XF605はテレビカメラマンの味方となるか?

10月発売の Canon XF605。個人的に大いに注目している。結論から言ってしまうと、今一番欲しいと思うカメラだ。今回、短期間の試用後だったが、大変に満足度の高いカメラに仕上がっていることが実感できた。

2021年現在、筆者が主戦場とする撮影現場でのカメラは、8~9割がハンドヘルドカメラ(業界愛称としてデジと呼ぶ。以下:デジ)になっている。筆者はテレビ番組の情報バラエティーロケや舞台記録・イベント配信が主たる撮影案件として請け負うことが多いのだが、オーダーの多くがHDデジでお願いしますということがほとんどだ。

また、テレビ機材、新規機材導入という側面では、行き詰まり感があり、現状4Kデジのデファクトスダンダートカメラはテレビ業界に存しないと言える。一方、今新たにデジを導入するならばHD使用も見越した上で、4Kデジという選択を行う必要がある。

そうした中で、XF605は4KそしてHDデジとしてもかなり魅力的な選択肢だ。今回はテレビカメラマンの視点で、XF605の各機能を評価検証した。

※記事中の60pや30pは特に記載が無い限り59.94pと29.97pを意味する。また4Kも3840×2160pix(QFHD)解像度を意味する。また試用機は2021年8月中旬現在の仕様である

概要

XF605は、1.0型単板CMOS/約829万画素センサー搭載の4K 60P 4:2:2 10bit記録に対応するハンドヘルド型ビデオカメラだ。撮像素子はDualPixel CMOSで「頭部検知」や「瞳AF」といった同社のEOSシリーズで培われたオートフォーカス機能が搭載された。

また、独立3連リング(Zoom/Focus/Iris)を搭載し、Canon Log3/Cinema Gamut、HLG、PQといった広色域撮影やHDR撮影にも対応。SDカードWスロットによる多様な異種同時記録、12G-SDI・HDMIによる出力解像度設定や同時出力も可能となっている。

外観と重量

ファーストインプレッションは「コンパクト!」。4K 60pに対応するフラグシップクラスの4Kデジは大型・重量化し、手持ち撮影の限界を超えたサイズ感に辟易しているカメラマンの声は多い。

そこに登場したXF605が小型軽量化に応える形となった。前モデルのXF705が全長約378mm、重量約2710gと重量級カメラであったのだが、約10%の小型化と約700gの軽量化に成功しており、XF605の全長は約333mm、重量は約2010g(本体のみ)となっている。

コンパクトだが、アサインボタン類も豊富に用意されており、機動性の高いカムコーダーに仕上がっている。デザイン的にはXFシリーズの意匠を踏襲しており、ゴツゴツした質実剛健な雰囲気が漂う。個人的には好みのデザインだ。

アサインボタンや各種切替スイッチ類がカメラボディー左側面に整然と並んでおり集中的に管理できる。一方で、同じ様なボタンやスイッチが近接して並ぶので、ブラインドタッチは慣れが必要だ。ボタンの近傍には小さな突起が指標となり指先がボタンの配置を覚えてくれるだろう。

NDフィルターは、+/−のボタン式。見た目ではNDポジションが分からないというデメリットがある反面、もっとも濃いND 1/64の次にND Clearに直結できるので、手回しターレット式NDフィルターと同じ扱いが出来るメリットもある。

液晶を収納していた本体部分にはボタンやスイッチが無く、スッキリ

液晶モニターは3.5型の約276万ドット。静電容量方式タッチパネルを採用している。液晶モニターを納めていたカメラ側の本体部分には一切のボタンが無い。この割り切りはアリである。

メニューは、MENUボタンとCANCELボタンそしてジョイスティック操作になる。メニューGUIは、Canonのデジタルカメラと共通デザインだ。

だが、メニュー操作へのアプローチは気になるところだ。メニューボタンはカメラ左側面と上部ハンドルに設けられているが、カメラ左側面のメニューボタンを押した場合に、操作すべきジョイスティックが近傍に無いことが使いづらい。ジョイスティックは2箇所設けられており、カメラ上部ハンドルと右手グリップの親指部分にある。

使いづらさを感じたのは三脚を使う時だ。この場合、押しやすいメニューボタンは左側面のメニューボタンとなる。しかし、そこに並んでジョイスティックがあるわけでは無いので、上部か右手グリップ部分のジョイスティックに手を動かして操作する必要があり、操作導線としてはスマートでは無い。

