[アナログとデジタルの狭間に]Vol.01 PCというブラックボックスが会得すべき技術を隠す
2009-01-09 掲載
このコラムでは、デジタル化やコンピュータ化によって、絶滅危惧種となってしまうかもしれないアナログ時代のさまざまな事例を通じて、教育関連の最新動向を探って行くことにしよう。初回である今回は、コンピュータ化が便利さと引き換えにもたらしたものを考えてみた。
10万円で手に入れた「無限の可能性」
| IBMメインフレームコンピュータ(上)と、DEC(現HP)のスーパーミニコンピュータ(下)。1980年代当時は、これでもかなりコンパクトになった印象だった。 |
1970年代に、マイクロコンピュータのキットがアマチュア向けに出回り始めた頃、そのボードの宣伝文句には「無限の可能性」という言葉が付けられていた。50cm角位のミドリ色の板1枚に、10万円程度という決して安くない価格が付いていたにもかかわらず、それだけでは何もできないそのキットが、本当に無限の可能性を持っているなんて、その時に誰が思っただろうか? 多分、このコピーを考えた宣伝担当者でさえ思っていなかったに違いない。
1980年代前後に社会に出た筆者達よりも前の世代で、「コンピュータ」と言えば、少なくとも50m2以上で空調がガンガンきいた専用の部屋があり、その中に鎮座した素人には手が触れられない特別な物だった。そんな特別な代物が、決して安くはないが、素人でも手が届きそうな10万円という値段で売り出された。「自分専用のコンピュータが手に入る」というだけで購入した物好きは少なくなかったのである。思い返せば、当時はパーソナルコンピュータの省略形であるパソコンやPCという呼び名は、まだ存在していなかった。
小学生の頃から、片道2時間かけて自転車で秋葉原に通った電子工作オタクの筆者も、そんな物好きの1人だ。当時は1mmよりも狭いプリント基板にハンダ付けを行う事も全く苦ではなかったので(今ではもう視力に自信が持てないのでできるかどうか......)、マイクロコンピュータのキットはとても良いオモチャとなった。大学卒業後、筆者が最初の就職先としてプログラマーを選んだのも、このマイクロコンピュータのキットの影響が大きかったと思う。
技術をブラックボックス化したコンピュータ
時は流れて、筆者は2000年から大学でCGの教育に携わっているが、すでに我々の周りはコンピュータに満ち溢れている。CGもコンピュータ無しでは作れないが、自動車だって、炊飯器だって、携帯電話だって、コンピュータチップが入っていない機種を探し出すのは難しくなってしまった。当然、入学してくる学生も、生まれた時からコンピュータに囲まれて育った世代である。しかし、ちょっと思い出して欲しい。こういう状態になったのは、実はごく最近の話なのである。
ストアード・プログラム方式によるデジタル回路。これが、我々を取り巻いているコンピュータの別名である。これらのマシンがどうして短期間に我々の生活を変化させてしまったのか? その答えは変化(進化?)のスピードにある。
人間が生活で使用する電気を利用した道具は、回路と呼ばれる仕組みでいろいろな素子を接続して、ある機能を持ったマシンを形作ってきた。他の機能を持ったマシンが必要になったら、そのマシンに必要な回路を新たに設計して、製造しなくてはならなかった。これには多くの時間を必要とする。したがって新しいマシンを次々に作り上げ、生活を進歩・社会を進化させるためには、長い時間が必要だったのである。
しかし、コンピュータの登場によって状況は一変した。コンピュータも回路と素子で構成されているという点においては、それまでの電気を利用した他の道具と同じマシンではある。しかし、コンピュータには、ソフトウエアという付加価値が付いている。コンピュータを用いたマシンは、同じ回路と同じ素子で構成している道具を、ソフトウエアを入れ替える事によって、全く別の目的を持った道具に作り変えてしまう事ができるのだ。それまでだったら、ハンダコテを使って素子をつなぎ変え、もしくは多くのスイッチ切り替えて、新しい回路を構成しなくてはならなかったのが、新しいソフトウエアを記憶素子にLOADするだけでこの作業が終わってしまう。こういった、これまでにないスピード感が社会の進化を推し進めた要因の1つであることは、もはや疑いのない事実である。
さらにコンピュータ+ソフトウエアがこれまでの回路や素子と違うところは、仕組み、方法、ノウハウといった形の見えない手順をも、どんどんその中に取り込む事ができる点だ。今まで、何十年も費やして伝承してきた独特な手法が、コンピュータのソフトウエアの中に組み込まれることによって、誰でも取り扱える一般的な作業となってしまうのだ。この便利さによって、コンピュータは我々の生活の中に広く取り入れられて来たのである。しかしこの便利さは、時には我々にとって、大いなる敵となって立ちはだかる。まだコンピュータがなかった頃ならば当たり前の作業が、コンピュータによって自動化され、ブラックボックス化されることにより、本来会得しなければいけないものが必要のないもののように取り扱われてしまうのである。
こういった事例は、教育の現場にも多く見る事ができる。次回から、アナログを知らない教育現場でのデジタルリテラシーに話を移していこう。
今間俊博(尚美学園大学 教授)
[ Writer : 今間俊博 ]
[ DATE : 2009-01-09 ]
[ TAG : アナログとデジタルの狭間に ]
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今間俊博
尚美学園大学 芸術情報学部 情報表現学科 教授。東海大学工学部通信工学科卒業後、日本初のCGプロダクション「JCGL」の立ち上げに参画。1982年に日本初のCGによるセルアニメ制作に携わる。その後IMAGICAでは、インターネット事業 NOMADの立ち上げに参画した。技術畑にありながらART分野への関心も高い。2000年から現職。専門はコンピュータアニメーション。
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