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[鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線]Vol.56 ハリウッドの大手アニメーション・スタジオで働く、中国出身のアーティストに聞く

#鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線

2015-04-17 掲載

取材:鍋 潤太郎

人種の坩堝で働く人々

ここロサンゼルスは「アジアの玄関口」と呼ばれている事もあり、ハリウッドのVFX業界&アニメーション業界では日本人を含む、数多くのアジア系の人材が活躍している。筆者がこれまでハリウッド映画のVFX作業でご一緒させて頂いたアジア系クルーの皆さんを振り返ってみると、韓国、中国、台湾、タイ、ベトナム、マレーシア等など…実にさまざまな国のご出身で、非常に優秀な方ばかりであった。

さて今回は、筆者の友人であり、中国出身のエフェクト・アーティストのリー・トング氏に、中国のVFX業界とハリウッドの違いなどについてお話を伺ってみる事にしよう。

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リー・トング(Le Tong)
中国出身。沈阳航空航天大学にてコンピューター・サイエンスを専攻、2007年に卒業。アメリカのドレクセル大学院へ留学しデジタル・メディアを専攻。2010年に卒業後、サイド・エフェクツ社にてインターンを務め、その後ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスやリズム&ヒューズ等の著名VFXスタジオにて勤務。現在は、ハリウッドの大手アニメーション・スタジオにて、エフェクト・アニメーターとして活躍中。主な参加作品は、「ベイマックス」「ライフ・オブ・パイ」「アメージング・スパイダーマン」等。

――自己紹介をお願いします。

リー・トング氏:リー・トングです。ハリウッドの制作現場では、「ジョイス」という愛称で呼ばれています。私はアメリカに留学して大学を卒業した直後に、ここロサンゼルスでVFX業界でのキャリアをスタートさせました。そして幸運にも、アカデミー賞、英国アカデミー賞、VES等を受賞した数々の映画作品のVFXにエフェクト・アーティストとして参加する事が出来ました。エフェクト・アーティストとして仕事をする時、エフェクト・チームの中で女性が1人か2人しかいないという場合が多く「紅一点のエフェクト・アーティスト」として注目を浴びる事もあります(笑)。

私はコンピューター・サイエンスとデジタル・メディアの学位を持っていますので、それを活かして卒業後はHoudiniでお馴染み、サイド・エフェクツ社でのインターンのポジションを獲得しました。ハリウッドでは、「サイド・エフェクツでのインターンは業界への登竜門」として知られ、そのお蔭で私はソニー・ピクチャーズ・イメージワークス、リズム&ヒューズ、そしてウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ等でエフェクト・アーティスト、そしてエフェクト・テクニカルディレクターとして仕事をしてきました。

――中国から、米国の大学に留学された大きな理由は何ですか?また、留学中にはどのような事を学ばれましたか?

リー・トング氏:これは、「もし英語を学びたいのであれば、英語が使える環境に身を置いて勉強するのがベスト」という例えに似ているかもしれません。私の場合、「もしVFX分野を本気で学びたいのであれば、アメリカに来て、最先端の技術や優れた人材と接するのが最良」だと考えたのです。

アメリカに留学してみて痛感した事は、自分自身で積極的に学ぶ姿勢を身に着ける事の大切さでした。如何にリサーチを行い、問題解決に結びつけるか。こうして学んで気がついた事は、VFXアーティストとは「アニメーション・ソフトウェアを駆使し、時として数学や物理の知識が必要なタスクに取り組み、ある意味グラフィック・エンジニアでもある」という事でした。

――中国のCG / VFX業界の歴史を教えてください。

リー・トング氏:中国で本格的にCG業界がスタートしたのは90年代中盤で、そのマーケットはどちらかと言えばエンターテインメント系よりも、建築分野のビジュアライゼーションが主でした。2008年の北京オリンピックでのオープニング・セレモニーは、コンサートやコマーシャルでCGが使用されるニーズを増やす大きなステップとなり、翌2009年には中国のCG業界全体の売り上げは20~50%増加しました。

しかしながら、中国のCG業界はアメリカ、イギリス、韓国、そして日本と比較しますと出遅れており、CGを使用したテレビドラマや、テレビ・コマーシャルの数もまだまだ少ないと言えるでしょう。中国の映画スタジオは、そのポストプロダクション作業の多くを韓国やシンガポール、そして時には日本やアメリカ等の国外に発注する傾向があります。

また、中国のCG業界が持つ共通の問題点として、CGアーティストを志す人材への教育環境がごく最近まで不十分だった事、業界内に優れた人材が不足していた事などが挙げられると思います。

NABA_vol56_Beijin 北京には、著名なVFXスタジオがオフィスを構える(画像提供:リー・トング氏)
――中国には、著名なVFXスタジオやアニメーション・スタジオが存在しますか?