メーカーとしては、手持ち撮影時は「左側面メニューボタンでメニューを呼び出して、右手親指でそのままジョイスティック操作」が狙いなのだろう。この左側面のメニューボタンのそばに操作系のインターフェイスが無いのは正直戸惑ってしまった。メニュー画面もタッチパネル操作可能なようだが、プロカメラマンの多くは「画面を指で触りたくない」という反応をしてしまう。タッチパネル操作は、基本的には"ナシ"なのだ。

イヤホンジャックは、ビューファインダーの付け根。カメラマンからアプローチしやすい左側面設けられている点は大変に良い。問題はイヤホンのボリューム調整の方法がメニュー内になることだ。一応、「ヘッドホン+」「ヘッドホン−」をアサインボタンに割り当てられるのだが、当然ボタンを2つ消費してしまうので、現実的では無い。

改善策としては、ジョイスティックを利用する事だ。現状XF605のジョイスティックは、アサインボタンとして機能しないので、あくまでも筆者の妄想の話だ。通常状態だとジョイスティックは「フォーカスガイド」の座標を指定するために使用する。そこで、ジョイスティック押し込みでアサインボタンモードに切り替わるようにして、例えばスティック上下がヘッドホン音量の+/−、左右がAEシフト−/+などとできれば、スマートになる。そんな改善案はいかがだろうか?

あと、外観まわりで特徴があるのは、大型バッテリーのBP-A60を取り付けるとヒップアップスタイルになり、ちょっとオシャレに(笑)。実用的にはバッテリーを傾けることで重心をカメラの中心部に寄せ、またバッテリー部を肩に当ててカメラを安定させる役割があるのだと思われる。

右手グリップ部分の形状も良く、本体重量の小型軽量化と相まって手持ち撮影時のホールド感は高い。

ハンドル上面のタリーランプ

また、上部ハンドルの前方上面にはタリーランプが埋め込まれており、ディレクターや音声マンからもカメラが録画しているか確認しやすく、さりげないが実用的だ。

起動速度

XF605の起動速度は2~3秒と高速で、即座に録画可能だ。最近はカメラのシステムが複雑化して、起動に時間の掛かる機種もあるため、XF605の起動時間の短さは、ドキュメンタリー撮影や旅ロケなどに適している。

また、各記録フォーマットの切り替えも高速だ。他社にはフォーマット切替〜再起動〜収録可能まで20秒ほど時間が掛かるカメラも存在するので、XF605の起動の素早さは「現代の技術でも瞬時に切り替えられるんだ…」と妙に感心してしまった…。

XF605では4KとHD、各記録フォーマットの組み合わせで、数多くの収録形式を選択できるので、そうしたフォーマットの切替が素早いと、収録のテストなどの行いやすい。ただし、フォーマット切替時にはHDMIなどからの出力信号が一瞬途切れることがあるため、外部レコーダー等を併用しているときは留意したい。

画質

XF605を検証した時期は、8月半ば。ソフトウェアのアップデートなど、製品最終版とは多少違いが出る可能性もあるので、画質面はあまり深く検証していないことをあらかじめお詫びしておく。

簡単なインプレッションとして「デジの4Kだな」という感じだ。良くも悪くも4Kデジの画質だ。目立ったノイズ感もなくS/Nは良好だ。日頃ミラーレス一眼カメラ大判センサーを搭載したデジタルシネマ系のカメラの4K映像を見慣れていると、XF605の映像は鮮烈さには欠けるがクオリティは十分だ。

ただ、4Kで撮影してHD編集で拡大して利用しようという場合は、ミラーレス一眼などよりもデジタル的なノイズ感や光学的な甘さが出やすいと思われる。

    
Canon XF605広角端サンプル※画像をクリックして拡大

中望遠ぐらいになってくるとXF605の性能が発揮されてくるのか、ハッとする解像度とキレの映像が多くなる。

    
Canon XF605中望遠サンプル※画像をクリックして拡大

望遠端は光学15倍と控えめだが、その分望遠での光学的な瑕疵も見受けられない。

    
Canon XF605望遠端サンプル(光学ズーム15x)※画像をクリックして拡大

ズームレンズ

さて、気になるズームレンズ周りを見ていきたい。XF605は広角端25.5mm~望遠端382.5mm(35mm換算)の焦点距離を持つ光学15倍レンズを備える。ズームリングはENGレンズと同様に約90°の回転で広角端と望遠端を往き来するようになっている「端付きリング」である。

