Final Cut Pro Xの特徴のひとつorganization

NAB期間にお披露目されたFCP Xでは、その特徴を表すワードのひとつにorganizationがありました。Mac OS X付属の辞書で引いてみると、「組織化、組織、機構、編成、構成、構造」と出てきます。どれも編集作業にはピンと来ない特徴かもしれないのですが、私がイメージしたorganizationとは「整理」です。編集は読んで時のごとく編んで集める作業ですから、たくさんの素材を集めてくるステップがあります。

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アカデミー編集賞を受賞したことのあるWalter Murchが、コールドマウンテンの編集をどのように進めたかを綴ったBEHIND the SEENでは、彼の編集スタイルの一部を垣間見ることができます。撮影されたカットはストーリーボードになって、ハードプリントされたたくさんのカットとともに編集室に貼ってあります。またカット単位のメタデータはファイルメーカーを使ってデータベース化しています。アシスタントエディターは、映像に対するオーディオデータを事前に当て込む、いわゆる音戻しをするなど実際に編集作業にかかるまでには、私たちの想像以上のプロセスがあることが書かれています。

編集作業は素材が少ない場合では簡単に本編集にかかれますが、ドキュメンタリーなどのような素材が膨大になった場合には前作業がとても重要になり、それに手をかけてじっくりやるかどうかで、結局全体の時間短縮につながることもあるでしょう。FCP Xが掲げたコンセプトのひとつ「編集作業の再構築」は、このorganizationに込められているのではないかと私は考えています。コンテンツを制作する時の編集にかける時間帯は試行錯誤の繰り返しです。進んでは戻り、一足飛びに先に進んだり、またスタートに戻ったり。このエディターの創作意欲を上手に後押しして気持ちよく編集できるアプリケーション、そんな形にFCP Xが進んでくれていることを期待しています。

FCP Xに寄せられた不安や期待感

あまりにも大きく変わり過ぎた新しいFinal Cut Proですが、NAB会場で登場した直後には私自身どのように接すればいいのか考えあぐねていました。そこでyamaq blogの中でみなさんの考えを聞いてみました。ありがたいことに、活発なご意見をいち早く頂き感謝致します。そのコメントを俯瞰すると、期待感半分と手探りな分だけ不安感も半分、そんな印象を持ちました。

私の感じ方で最もピンポイントで同意したご意見は、「この新しいヤツは、とても楽しそう」という受けとめ方でした。正直言ってまだ実機で動いているところを見たことがないので、これまでのAppleと自分の関係から察して、どんなことをこれまでAppleがやってきたかにヒントがあります。きっと自分の考えている編集アプリケーション以外の発想が盛り込まれているのではないか?そう思います。Appleのいいところは、これまでにもこのコラムで紹介してきたように、新しい考え方や見失っていた思想の再定義です。使いながらハッとさせられる設計思想の深さです。その結果、自分の発想と相まって、Apple製品を使うことにより、新しい味が自分の手から生まれるのではないでしょうか。 前回の当コラムで書いたように、編集者は映像をまとめていく段階において、常にこれでいいのだろうかという不安感と戦っています。その不安感に負けるのか、何かが背中を押してくれるのか。それは使っているツールの力が影響してくる部分です。

少しだけネガティブな心配事を上げると、未だにまだAppleから公式にFCP Xについてのアナウンスがないことです。これまでにこのような登場をしたApple製品の記憶が私はありません。ほとんどの場合は、イベントをきっかけにしてセンセーショナルにリリースもしくはリリース時期が公開されます。個人的には一時、FCPは身売りすることも覚悟しなければならないと思っていましたが、Apple内ではまだFCPの立場がそんなに確立していないのではないか?そんな不安を感じるところもまだ少しだけあります。

QuickTimeとの新しい関係

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Macの中で使う映像系アプリケーションの動向を見ると、周回遅れだったFCPがやっと先行集団に追いつく気配が見えてきた、そんな状況ではないでしょうか。すでに64ビット化してCUDAサポートを果たしたAdobe、AMAを活かして他社のコーデックを積極的に取り込もうとする老舗Avid、AutodeskはLinux版を中心にしながらもMac版のSmokeはしっかりと進化させています。さらに、連携がユーザーから切望されているDaVinci Resolveも、早くもバージョン8をFCP Xと同じ時期にリリースしてきます。

視点を足下に戻して見直すと、今年の夏にはMac OS Xの次期バージョンがリリースをひかえています。もしもFCP XでQuickTimeのサポートを、新しいQuickTime Xだけにしていれば?QuickTime7はサポートしない仕様になっていれば?これは完全な憶測ではありますが、完全にQuickTimeの世代交代を図りたいのは確実なはずです。QuickTimeと最も密な関係であるFCP Xがどう向き合うかで、今後のQuickTimeの道筋がはっきりするのではないでしょうか。レガシーなライブラリに縛られていたFCPですから、同じくレガシーなQuickTime7も同様に交代の時期に来ていると考えるのが妥当でしょう。

現在映像制作で使われている主なファイルフォーマットは、MPEG2、MXF、DPX、そしてQuickTimeを抑えていれば、大多数は収められるのではないかと思います。ここに業務用のファイルフォーマットのP2、GFPAK、SRMemoryが加わってワークフローの順列組み合わせが豊富に展開できます。これから先のフォーマットの考え方は、どれが主流を占めるのかというレースではなく、相互の連係プレイです。トランスコードが容易にできることで、フォーマット間の「ご近所付き合い」が密になるべきなのです。

新しいテクノロジーとの連携

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FCP Xが生まれ変わったことにより、映像系ソフトが抱えているレンダリングという避けては通れないハードルに対して、これまで以上にパワフルになることが見えています。まず64ビット化することで、これまで以上にメモリマネージメントが強力になるので、HDDとアプリケーションのデータのやりとりが効率化され、動作の安定性に貢献してくれるはずです。すでにMac OS Xは64ビット化されていて、アプリケーションの動作モードは32/64を選択するのは開発者に任されています。演算が重たい映像系アプリでは64ビット化はこれまで待っていた機能のひとつです。

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FCP7まではMac Proユーザーでもたくさん搭載されているCPUコアを十分に利用できていなかったことに不満があったはずです。CPUメーターでレンダリング中の様子を見ると、どうしてもっと効率的にCPUを活かせないのか?疑問に持ったはずです。FCP Xからはゲージが振り切れるくらいの勢いで、レンダリング時にはCPUを使えるようになっているかもしれません。

CPUはその性能を示すクロック周波数を高めることと、構成単位であるコア数を増やすことで、ムーアの法則を証明してきました。まだこの先に伸びしろはあるとは言え、先行きはそれほど明るくはありません。これに代わるテクノロジーがGPUを利用することです。CPUに比べて伸びしろがあるGPUにもレンダリング処理を負担させることで、総合的に演算処理を高めることができます。NVIDIA社がCUDAを打ち出して強力なレンダリングパワーを生かせることをアピールしていますが、Appleはこれに対してOpenCLに推進している印象です。FCP Xと同時期にメジャーバージョンアップするDaVinci Resolve8では、早くもOpenCLに対応しています。これにより、NVIDIA社以外のグラフィックスハードウエアを使えることになり、システム構成の選択肢が広がります。

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もしかするとちょうどひと月くらい後には、FCP Xがリリースしているかもしれません。年に一度の開発者向けイベントWWDCが6月6日からですから、その直後くらいがリリース時期なのではないかと私は予想しています。うまくいけば次回の当コラムでは速報をお届けできるかもしれません。いよいよ秒読みに入るリリースですが期待が膨らみます。

WRITER PROFILE

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。