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映画『TAKAMINE アメリカに桜を咲かせた男』

2009年外務省発表の統計では、アメリカに在留する日本人の数は約384,000人。ロサンゼルス(LA)には約67,000人の日本人がいる。その中には就労ビザを取得してハリウッドの映画業界で活躍する日本人も今では多く存在する。映像界にとってもアメリカとの関係は、今や切り離せない関係になっている。

4月に公開される映画「TAKAMINE アメリカに桜を咲かせた男」の主人公、高峰譲吉は明治時代に化学者として功績を残し、また日米親善特使として日本とアメリカの架け橋となった人物だ。この作品は”無冠の大使”と呼ばれる彼の知られざる側面をドラマ化したものだが、この作品自体もまた、日米の新たな架け橋となるような、新世代の制作スタイルによって作られた。

総勢200人を超える日米のスタッフキャストが結集

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「今後も日米コラボ映画を考えていきたい」と語る市川徹監督(右)

本作の市川徹監督は、これまでも幕末から明治にかけての偉人たちの姿を映像作品化してきた映画監督だ。2010年3月に公開された監督の前作「さくら、さくら~サムライ化学者高峰譲吉の生涯~」は、同じくこの高峰譲吉博士の化学者としての生き様を描いた作品。公開当初、高峰の故郷である北陸地区のみで公開し、5週間で2万5千人の観客動員を超え、当初地方のみ公開の単館上映作品としては異例のヒット作となった。この作品で改めて高峰譲吉の偉業が周知され、その後4月には米LAと首都ワシントンD.C.で上映。特に毎年「桜まつり」が開催されているワシントンD.C.では、全米さくら祭のダイアナ・メビュー会長より「高峰博士は米国でも広く知られるべき存在。」との賛辞など好評価を受け、5月に本作「TAKAMINE」の企画がスタート。この「TAKAMINE」では「さくら、さくら」の続編として、化学者としてよりも米国親善特使として多くの功績を残した博士の、民間外交の様を描いた内容となっている。

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市川監督(左)と詳細を打ち合わせするDPのサム・ケイジ・ヤノ氏(右)

そして今回は日本とアメリカで撮影ロケを敢行、制作スタッフも日米のコラボレーションというカタチで、日本式の映画制作ながら、ハリウッド式のプロダクションフローをミックスさせた、新たな手法によるワークフローで作られた作品でもある。市川監督ほかの主要スタッフでは、日系アメリカ人のサム・ケイジ・ヤノ氏がDP(撮影監督)に立ち、撮影には日本の映画カメラマンである倉田良太氏が担当。

また編集はリドリー・スコット監督作品などで知られるハリウッドで活躍するエディター横山智佐子氏、そしてカラーグレーディングの要となるDI(デジタルインターミディエイト)作業とフィルムレコーディングには、今現在、最も数多くのハリウッドのビッグタイトルを手がける名門、EFILM(イーフィルム)社がその全てを担当、同社が全編DIを手がけた初の日本映画作品となった。またサウンド面でもSupervising Sound Editorとして長年ハリウッドで活躍している日本人クリエイター石川孝子氏が担当するなど、総勢200名を超える日米スタッフが結集した作品となった。

基本的には低予算かつインディペンデント(メジャー配給ではない!)で作られた作品でありながら、これら一流のハリウッドシステム・ワークフローを織り交ぜる事に成功している。そのコーディネートには、ハリウッドの各種プロダクションフローをコーディネートするサービス会社、スタジオレヴォと、同社代表の嵜野準也氏がプロデュースを担当した。

RED MXセンサーによる撮影とEFILMでのフルDI

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MYSTERIUM-X(TM)センサー搭載のRED ONEが使用された

「TAKAMINE」の撮影には最新のMXセンサー搭載のRED ONEカメラが使用され、すべて4Kで撮影されている。シネプライムレンズなどは使わず、ほとんどすべてがコンタックスツァイスやキヤノンEFなどのスチル用レンズセットで撮影された。ロケ地は日本では金沢を中心とした北陸各地と横浜などで行われ、米国ではLA近郊でのロケとなった。LAロケはたった10日間だったようだが、日本の俳優の、TVドラマで慣れている早いサイクルの収録スタイルに、ハリウッドスタッフも驚嘆していたという。この日本式の無駄の無い制作スケジュールには非常に好感を持たれたようだ。

このような低予算ながら丁寧に作られた本作の特筆すべき点はRED撮影された素材の良さだ。EFILMのスタッフによれば、丁度となりのスタジオでDI作業を行っていたハリウッド大作の素材と比べても、同じRED素材ではこちらの方が美しいと高好評を得た。これをきっかけとして最終的に本作は全編を通じてDIをEFILMで行うことになったという。

市川監督は「アメリカでの撮影でスタッフ移動も日本からはキースタッフ(監督、カメラマン、メイク、衣装)数名のみで済んだ事によりコストダウンもできた。さらにアメリカのスタッフを信頼して少人数の移動で制作できたことで、最高のクオリティーを手にいれることが出来た」という。監督は日本にいる間でもネット経由で詳細を指示し、主要スタッフ不在でもハリウッドでポスト作業を行うことが出来たという。ソーシャルメディアなどのインターネット技術の活用と、ハリウッドに根付いた日本人フィルムメーカーたちの人的ネットワークが浸透したことで、邦画界にもこれからは新たなスキームが見いだせる。そんな予感を感じさせる。

高峰博士の尽力で日本から桜の苗木が海を渡った1912年からちょうど100周年を迎える今、映画/映像制作の世界でもまた新たな”桜”が萌芽し、開花の時期を迎えつつあるようだ。

「TAKAMINE アメリカに桜を咲かせた男」
監督・エグゼクティブプロデューサー:市川徹
出演:長谷川初範、篠田三郎、渡辺裕之、田中美里、川久保拓司 他

公開情報
4月9日〜 富山県、金沢県内のすべてのシネコンで公開予定
5月28日~ 有楽町スバル座 ほか

前作『さくらさくら』(P2HDにて撮影)
公開情報
東京:『銀座シネパトス』3月5日~4月1日
山形:『MOVIE ON やまがた』4月
北海道:『ディノスシネマズ札幌劇場』4月
京都:『MOVIX京都』5月
大阪:『なんばパークスシネマ』5月
福岡:『ソラリアシネマ』6月
愛知:『ゴールド劇場』6月
岐阜:『大垣コロナシネマワールド』近日上映
福井:『福井コロナシネマワールド』近日上映

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。