[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.09 中国ネットゲーム事情 その3

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[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.09 中国ネットゲーム事情 その3

2009-10-05 掲載

[オタク社長が見たAsianimationの世界]Vol.09 中国ネットゲーム事情 その3

先日、一般事業会社としては日本初のコンテンツファンドが破綻したことは、読者諸賢の記憶に新しいところだろう。

このファンド、単に放漫経営というだけでなく幹部社員による使い込みの噂まであるが、新規コンテンツ開発よりも販促や既存作の第二、三作への投資に力を入れていた様子でもあり、そもそもがコンテンツファンドとしてきちんと成立していたのかはなはだ不安を感じる部分が大きい。投資家が今後の新規コンテンツ投資に対して腰が引けてしまうのではないかと心配になってしまう状況である。

日本では、多くのコンテンツ開発企業はまじめ一徹としかいいようのない企業ばかり、しかも極めて優秀な企業ばかりなのだが、そうした会社に投資をするための肝心の投資システムが全く未整備だ。日本のコンテンツ産業を支えるために、早急に、こうしたコンテンツ投資システムに対する政府支援などが必要なのではないかと強く考えざるを得ない。

こうした日本国内の悲惨な状況に対して、中国のコンテンツ産業は順調に中国内外から多くの投資を集めている。もちろん、中国市場はまだ成長期であり、まともに投資家に資本を返せているところはほぼ皆無ではあるのだが、そもそもの投資をちゃんと集められているという時点で、情けないが、我が国に比べてもたいしたものだと言わざるを得ない。中国において、特に多くの投資を集めているのがネットゲーム事業だ。今回は、ネットゲーム開発企業の中でも、香港や台湾など、中国本土以外からの中国系進出企業について触れたい。

逆転した中国元と香港ドル

日本人が、中国本土以外の中国系企業と聞いて真っ先に想像するのは香港企業だろう。 しかし、現状を見渡す限り、特にネットゲームに関して、香港系企業はあまり姿を見ない。一昔前まで、中国製エンターテインメントといえば、香港製と相場が決まっていた。ジャッキー・チェンを初めとする香港スターたちの活躍する映画やゲームは、私たち日本人にすら多くのファンを作り、まさに世界を席巻していた。

しかし昨今、香港作品は、香港外ではその姿をあまり見なくなりつつある。特にゲーム機や電子エンターテインメントはその傾向が強い。日本はおろか、香港製の電子エンターテインメントは、香港とは目と鼻の先にある電子エンタメシティであるマカオですらあまり見かけなくなったのだ。もっと言えば、実は香港市内ですら、台湾資本や中国本土産のゲームばかりが目につく状況だ。実は、これには、単に香港エリア内のエンターテインメント産業の方向性というだけでなく、国家エリア単位での状況の変化が大きく影響をしている。

その要因の一つは、香港ドル・中国元の交換レートの変化だといわれている。香港ドルはその通貨レートを米ドルにリンクしていたため、米国の超大国の地位からの凋落と共に、その価値を失い、ついには通貨レートにおいて、中国元に追い抜かれてしまったのである。つまり、通貨価値の逆転現象の発生である。

通貨が下がったからといって、安い労働力と言うには香港人の給与はあまりに高い。かといって、昔のようにプロデューサー的な役割を果すにしても、香港ドルの凋落は購買力の凋落であり、なかなかにしんどいものがある。そのため、香港エリア内においてもどうしても中国本国主導の作品ばかりが目立つようになり、香港製のエンターテインメントがなかなか表に出てこなくなってしまったのだ、というのだ。

もちろん、中国本国内の方がまだ物価は安く、しかも香港ドル自体も対ドル安定性というメリットもあるため、それが即香港の衰退という状況ではないのだが、通貨価値という見た目にわかりやすい指標の逆転は、中国本国に飲み込まれつつある香港の方向性を決定づけたといわれている。旧市場である米国の衰退と、新興大市場中国の誕生を前にして、欧米ばかりを向いている訳にはいかなくなってきているのだ。

こうした国際経済の変化は、決して我々クリエイターにとって他人事ではない。何しろ我々の扱う商品は、電子ネットワークを通じて瞬間で世界を超えて販売される。つまり、もっともダイレクトにこうした国際経済の変化の影響を受けるのは、他ならぬ我々クリエイターなのだ。