リー・トング氏:数は少ないですが、4~5社が存在します。その多くは北京や香港にあります。

  • The Crystal CG:2008年の北京オリンピックで、オープニングセレモニーを手掛けた(北京)。
  • BaseFX:ILMとパートナーシップを持つ事で知られる(北京)。
    ※この詳細は、「海外VFX業界動向BLUEBOOK」(Amazon.com)でも紹介しているので、ご興味のある方は参考にしてほしい
  • Oriental Dreamworks:米ドリームワークス・アニメーションとパートナーシップを持つ(上海)。
  • Post Production Office Group:コマーシャルやミュージックビデオ、そして映画のVFXを手掛けている、著名スタジオ(本社は香港。上海や北京にもスタジオを構えている)。

等が代表的なスタジオです。

――中国のVFX業界を取り巻く環境の中、何か話題を呼んでいる出来事等はありますか?
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上海にも複数のVFXスタジオが存在する(画像提供:リー・トング氏)

リー・トング氏:中国のCG業界を取り巻くワールドワイドな動きとして、ハリウッドの大手プロダクション会社が中国のスタジオとパートナーシップを結び、中国国内にスタジオやオフィスをオープンしている事が挙げられます。例えば前述のようにBaseFXはILMと提携してオフィスを開いていますし、他にもドリームワークスが上海スタジオを、Pixmondoも中国国内に複数のスタジオを開いています。

また、近年では多くの大学や教育機関ではCGに関連したクラスや学位を設けるようになりました。また、ゲーム業界の君臨は私達のように80~90年代に生まれた若い世代に対して、CGやゲーム、そしてアニメーションを将来の自分のキャリアとして考える刺激や影響を与えてくれたと言えるでしょう。


――中国のCG/VFX産業と、ハリウッドの最大の違いは何でしょうか?

リー・トング氏:ビジネスの観点から見ると、最大の違いはやはり、クオリティだと思います。ハリウッドはCG/映画業界をリードしている事もあり、中国のポストプロダクション業界よりも、はるかに高い水準を持っています。

私が知る限り、中国国内のCGアーティストはジェネラリストであるケースが多く、それはつまり、多くの部門の作業を1人で担当しなければならない事を意味しています。一方、ハリウッドのVFX制作現場は、より細分化された分業制でスペシャリストとして仕事をしています。例えば、ハリウッドのエフェクト・アーティストは「エフェクト素材の制作」だけに責任を持ちますが、モデリングやコンポジットに関わる事はありません。そう言った制作体制の違いは大きいと思います。

――ライフスタイルの面でお聞きします。中国とカリフォルニア州の生活の大きな違いは?
NABA_vol56_Le.jpgインタビューに答える、リー・トング氏

リー・トング氏:カリフォルニア州は自然が溢れているので、自然やアウトドア・ライフ等のアクティビティの面では違いが大きいと思います。アメリカの人々は、すべての年齢層を通じてアウトドア・スポーツをしたり、国立公園に行くのが好きです。一方中国では、ほとんどの時間を屋内で友人や家族と過ごしています。

私は、カリフォルニア州での生活をとても満喫しています。ビーチへサーフィンに行き、その同じ日に山へスノーボードに行くことが出来ます。素晴らしい気候や、アウトドア・スポーツは私の大のお気に入りで、他の州へ引っ越したいと思った事はありません。また、カリフォルニア州は非常に国際的な感じがします。人々が世界中から集まり、そのミックス・カルチャーもこの場所を非常に魅力的な場所にしていると思います。


――最近カリフォルニア州のVFX業界は、カナダの補助金制度のあおりを受けて大手VFXスタジオが次々と拠点をバンクーバーへ移すなど、困難な時期にあります。今後、カリフォルニア州のVFX業界に望んでいる事はありますか?

リー・トング氏:私は、VFXプロジェクトが再びカリフォルニア州に戻り、フィルム・メーキングの本拠地として、この場所でハリウッド映画のプロダクションが行われる事を強く望んでいます。そうすれば、カリフォルニア州のVFXスタジオは、彼らの優れた仕事を映画作品に反映させる事が出来る、健康的なビジネス・モデルを持てる事になります。そして、VFX業界に従事するアーティスト達は年に3回も引っ越したり、「次の仕事の為に何処へ行くのか?次はどの会社へ行かなければならないのか?」という心配をする代わりに、1つの会社で安定した生活を送る事が出来るようになるのです。カリフォルニアをこよなく愛する1人として、ロサンゼルスが再びVFX産業のハブとなる事を願っています。

――今日は、どうもありがとうございました。
(2015年3月、ハリウッドにてインタビュー)

WRITER PROFILE

鍋潤太郎 ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。


[ Writer : 鍋潤太郎 ]
[ DATE : 2015-04-17 ]
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