txt:林永子 構成:編集部

日本のミュージック・ビデオ(以下:MV)シーンを超近視的に目撃してきた映像ライターの林永子が、その歴史を振り返る。

前回以前(Vol.06~08)は、音楽や映像の視聴・制作環境のプラットフォームが移行する時代背景について、また新しい映像メディアが勃興した2007年ゴールデンエイジについて詳述した。今回は、その動向を踏まえたうえで、延長線上にある2008〜09年あたりのMVの代表作について記してみよう。

2008の音楽チャート

携帯電話の「着うた」ダウンロード(以下:DL)数が、CDシングルの総売上を上回った2007年を経て、2008年も配信サービスが活性化。嵐やKAT-TUN、関ジャニ∞等、ジャニーズ事務所の所属タレントがチャートを席巻する一方で、CDシングルのミリオンヒットは現れず、配信のDL数および記録更新の話題が著しく目立った。

シングル売上4位のGReeeeN「キセキ」(MV Dir:直)は、同年放映のドラマ「ROOKIES」の主題歌として人気を博し、その「着うたフル」は配信開始から29日という当時の最速記録で100万DLを突破。6位の青山テルマ feat.SoulJa「そばにいるね」(MV Dir:菊池久志)は史上初の200万DLを達成し、「日本で最も売れたダウンロード・シングル」としてギネス世界記録認定された。その後「キセキ」が230万DLを突破し、記録を更新した。

配信に押されるシングルと比較して、アルバムの売上は好調。ベストアルバムを含めた3枚がそれぞれミリオンセラーを達成したEXILEは、同年の総売上第1位を獲得。安室奈美恵やB’zのベスト盤もミリオンヒットとなり、アルバムの商品価値と、最新曲を安価かつスピーディに入手できる配信データのそれぞれの良点が比較された。

世界を魅了したUNIQLOCK

同年、ユニバーサル・ミュージックが公式YouTubeチャンネルを開設。その他の大手レコードレーベルも後に続き、それまでインターネット上での公の取り扱いがなかった邦楽MVが高画質で公開される機会が増えていく。同時に、MVの視聴環境がテレビモニターからPCや携帯電話へと移行することとなる。

また、同年代はTwitterとFacebookの日本語版サービスも開始された頃とあり、YouTube等の動画共有メディアやSNSを利用した「バイラルCM」および「バイラルマーケティング」が流行。もっとも、音楽以外のバイラルCMはすでに流行しており、その日本の代表例である「Nike Cosplay」(秋葉原の街を大人数の戦隊「アキバマン」が席巻する)が公開され、国際的な評価を得たのが2006年の出来事である。

とはいえ、既存のメディアの力は依然強く、インターネットを利用した広告は実験的であり、その効力を検証する段階にあった時代。2007年には、UNIQLOの商品キャンペーンサイトにて、時計機能を持つブログパーツ「UNIQLOCK」が登場。「MUSIC×DANCE×CLOCK」をテーマに、商品を着た女性達が時報の音楽(田中知之 Fantastic Plastic Machine)に合わせて踊るシリーズが展開された(Dir:児玉裕一)。

日本の広告やMVには、世界に通じ難い日本語や国内向けマーケティングの壁がつきものだが、「UNIQLOCK」のダンス表現は言語理解を超える。そのワールドワイドなコミュニケーション能力および映像表現が国際的に評価され、2008年にはカンヌ国際広告祭のチタニウム部門とサイバー部門でグランプリを受賞。CLIO賞、One Showのインタラクティブ部門のグランプリも獲得し、世界三大広告祭を総なめにする快挙を成し遂げた。

その面目躍如の活躍と同時期に、インターネット上でMVを扱う環境がようやく整い、YouTubeの再生回数の話題やSNSでの情報拡散を重要視する傾向が現れた。

MVコンテストの事例増加

当時は「UNIQLOCK」同様ブログパーツが流行。最近は聞かなくなったが、木村カエラのMV(2007年「Samantha」(Dir:easeback & shashamin、「Yellow」(Dir:島田大介)、2008年「Jasper」(Dir:中村剛))等がブログパーツとしていち早く配信された事例がある。

木村カエラといえば、2006年にはキットカットとミュージシャンのコラボレーション企画「CDパック」(商品にCDが同梱されている)に参加(他:175R、レミオロメン等)するなど、時節毎の新しい試みに積極的にトライしている。

2008年は高画質動画共有サイト「eyeVio」と月刊「コマーシャル・フォト」「ビデオSALON」の提携による映像クリエイター発掘プロジェクト「eyeVio ミュージックビデオ トライアウト(eMVT)」に楽曲「ファミレド」を提供し、中村剛等とともに審査員も務めた。

2008年は他にも、著作者の意思が反映された著作物の流通を促進する「クリエイティブ・コモンズ」が、国際会議「iCommons Summit」に合わせて「CC MUSIC VIDEO CONTEST 2008 音景」を開催。Cornelius(小山田圭吾)、大沢伸一、坂本龍一が楽曲提供をおこなっている。

そのCorneliusは、2006年リリースのアルバム「SENSUOUS」収録曲を題材としたMVコンテストを2007年に開催。審査員は小山田圭吾と辻川幸一郎。全23作品の応募の中から最優秀賞を勝ちとったのは、Googleマップをいち早く取り入れた演出が評価されたMerceDeath + polo-Really「Remix 2.0」だ。

翌2008年には同「SENSUOUS」収録曲のMVを、5.1chサラウンドミックス仕様で収録したDVD集「SENSURROUND」をリリース。いわゆるプロモーショナルユースではなく、音と映像によるひとつの作品としての独創性に惹き込まれるMVとして、国内外問わず多くの人々を魅了した。

収録作品:「Sensuous」「Fit Song」「Breezin’」「Gum」「Scum」「Omstart」「Beep it」「Like a Rolling Stone」「Music」「Sleep Warm」(Dir:辻川幸一郎)、「Toner」(Dir:高木正勝)、「Wataridori」(Dir:groovisions)

MVを進化させるUKAWANIMATION!

