txt:手塚一佳 構成:編集部

ワクワクが止まらない!Leitz-Park

世界最初の携帯型スチルカメラにしていわゆるフルサイズのサイズを決めたカメラメーカー、そして世界最高峰のハイエンドカメラメーカーの一つ、それがライカカメラだ。

頑固にオールドスタイルのレンジファインダーカメラ、マニュアルフォーカスのM型を中心につくっている印象がある同社だが、最近では動画機能にも力を入れ始め、例えば筆者が愛用する「Leica SL」などはDCI4K動画の撮影も可能で、他社製4Kフルサイズカメラ廃版後に移行したユーザーは多い。

特にSLは今話題の「Lマウント」カメラであり、20mmという絶妙なフランジバックと51.6mmという余裕のあるマウント直径は、オールドレンズや広角シネレンズでの運用でもレッドシフトやパープルフリンジを起こしにくいという素晴らしい特徴を持つ。他社製のもっと浅くて小さいミラーレスマウントでの動画撮影に懲りたユーザーに、試しに騙されたと思って、とLeica SLを貸すと、納得してくれることが多い(もちろんその分重くて高額だが、動画撮影では誤差の範囲だろう)。

ライカカメラAG本社社屋正面。世界各国の言葉での「ようこそ」が嬉しい

さて、今回は、Photokina2018の期間中、ヴェッツラー(ウェツラー)にあるライカカメラAG本社「Leitz-Park」を訪問したので、レポートしたい。

単なるライカカメラ本社から、Leitz-Parkへの進化

アウトバーンを降りたところにある案内板にも「Leitz-Park」の文字が。ケルンからはアウトバーンで時速200キロの長時間クルーズを体験できる。本来の自動車の機能はこういうものだというのを体感できたのは大きい

Photokina2018会場のあるケルンから時速200キロでアウトバーンをぶっ飛ばすこと約2時間。Leitz-Parkに到着だ。ヴェッツラーのライカカメラAG本社敷地は、2014年の現社屋開設時からLeitz-Parkを名乗ってはいたが、実際にはライカカメラ本社機能の拡充に重点が置かれていて、正直、今までは本社1階のShop以外には一般客が入る雰囲気ではなかった。

2018年6月拡張部分の俯瞰図。1カメラメーカーとは思えない規模のホテルや美術館、シネレンズ部門、そして時計部門「Ernst Leitz Werkstaetten」の大きさがわかる。ライカ本社の屋上に上がらせて貰って撮影

それが大きく進化したのが今年2018年の6月。一般客受け入れのための付属のホテルと美術館がオープンし、カフェも複数備え、まさに「Park」としての体裁を整えた。さらには同社系列のシネレンズ部門「CW Sonderoptic」が「Ernst Leitz Wetzlar」として新たに名称を変え、同じ敷地内に統合されたのも大きな進歩だ。ライカ好き、カメラ好きなら一度は訪れるべき「Park」として進化したと言えるだろう。

「arcona LIVING ERNST LEITZ HOTEL」はなかなかの規模の3.5つ星ホテルだ。大変に快適でここを起点にヴェッツラーの観光をする人も多い

今年拡充したホテル「arcona LIVING ERNST LEITZ HOTEL」は極めてクリーンでホスピタリティ溢れる施設で、カメラ本社内である事を忘れて滞在そのものを楽しむことが出来る施設となっている。ドイツの中型ホテルには珍しくレストランとカフェを併設しており、そこでの食事も大変に美味しいものであった。さらに、ホテル内にはライカカメラに関わる写真や事物が多数飾られており、カメラファンにはそれだけでも楽しめるものとなっている。メディチ家がデュッセルドルフで始めた「メディチホテル」など、最近流行りの「美術館的ホテル」の1種と言えるだろう。

「arcona LIVING ERNST LEITZ HOTEL」内部。レストランとカフェを備えるほか、ライカカメラに関する美術館的な展示も多数存在している

こちらはホテルとは別にある本社側のカフェ。ケーキがドイツらしからぬ適正サイズ且つ美味で、本当に素晴らしい

こうした全く新しい取り組みを率先して行うのは、新技術を積極的に取り入れ続けてきたライカカメラらしい戦略だ。

参考までに美術館的ホテルの元祖であるデュッセルドルフのメディチホテルがこちら。ドイツを起点として、こうした新しい美術館、博物館的なホテルが生まれているのは面白い。西洋でも名家はイチイの木を植えるらしい

ライカカメラ本社でのレンズ工場見学

本社のツアーは英語でもやってくれる。ありがたい。ちなみにCASINOというのは社員食堂とのこと

せっかくライカカメラ本社に来たのだから、実際にレンズがつくられているところを見て見たいだろう。そのリクエストには、工場見学ツアーで対応している。筆者の場合にはメディア枠での取材だったため多少ツアーから外れた場所も見学した個別案内だったが、それと似たツアーが一般ユーザー向けにも有料で開放されているのが興味深い。ちゃんと英語でのツアーなので、ドイツ語が出来なくても安心だ。

ライカ本社のガラスは全てそのパーツ毎の特注で、環境に気を使ったエコデザインとのこと

ヴェッツラー社屋はガラスの曲面がふんだんに用いられているのが最大の特徴。普通は平面のガラスを曲面に並べるが、すべてその部位毎のオーダーメイドで社屋用につくったガラスとのことだ。更にこのガラスには最先端の耐紫外線防磁防電波加工フィルムが貼られており、確かに建物の外では普通に通じていた携帯電話が工場内ではほぼ通じなかった事に驚いた。

