txt:高信行秀 構成:編集

Final Cut Pro Xに迫ったドキュメンタリー映像「Off The Tracks」とは?

2018年6月27日、1本のインディーズ映画がハリウッドで行われた「LACPUG」(Los Angeles Creative Pro User Group)のユーザーミーティングの場で公開された。題名は「Off The Tracks」、Final Cut Pro X(以下:FCPX) に迫ったドキュメンタリー映像だ。監督はブラッドリー・オルセン。彼にとって初の映画作品となる。

監督のブラッドリー・オールセン

映像編集ソフトのことを題材に、そして無名の監督といった特殊な内容と条件にもかかわらず、ファンディングプラットフォーム「Kickstarter」を使って集められた製作資金は2.6万ドルとなった。このことからも多くの人々がこの内容に関心を持っていたことがわかる。

Final Cut Proシリーズの生みの親、ランディー・ウビロス

内容はインタビュー形式で集められた証言を基に構成されており、Premiere/Final Cut Pro 7/FCPXの生みの親であるランディー・ウビロス氏(元アップル)、そしてFCPXのインタフェースデザイナーであったデイブ・サーブ氏(元アップル)、そしてFCPXを囲むコミュニティの人々の証言を集め、FCPXのリリースから現在までを追い、FCPXへの理解とFCPXを取り巻く現在の「複雑」な状況を視聴者に問いかける内容となっている。

インタビューに答えるメンバーもとても豪華だ

さて、先にFCPXの状況を「複雑」と書いた。ここでいう「複雑」な状況というのは、技術的な部分ではなく人々の持つ「感情」と、実際に起きている「実情」においての事柄だ。「Off The Tracks」ではこれをうまく取り上げてストーリーを構成している。

愛されたFinal Cut Pro 7 とその影

ここで書くまでもなくFinal Cut Pro 7(以下:FCP7)は多くのエディターに愛された編集ソフトだった。映画/放送/VPなどの業務用途からホビーユースまで沢山の人に使われ、FCP7から映像の世界に入った人も多く、それ故に思い入れの強い方も多い。

愛される存在は、必ず何らかの「偏り」を生み出す。FCP7の存在に虐げられ良い思いをしなかった人々、逆に深く傾倒してしまった人々などを生み出した。これが、先に書いた「複雑」な「感情」の部分だ。FCPXはリリースされる前からこれらのものと直面しなくてはいけなかった。

FCPXはリリースされる前から批評に晒されていた

そして、その結果は皆さんのご存知の通りである。その影響の一例を「Off The Tracks」の内容から紹介すれば、Final Cut Proに関連したあるパートナーのビジネスの規模は一時、半分に減ったそうだ。風評はインターネットによりバイアスがかかり、より事態を悪化させていった。

「Off The Tracks」ではストーリーの導入の部分でこれらの内容を取り上げており、様々な人々の証言を元に淡々と描かれていく。そこではこの事態がとても奇妙な状況の上で起こっていたことが理解できる。

急激な変化

どのような背景があったにせよ、FCPXへの変化はこれまでのFCP7ユーザーに大きな「痛み」をもたらした。先のパートナーのビジネスへの影響もそうだが、さまざまなユーザーに影響を与えていた。本作では前半の部分でこのことについて触れられている。

FCPXのリリースに伴いFCP7の出荷は停止された(※これは後にウビロス氏の訴えによりジョブズ氏が再出荷を指示することとなる)。FCP7に新しいバージョンが出ないことは、FCP7に特化して構成されたシステムは信用を失い、ユーザーは新しい道を選ばざるをえなくなった。これはユーザーにとってコスト的な痛みも生じさせることとなった。

FCPXのリリースとともにFCP7の出荷が停止することでユーザーに大きな影響を与えた

ちなみに日本においては、良くも悪くも「変化しない」ことで影響を抑えていた。例えば、とあるキー局のある部署では数十台のFCP7の端末をこの春に別のNLEに置き換えたばかりだったりする。それ以外でもPremiereとの併用でFCP7の使用を続けているところも多い。ただし、このような対応に伴う代償はOSやMacの更新が滞ることとなり、最新の環境を前提とした新しいテクノロジーから遅れをとることも少なくない。これも「痛み」と言えるだろう。

ちなみにランディー・ウビロス氏はこの変化に関して、もっと緩やかな変化を望んでいたようで、本当は別にプランがあったのだが、アップルとしてのスタイルとして思うようにはできなかったことが語られている。

Final Cut Pro X ができるまで

ここまでの大きな影響をユーザーに与えることとなったFCPX。ストーリーの中盤にはその開発経緯に関して描かれている。

「なぜスキミングの発想ができたのか?」「マグネティックタイムラインはどういう発想から?」「スティーブ・ジョブズは?」などと、なかなか興味深い部分が多いのだが、その内容は映画をご覧になって楽しんでいただきたい。特に「iMovie Pro」の部分は驚きと納得の部分となるだろう。

スキミングが生まれた経緯などの説明シーン

Final Cut Pro Xの魅力

作品の流れとしては前半までが、FCPXの登場による人々への影響を描いたストーリーで、中盤以降はFCPXの魅力について描かれている。「これだけの痛みの先にあるものは」といった視点だ。

FCPXの魅力は何よりもシンプルさとスピード、そしてマグネティックタイムラインだ。マグネティックタイムラインに関しては本作の中で掘り下げて紹介されている。

マグネティックタイムラインに関しては、否定的な人が多いのは確かだが、これはその理屈を理解できていない方に多く見られる傾向だ。例えば、作中ではマグネティックタイムラインではないタイムラインを「ノンリニア編集にカバーをかけてリニア編集に似せたもの」と言っているシーンがある。マグネティックタイムラインを理解できている方には納得のシーンだろう。

