今年のSIGGRAPHの会場となるアナハイム・コンベンション・センター(SIGGRAPH2013にて筆者撮影)
取材/文:鍋 潤太郎

はじめに

夏と言えばSIGGRAPH、SIGGRAPHと言えば夏。多くのVFX屋&CG屋のみなさんはこれに異論はあるまい。今年のSIGGRAPH2016はロサンゼルス近郊のアナハイム市にて、7月24~28日の5日間に渡って開催予定である。そこで今回はSIGGRAPH直前という事もあり、今年の見どころを「さっくり」と紹介してみようと思う。滞在中のスケジュールを立てる際にご参考頂ければと思う。

※紹介されている内容は6月末時点での情報です。開催情報が予告なく変更される事も予想されます。最新情報は、SIGGRAPH公式サイトや最新のアドバンス・プログラムをご参照ください。

SIGGRAPHとは何ぞや?

その前に、「SIGGRAPH(シーグラフ)」をご存知ない方の為に、SIGGRAPHとは何か?を簡単にご紹介しておこう。SIGGRAPHとは、毎年夏にアメリカで開催される、コンピュータ・グラフィックス分野の世界最大級の国際コンベンションである。正確には国際学会および展示会なのだが、連日映像作品の上映やVFXメイキング講演、ユーザー・イベント、パーティ等が開催される事もあり、その楽しさや華やかさから「祭典」的な存在としても知られている。

国際学会の性質にふさわしく、大学の研究者や、ハリウッドのVFX現場で開発された最新技術の論文発表も行われ、ここで公開された論文が、最新ハリウッド映画の技術に応用される事例も少なくない。アメリカのCG・VFX界では「情報共有」の考え方が浸透しており、こういった最新技術を惜しげもなく公開し、みんなで使っていこうという姿勢が見られる。その姿勢はオープンソース等に代表される情報共有や業界標準化にも通じるものがある。

SIGGRAPHの歴史は古く、第1回は1974年にコロラド州の都市ボルダーで、参加者わずか600人で開催された。参加者数及び出展社数のピークは1997年のロサンゼルス開催で、参加者48,700人に出展社数539。それからは徐々に規模が小さくなり、ここ数年は参加者15,000人前後、出展社数160前後を推移しているようだ。そんな訳で、ここしばらくの規模は最盛期と比べると3分の1程度に縮小してしまっているものの、それでもCGの最先端技術の論文発表や、VFX作品のメイキング講演、エレクトリック・シアターに代表される映像作品の上映など、まだまだ魅力は満載である。

SIGGRAPHは、毎年開催地を変えて実施され、過去にはボストン、シカゴ、フロリダ、ダラス、そしてラスベガス等の全米各都市で開催された事もあった。しかし近年は規模縮小の影響もあってか、CG&VFXが盛んなロサンゼルス近郊やカナダのバンクーバー等で開催される事が多い。インターネットの普及により、海外の映像作品や映画のメイキング映像などが気軽に見られる時代になったが、著作権の関係等からオンラインでは公開されない「SIGGRAPHに行かないと見れない門外不出映像」が拝めたり、SIGGRAPHの場で憧れの著名人に出会えたり、実際にVFXを制作した著名VFXスタジオのスーパーバイザー等によるメイキング講演が生で聴講出来るのは、やっぱり貴重だ。

LAXからアナハイムへの移動は

LAX(ロサンゼルス国際空港)からアナハイムまでは、約33マイル(53km)程の距離があり、車で40分から1時間程である。空港からの移動にはレンタカーを借りたり、シャトル・バスなどを利用するのが一般的だ。詳細はこちら

上記の公式サイトによれば「スーパーシャトル」を利用すると、SIGGRAPH参加者向けのディスカウントが利用出来るという。ディスカウント・コードは「PK7AU」。相乗りだが、宿泊先のホテルまで連れて行ってもらえる。詳細はこちら。それ以外にも、ディズニーランド方面行きのバスを利用したり、アメリカを旅慣れている方は流行りのUberを使う方法だってある(ちなみに、UberだとLAXからアナハイムは大体50ドル前後らしい)。

チケット&レジストレーション

チケット&レジストレーション情報はサイトから見る事が出来る。 詳細はコチラ

様々な特典が付く「フル・コンファレンス・プラチナ」チケットは思いの他好評なようで、既にSOLD OUTになっている。最もリーズナブルに視察しようと思えば、展示会だけ(Exhibits Only)に入場出来るチケットは50ドル。視察目的によって様々な種類のチケットがあり、最も高いフル・コンファレンスのチケットは1550ドル。