まずはズームリングの操作性と追随性が気になる点だろう。リング性能が顕著に出てしまう「端付きリング」は、どこのメーカーであろうと不安がつきまとうタイプのズームリング方式だ…。結論を先に述べると、XF605のズームリングは「極上」である。他社と比べても遥かに機敏だ。

リング操作とズーム動作の追随性に違和感はなく、大きく動作が遅れることもない。じわりとしたスローな立ち上がりから、クイックなズームまでカメラマンの意図にほぼ問題なく付いてくる感覚で、バラエティーロケでもしっかりとレンズワークで遊べそうだ。

光学15倍という短いストロークはやや残念であるが、その15倍という制限の中でキヤノン社が画質面とともに操作性でも自信を持って投入してきたことが窺い知れる仕上がりだ。

リング操作によるズームの挙動は、超スローでリングを回しても基本的は滑らかにレンズ群が動作するため、立ち上がりのショックは、ほとんどない綺麗なズームが行える。カメラマンのリング操作の丁寧さが遅延無くそのままレンズの動きに反映されるようなスムーズさだ。

ただし今回テスト機では、ズームリング操作で"超スロー"に動かしたい場合に、ワイド端とテレ端からの動き出しに立ち上がりのショックを感じた。

この点をキヤノンに確認してもらったところ、ワイド端テレ端に限らず、どこからの操作でも動作は同じだ…という回答だった。個体差なのか私の勘違いなのか、機会を見て改めてこの点は確認したい部分だ。あくまでもワイド端とテレ端からの超スローでリング操作をしたときの話であり、ズームロッカー(シーソレバー)での操作では一切問題ない。

もう一点気になる点がある。筆者的には結構こちらが気になってしまった…。

ズームリングで素早いズームアウトを行うと、ズームアウト後に少し遅れて明るさが変化するのだ。解明を進めた結果、原因はアイリスがズームアウト後に動いているから…であった。普通の速度のズーム操作では気にならないが、最高速でズームアウト操作をすると、レンズ群が動き終わったあとに、シャッとアイリス羽根群が絞る方向に動くことを確認できたのだ。

こちらはキヤノン側も認識しており、多群ズームレンズ特有の制御だという。実はXF605に限らずデジのズームレンズ機構の中には、変化する焦点距離(ズーム)に合わせて、アイリスを動的に動かして一定の明るさを保つ制御が入っているものがあるという。

XF605の場合、ズームリングを最高速で動かすと、約0.3秒ほどアイリスの制御にタイムラグがあり、それが現れた症状なのだそうだ。実際の現象としてはズームバック中は本来の露出よりも明るくなり、ズームバック後に本来の露出設定に戻っている…という方が正しいようだ。

ちなみに、ズームロッカーでの最高速だと、この問題は感じない。ズームロッカーの最高速の方がズームリング操作よりもやや遅いからだろう。さらに、望遠側でFドロップをする領域(F4.5~F2.8)のアイリス値で使えば、この現象は感じられなかった。

この現象は、メカニカルな機構が影響しているので改善は難しそうだが、さらに素早い応答性を実現するか、逆に高速ズーム追従時の開口径動作をもう少し滑らかにして、明るさの変化を感じにくいアイリスの動作になってくれれば、この「急な明るさ変化」は緩和されると思う。デジのズームレンズ機構は、大変に複雑で精密なものだと、改めて思い知った。

デジタルズーム

XF605の光学ズームは15倍と、このクラスではやや物足りなさを感じる。それを補うのが、デジタル系のズーム機能だ。4Kモードの場合は、デジタルテレコン1.5x/3.0x/6.0xが用意されている。1.5xの場合、ズーム比で22.5倍相当となり、35mm換算で約573mmになるため、他社の4Kデジと比肩することが出来る程度に望遠を伸ばすことが出来る。

    
デジタルテレコン1.5※画像をクリックして拡大

ただし、当然デジタルテレコンなので画質の劣化は生じる。だが、テストした限りでは1.5xは通常使用可能だ。そのまま光学レンズで22倍程度まで行けばこれぐらいの画質になるかなと思える程度の劣化具合で、言われないとほぼ気が付かないレベルであり品位は高い。

