革新的に世の中が変わる時、何処も挑みもしなかったアイディアを実現することで、一気に頭角を著わすということがある。今回、取り上げるのは、まさに、メディアコミュニケーションと都市とをダイナミックに融合させることによって、ある都市が一気に世界のシーンの中心に躍り出ることになるかもしれない話である。

アイディアシティ札幌が繰り出す新たな「アイディア」

世界的視野でクリエイティブの構想を温め、アイディアを実現することで、都市の活力を生む。まさに「アイディアシティ」というコンセプトを携えて、着々と準備を積み重ねる都市がある。その名を札幌という。

アイディアとクリエイティブで世の中を切り開く人々を都市のプレーヤーとして、様々なかたちで応援してきたこの街は、ファミコン時代のハドソンに始まり、今は初音ミクのクリプトンや音楽2次創作でお馴染のイオシスなど、新しい庶民のためのクリエイティブを全国に送り出している街でもある。

アイディアがシーンを変える。札幌市民のみならず北海道民、そして外から訪れる人々のほとんどが接触するであろう、都市空間において札幌の情報空間とリアルなスペースとを融合する、インタラクティブなサイネージであり、メディアアートであり、集合知である、全く新しい場所が生まれようとしている。

冬になると寒さで閉ざされる札幌の街。都心のおける人々の歩みは地下街を中心として動く。ところが、ゲートウェーである札幌駅とまさに都心である大通公園から南へとつなぐたった500メートル足らずの間には地下が存在しておらず、そのことが大規模な駅開発で集客力を高める札幌駅の存在を高める一方、そのまま歩いて行くことが難しい、南の中心街の活気を失わせる要因となり始めている。その札幌のラスト1マイルというべき場所に今、2011年オープンを目標に市が地下歩道の整備を始めている。その地下道こそが、世界のサイネージとメディアコミュニケーションを変えるかもしれないアイディアが実現する場所である。

北日本で一番人通りが多くなる地下道がサイバースペースと直結

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アイディアの提唱者は、人間のナレッジとメディアの発展を様々な表現を軸に探求、自身も様々な実践をテクノロジーの進歩とともに取り組んできた、札幌市立大学図書館長である武邑光裕教授である。

市が整備するため、普通なら通路にしかならない、しかし冬になれば札幌に居るほとんどの人々が使うであろうこの通りのあらゆる面や柱に映像表示のディスプレイを配し、メディア空間を創出しようというのだ。

映像表示装置がコモディティ化する今、このようなアイディアはコスト面においても、建築的リアリティにおいても、膨大なリスクを投じることなく、実現可能である。これを荒唐無稽と思うなら、それは今のメディアの本質的な存在を理解していないことであり、一方でアイディアをすぐにリアリティとして提示し、構想として現実のものとして市民に訴求できる、武邑教授は、サイネージとメディアアートの先にあるビジョンをかたちにできるイノベーターである。

この場所としての存在においても、ほとんどの市民や訪問者といった何百万人もの人々が必ず接触するという特性においても、今までにない情報空間において、当初は時代とともに次から次へと生まれるメディアアートの先駆的な作品を展示し、世界の何処にもない圧倒的な情報美の空間を創出するという構想が存在していた。市民とビジネスマン、観光客のアゴラとしてのメディアアートミュージアムである。

市民や来訪者の思いがコンテンツになる集合知のデジタルサイネージ

しかし、武邑教授は、それ以上のアイディアをもって、この地下空間のユーティリティーを高めようとしている。寒い冬場を気持ちとしても温かくするメディアアートのインタラクティブな仕掛けを世界から集め、札幌で開発した作品による体験だけでない、まさに21世紀のアゴラとなる、今までのデジタルサイネージによる都市デザインには無かった新たなアイディアの導入である。

それは、実際にフィジカルに生活する都市空間と情報流通によって生活を支援するサイバースペースが融合した、市民の知と情報が集積し、行き交う情報空間としてのアゴラを形成しようとしているのである。構想としては、札幌に関わりのある人々が投稿したり、活用した情報が集合知として様々なプラットフォームで編集され、地下通路においてインタラクティブなかたちで発信されるようになる。この地下通路を通ることで、札幌に関わる様々な人々、市民のお勧めや感動、表現が、様々なかたちでデザインされたインターフェイスによって魅力的にデコレートされ、一方で、その情報を用いたり、編集にも関われるようになる、まさにリアルとサイバーが融合したインタラクティブな札幌のゲートウェーを出現させようというのだ。

この21世紀のアゴラでは、様々なお勧めが寄せられた食や遊び方などの街の情報に触れ、人々が投稿した写真や映像を目にし、より札幌での暮らしを人々の情報が結び付けることによって豊かなものになることが期待できる。例えば、テレビ報道では現れることのなかったあの生キャラメルを凌駕する新たなスイーツの数々やラーメンなど、市民が大好きで応援したい気持ちが、この空間で浮かび上がってくるのである。

その期待を確かなものにするため、より魅力的な表現やインタラクションを創造したり、よりフレッシュでアイディア溢れるシステムを創生し続けるチャレンジが、メディアアートやインタラクションデザインにおいては求められている。

訴求力のあるサイネージインターフェイスのチャレンジ

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このチャレンジこそが、デジタルサイネージやCGMにイノベーションを与え、表現だけでなく、新たなライフスタイルのチェンジを通じた、ビジネスチャンスをもたらすプラットフォームになることを武邑教授は構想している。

2011年の実現に向けて、いかにリアルとサイバーを集合知として結び付け、訴求力のあるサイネージとするためのインターフェイスのチャレンジが既に始まっている。

SAPPORO COLOR” というこのサービスは、イベントや場所の情報を様々な人が投稿し、情報に対するリアクションに応じてインターフェイスが変わって行く、直観的でかつパーソナルな集合知による行楽情報。まるで音楽におけるジャケ写のようなキービジュアルをそれぞれのイベントや場所に設定、オンラインで音楽を選ぶように興味ある行き先を探ることが出来、リンクした地図情報で簡単に行き先を割り出すこともできる。キービジュアル中心のシンプルなアプリケーションは、現在のところブラウザモードであるが携帯電話にもフィットしたナビゲーションであり、そのままインタラクティブなサイネージやブログパーツにも活用できる。市民による自由な宣伝や評判の積み重ねで、様々な行き先や体験に誘うことが出来る、様々な情報の出入り口を持ったサイバースフィアである。

技術を読み、社会を読み、美を読める、リッチナレッジなアイディアを持つ人を大事にせよ

四半世紀以上にわたり、コンセプトのみが常に独り歩きしてきた、メディアアートの社会やビジネスでの活用。同じく、新産業としての立ち上げが先行し、クリエイティブのリアリティが定まらないデジタルサイネージ。それを現実のものとして実現できるアイディアとして都市のイノベーションに組み入れてしまう、この札幌のチャレンジはまさに「融合」時代の先駆者であり、インパクトのある先駆けとしてこれからより一層注目に値するのではないのだろうか。

WRITER PROFILE

岡田智博

クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。