キャスト:笠松将、佐々木美緒

今回は、AOI Pro.のプロデューサー重信弓月氏とプロダクションマネージャー小山田将大氏にインタビューさせて頂いた。なぜバーチャルプロダクションなのか?実際に体験してどのように感じたのか?を聞いた。

企画はバーチャルプロダクションありきでスタート

小林氏:今回の企画は、AOI Pro.側でバーチャルプロダクションを使った企画をやろうという感じでのスタートですか?

重信氏:

今思えば私が書いたブログがきっかけでした。
当社には海外クリエイティブの最新情報をお伝えするAOI Pro. Globalというブログがあり、海外のおもしろいクリエイティブやカンヌの情報などを発信しています。
当時、コロナ禍で多少時間もあり、ブログに書くネタを探していました。その時、海外ドラマ「マンダロリアン」(The Mandalorian)がバーチャルプロダクションを活用しているのを見て、面白いなと思いブログに書いた(2020年6月24日投稿)ことで、社内的にも「これ面白いねえ」みたいな話が出て、上層部の目にも触れました。
その後、当社のエグゼクティブプロデューサー山田博之や、グローバルビジネス部の鈴木佳之が実際に何かできないかと動き始め、ビジネスプロデューサーの平岡淳也がヒビノさんとのコネクションがあり、プロデューサーの芝村至がスターダストさんと懇意にしていたこともあって、さまざまな方向から少しずつコネクションが集まり、ミュージックビデオでこの技術を使ってみようという話にまとまりました。
AOI Pro.が初めて、MIZUNO監督とVaundyさんにお会いしたのは、3月中旬でしたね。

プロデューサーの重信弓月氏(左)とプロダクションマネージャーの小山田将大氏(右)

小林氏:テストはHibino VFX Studioで実施したんですよね。いつ頃実施したんですか?

小山田氏:

最初のテストは、2021年4月の初めに行いました。

小林氏:小山田さんはどの段階から参加されていますか?

小山田氏:

私は3月の打ち合わせの時点から参加しました。今思えば半年弱。長編映画のようですね(笑)。

重信氏:

2021年5月に撮影を予定していましたが、コロナ禍で延期に延期を重ねて2021年7月になりました。結果的には延びて良かったです。

小山田氏:

良かったと思います。

重信氏:

私たちも、企画が成功するか本当に手探りでした。テストをしながら企画を考えるような感じだったので、許すならもっともっとテストしたかったです。

小山田氏:

おそらくテストすればするほど、知見が溜まっていくので、その分精度は上がる気がしました。

小林氏:本番をやるのがもっとも知見が溜まりますからね(笑)。テストと思うと、テストの甘えがあるんですよね。

重信氏:

そう(笑)。結局使わなかったですが、水面を使ったらどうだろうか?みたいなテストもしました。どういう組み合わせをしたら面白くなるかは、行ってみないとわからないので。

小林氏:これができる、あれができないとか、4月の段階でいろいろやってみて、企画がその度に変わってくる感じでしたか?

重信氏:

企画は、二転三転四転(笑)。

小山田氏:

企画はテストを重ねるたびに…変わっていきました。

重信氏:

MIZUNO監督もそこがもっとも苦しんだと思います。

小山田氏:

バーチャルプロダクション合わせで、演出を考えないといけなかったので。

重信氏:

恐らくカメラマンの小針さんも感じていたと思いますが、カメラが引けない…。

小林氏:スクリーンの大きさの制限…。

重信氏:

それもありますし、床面が映せない。美術で床面を作れば映せますが、そこはコスト的に厳しかったので。アングルが限られるとなった時に、じゃあどういうシチュエーションがいいかという画作りが大変だったなと思います。

小林氏:接地面をつけたらもっと広がるというのは小針さんが言ってましたね。

重信氏:

そう思います。

CG部門がグループ内にあるのはバーチャルプロダクションにとって大きな強み

小林氏:TREE Digital Studioが2021年1月、デジタル・ガーデン、TTR、メディア・ガーデン、ルーデンスを統合して総合プロダクションになりました。そもそもバーチャルプロダクション自体がTREE向きなのではないかとも思いました。

重信氏:

確かにそれはあるかもしれないです。

小林氏:すべての技術スタッフを抱えているからこそ、できるコミュニケーションなのかなって。

重信氏:

確かに助かりました。

小山田氏:

そうですね。やっていて思ったのが、CG側とLEDディスプレイ側もそうですが、ポスプロ側との連携が大事だなと思いました。
例えば編集段階で、ポスプロに渡すCGはLEDディスプレイ合わせで考えた時に、どのようなフォーマットがいいのか、やり取りが必要となった時に、同じグループ会社間だからこそ、そこがスムーズに連携できたのはあるかもしれないですね。

小林氏:今までグリーンバックだったらポスプロに頼るところを、バーチャルプロダクションではどうしても撮影前の段階の比重が増えてきます。
そういうことも割り振りできるというか、プロデューサー的には、やってみてどうでしたか?