さすがに、3.0xや6.0xになると「デジタルズームでござい!」という劣化具合になるので、こちらは緊急使用限定かなと思う。またデジタルテレコンは、望遠端だけでなく広角端からの全領域がテレサイドにシフトするため、広角側が狭くなる点は要注意だ。

    
デジタルテレコン3.0※画像をクリックして拡大
    
デジタルテレコン6.0※画像をクリックして拡大

一方、HDモードでは上記デジタルテレコン機能に加えて「アドバンスト30x」が有効になる。「アドバンスト30x」はズーム比30倍相当にズームを利用できる機能で、広角端は本来の25.5mmから始まり、望遠端で765mmまでシームレスにズーム可能となる機能だ。

XF605はズームリングに「端付きリング」を採用しているためリングの回転角度に制限がある。そんなXF605のズームリングで30倍相当のズームが可能になるのは、光学ズームの広角端から望遠端の全領域に渡って並行してデジタルズーム処理を付加しているからだ。

つまり光学ズームで10倍の領域では既にデジタルズームが付加された20倍相当、望遠端の光学15倍の時点で30倍相当になるように調整されている。そのために光学ズームからデジタルズームに切り替わる際のショックなどが一切ない。使い勝手としては、デジタルズームの併用を一切意識することなく、25.5mm〜765mmのズーム比30倍のレンズとして取り扱うことが出来る。

    
HDモード/アドバンストズーム/広角端※画像をクリックして拡大
    
HDモード/アドバンストズーム/望遠端※画像をクリックして拡大

HDモードでの利用になるため、光学15倍に対しての30倍相当というのは4K CMOSからのドットバイドットでの切り出しになり、原理上は画質劣化ゼロのデジタルズーム処理となる。

だが、実際にはそんなに単純ではなく、S/N感や輪郭処理の結果が画に顕れやすくなるため、特に望遠端では僅かながらにデジタル処理感は出て来てしまう。とはいえ、テレビロケの場合などは常時「アドバンスト30x」で使用しても全く問題ないクオリティーだ。

フォーカス

筆者の業務使用では、フォーカスはほぼマニュアルだ。そのため、カメラの液晶モニターでの見え方やピーキングの付き方、フォーカスアシスト機能の充実が評価の対象となる。

XF605他キヤノン製品にはデュアルピクセルCMOS採用による「デュアルピクセルフォーカスガイド」が搭載されている。このフォーカスガイド機能は、現在のフォーカス位置から合焦位置への調整方向と調整量をガイド枠で視覚的に表示してくれるものだ。四角いフォーカスガイド枠の上部に三角形のマーカーが表示され、その三角マーカーの位置によって、合焦具合が視覚的に判断できる。

この機能の素晴らしい点は、対象フォーカスが奥ピンなのか前ピンなのかが分かることだ。例えば、一般的なピーキング機能の場合、ピントがボケている事は分かるのだが、フォーカスを奥に送れば良いのか手前に持ってくれば良いのかは分からない。

しかし、このデュアルピクセルフォーカスガイドではフォーカスリングをどちらに回せば合焦させることができるのか容易に判断できるのだ(大きくボケている時は、調整情報検出不可としてガイドがグレーアウトする)。なお、フォーカスガイド枠はジョイスティックやタッチパネルで、任意の位置に動かすことも出来る。

    
デュアルピクセルフォーカスガイド※画像をクリックして拡大

その他のフォーカスアシスト機能としては、Magnification(拡大表示)がある。設定で拡大時に自動的にモノクロにしたり、または各出力端子からも拡大表示を出力するかも選択できる。

筆者が気になった点は、拡大表示機能はボタンを押して有効、再度押して解除…という「切替」しか用意されていない点だ。他社製品にあるようなボタンを押している間だけ拡大表示になったり、一定時間(3秒程度)で自動的に拡大表示が解除されるモードも選択肢として追加して欲しい。

ピーキングは2つ用意されている。ピーキングの色(ホワイト、レッド、イエロー、ブルー)やゲイン、周波数が設定でき、任意のピーキング表示が可能だ。ただし設定画面がゲームで言うところのややHardモードでで、画面の4/5程をメニュー表示が覆っているため、上部の隙間から見える実写映像で設定の可否を判断しないといけない。設定できなくはないが、隔靴掻痒の感が拭えないのが何とも惜しい…。