※学割も用意されているので、学生のみなさんは要チェックである。チケットの購入は事前にオンラインでも可能だが、現地に行ってから窓口で購入する事も出来る。

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来年はダウンタウンLAのコンベンションセンターでの開催が予定されている(SIGGRAPH2012にて筆者撮影)

アドバンス・プログラムを入手しよう

便利な時代になったもので、SIGGRAPH2016のアドバンス・プログラムのPDFが公式サイトから閲覧&ダウンロードが出来る。詳細はコチラ

まずはこれをゲットして全体像を把握しておくと、行動予定が立て易くなる事だろう。内容は定期的に更新されているので、既にダウンロードした方も、出発前に最新のPDFファイルに更新しておくと良いだろう。

チケットの種類によってアクセスに制限がある

チケット(レジストレーションのカテゴリー)は下記の5種類があり、下記のアルファベット記号で表記される。

  • FP:フル・コンファレンス・プラチナ(売り切れ)
  • F:フル・コンファレンス
  • S:セレクト・コンファレンス
  • EP:エキシビット・プラス
  • EO:エキシビット・オンリー

SIGGRAPHにはさまざまなイベントや講演があるが、チケットのカテゴリーによっては入場出来ないものもあるので、注意が必要である。アドバンス・プログラムを見ると、各イベントに入場可能なチケットが、上記アルファベットによって記載されている。例えば、ハリウッド映画のVFXメイキング講演等が見れるProduction Sessionsは、「S(セレクト・コンファレンス)」以上のチケットでないと入場出来ないようになっている。事前にアドバンス・プログラムを確認した上で、購入するチケットを決めると良いだろう。

今年の見どころ

さて、今年で43回目を迎えるSIGGRAPHだが、今年はどんな見どころがあるのだろうか?ひとくちに「見どころ」と言っても、参加される方の専門職種によって着目点が異なると思うが、ここではVFXアーティストの諸兄が興味を持ちそうな分野を、筆者の独断と偏見に基づき、ピックアップしてみた。


■展示会(Exhibition)
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機器展をひと回りするだけで、今年のトレンドが把握出来る(SIGGRAPH2012にて筆者撮影)

会期の火水木の3日間に渡って行われるのが、機器展。これにあわせて月曜にLA到着のスケジュールを組む方も多いようだ。ここでは、さまざまなCG関連のソフト&ハードの最新動向を見る事が出来る。会期中に一回りするだけで、今年のトレンドが把握出来る場でもある。各CGソフトのベンターが構えるブースでは、最新バージョンのデモや、ユーザー事例のプレゼンテーションなども行われる。CGソフトのTシャツやバッチ、関連グッズなどをゲットするのも楽しみの1つだ。特にピクサーがレンダーマンのノベルティとして毎年機器展会場で配布する「歩くティーポット」のグッズは、放出時間になると長蛇の列が出来る人気だ。


■エレクトリック・シアター

SIGGRAPHの数あるイベントの中で、VFX屋にとって絶対に外せないのが、このエレクトリック・シアターである。2013年までは月~水の夜3回と木曜日の午前と、会期中は計4回開催されていたのだが、2014年から2回のみになってしまったのが残念。今年の開催は月曜と水曜のみ。

入場可能なチケット:FP/F
ELECTRONIC THEATER
Monday,25 July,6-8pm
Wednesday,27 July,8-10 pm

会場:Hall B
チケット:40ドル(別売り・但しフルコンファレンスにはチケットが含まれる)

今年は「The Universe of Final Fantasy XV」「TOKYO COSMO」など日本からの作品も入選している。楽しみである。


■バーチャル・リアリティ・ビレッジ

90年代にブームが起こり、最近になって人気が再燃しているVR(バーチャル・リアリティ)。そのVRを一同に集めたイベントである。座って楽しむもの・立って楽しむもの、ヘッドマウントを使うものなど、さまざまなVRが体感出来るエリアである。日曜正午から木曜1時まで、連日開催されるようだ。

VR VILLAGE
入場可能なチケット:FP/F/S/EP/E
会場:公式サイトを参照

VR VILLAGE HOURS
Sunday,24 July Noon-5:30pm
Monday,25 July 10am-5:30pm
Tuesday,26 July 10am-5:30pm
Wednesday,27 July 10am-5:30pm
Thursday,28 July 10am-1pm


■トークス

研究成果やアイデアを披露する「トークス」も、VFX関連の面白いプレゼンテーションが聴講出来る。下記はその一例だが、けっこう盛りだくさんである。

Talks
入場可能なチケット:FP/F
会場:公式サイトを参照

DANCING TREES
Monday,25 July,9-10:30 am

The Trees of“The Jungle Book”
Moving Picture Company

ANGRY EFFECTS SALAD
Monday,25 July,2-3:30pm

Visual Effects of Final Fantasy XV
SQUARE ENIX CO., LTD

Delicious Looking Ice Cream Effects With Non-Simulation
Approaches
Walt Disney Animation Studios

