に開催されたARRI祭。登壇した河津氏と山田氏

先述の撮影監督 河津太郎氏インタビューにあったように、ARRIの会長が以前「あなたの欲しいものはなんだ?それを我々は全力で作り、サポートする」この言葉から、こうしたイベントが生まれたことはとても有意義だし、まさにそれを体感した。総じて今回のイベントは小さな規模ながらも大成功だったと言えるだろう。

事前にプレゼンテーションツールを事細かに作り込むことに終始しがちなこの手のイベントと違って、進行がスムーズでなかったり、人の導線が不明瞭な点は多々あったのかもしれないが、それよりも参加者の満足度が高いことの方が重要だ。

時期的にも、コロナ禍におけるフラストレーションを解消してくれる楽しみや期待感、新たな出会いや発見が参加者の誰しもに持ち得たことだろう。そこを差し引いてもこうしたイベントをまたぜひ開催して欲しいし、残念ながら今年参加できなかった大半の方には、このARRI祭2021の特集を通して読んで頂き、有意義だったこのイベントの一旦でも感じて頂ければ幸いだ。

2021年5月現在、コロナ禍は続いている。しかし、来年以降、いや今年の後半にでも、このようなイベントがより多く、より安全に開催されることを切に望んでいる。


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