基調講演で語る放送業界の現状と未来

NABでは初日、NAB会長兼最高経営責任者(CEO)ゴードン・スミス氏による恒例のNABオープニング基調講演がLVHパラダイス会場で開かれた。放送・ラジオの将来の成長に影響を与える立法、規制上の課題への対処について、そしてすべてのコミュニティと統合され、ライフラインとして機能する能力において重要な役割を果たしていることなどが語られた。

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NAB会長兼最高経営責任者(CEO)のゴードン・スミス氏

スミス氏は「メディアビジネスにとってエキサイティングなイベントが今日から始まった」と始め、今年のNABでは何が起こっているか、NHKは8Kコンテンツの伝送を実証、NextRadioはスマートフォンでラジオのインタラクティブな体験を紹介、ATSC 2.0といったマルチスクリーンサービスはいかにリニアTVとインターネット配信のコンテンツを同期化させられるかを紹介していると語り、市場全体的に放送とブロードバンドのコンバージェンス力を実感できるようになったと述べた。ブロードバンドは放送とラジオのゲームチェンジャーであるとし、コンテンツを送受信する新しいプラットフォームを強化しているという。

しかし、ブロードバンドと放送業界ではモチベーションの源が異なる。たとえば、放送局は地域社会への貢献を意識し、技術革新のコミットだけではなく、公共の利益のためのサービスを常に重視しており、地元のラジオ放送やテレビ業界は、GDP(国内総生産)の1.3兆ドルに貢献し、そして年間3万人の雇用を生み出している。これらの事実およびラジオとテレビの効率的な関係および地域社会へのつながり、そしてコンテンツにおいて、他産業が挑戦意識を見せても不思議なことではないと語った。

これらの事例は、ワイヤレス業界と放送業界に配分される周波数と収益の問題へとつなげるためのものだ。アメリカ政府は、急速に増大した無線ブロードバンド向けに500MHzの周波数帯を新たに確保する計画に関し、今後10年間で連邦政府保有の周波数帯を民間と共用できるようにする指針を提示している。更に、今年に世界初の試みとなる「インセンティブ・オークション(incentive auctions:現在テレビ放送局が保有する周波数帯を自主的に提供させてオークションで通信事業者に配分し、その収入の一部を協力したテレビ局に還元するもの)」により、放送事業者の間では小規模局の撤退などで放送サービスの低下を促すとして懸念の声は隠せない。

ワイヤレス業界は、放送事業者の周波数帯配分を使って映像を配信しようとしている。FCC(連邦通信委員会)は、ケーブル、衛星、通信事業者では問題ないとしながら、放送局には、2局が同地域で広告を共有することに許可していない。政府は過去複数年において、ワイヤレスとケーブル産業の革新のために何百万ドルを投資し、国のブロードバンド計画を策定してきた。

スミス会長は、放送事業がブロードバンド産業と並び世界のリーダーであり続けるための技術革新と投資促進の確保に、なぜ焦点しないのだろうかと投げかけた。ラジオやテレビの所有権規則の1小片を対処するよりも、なぜこれら数十年前の規制すべての意味の徹底的な見直しを行えないのだろうかと語り、FCCは国のブロードバンド計画と同様に、国の放送計画を立てるべきと訴えた。その放送計画は、放送がこの国の競争力であり続け、また公共の利益に奉仕し続けることが可能な方法を見つけ出すことができると説明する。

スミス氏が、放送がハリケーン・サンディ災害時に8百万人以上の人々を守ったという、ウォールストリートジャーナルの記事を引用した際には会場から拍手が沸き起こった。「ブロードバンドでは到底できないことだ」(スミス氏談)。

NABは過去一年半、スペクトルインセンティブオークションを開催するFCCを支援するために精力的に取り組んできた。本オークションがテレビ放送業界に大きな影響を与えるという事実に直面している。周波数を解放しなければならない背景と目的を理解しつつも、双方の目標は放送事業者および視聴者側に害が及ばないようにすることだと強調する。しかし現状、FCCはバランスを保つための解決を見出していない。