FACE OFF
Monday, 25 July, 3:45-5:35 pm
ILM Facial Performance Capture

“Kung Fu Panda 3”:Mandarin Lip-Sync
Reanimation Process and Pipeline

ICING ON THE CAKE
Tuesday, 26 July,9-10:30am
Flesh, Flab, and Fascia Simulation on “Zootopia”
Walt Disney Animation Studios

A TALL DRINK OF WATER
Tuesday, 26 July,10:45am-12:15pm
Simulating Rivers in
“The Good Dinosaur”
Pixar Animation Studios

PLAYING GOD
Wednesday,27 July,3:45-5:15pm
Constructing the Underwater World of“Finding Dory”
Pixar Animation Studios


■プロダクション・セッション

ここでは、最先端技術をプロダクションに応用したプレゼンテーションが行われ、毎年かなり見応えのあるメイキング講演が聴講でき、まさにVFX屋必見である。下記はその中から面白ろそうなものを抜粋。

Production Sessions
入場可能なチケット:FP/F/S

TUESDAY, 26 JULY
Tuesday, 26 July, 10:45 am-12:15 pm
THE MAKING OF MARVEL’S“CAPTAIN AMERICA:CIVIL WAR”
Marvel Studios
Industrial Light&Magic
Method Studios

THE VFX OF DISNEY’S“THE JUNGLE BOOK”
Tuesday,26July,3:45-5:15pm
Moving Picture Company
Weta Digital

UNDER THE SEA – THE MAKING OF“FINDING DORY”
Wednesday, 27 July,10:45am-12:15pm
Pixar Animation Studio

“DEADPOOL”+COLOSSUS OUR FAVORITE(ANTI)SUPERHEROES
Wednesday,27 July,3:45-5:15pm
Digital Domain
Blur Studios

FROM ARMADILLO TO ZEBRA:CREATING THE DIVERSE CHARACTERS AND WORLD OF“ZOOTOPIA”
Thursday,28July,10:45am-12:15pm
Walt Disney Animation Studios

INDUSTRIAL LIGHT&MAGIC PRESENTS THE VISUAL EFFECTS OF“STAR WARS:THE FORCE AWAKENS”
Thursday,28July,3:45-5:15pm
Industrial Light&Magic

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SIGGRAPHストアではTシャツやマグカップ等が購入出来る。過去の売れ残りTシャツも販売されている。筆者はここで、当時行けなかったニューオリンズ開催時のTシャツを購入した(SIGGRAPH2012にて筆者撮影)

ジョブ・フェア

JOB FAIR
入場可能なチケット:FP/F/S/EP/EO/E
会場:機器展会場内

JOB FAIR HOURS
Tuesday, 26 July 9:30 am-6 pm
Wednesday, 27 July 9:30 am-6 pm
Thursday, 28 July 9:30 am-3:30 pm

SIGGRAPHでの就活やリサーチを予定しておられる方は、是非こちらへ。 リクルーターやスーパーバイザーとコネクションを作れるチャンスの場でもある。事前に書籍「ハリウッドVFX業界就職の手引き」を読んで海外就活の予習しておく事をお忘れずに!

ランチ情報

…余談であるが、アナハイム・コンベンションセンターでのランチは、なかなか不便である。会場内にあるデリは美味しくないし、コンベンション・センターに横付けしているフード・トラックは長蛇の列である。そんな中、近隣に穴場があるので、読者の皆様にコッソリと極秘情報を。

コンベンションセンターの正面噴水を出て、道路をまっすぐ進んですぐ、徒歩2~3分の右側にClarion Hotel Anaheimというホテルがあるが、ここの1Fのロビー左側にあるレストランはオススメである。そこそこ空いていて、値段もお手頃で、ハンバーガーやサンドイッチなども美味しい。座って落ち着いて食事が出来るし、何より会場の近くなのが嬉しい。ご参考あれ。

ディズニーのテーマパークも行こう

…こちらも余談であるが、SIGGRAPH会場のお隣には、なんとなんと。ディズニーランドとカリフォルニア・アドベンチャーがある。これはもう、行くしかないだろう。個人的にはカリフォルニア・アドベンチャーの「カーズ・ランド」は超オススメ。ディズニーランドで夜開催される花火も必見である。それでは皆さん、SIGGRAPHで!

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。