もうひとつのおさえどころ。それは、映像の軍事利用

NAB2012も終了し、日常へと舞い戻ったが…。筆者が得意とする分野をお伝えしたい。放送機器展であるNABのもう一つの側面が、映像の軍事利用という側面だ。

そもそも現代の映像技術は、アドルフ・ヒトラーによるナチスドイツ政権が国民洗脳のために国内の映画産業をUFAと言う形で統合し、その後幹部を国外追放して事実上国営化して技術を高め、それに対抗するために米国内でもドイツを追われてきたユダヤ系のUFA幹部たちを中心としてドイツから持ってきた技術を元に、ハリウッドを中心とした米国西海岸地域において対抗するプロパガンダ技術を高めたところに原点がある。映像は、軍事とは切っても切り離せない関係なのだ。当然、米国の映像技術の展示会であるNABにおいても、その側面を色濃く出している展示がある。今回は、そうした、ちょっと毛色の変わったNABをお見せしたい。

映像を政府が利用する事とは?

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FEMAの展示ブース。米国でもトップクラスに国民から恐れられる組織

NABを語る上で、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)による映像技術の政府利用ブースは欠かせないだろう。このFEMAは、ドラマ「Xファイル」などで「陰の政府」として悪役で登場していたので、日本でもおなじみだろう。

今回、FEMAでは、IPAWS(Integrated Public Alert and Warning System)という国民警報システムを展示しており、これは、日本の津波警報システムを大きく参考にし、それに対テロや敵国からの攻撃への警報など、軍事機能を付け加えたものである、という。ブースの係員は、日本の311大震災では津波の警報が一部間に合わず、さらには原子力事故まで起こってしまったため、現状で国民の理解を得るのは難しいが、必要なものであるのでしっかり説明をしたい、と解説をしていた(FEMAは原子力事件にも対応する機関である)。

FEMAはかつて、米国に万一の事態があったときには、現場の指揮官が大統領令を現場判断で発令出来(大統領には後付けの報告で済む)、連邦政府の意志を執行する重要機関とされていた。911テロでの失敗で権限が縮小されて国土安全保障省傘下になったものの、その後、対テロ機関としての役割も与えられ、再び力を付けつつある。いわば、日本で言えば内閣情報調査室や公安調査庁がイベントで展示発表をしているようなもので、そうした国民が注目する機関が展示を行うのも、このNABならではといえる。

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無人空撮ヘリに書かれたPOLICEの文字はただの飾りでは無い。警察採用を前提にした真面目な展示

また、今年のNABの流行の一つだった無人空撮ヘリも、実は軍事利用、政府利用が主目的の一つであり、政府納入も考慮したブース展示が行われていた。そもそもこうした無人空撮ヘリは、軍用の無人攻撃機や無人偵察機技術の転用だからそれも当然ともいえるが、こうして軍事技術を民間に公開し、その後民間で鍛えられた機材を積極的に政府が再転用するのも、米国の強さの秘訣と言えるだろう。

Military Government SummitのテーマはBig Data

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Military Government Summitの風景。国防総省の人間やその納入企業研究者が、実際の防衛例を元にレポートを行う

NABの大きな目玉の一つとして、「Military Government Summit」と呼ばれる、米国国防系全体の技術会議がある。これは、国防総省(DoD)だけでなく、国境警備隊やFBI、アメリカ合衆国国土安全保障省、その周辺納入業者まで巻き込んだ、アメリカ国土と国防に関わる全ての関係者からの参加がある、組織横断的な会議である。

今回のMilitary Government Summitのテーマは「Big Data」。つまり、インターネット上に存在している無数の生データや、国民や外国人に関わる膨大な国家収集データを生かし、構造化も分析もされていない巨大データの中からいかにして有用なデータを抜き取って可視化し、対テロや国防にいかに役立てるか、という事を主題として積極的な議論が行われていた。さすがに、具体的で普遍的なBig Data処理はまだ具体化されなかったが、国防各部署において莫大なデータ処理に対抗する方法を模索する様子がうかがえる、有意義な会議であった。

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dvdisの展示では、若い女性軍曹が、予備役再訓練についての説明をしていた

昨年までであれば、ここで、陸軍やその周辺組織による戦車の展示などもお見せできたのだが、いかんせん今年は不況の影響もあって、コストのかかる戦車の展示はなかった。その代わり、戦地での情報通信展示として陸軍系組織がブースを出していたので、そこをご紹介したい。

目立った展示があったのは「dvdis(Defence Video & Imagery Distribution System)」で、ここでは、予備役再訓練や戦地からの連絡システムとして、衛星通信の利用や、映像での予備役定期訓練などを展示発表していた。また、報道機関への映像提供もこのシステムによるものが多く、ニュース映像などの展示も行われていた。いわば、現代版の従軍記者や撮影部隊といえるものだ。

こうした側面があるのも、日本の映像展示には無い、NABの興味深いところだろう。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。