姿を消す光学ドライブ

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OS X Lionは、Snow LeopardやLeopardに比べて、外見上のユーザーインターフェースも目に見えて進化しましたが、その導入する際の手順もこれまでにはなく大きく変化しました。インターネット回線からOSのパッケージをダウンロードするという、一般的なオペレーティングシステムでは珍しい手法を取り入れました。この点を憂慮して、まだLionへのアップグレードを躊躇している既存ユーザーも、少なからずいらっしゃるかもしれません。

そんなユーザーに向けた現実的な物理的な対策として、USB版の独立形式のOS X LionもAppleのオンラインストアからの限定で販売されています。これを使うことで、これまでのDVD-ROMからのOSインストールに似た手順で導入することができるでしょう。実際には私もMac ProへのLionインストールでは、ネット経由では正常に完了できないトラブルに見舞われました。多少割高ではありますが、ネット経由のインストールに心配な方はUSB版も検討されるといいです。

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では心配なユーザーに対して、どうして「念のための」DVD-ROM版は用意されなかったのでしょうか。ここにAppleの強い意志を感じます。人間は誰しも変化に対してすべてを受け入れる姿勢もあれば、それまでの状況から未知の世界に進むことをためらう姿勢もあります。Appleはテクノロジーに関しては常に新しいことへ進む選択をしてきました。しかし、やみくもに最新技術を取り入れるのではなく、しっかりと世の中の動向を見てリリースのタイミングを見極めているスタンスが感じられます。

今回のOS配布における光学メディアの不採用は、これまでのAppleの製品に対する哲学から見れば、ブレることなく一貫した姿勢であるように感じます。何かをやめることは、同時にそれに代わる別の仕組みを提示することが求められます。インストーラーをDVD-ROMからネット中心に転換するために、AppleらしいiCloudサービスを準備してきました。一足飛びにクラウドサービスへ突き進むのではなく、OS自体の導入手順からインターネットをベースにする仕組みに移行することで、ユーザーに対してジワジワとインターネットとの関わりを深めてもらうことを進めています。

USBメモリへの移行

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とはいえ、すべてが物理的な目に見えるものではなく、論理的な目に見えない仕組みに代わることは、頭では理解できても体がついてこないのも事実です。そんな理由も含めて、USB版のLionを販売したAppleの対策もあったのでしょう。 光学メディアは、それ以前のフロッピーディスクからの世代交代で、10年以上前からコンピュータをはじめ音楽の配布形態でも採用されてきた歴史あるメディアです。安定した大量製造の仕組みが確立され、CD、DVDからBlu-rayまで一貫したノウハウの蓄積がメーカーにはあります。しかし、re-writableなメディアでなければ再利用できないため、すぐに不要になって身の回りから捨てられることも多くなっています。

業務でコンピュータを使っている時のデータの受け渡しでは、少し前まで使われていたMOディスクに代わって、今ではDVD-Rがスタンダードになっています。すでにMacBook AirやMac miniでは、光学ドライブが搭載されていないMacも出ています。データを簡単に書き込んで、手渡しで他のスタッフに渡したいケースでは、今後USBメモリが光学メディアに代わっていく気配です。私もつい先日、4GBのUSBメモリを600円程度で購入しました。今やUSBメモリは劇的に安価になって、文具並みの価格帯になっています。コンピュータも電気的な文具の側面も持ちますから、USBメモリは文具屋さんで見かけることも増えています。

USBメモリは、たいていFAT32で初期化されて販売されています。Macユーザなら、購入後ディスクユーティリティを使ってMac専用のGUID形式にフォーマット変更することも可能です。しかし、そもそもデータの互換性を高めて受け渡しするのが目的ですので、WindowsやMacintoshで垣根なく使えるFAT32フォーマットにしておくべきです。情報漏洩に厳しい会社でUSBメモリを使う場合には、ディスクユーティリティでデータ0の書き込みもできるため、ユーザーの目に見えないところに残っているデータは、この方法で念入りに削除することも可能です。

Macユーザーに縁が薄いBlu-ray

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もうすでに完全に諦めているMacユーザーが大半なBlu-rayドライブですが、今後の新しいMacには光学ドライブが搭載されない気配が濃厚なため、MacとBDは縁がなかったとの判断が決定的になりました。映像コンテンツがDVDからさらに高品位になるためには、Blu-rayは必要だったことは私も認めますが、果たしてその方法がこの先も含めて最善の方法でしょうか。Appleはその点では、Blu-rayに対して採用しないという選択をしたのです。

しかし、実はBlu-rayのデータフォーマットに限定して、これまでのMac OS Xでも対応はしていたのです。Macに対応したBDドライブもいくつか製品化されていて、私も一台所有しています。BD-Rへの書き込みは、Finderやディスクユーティリティでも可能な場合もあります。DVD-Rでは容量が足りないときには、BD-Rは魅力的に映るかもしれません。今後BDドライブさえあれば、データなのであればコンピュータに接続すれば読み取りできるため、アーカイブメディアとしてはこの先5年程度は安定した使い方ができるかもしれません。

AppleがBDをMacに採用しなかった代替え案として、Apple TVを製品化しました。映像コンテンツはインターネットからダウンロード後Apple TV内に一時的に保存して、一定期間は何度でも観ることができるスタイル。メディアがかさばって置き場に困ることもないこのようなインターネットを使ったサービスが、今後映像業界のスタンダーになる得るか。コンテンツホルダーは、Appleや他のサービスの動向を伺っていることは間違いありません。BDという世の中に出回っているものをApple独自のポリシーで採用しないことで、その代替え案が必要になりますが、ここでもApple TVというAppleらしい代替え案で訴求しようとしています。

Mac Proには光学ドライブは付くか

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すでに前回の機種変更から1年以上も経過したMac Pro。この夏にリプレイスが行われるのではないかと一部で噂になっていましたが、未だにその気配が私には感じられません。前回の2010年モデルが登場した頃は、従来の路線の延長でデスクトップタイプの「Macの中のMac」といえる代表選手がMac Proである、そんなイメージがまだ多く持たれていました。そこから約1年が経過して、iPadをきっかけにしたタブレットPCの流行、MacBook Airが一般大衆層にも急激に普及している動向、携帯電話からスマートフォンへの移行でデバイスのコンパクト化が進む気配、こんなことがこの1年で加速しました。

MacBook Air、Mac miniでは、すでに光学ドライブが搭載されていません。この先リリースされるMacでは、間違いなくこの方向性はブレることがないと思います。Appleとは、最新のテクノロジーを的確なタイミングで採用して製品化する集団です。プロが多く使うMac Proで、光学ドライブを排除するタイミングは今なのか?コンシューマーが中心の先行する2つのMacカテゴリでは、光学ドライブの不採用は概ね前向きな評価だったと思います。日々のルーチンワークでMac Proを使っているユーザーは、光学メディアについては別の考え方を持っているでしょう。

Appleは何か一つを排除すると、それに代わる何かを打ち出す姿勢をこれまで続けてきました。Mac Proから光学ドライブを排除するのなら、それに代わるものは何になるのでしょう?誰しもその答えは頭の中では理解しています。体でもそれが理解できるところまで、Macユーザーは成熟してきているのでしょうか。iCloudは秋にリリースされると、すでにAppleは発表しています。今年の秋も実りの多い季節になる気配を私は感じています。

WRITER PROFILE

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。