FCPXのインターフェースデザイナーだったデイブ・サーブがコンセプトを説明

劇中ではマグネティックタイムラインについてFCPXのインタフェースデザイナーだったサーブ氏のコンセプト説明を幹に、その他のユーザーの証言を絡めてマグネティックタイムラインの紐解き方が展開される。

その他にも、劇中ではマグネティックタイムラインではない現状のタイムラインの問題点を挙げて比較している。この辺りの「当たり前」だった部分に疑問を持たせる内容は、興味深く見ることができるのではないか。

また、劇中でも言われているが「あまり知られていない」パワフルな機能がある。例えば他のNLEでは見ることができない範囲ベースでのキーワード管理やメタデータをフル活用したスマートコレクション機能、PremiereやDaVinci Resolveでも参考にされたプロキシ機能。これらもFCPXの魅力と言えるだろう。

旧来のタイムラインで起きていた問題点などをあげながら説明

ハリウッドへの挑戦

作品の中ではハリウッド映画「Whiskey Tango Foxtrot」(邦題「アメリカン・レポーター」)でのFCPXの挑戦が描かれている。同作品はいくつかあるFCPXで編集された長編映画の一つだ。

ハリウッド映画へのチャレンジ

FCPXが映画で使われること自体は取り立てて珍しいことではないが(現に「Off The Tracks」もFCPXで製作されている)、98%がAvid社Media Composerが使用されていると言われるハリウッド映画の世界での話でだ。

マイケル・チオーニ氏をはじめとする映画に関わったスタッフ

Light Iron社(Panavision)のマイケル・チオーニ氏などの有力なメンバーがサポートしたこのアクション。その結末は作品でご確認いただきたい。

「今」を考える

本作の終盤では「今」における映像のあり方と、そこに関わるFCPXについて描かれている。例えばYouTubeやSNSなどに対してだ。ご存知の方もいるとは思うが、事実としてFCPXがYouTube…、いわゆるYouTuberにとても人気がある。海外の有名YouTuberが使用している他、日本でもみなさんも聞いたことがあるであろう名前が使用者に出てくる。

FCPXはすでに200万人以上のユーザーを持つ

FCPXがこれまでのビデオ業務ユーザーとの関係が停滞しているのに反して、YouTuberなどの新しい世代のユーザーには大変好評を得ている。実際、FCPXのユーザーは2017年4月の段階で200万人を超えていると発表されている。実はこのような部分が先に書いた「複雑」な「実情」の部分であり、立ち位置が変わると見えている光景が違っているのだ。

賢明な方はご存知だが、YouTubeにあげられる映像のクオリティは日に日に上がっている。映像の内容はもちろんだが、映像技術に至っては、4K/8K、HDR、広色域、VRと最先端のものが「今」利用できる。最新技術を使用しているかは別としてもFCPXはその中で評価を得られているのだ。

印象的な場面がある。アレックス・ゴルナーはこう言い切る。

映画で使われているものと同じものだと言って興味を引くことは10年も前のこと。今はプロに使われているかは関係ない。彼ら(YouTuber)にとって簡単にストーリーを作り出せるからFinal Cut Pro Xが選ばれているんだ。

実はこの内容は先のハリウッド映画へのチャレンジと対比となっている内容だ。そしてこの内容に関してはそれぞれに受け取り方があると思う。みなさんはどう思われるだろうか。

高校でのビジュアルリテラシーの授業の風景

話をYouTubeから戻そう。そしてストーリーは更に進み、コミュニケーションとしての映像のあり方、そしてその際に必要となるビジュアルリテラシー(映像コミュニケーション能力)の話題についても広げて行く。この辺りは普段の業務とは関係のない部分と思われることかもしれないが、映像に関わるものとして一度考えるべきことなのだろう。

そしてストーリーは終わりを迎える。

きっと見方が変わるだろう

この度、PRONEWSにてFCPXに関しての連載の機会をいただいた。本来は技術的な部分を書くべきだろうが、今回は編集の方に無理を言って「Off The Tracks」の紹介を書かせていただいた。

「Off The Tracks」を見ることで、きっとFCPXの見方が変わるだろう。そしてFCPXに関わらず「映像」というメディアが取り巻く環境の変化に色々考えさせられることもあるだろう。そして改めて「なぜFCPXなのか」が理解できるだろう。

この連載では「Off The Tracks」に倣って、できるだけFCPXの見方が変わる(広がる)ような内容を書いていければと考えている。そのきっかけとして第1回目の内容を「Off The Tracks」の紹介とさせていただいた。

私はマニュアルやガイド/テキストの類は数多く書いてはいるが、基本的にこのような表立った記事を書くことに不慣れだ。連載中、お見苦しい部分があるかもしれないがお付き合いいただければと願う。

「Off The Tracks」について

「Off The Tracks」は現在、日本から「VHX.tv」のサイトで購入することができる。購入したものはダウンロードでき、ローカル環境でも再生することができる。VHX.tvはVimeo関連のサイトなどで安心して利用できる。Amazon USでも販売/レンタルされているが字幕に関して不明確なので現段階ではお勧めできない。

VHX.tvでダウンロードできる映像データは英語音声のみだが、日本語字幕データ(.srt)がダウンロードできるのでVLCなどを利用することで字幕表示で視聴することができる。より詳しい「Off The Tracks」の情報やVHX.tvへのリンクは下記サイトから。

WRITER PROFILE

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。