こうした変化に対応し、例えば、昨今話題の東亜細亜地域の通貨統合を主張するのは、こうしたドル安の流れに巻き込まれないために必須であると筆者は考えている。香港の苦境をみるに、少なくとも「Yen」という通貨を使っている地域、即ち、日本・中国・台湾・韓国を中心とした東亜地域においては、その共同通貨を大至急用意する必要があるのではないだろうか、と思わざるを得ない。

台湾企業の中国進出

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Softstar社の作品。大変美麗な中国風ファンタジー世界を描き出している

そこで注目されているのが、台湾だ。台湾は、簡体字ではなく繁体字を使っているというデメリットこそあるが、間違いなく中国系の文化を持つエリアであり、中国本土への進出は極めて容易な文化的素養を持っている。

台湾の通貨である台湾元は、香港ドルと異なり対米ドルで制度的に固定されているわけではない。しかし、残念ながら台湾は米国の衛星国という側面があるため、今回のリセッションでは、香港同様に強く不況の影響を受けてしまっており、ほぼ米ドルに追従する値動きとなっている。しかし、幸か不幸か、台湾海峡を挟んでの政治的対立というバックを持つため、台湾はまだ中国市場に完全には飲まれずに独自路線を保っているのである。

今回訪問したのは、北京に開発拠点を置く、Softstar Entertainment社(軟星科技(北京)有限公司)という台湾資本の会社である。この会社は、元々は「大富豪(Richman)」というPC向けオフラインゲームで知られる会社である。台湾での設立は二十年近く前になり、中国進出も八年前という、古株中の古株の企業だ。

ここの代表作である「大富豪(Richman)」も、およそ二年前からオンラインゲーム「Richman Online」として開発販売が行われており、いまやネットゲーム産業の一角を成す存在となっている。これらのゲームに関し、同社は、北京では制作のみを行っており、ゲームの販売や運営は中国企業とのコラボレーションで行っているようだ。

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お話を伺ったSoftstar Entertainment社総経理のJohnson Yao氏

同社総経理Johnson Yao氏によれば、元々台湾でゲーム制作をしていた同社であったが、どうせ元から市場は中国なのだからと、今から八年前に進出をしてきたという。Softstar社の最大の悩みは、コストの上昇。八年前は台湾の三分の一の制作費用だったのが、現在は台湾の三分の二以上にまで上昇してしまっていて、コスト的なメリットがほとんど無くなってきているというのだ。この原因は、昨今の人件費その他の高騰もさることながら、やはり、香港同様、リセッションによる中国元の高値が何よりもものを言っているという。

とはいえ、同社は決して中国からの撤退は考えたことはない。それは「ヒューマンリソースは中国の方が圧倒的に多い」というのが何よりの理由だという。中国は良くも悪くも人が多いというのが特徴だ。今、世界中でコンテンツ産業は慢性的な人手不足に悩まされているため、百人以上のチームを組もうと思ったら、中国でやっていくのが一番強い、というのだ。同社は百人以上の開発人材を抱える大所帯ではあるが、数千人規模の開発チームが当たり前に存在している中国のゲーム開発環境においては、まだまだ弱小だ。しかし逆に言えば、その数百人規模のチームを中国国外で組むのは、事実上不可能なのである。

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Softstar社の開発室は百人以上が入るワンフロア。日本ではあり得ないほど広い。しかしその感想を口にしたところ「こんな小さい会社で」と大笑いされてしまった
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Softstar社の新人部隊。この狭い席で勝ち上がったものが、ブースを与えられて一人前のクリエイターになる

Johnson Yao氏は、「中国のマーケットがこれだけ大きいのに、なぜ日本は中国に注目しないのか不思議でならない」という。現状、日本は既存コンテンツの集積があり、そのために大きな優位性はあるが、そもそも著作権は使うべきものであって、守るべきものではない、と同氏は言う。

「日本のゲーム開発は極めて優秀。漫画などの既存コンテンツも極めて優れている。なのに、細かい感覚的な部分にこだわってアタックを恐れているように思える。私は日本のゲームのファンとして、是非あきらめずに中国市場にアタックして欲しいと願っている」

この言葉は、とかく保守的になりがちな日本のコンテンツ産業にとって、非常に耳に痛い言葉なのではないだろうか?我が国にこうしたアタック精神がもっとあれば、冒頭に書いたようなコンテンツファンドのトラブルはなかったのではないかとも思えてならないのである。


[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2009-10-05 ]
[ TAG : オタク社長が見たAsianimationの世界 ]

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