ピーキング調整画面。Hardモードしか用意されていない(苦笑)

一方、オートフォーカス機能の特徴としては、デュアルピクセルCMOS AFの搭載で、素早く迷いのない合焦と、高い追従性を備えたオートフォーカスを実現している。特にXF605ではXFカムコーダー初の「瞳検出」と、ディープラーニングを利用したEOS iTR AF Xにより「頭部検知」が可能になった。

瞳検出の様子

「瞳検出」では、マスク生活では威力を発揮してくれる。マスクを付けた被写体だと、顔検出だけでは無反応が多いが、瞳検出のお陰でしっかりとオートフォーカスが働いてくれた。

後ろを向いても頭部検知が機能するためフォーカスは外れない

また「頭部検知」は、被写体が後ろ向きになり、顔も瞳も認識出来ない場合でも頭部をオートフォーカスの対象として認識するため、遠ざかる人物にフォーカスを合わせ続ける事が出来る。

ただし、頭部検知は最初に瞳検出や顔認識が行われている必要があるようで、いきなり後頭部がフレームの中に入ってきても頭部検知は働かなかった。また、目深な帽子を被っていると瞳検出は反応しにくいようだ。ただし、帽子を被っていても頭部検知は有効だった。

日頃オートフォーカスを使わない筆者だが、XF605のオートフォーカスを使ってみて、これを現場で使わない手は無いと感じた。顔がフレーム内にある限りは、しっかりと合焦をし続けてくれるし、追従は滑らかだ。1インチCMOSのやや浅めの被写界深度表現と相まって、しっかりと顔にフォーカスが合いつつもポートレートのような上質な表現を動画で簡単に得られるのは嬉しい。

アサインボタン

アサインボタンについても確認しよう。XF605のアサインボタンは11個。割り当て可能な機能は100項目以上となっている。数字だけ見ると凄い数の機能が割り当てられそうだが、LCD/VF/SDI/HDMIと出力系別に適用する機能も含まれている。

とはいえ、十分すぎる機能が割り当て可能で、ユーザーごとにXF605は全然違うカスタムカメラに仕上がりそうだ。有用だと思ったアサイナブル機能は「ユーザー設定」だ。この項目は「任意のメニュー項目を表示する」という機能。つまり、特定のメニュー項目に飛べるショートカットなのだ。

アサインボタン設定メニュー。「Menu」という印が付いている項目は、直接そのメニュー項目へショートカットできる

その他には、アイリス+/−や、ND +/−なども割り当てられる。もちろん、アサインボタンに頼らずともアイリスリングや専用のNDフィルタボタンが備わっているのだが、真価を発揮するのはリモート制御の際だろう。アサインボタンのコマンドが送れる2.5φピンの有線リモートコントローラを併用すれば、例えばアサインボタンに割り当てたNDフィルターを遠隔でコントロールできるようになる。

さて、十分すぎるほどの機能を割り当てられるXF605のアサインボタンだが、私としては「肝心な機能」が割り当てられないことに困惑した。「録画」が割り当てられないのだ…。「録画ボタンなんて、どこのボタンに追加するの?」と思われる方もいるかも知れないが、ENGカメラを日頃使っているカメラマンなら分かるだろう。カメラ本体の前方・アイリスリングの下方付近に備えられているアサインボタン「11」に割り当てるのだ。

アサインボタン「11」は三脚併用時にRECボタンとして押しやすい位置にある

11番ボタンは「フロントRECボタン」として使いたい位置にあり、カメラを三脚に載せて使う場合は、最も録画操作をしやすいボタンになるからだ。アサイン可能な機能に「録画」を追加する、というのは決して難しいことでは無いと思うので、是非ファームウェアアップデートの際には追加して欲しい項目だ。

メニュー

XF605のメニュー画面のデザイン

メニューは、キヤノンのスチルカメラや最近のビデオカメラに見られるのと同様のデザインになっており、横軸にカテゴリー、縦軸に詳細項目となっている。

横軸のカテゴリーはさらに1ページ、2ページ…と複数に分かれているが、ページ毎に機能(アイリス系・フォーカス系など)がまとめられており、慣れてくれば目的の項目を見つけるのは容易だ。