NABは国会での積極的な政策提言を通じて、アメリカ国民にサービスを提供し続ける放送局とのコミットを確保するとしている。競合するプラットフォームが登場してきているが、ラジオと放送は依然として一般国民のニュースや娯楽のための適した技術であり、それは放送の永久的な価値、究極のサバイバーとして残される。

ハイブリッドFMラジオ、モバイルTV、ウルトラHDと、我々は放送で刺激的な発展を経験している中、それらを適応しながら消費者のニーズに応え続けるためにも、テレビ放送業界は真剣に新基準への移行を検討すべき、とスミス会長は提案した。それは、放送局がイノベーションをより自分の視聴者に提供するため、そしてモバイルの世界で競争するため、そして新たな収入源を見つけるための柔軟性と効率性を可能にするだろうとしている。

スミスがこの話題を持ち出したのは初めてではないが、今年は特に彼のメッセージは強かった。

NAB功労賞はじまって初のヒスパニック系受賞者

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功労賞は、エミー賞を過去に8度受賞しているユニビジョンのアンカー、ホルヘ・ラモス氏に贈られた。ラモス氏は、言語に関係なく米国で最も人気のあるネットワークでのニュース報道のジャーナリストであり、28歳で米国テレビ史上最年少のアンカーマンとなった。数多くの賞を獲得しているイブニングニュース“Univision News”で1986年以来、トップアンカーを務めている。特に移民問題など、ユニビジョンの視聴者にも不可欠な課題について、報道者は全身全力で真実を伝えなければならないと唱えた。

ラモス氏:よくジャーナリストは中立を保たなければならないと言われるが、それは間違っている。ジャーナリストの役割は、支配力に疑問を投げかけること。我々は、権力者達に真実を話さなければならない。

ホルヘ氏は、フィデル・カストロ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、エボ・モラレス、ウゴ・チャベス、テリー・ポーター、ラファエル・コレア、フェルナンド・フェレール、バラク・オバマなど、多くの世界の指導者にインタビュー、そしてベルリン壁崩壊、911テロ攻撃など世界の重要な出来事をトップで取材している。

ラモス氏は、米国におけるヒスパニック人口の巨大な成長を祝杯し、ラテン系のジャーナリストとして最高の時だとした。「ようやく、英語・スペイン語両方で伝えることのできる“我々の声”になれる」

ユニビジョン会長ハイム・サバン氏、“標準化の開発に失敗はない”

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米国で最大のヒスパニックメディアであるユニビジョン・コミュニケーションズの執行会長との対談が実現した。対談では、放送シグナルをマルチプラットフォームに配信できるようにすることは不可欠だとし、新伝送企画を有することが重要だという意見に賛同した。

サバン氏は、FCCの略の意味は“Friendly Cable Commission(ケーブル事業者に優しい委員会)”と答えて、会場からの笑いを誘った。ケーブル事業者が放送局の再送信をするにあたり使用料を支払うことは当然とし、スミス氏とサバン氏は現在の再送同意プロセスを維持する必要性を強調した。また、スミス氏はすべてのプラットフォーム上で繁栄する放送を支援する新しい伝送規格の重要性を強調した。

サバン氏は音楽プロデューサーであり、サバン・キャピタル・グループ会長兼CEOのトップとしての実業家の顔もある。スミス氏は、サバン氏のビートルズカバーバンドからマネージャーへと変身した音楽プロモーター時代から、スーパー戦隊シリーズの国際放映権を獲得し、1993年から米国でパワーレンジャーとして大ヒットさせたFOX時代、2006年からユニビジョンにおいて視聴者との関わりなどで会場の笑いを誘いながら対談を進めた。

txt:山下香欧 構成:編集部


Vol.01 [NAB2014もうひとつの視点] Vol.03