重信氏:

本来はすべて事前にやることによってポストプロダクションが楽になるのが、もっとも理想スタイルだとは思いますが、今回は事前に全部はやりきれなかったというのが、正直なところです。もちろんプリプロダクションでやってきたことをすべてポストプロダクションで行ったら、大変な時間がかかっていたと思いますが。

小山田氏:

それと比べると軽減はもちろんされているとは思います。

重信氏:

理想をいうとポスプロが楽なのがベストだと思います。

小山田氏:

LEDディスプレイの大きさは限られていましたが、私たちとしてはできるだけ引いた画も撮りたかったりしたので。
そこはどうしても、例えば本編集でLEDディスプレイの境目を少し消したり、LEDディスプレイの画面を拡張させたりしています。

小林氏:ポスプロでも結局は少しやってる?

小山田氏:

行っています。

重信氏:

そうですね。金網のシーンではカメラが引いた時にスクリーンの大きさが足りなかったので、ポストで少し背景を足しています。

小林氏:基本的にシーンを作っているのはTREE制作ですか?

小山田氏:

基本はそうです。監督の方で簡易的なプレビズか一枚絵を作ってもらって、それをベースでTREEに。

小林氏:MIZUNOさんみたいなプレビズができる監督って、これからどんどん出てくると思います。それが制作のビジョンを明確にしていくものだと思う。

重信氏:

本当にMIZUNOさんだからできた部分は大きいと思います。
監督はCGに対して造詣が深く大変詳しい方です。本人も作っていますし。そうじゃないと結構苦労したのではないかと思いますね。MIZUNOさんは「じゃあこうしたらいいのでは?」という、代案が出せるから。本当に良かったと思います。

小林氏:だから完パケを見て感じるのは、シーンとシーン、カットとカットのつながりが、展開を作って変わっていく。断片的なシーンの連続ではなくて、そういう繋がりはプレビズありきな感じがしました。

バーチャルプロダクションはスタッフ全員の知見が大事

小林氏:今回、たまたま大変長く準備期間を設けられたという。

重信氏:

テレビCMはなかなかそうもいかないので、スケジュールに関しては事前にご理解いただく必要があると思います。

小林氏:背景の作り込みは、時間をかければかけるほどクオリティは上がってくる(笑)。

重信氏:

間違いなく。あと既存のCGのアセットが増えれば、CG制作時間の短縮に繋がると思いますね。積極的に既存の背景を溜めていく必要はあるとは思います。あとスタッフの教育。

小山田氏:

教育にはテスト撮影が絶対に必要だなと思っていて。
今回に関していうと、3回行ったんですが、3回分スタッフ皆さんも押さえる必要があり、撮影機材費も照明機材費もかかるし、技術もかかる。その分お金が膨らんでいくので(笑)。
それなりに予算が潤沢でないと難しいとは思いました。

重信氏:

テストをするなら、全スタッフを集めないと意味がないなと思いました。

小山田氏:

そう、それは本当に痛感しました。最初のテスト撮影も、カメラマンの小針さんと撮影チーフがいればいいのではないかと思っていましたが、照明の西ケ谷さんがいないとライティングのこと…LEDディスプレイがライティングにどう影響するかなど、分からなかったと思います。
あとDITも大事です。DITの方にも直接見てもらわないと、現場でどのように色味を出せばいいかの相談ができないし。なんだかんだ皆さんお越しにならないと、なかなか前に進まないのは感じました。

小林氏:そう、それが一通りみんなの知見が溜まって来ると、現場までのテストも少なくて済むんでしょうね。

重信氏:

テストがテストで済むならいいんですけど、まず「学ぶ」ところから始まるので(笑)。

小林氏:最後に、バーチャルプロダクションの可能性やシステムへの感想を聞かせてください。

重信氏:

コストダウンやスケジュール短縮のためのソリューションとしては、現時点では難しいかもしれないですけど、表現の幅を広げることはできるなと思いました。
もちろんカメラが引けないかもしれないとか、いろいろ制約はありつつも、地下鉄の駅をあんなグラフィティだらけにしたり、地下鉄車内を自分の好きな世界にしたりすることは、実際の場所ではなかなかできなかったことだと思うので。クリエイティビティには貢献する可能性があると思います。この技術ならではの企画がもう一度できるんだったらやってみたいです。大変だけど(笑)。

小林氏:監督も言っていましたが、この企画はこの技術に向いているという風に持っていける方が理想だと。

重信氏・小山田氏:

そうですよね。

小林氏:ありがとうございました。

小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。バーチャルプロダクションのVFXアドバイザーの一面も。noteで不定期にコラム掲載。


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