新時代に向けてキヤノンが送り出す異彩を放つカメラとは?

カメラメーカーがこぞってビデオを扱い始めた80年代、メーカーは、VHSやベータのデッキを電機メーカーからOEM供給していた。そんな中、キヤノンはCVCというCカセットと同じくらいの大きさ(8ミリビデオのカセットより小さい。後にNTVと日立がこのカセットを採用したENGカメラCV-1を開発)のテープを採用した小型なシステムを採用したVC-100/ VR-100を81年に発売した。その後VHSのタイプの製品も取り扱ったが、85年には8ミリビデオになり多くのカメラメーカーがデッキ部分をやはり電機メーカーから供給を受けていたが、キヤノンは独自開発していた。その後は他のカメラメーカーは徐々にビデオから撤退していったが、キヤノンは91年にレンズ交換式のLX1を98年にはデジタルビデオ記録(DV)を採用したユニークなデザインのXL1を発売している。ちなみに00年にXL1用交換レンズとして3倍ズームの3Dレンズを技術発表。このレンズは製品化されなかったが、フィールドシーケンシャル方式で輻輳角調整も行えるようになっていた。

こうした歴史を振り返ってみてもキヤノンは技術的にもデザイン的にも異彩をはなった製品を世に送り出してきたといえるだろう。現在カメラメーカーとして民生用業務用共に製品を送り出しているのはキヤノンくらいしかないのはこうした歴史的なバックボーンがあったからといえるだろう。

機能・特徴

XF105_main_A_DOM_2.jpg

今回レポートするXF105や先に発売になったXF300シリーズも小型ビデオカメラを発売している他社製品のほとんどがAVCHDやHDVという記録フォーマットを採用する中MPEG2 Long GOP 4:2:2/50Mbps(MXF Op1a)しているあたりはキヤノンらしい差別化のひとつだと思う。撮像素子には新開発の1/3型207万画素のCMOSを搭載しており、フィルターの切り替えにより赤外撮影にも対応(INFRAREDモード)している。

XF105_0305.jpg XF105_0332.jpg

INFRAREDスイッチをONに切り替えにより赤外撮影に対応

マイクユニットの中央部分には赤外線ライトが装備されており、暗闇での撮影も可能

記録媒体はCFカードでスロットは2基装備されており、同時記録することが可能となっている。ようはバックアップが取れるということなのだが、他社を含めスロットを2基備えていても同時記録に対応したカメラは少ない。技術的に特に難しいというわけではないのだが、同じ容量で同じ性能のメモリーであることが前提条件となるためメーカーも躊躇していたようである。とくにこうしたバックアップを必要とするユーザーにとって同時記録がトラブルの元になってしまっては元も子もないからだ。キヤノンは推奨CFカードを使うことを条件にするようである。

XF105_0284.jpg XF105_0297.jpg
側面には2基のCFカードスロットが装備され、同時記録が可能。もちろん個別にもリレー記録にも対応している

XF105に装備されたHD-SDI出力とゲンロック/TCコネクター

レンズは、4.25~42.5mm(35mm換算30.4~304mm)/F1.8~2.8の10倍レンズで、円形に近い絞りが得られるように8枚虹彩羽根となっている。また、手振れ補正機能を利用した光軸調整機能により、ズームレンズの光軸中心ズレ補正が行えるようになっており、3D撮影時に2台のカメラの光軸調整を簡単に行える。また、ミラー式リグを使った撮影時には画面を上下左右に反転させることができるスキャンリバース機能など、3D撮影サポート機能が搭載されている。

XF100/XF105は、単板式ということもありXF300シリーズに比べ大幅に小型軽量化されている。これは質量がXF300の約2.7kgに対し半分以下の約1.1kgとなっており、一昔前の民生機と同等な大きさ重さと言えるだろう。なお、XF105にはHD-SDI出力とゲンロック、TCコネクターが装備されており、このあたりの差別化はXF300やXH、XLシリーズと同じだ。

外観・操作性

XF105_0327.jpg
バッテリー容量の小さなバッテリーパックBP-925が新たに開発され付属バッテリーとして同梱される。このバッテリーで約165分の撮影が可能

フラッグシップモデルや業務用モデルは一見してそれとわかる特徴的なデザインを備えていたキヤノンのビデオカメラだったが、XF105のデザインは一般的なビデオカメラのそれとかわりなくキヤノンらしさがなくなってしまった。それはそれで、ENGカメラがそうであったように最大公約数的に収束されてきたということだろうか。レンズやVF、LCD、グリップといった必要な機能パーツを小型ボディに装備するとデザインも必然的に同じようになってしまうということだろう。

各スイッチの配置はあるべきところにあるというか、直感的にもわかりやすい配置だ。スライドスイッチで切り替えるようになっているところがいくつかあるが、3段階に切り替えられるたとえば電源スイッチなどはセンターで止めにくいようだ。個人的には以前のようなダイアル式のスイッチのほうが操作しやすいように思う。 実際に手にとって見るとカメラが小型軽量ということもあり、上位機種のXF300シリーズと比較してグリップやバランスはかなり良い。ただ、各操作スイッチなどの配列はカメラの大きさの違いもありほとんど共通性はないので、XF300シリーズメインにXF105をサブにして使うような場合は慣れが必要だろう。個人的にはXF105のほうが操作部分が整理されていて好感がもてる。