「マイメニュー」機能を使って、よく使うメニュー項目をまとめたページを作ることも可能だし、アサインボタンからマイメニューにショートカットすることもできる。XF605のメニュー項目は豊富でここで全てを網羅するのは難しいため、特徴的な機能を一部だけだが紹介したい。

テスト使用中でも「マイメニュー」を作って便利に活用

さすがレンズメーカーだなと思ったのは、ズームロッカー(シーソーレバー)によるズーム速度の細かな設定だ。スピードレベルとして「ロー/ノーマル/ハイ」が選べ、ワイド端からテレ端への遷移時間はローで最低速:約4分38秒!ハイで最高速:約0.9秒という性能を有している。

私の撮影業務ではスローズームの速度が重要で、風景撮影や料理接写、音楽モノの撮影などでは超スローズームを好んで使っている。キヤノンのビデオカメラも伝統的にスローズームが優れている印象があり、XF605では最低速が約4分38秒という超低速ズームが使えるのが嬉しい。

さらに、ズームロッカーのズーム速度をカスタマイズできるという、マニアックな設定も搭載されている。ワイド側/テレ側にそれぞれ5分割された領域に、1~16段階の速度を割り当てる事が可能で、自分好みのズームカーブを作ることができる。

ユーザマーカー設定メニュー

もう一つ魅力を感じた機能に「ユーザーマーカー」がある。中継システムカメラや放送用ENGカメラではお馴染みのマーカーだが、任意の場所に任意のサイズのボックスマーカーを出せるというものだ。これはテロップやワイプ(PinP)が画面に載ることが多いテレビカメラでは重宝する機能。特にレギュラー番組だと肩テロップやスタジオワイプの位置が分かっているので、それらの位置を予めビューファー内にユーザーマーカーで代替表示させることで、撮影している被写体がそれらの情報と被らないようにできる。

XF605は「ユーザーマーカー」が2つまで設定できるようになっている。一般的な放送用ENGカメラでも1つしかマーカーは設定できず、2つ以上となるとスタジオ・中継用の大型カメラクラスが採用する仕様だ。なので、デジクラスでユーザーマーカー2つというのは大変に贅沢なスペックだと感動した。

最近は生配信などで肩テロップなどを入れる機会も増えてきていることから、こういったデジクラスでも、ユーザーマーカー機能は重宝することになるだろう。

他にも詳細を書き出せないほどに、様々なメニュー項目が用意されている。それらを、じっくりとチェックしていくだけでも楽しいカメラだ。

さて様々なメニューがある中で、これまた「なんでこの機能が無いの?」というものもあった。「100%マーカー」だ。100%マーカーはその名の通り、表示領域の100%エリアを示すマーカーで、画面をぐるりと四角く囲むものだ。特に舞台撮影や夜景撮影など背景が暗い場合に、被写体背景の暗さなのかビューファーの非表示エリアなのか?を明確にするために100%マーカーを表示するカメラマンは多いと思う。私もENGカメラは100%マーカーは絶対表示する派だ。

XF605の場合は、液晶モニターの筐体に対して、実際の表示域は結構小さい。以下の写真を見ても分かるように、グレア加工された領域全体が表示エリアなのではなく、さらにその中に表示エリアがある。そのため、100%マーカーがないと境界線が分かりづらいタイプの液晶モニターなのである。

問題です!XF605の液晶画面はどの範囲でしょう?
正解は、こちら!ちょっと表示範囲が分かりにくいですね

そこで、XF605の豊富なメニューから100%マーカーを探したのだが、発見できなかった…。仕方なく、先ほどの「ユーザーマーカー」を活用。表示範囲を1920×1080まで広げ、座標を(0,0)にする事で、実質的に100%マーカーとして利用できる。ただし、そうすると当然、2つ使えるうちのユーザーマーカーの1つを消費してしまう…。ここは、是非とも「100%マーカー」を追加して欲しい。

100%マーカーがあれば、表示範囲が明確になりフレーミグしやすくなる

なお、XF605のマーカー系は非常に充実しており、アスペクトマーカーやセーフティーマーカー、グリッドマーカーの各設定はもちろん、センターマーカーもその形状が4タイプから選べるなど、ENGカメラ並みの充実ぶりだ。ユーザーマーカーも含めて至れり尽くせりなだけに「なぜ100%マーカーを用意してないし?!」となったわけだ。

