我々日本人が中国のコンテンツ市場を考える上で欠かせないのが、ネットコンテンツ市場への参入である。

何しろネットでは国境が低い。中国では国家全体を守るファイアウォール「グレートウォール」があるために国境がないわけではないのだが、それでも、実際の国境や、共産国ならではの映像業界や出版などへの極めて厳しい参入障害に比べれば極端に障害が低いと言えるだろう。ネットコンテンツには、チャット、リッチコンテンツホームページ、映像配信、P2P通信、セットトップボックスなど様々なものが思いつくが、日本人がもっとも参入しやすいネットコンテンツの一つが、ネットゲームではないだろうか。

今回から、そうした中国ネットゲームの実態について紹介していこう。

中国ネットゲーム市場の概要

以前にも述べたが、中国では、ネットゲームが非常に盛んである。

元々は韓国系ゲームの輸入から始まった中国ネットゲームではあるが、現在では中国独自仕様のゲームも増え、そのユーザー数は実に4000万人以上、売上高は200億元(2800億円)以上者巨大産業に成長している。

ただ、4000万人を超えたあたりからユーザ数は既に伸び悩んでいるため、すでに中国においてもネットゲーム市場は円熟した、という見方もある。日本やアメリカ同様、ユーザーの注目はよりお手軽なWebゲームやチャットゲームなどに意向しつつあるのだろう。

もっとも、4000万人以上のネットゲームユーザを抱える市場は他に考えられないため、その重要性には代わりがない。また、隣町に行くにも数時間かかる広大な中国において、遠隔地の同好の士と知り合いになれるネットゲームの価値は大きく、ネットゲームという文化それ自体が無くなることはないだろうと言われている。

中国においては、ネットゲームそのものも、日米韓のものとは異なっている点にも注意が必要である。まず、ゲームのテクニカル面でも大きな違いがある。2D表現中心であり、日米間で主流の3Dゲームエンジンを使用しているわけではないのである。

これは、特に内陸部においてはまだPC性能が低く、3Dエンジンを動かすだけの性能がないというほか、文化的に平面画への馴染みが強いという側面もあるといわれている。

中国伝来の画法文化の色濃い日本でも、ウルティマオンラインやラグナロクオンラインのような2Dベースのゲームが根強い人気を誇っていることを思うと、この点には納得できる。

日本と中国近くて大きなゲーム感とは?

中国では、カメラですらも独自路線で「愛国者(Aigo)」がブランド。日本製品に勝つ!日本製品を超える!というだけでも商品価値が生まれる

日中でのネットゲームのもっとも大きな違いは、ユーザーが、自分たちの希望や要望を極端に重視するところであろう。

日系企業がことごとく中国ネットゲームで全敗した最大の要因といわれているのだが、なんと、ちょっとした困難や用意されたシナリオ上の障害などで、プレイヤーがそのゲームをあっさり辞めてしまうのである。

普通、ゲームというものは、あえてレベルアップを遅らせたり、倒しにくい敵を用意したり、手に入れにくいアイテムを出したり、難解なストーリーを用意したり、どうしても回避できない悲劇を用意したりする。こうした困難を出すことによって、ユーザーは困難を解決するアプローチを試みることになり、それによってゲームに対するチャレンジ感や達成感を演出し、ユーザーの満足感を出す。つまり、敢えてユーザーにストレスを与えているわけである。  しかし、中国ではこのあたりの事情が全く異なる。そうしたストレスを与えた瞬間に、ユーザーからのクレームが山ほど到来するのだ。つまり、そうした演出上のストレスを「商品の欠点」であると認識する傾向が強いのである。

実は、ストーリーゲームに慣れた日米韓のユーザーと違い、そもそもゲームという文化に触れたことのない中国ではユーザー側にこうしたストレスへの耐性がない。そのため、ネットゲームというものはゲームの一種と言うよりも「そういう遊びの機能が付いた有料サービス商品」であり、他の通常のビジネスソフトなどと同じく、ストレスフリーでのプレイが望まれる傾向が強いのである。

中国においては、ネットゲームは日本で言うところの、かつての「ポストペット」のような実用コミュニケーションツールの一種として認識されているというとわかりやすいだろうか。

そのため、日米韓などで展開されているネットゲームをそのまま翻訳しただけでは、あまりにストレスが多すぎてあっという間にゲームを辞めてしまうのだ。この点も、簡単に国産ゲームを中国語にローカライズして一儲けとはいかない、難しい事情がある。先行する韓国企業が成功しているのも、この点にいち早く注目しているという点が挙げられる。

新技術に展開するネットゲーム市場

上記の事情により、中国におけるネットゲームは、コミュニケーションツールとしての側面が強い。

そうなればJAVAベースでのWebゲームや、エンタメ機能付きのチャットツール、インスタントメッセンジャーなどへの注目が集まるのが自然である。

 実際、QQと呼ばれるインスタントメッセンジャーは、PCを持つ中国人のほとんど全員が利用しており、そのサイトは日本に比類するものがないほどの総合ポータルサイトと化している。QQでは、可愛いマスコットキャラクターが用意され、ユーザーも服の着替えなどを行うことも出来、ちょっとしたネットゲームと呼んでも差し支えがないほどの高機能を誇っている。

遠くに霞む巨大ビル群は、中国内陸部「成都(Chéngdū)」のソフトウェアパークだ。こうした環境でネットゲームは制作されている。建築中なので、実はこれでも他地域のソフトウェアパークよりもかなり規模は小さい

また、ネットワークゲームのプラットフォームとしては、携帯電話の普及も見逃せない。現在中国では、実に6億台もの携帯電話が存在しており、その台数は続々と増え続けている。もっとも、3Gなどのリッチコンテンツ対応機の普及率はまだまだ低いのであるが、台数が台数だけに、その市場規模には期待をせざるを得ない。

このように、中国でのネットコンテンツビジネスでは、とにかく数がすごい。ネットコンテンツに関する筆者の経験で「いやあ、有料にしたら小さいビジネスになって困っているんですよ」というので詳しく話を聞いてみたら、ユーザー数が11万で、毎日3000ユーザーが増え続けているという話を聞いて仰天した記憶がある。少なくとも日本で、そこまでの規模の有料ゲームサイトは少ないし、毎日3000人もユーザーが増えるなどと言う話は聞いたこともない。

また、それに合わせて制作側も多人数であり、数千人規模のクリエイターを抱える企業が普通にゴロゴロ転がっていて、数百人規模の会社は小規模だという有様だ。作り手的視点で見れば、ただ商売に成功すればいいと言うものでもないが、商売的に成功しないことには伝えたいことも伝えられないのもまた事実である。

中国独自のこうした事情を汲みつつ、次回は日本でも展開されたことのあるネットゲームを例に、実例紹介をしてみたい。

WRITER PROFILE

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。