XF105_0291.jpg XF105_0293.jpg

内蔵マイクの他、キャノンコネクターによる外部マイクの接続も可能

レベル調節やATT、ファンタム電源などにも対応している。収録はリニアPCMで16bit/48kHz

XF105_zoom_0321.jpg XF105_zoom_0322.jpg

ズームスピードは独立して設定が可能。調整範囲は結構広い

波形モニターやベクトル、フォーカスアシストといった機能やメニューは両者でほとんど同一なのでセッティングなどは違和感なく行える。

XF105_axi_0319.jpg XF105_axi_0320.jpg

手振れ補正機能を利用した光軸調整機能を搭載。3D撮影時にズームの光軸中心ズレ補正や2台のカメラの光軸調整を簡単に行えるようになっている。2台のカメラを接続して自動で合わせる機能など将来的に期待できそうだ

XF300シリーズの撮像素子やレンズ部分を小型にしたのがXF105といったイメージだが、XF300シリーズに無い機能も備えている。前述した3D対応の機能やINFRAREDモード、顔認識によるオートフォーカス機能などだ。顔認識オートフォーカスは民生機にも搭載されているが、被写体の人物がフレームアウトした場合、画面内にピントが合った部分がなくなり、カメラは画面内のどこかにフォーカスを合わせるように働くことになる。XF105に搭載されている顔認識オートフォーカスは、画面内から人物がフレームアウトしてもフォーカスをそのまま維持して、再び人物がフレームインしたらオートフォーカスが動作するモードを備えている。画面内にある顔を認識してそれがトリガーになってオートフォーカスを動作させるといったイメージだ。

小型ビデオカメラは手持ち撮影で人物を追いかけるような撮影をすることがよくあるが、XF105に搭載された顔認識オートフォーカスはこうした撮影でも違和感の無いフォーカスがオートで利用できる。

今までのキヤノンのフラッグシップモデルのラインナップでは20倍ほどのズーム倍率が普通だったが、XF105では10倍ズームというちょっと控えめな倍率になっている。ただ、35mmフィルム換算での焦点距離が約30mmだったりズーム全域で最短撮影距離が60cmだったりと小型ビデオカメラの利用範囲を考えた仕様になっている。これなら寄りたいからワイコンを装着するといったことも少なくなるだろう。当初XF300シリーズを小型化しただけといった感触だったが、XF105は小型カメラなりの用途を吟味してそれに見合った機能を付加したカメラといえる。

性能・画質

XF105は単板ということもありXF300シリーズより感度的には不利なのだがその差は0.11lxと0.08lxとなっており、歴然とした差というほどではない。もっともいずれもスペックに標準感度項目が無く、感度アップ時の感度はSNとの兼ね合いもあるのではっきりとした判断はつかない。ただ、XF105にはINFRAREDモードが装備されており、カラーでの撮影はできないものの撮影範囲は広いといえるだろう。追っかけものや報道など小型ビデオカメラの機動力を生かした撮影では、どのような条件下でも撮影できるという点が重要なので、その点では評価できると思う。

ビューファインダーやLCDはXF300シリーズのほうが高解像度の物が搭載されているが、その分サイズも若干大きくなっている。カメラ自体の小型化との兼ね合いもあるので一概に比較できないが、XF105でのピント合わせはオートフォーカスを頼りにしたほうがよさそうである。撮影シーンにもよりけりだが、XF105のオートフォーカスは顔認識機能などを利用すればそれなりに意図したフォーカス調節が行える。

canonhyo.jpg
XF105-2010-12-21-02h11m32s0.jpg XF105-2010-12-21-02h11m32s.jpg

高解像度チャートの記録再生映像

XF105-2010-12-21-02h09m03s81.jpg XF105-2010-12-21-02h09m03s.jpg

サーキュラーゾーンチャートの記録再生映像

 
XF105_0240.jpg XF105_23s0.jpg
 

グレースケールの波形モニター写真と記録再生映像

XF105_0264.jpg XF105-2010-12-21-02h11m04s0.jpg
 

マルチバーストチャートの波形モニター写真とマルチバーストチャートの記録再生映像

XF105_0238.jpg XF105_26s41.jpg
 

カラーチャートのベクトルモニター写真と記録再生映像

記録フォーマットがMPEG2 Long GOP 4:2:2とこの手のカメラが採用しているAVCHDなどのフォーマットより色情報が多くそれに見合ったレンズ性能が求められる。実写やチャートの撮影で明確な差としては現れていないが、モアレや解像度など単板式としては優秀な性能といえると思う。

 

主な仕様

  • 撮像素子:1/3型CMOS(有効画素数1920×1080)
  • レンズ:10倍(4.25~42.5mm/F1.8~2.8、手振れ補正搭載)、最短撮影距離2cm(ワイド端)、60m(ズーム全域)、8枚虹彩絞り
  • ファイルフォーマット:MPEG2 Long GOP 4:2:2/50Mbps(MXF Op1a)、
  • 動画記録:1920×1080、1440×1080、1280×720
  • 記録メディア:CFメモリーカード(動画、2スロット)、SDカード(静止画、設定情報)
  • 映像出力:HDMI、HD-SDI(XF105のみ)
  • 最低被写体照度:4.5lux
  • 価格:オープン(市場予想価格:XF100;30万前後、XF105;40万前後)

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。