センターマーカーも4種類から選べる

記録方式

XF605は豊富な記録フォーマットが用意されている。Canon独自の記録フォーマットである「XF-AVC」では、3840×2160の4K 30pを410Mbpsのイントラフレームで記録でき、260Mbps Long GOPでは4K 60pでの記録に対応する。いずれもYCC422/10bitというリッチな映像信号で収録することができる。

MP4(HEVC)はH.265による記録で、最大3840×2160 60p/YCC422/10bitを225Mbps Long GOPで収録。MP4(H.264)でも、3840×2160 60pに対応し、YCC420/8bitに制限されるが、150Mbps Long GOPという扱いやすい4K映像を記録することができる。

対応するフレームレートやビットレート、色信号はフォーマットにより異なるので、ここに全てを記すことは出来ないが、4K 60pでのイントラフレーム記録以外はほぼ対応できる機体と言える。もちろん各フォーマットとも、1920×1080での記録や24pでの記録などにも対応している。

さて記録方式に関しても、ひとつ…驚きの事実というか、懸念事項がある…。私の場合、XF605を投入したい現場のひとつにテレビロケがあるのだが、当然4KなどではなくHDで十分な世界だ。そして、テレビ標準のフォーマットは「1080 60i」だ。

実は、XF605にはその1080 60iを記録できるフォーマットがXF-AVCしかなく、しかもYCC422/10bitで160Mbps Intra-frameか50Mbps Long GOPしか選べないのだ。つまり、

XF-AVC 1080 60i/YCC422/10bit/50Mbps Long GOP

というのが、XF605での最低品質の1080 60i記録になるのだ。…いや贅沢すぎるだろ?!鼻血出るわ!

キヤノンには申し訳ないが、テレビのデジロケに限っては、こんなリッチなフォーマットは不要で、むしろSDカードを消費することで敬遠される。またXF-AVCというテレビ業界の人が聞き慣れないフォーマットであるため、理解してもらうのが非常に厄介だ…。

テレビ業界の人のフォーマット認識は未だに「AVCHD」で止まっており、SonyのXAVCの知名度すら怪しい。「XF-AVCなら、お使いのAdobe Premiere Proで普通に編集できますよ?」と説明しても、「知らないフォーマット怖い。NX5Rでお願いします」と言われてしまうのがオチだ…。

そんな時代遅れのテレビ業界に、せめて一般的な認知度もあるMP4(H.264)による1080 60iへ対応は望みたい。24~35Mbps Long GOPで十分だ。…もっとも、MP4フォーマットですら「AVCHDよりも画質悪いんじゃないの?」とトンチンカンな事を言われてしまいそうな世界がテレビ業界なのだが…。

現状スペックだと、選択肢は3つあり、

  1. そもそもXF605はテレビロケでは使わない
  2. 理解のあるディレクターとは相談して、XF-AVCで行く
  3. 黙ってMP4 1080 60p 35Mbpsで記録して、しれっとその場を去る(笑)

ぐいらいしか思い付かない。

4つ目の選択肢として、是非XF605での1080 60i記録できるフォーマット選択肢を増やして欲しい…。ちなみに、筆者のラボで完パケ受けする仕事なら、迷わずXF-AVCを選択する!理解できているユーザーであれば何の問題も無いのだが、分業制で多くのセクションが関わるテレビ業界では、まだまだ新しいフォーマットを受け入れる土壌は育っていない…。

その他、記録に関する特徴的な点は、デュアルSDカードスロットによる多彩な異種同時記録機能だろう。デュアルスロットによる、ダブルレックや常時記録はもちろんのことXF-AVCとMP4/4Kと2K/UHD 60pとFHD 60p/4:2:2 10bitと4:2:0 8bit/ALL-IとL-GOP/映像記録と音声記録…という多様な異種記録を実現している。ワークフローやクライアントに応じて、柔軟に使い分けることが出来そうだ。

