txt:小寺信良 構成:編集部

業界探検倶楽部、今回はスイッチャーセミナーのお話し。スイッチャー侍が、ついに上海に上陸しました。ローランドV-1HDとV-02HDを題材に、中国のエンドユーザーにスイッチャーの基本を伝授。果たしてうまくいくのか。

上海でのセミナー開催

かつてスイッチャーは、中継車に搭載されるか、スタジオの副調か、ポストプロダクションに常設されるものであり、スイッチャーを扱える人は専門職に限られていた。しかし日本では2011年頃からネット配信がビジネスになり始め、それ以降は専門職ではない人たちがマルチカメラ配信や収録のためにスイッチャーを使い始めているのはご承知の通りである。

日本ではほぼ唯一と言ってもいいスイッチャーのレビューワーである筆者は、こうした専門職ではないスイッチャーユーザーのために、スイッチャーのインストラクターを務めており、新型スイッチャーが出るたびに、セミナーを開催してご好評を頂いている。そんなことから今回はローランドさんに協力して、上海でスイッチャーセミナーを開催する運びとなった。

そもそもの発端は、今年のBIRTV2018に遡る。今年で2回目の取材だったのだが、現地で仲良くなったカメラバッグ屋の社長さんに、「中国で今必要なのはノウハウ!セミナーは絶対受ける!」と熱弁された。確かに撮影周辺機器は潤沢にあるし、編集はすべてソフトウェアになったことで、世界と同じものが使える。しかも中国はお金がある。高い機材も躊躇なく買える。だが、ノウハウが買えないのだという。

つまり、同じ機材を使っても、出来上がるものがかっこ悪いと。これではクライアントはたまらない。高い制作費を払ってPRビデオを作っても、撮影にしても編集にしても、どこか垢抜けないのだ。

BIRTVを歩いていても、来場者は皆若い。平均すると20代後半から35代半ばといったところだろうか。そういう年齢層が、ネットの動画産業に新規参入している。CCTVで30年やってましたとか、そういうベテランが起業したわけでは全然ないのだ。

だから皆、機材を買って見よう見まねで制作している。機材はいいものを使っているから、制作費は高い。いい機材を使っているのだから、仕上がりが悪いはずがない。一体何がいけないのか。そうした開き直りが中国の映像産業にはあるという。

かといって、競争がないわけではない。基本的に中国人は、同業者と競争して勝つのは大好きだ。その一方で、負けたらしょうがないとして、あっさり撤退して別のことをやり始める。これでは、技術もセンスも向上しない。

勉強熱心な中国のユーザー

セミナーの開催場所は、市内黄浦区にある「星光撮影機材城」というところだ。カメラ屋さんばかりが集まっている雑居ビルである。セミナールームの収容人数は20人程度だが、2日間でのべ80名近くが受講に訪れた。初日はディーラーが中心、2日目はエンドユーザー中心である。エンドユーザーのほうが知識がないという想定で、2日目のセミナーはやや易しめの内容とした。

会場となった星光撮影機材城

演目としては、V-1HDとV-02HDを題材に、スイッチャーの役割から入って、トランジションの効果、PinPの効果、オーディオミックス機能、キーの原理、クリップとゲインの考え方と調整方法、といった中身だ。内容的には30分程度だが、逐次通訳を挟むので60分ほどのセミナーである。

初日のセミナーは、途中からわからなくなって寝てしまう人もいた。これは日本でも難しめのセミナーではよく見る風景で、そのあたりは中国も変わらない。だが2日目は通訳さんとの呼吸が合って、テンポよく展開できたため、寝てしまう人はいなかった。

熱気のあるセミナーとなった

キーの動作原理は、感覚的には分かっている人も多いが、具体的な動作を知ると、様々な応用が可能だ。日本のセミナーでは、キーを使ったカラーコレクションや特殊効果のつくり方といったところまで深掘りするのだが、今回は中国のユーザーのレベルがわからないこともあり、動作原理のみに集中した。

セミナーが終わるとハンズオンの時間になるが、そこでは熱心にスイッチャーを触る人が多かった。店舗にはスイッチャーを置いているお店もあるが、ショーケースに入っており、セットアップされた状態で触れるようになっている店はない。日本ではシステムファイブなどのお店で実際に触れるチャンスがあるが、中国のほうがチャンスは少ないだろう。

セミナー修了後のハンズオンで熱心に質問するユーザー

ショップでもスイッチャーは扱うが、触れるようにはなっていない

そういう点では、機材選定の中心となるのは、必然的に同業他社からのクチコミとなる。一つの機材が集中して売れるという背景は、案外そういったところにありそうだ。

中国においてローランドは電子ドラムメーカーとしてはよく知られているものの、映像機器メーカーとしての認知度は低い。今後ローランド(上海)では、同様のセミナーを中国人スタッフの手で定期的に実施していくという。

スイッチャーのような特定市場向けの専用機器を扱う場合、ユーザーとのコミュニケーションが重要になる。中国市場はメーカーが直接エンドユーザーに販売することができず、必ず現地代理店を経由する必要があるが、そうするとどうしてもエンドユーザーの声がメーカーまで届きにくくなる。

その点でも、エンドユーザーが直接情報をギブアンドテイクできるメーカー主催のセミナーは、古い手法ではあるが確実にファンを増やすにはいい方法のように思える。

ロケ地:上海

WRITER PROFILE

小寺信良

18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。映像機器なら家電から放送機器まで、幅広い執筆・評論活動を行う。