磨き込みの現場。ただひたすらに綺麗な水で磨き込む。最新の機械と熟練の技術の融合だ

ライカのレンズの特徴は、このヴェッツラーの綺麗な水と空気をふんだんに使った超長時間のレンズの磨き込みにある。レンズは磨けば磨くほど品質が上がるが、コストがその分膨大に増えてゆくためある程度の時間で磨き終えるのが普通のメーカーだ。

しかしライカは敢えてコストを無視し、例えば同じドイツ内にある有名他社が4時間磨く小型高性能レンズでも、その3倍の12時間磨き込むという。もちろん管理も最新の技術を常に取り入れ、今ではコンピュータで厳密な管理を常に行っており、品質の違いがこうしたところから現れてくるのがわかる。このあたりの地域は同じレンズ名産地と言うことで筆者に縁のある長野県諏訪市と良く比較されるが、良いレンズには水と空気と根性(長野県ではズクという)が必要なのだ。

円形のインタラクティブ映像による磨き込み工程の解説。こちらは一般ツアーでも見られるので機会があれば見に行って欲しい

また、ライカカメラ本社にも様々な展示があり、かのウルライカのレプリカや、歴代のカメラが見られるのも素晴らしい。ライカカメラで撮られた歴史的な写真も多く展示されていて、正直、カメラファンならここだけでも半日遊んでいられる。

ライカカメラ本社1Fは歴代カメラやライカで撮影された歴史的作品群が展示されている

さらには、受付前の入り口からは、ライカストアに入ることが出来る。このショップは近々美術館側に移転予定とのことだが、ライカのシネレンズを手に取って現物で買えるのはここくらいなものだろう。ストアではオリジナルグッズやアパレルなども取り扱っていて、大勢のファンが真剣な表情でお土産品に悩んでいた。

ライカストアは、ライカの現行機や現行レンズ、グッズを網羅したショップだ

世界広しといえども、500万円以上のシネレンズをガラスケースの向こうから現物で選んで買えるのは珍しい

Ernst Leitz Wetzlarとミュージアム

「CW Sonderoptic」が「Ernst Leitz Wetzlar」に変わって社屋も新しくなった。しかし、シネレンズは長期間使われ、仕様変更も少ないため、中の機械は以前のものを多く使っているという。あくまでもシネレンズの試作と製品版の組み立てに特化した工場で、レンズ磨き自体は隣のライカカメラ本社で行っているという

「CW Sonderoptic」が「Ernst Leitz Wetzlarr」に変わったのは先に書いた通りだが、そちらも見学をさせて貰った。とはいえ、こちらは試作中心のため内部撮影不可であり、中の写真がお伝えできないのが残念だ。工場内では多数のシネレンズが制作されており、中でも、直前のIBCで発表されたばかりで話題の「Leitz cine zoom 25-75 T2.8」の試作が見られたのは幸運だった。

赤い「Leitz」ロゴが目立つ社屋受付。ここしか撮影が許されなかったのが残念!

筆者は「Leica SL」のユーザーであるので、SLとその標準ズーム「VARIO-ELMARIT-SL 24-90 f/2.8-4 ASPH.」を持ち込んでいたのだが、案内をしてくれたエンジニアの人が「今つくっているズームレンズはちょうどそのレンズに近い光学特性なんだよ」と教えてくれたのは非常に大きな収穫だった。

SLの24-90mmのズームレンズは本当に優れた光学特性でありながらズームしながらの動画撮影が困難でプライムレンズ的に使わざるを得ず、多くの動画ユーザーに惜しまれていただけに、それに近い光学特性のシネレンズとなれば本当に価値があると言える。もちろん、両者はマウントもLマウントとPLマウントで大きく異なるし、F値も焦点距離も違うため、決して同じ光学系というわけではないのだろうが、ライカがユーザーの声を真摯に聞いてレンズを用意していることがわかる一幕であった。

ライカミュージアムは看板取り付け工事中だった、「Leitz-Park」はまだまだ発展途上なのだ!

最後に締めとしてご紹介したいのが、今回の目玉の一つ、ライカミュージアムだ。アカデミーを増設してつくられたミュージアムは、写真美術館としてはかなりの規模で、有料にて公開を行っている。

ミュージアム2階では写真の展覧会を行っていた。今回は「Eyes Wide Open ライカ100年の歴史展」をやっていた

今回は「Eyes Wide Open ライカ100年の歴史展(Augen AUF! 100 Jahre Leica Fotografie)」ということで、ライカ誕生から現在に至るまでの、ライカカメラで撮られた歴史的写真を並べていた。その多くが戦争写真や政治的写真だが、そのほぼ全てが有名写真という強烈な展覧会で、ライカが歴史上果たしてきた役割の大きさを思い知ることが出来た。

かの有名な日本敗戦時のNYタイムズスクエアで撮られたアルフレッド・アイゼンスタットの「勝者のキス」や、日本の篠山紀信氏の有名なヌードシリーズなど、意外な写真もライカで撮られていることがわかり、大変勉強になるミュージアムだ。いずれ、こうした展示会にライカカメラで撮られた動画も加わってゆくことになるのではないだろうか?カメラ好き、ライカ好きには天国のような「Leitz-Park」。機会があれば是非とも訪れていただければと思う。

WRITER PROFILE

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。