2スロット記録機能の設定メニュー

また、Slow & Fastモーション/プレ記録(3秒前)/フレーム記録/インターバル記録にも対応し、記録モードは充実している。

ここでも残念ポイントがあり、「クリップコンティニュアス機能」がないことだ。クリップコンティニュアスとは、複数のカットを1クリップにまとめて記録する機能のこと。例えば食レポだと、オープニングシーン、店員との会話シーン、試食シーン、調理シーン、料理インサートシーン、エンディングシーン…等といった、撮影時にシーンごとにクリップをまとめておく事ができる。シーン毎にクリップが纏まっている方が編集上便利だと言って、クリップコンティニュアス機能を使えるカメラを指定するディレクターもいる。

XF605の場合「フレーム記録」という記録モードがある。これはコマ撮りアニメ向けの機能だが、この記録方式が事実上のクリップコンティニュアスなので、通常録画でのクリップコンティニュアスも搭載可能なはずだ(※フレーム記録:指定した記録フレーム数(1/3/6/9フレーム)をひとつの動画クリップに統合して記録できる)。クリップコンティニュアス機能も是非XF605に搭載してほしい機能である。

豊富な記録モードが用意されているが「クリップコンティニュアス」は無い…

信号出力系統

映像の出力系に関してだが、液晶モニター・ビューファインダー・HDMI・12G-SDIすべて同時出力可能。録画中でもそれは変わらない。「そんなの当たり前では?」と思われる方も居るかも知れないが、ここ何年かの他社のデジでは、出力の排他仕様が見受けられるので、同時出力可能な系統はけっこう重要仕様だったりする。これはXF605の映像処理プラットフォームに採用されているDIGIC DV 7に十分な余裕があることが伺える。

また、出力系統別にオンスクリーン表示(カメラデータ表示)の有無を選べるほか、アサインボタンの設定でMagnifi-cation(拡大フォーカス)を適用するかどうかも選べるので、SDIで本線出力をしつつ、HDMIで繋いでいるカメラマン用の外部モニターにはMagnificationを働かせる…といった使い分けができ、現場の需要をよく汲み取った仕様に仕上がっている。

総括:今一番手にしたいカメラだ

Canon XF605の魅力は、いかがだっただろうか?私の評価は滅茶苦茶"高得点"!…というか欲しい!正直な話、欲しいと思わないカメラに対しては「まぁこんな機能もあったら便利だけど、私はこのカメラ使わないから、あとは頑張ってね~」でレビューしがちなのだが、XF605に関しては切実に「この機能は追加して欲しい…。なぜなら私が使いたいから!」というスタンスで、今回結構真剣に評価した。試用機返却直前には、当ラボが揃えているカメラケースに収納可能かもチェックしている(笑)。

よし、XF605も今までのカメラケースに入るぞ…!

現在の動画カメラは、画質を優先するならばデジタルシネマカメラやミラーレス一眼カメラなどデジよりも有利な選択肢がいくらでもある。しかし、動画カメラとしての操作性に関してはENGカメラやハンドヘルドカメラを凌ぐ物は無い。そのため、今回は操作性や機能性を重視してレビューを行った。

XF605は高い平均点をはじき出すカメラで、現仕様でも撮影現場でそつなく使えるカメラである。つまり、ユーザーがフォローアップすべき劣勢部分がほとんど無く、極めて実用的で実際的な仕様にまとまっていると思う。

価格は実売で税込み55万円前後予定で、安価に思える。だが、他社からの買い換えとなる場合は、バッテリーと充電器を揃えることも必要だ。大容量バッテリーパックBP-A60は実売で45,000円ほどで、連続撮影6時間強となっている。1日ロケを行おうと思えば、最低でもBP-A60を2本、予備でもう一本の3本は揃えておきたい。それに加えて2連充電器のCG-A10は56,000円程なので、バッテリー3本と充電器1台で+20万円近く必要になり、実質的に導入価格は70万円超になる(※カメラセットにはBP-A30x1本と充電器CG-A20が同梱されている)。

導入時の予算組みには注意したい。「XF605発売記念!バッテリー&充電器キャンペーン」が欲しいところだ(笑)。バッテリー周りはとにかく、カメラ本体は機能と価格に見合った、むしろ割安感を感じるぐらいのコストパフォーマンスだと思う。

2021年秋現在、XF605は4Kデジとして均衡の取れた大変に良い選択肢だと思う。今後のファームウェアアップなどにも期待しつつ、導入を真剣に考えてしまうカメラであることは言うまでもない。


[XF605 SCENES] Vol.02▶︎