MVを活用した新しい試みが多く登場する中、前2007年に日本初のMV監督名義のMV作品集「Intoxicating Music Clips Of Ukawa Naohiro『Mad Hat Laughs!!!!!』」(Ki/oon Records)発売の快挙を成し遂げた宇川直宏(現在DOMMUNE)が、「MVを進化させる」新プロジェクトを間髪入れずに始動した。

その名も「UKAWANIMATION!」は、エコ・クリティシズム(環境に対する批評眼)によって「人間以外の万物の目線から見た世界を構築する」というテーマに基づき、宇川氏自らが書き下ろしたコンセプト・歌詞をミュージシャンに、またイメージ・絵コンテを映像クリエイターに伝え、楽曲とMVを同時進行で生成していく革新的なプロジェクト。

「UKAWANIMATION!」は、作品のみを差す名称ではなく、関わるクリエイターたちとともに築き上げる新たなミュージックコミュニティおよびユニットの総称でもある。作品リリース前には、突然「FUJI ROCK 08」でライブデビューし、最終日のRED MARQUEEの大トリを務めあげた。

その後、avexから発売されたデビューシングル「惑星のポートレイト 5億万画素」は、作曲に石野卓球を、ボーカルにはなんとショーケンこと萩原健一を迎えた豪華なキャスティングが話題となった。以降も名だたるミュージシャンや人気映像クリエイターが参加し、コンセプチュアルな現代アート作品としてのMVの在り方に注目が寄せられた。

作品例:UKAWANIMATION! feat. 石野卓球 x 萩原健一「惑星のポートレイト 5億万画素」Dir:teevee graphics、UKAWANIMATION! feat. DAZZ Y DJ NOBU「千葉八街のリアルアンダーグラウンド落花生栽培」Dir:1st Ave Machine、UKAWANIMATION! feat. MERZBOW「羽毛に纏わる水滴無限循環」Dir:山口貴史、UKAWANIMATION! feat. JONTE x TOBY「開いた身体は白い列島」Dir:宇川直宏、UKAWANIMATION! feat. HANATARASH「偏西風の次第♯1」Dir:Power Graphixx、UKAWANIMATION! feat. MEG x iLL「秘境の奥の虫歯の記憶/持ち主はユリ・ゲラー」Dir:長添雅嗣、UKAWANIMATION! feat. 田中フミヤ「57杯目のブラッディー・メアリー」Dir:宇川直宏等

2008年10月には11作品を収録したアルバム「ZOUNDTRACK」(CD+特典DVD)をリリース。同DVDは「SPACE SHOWER Music Video Awards 09」で特別賞受賞、「MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2009」では最優秀ダンスビデオ賞にノミネートされ、高い評価を得た。

2009年にはLIQUIDROOMにてワンマンライブを開催。その後、UKAWANIMATION!から派生したマルチメディアコスプレユニットXXX RESIDENTS名義でSonarSound Tokyo等を筆頭に、積極的にライブパフォーマンスを展開し続けている。

新たなコラボレーションの試み

MVは音楽(Audio)と映像(Visual)のコラボレーションであり、他にもダンスや衣装といった様々な要素との複合コラボによって構成されるメディアである。そこに、UNIQLOCKの時計のように新たなテーマを導入し、目新しい表現を提供する時例も当時は多数散見された。

インディペンデントな例としては、前回も紹介した「テクノと民謡とモーション・グラフィックス」の融合実験をおこなっているOMODAKAによる、競艇をテーマとしたアルバム「FAVORITE GAMES」。収録曲の「KYOTEIZINC」MVでは、初めて本格的な実写撮影を導入し、コンテンポラリー・ダンサー康本雅子による迫力のダンスをフィーチャーした。演出は、当時P.I.C.S.の新鋭であり、現在も人気監督として活躍している木津裕史だ。

そのP.I.C.S. は同年、クリエイティブ・ディレクター寺井弘典と電通のプロデュースにより、農林水産省が食料自給率向上を促すための映像コンテンツ「食料の未来を確かなものにするために」を公開。groovisionsが手掛けたHALFBY「Rodeo Machine」(2005年)のMVシリーズを踏襲し、そのポップかつユーモラスなアニメーションの世界観とのコラボによって国民の興味を引きつけた。

海外のホームドラマのような設定に、センスあふれるナンセンスな日本語訳をつけた演出が人気を博したSAKEROCK「ホニャララ」MVには、山田一郎という見慣れない監督クレジットが。実は山田一郎は、SAKEROCKのメンバーであった星野源と、映像ディレクター山岸聖太(現在 コエ)と、当時SAKEROCKのジャケットデザインを手掛けていたグラフィックデザイナーの大原大次郎によるユニット名。敢えての匿名が斬新だったが、その実態はそれぞれの領域で人気と定評のある実力派クリエイターのコラボレーションであった。

同年公開された映画「デトロイト・メタル・シティ」からは、劇中に登場するバンドによる5つの楽曲がスピンオフ。ロックバンドの映像演出に定評のある監督がそれぞれのMVを演出した(デトロイト・メタル・シティ「SATSUGAI」(Dir:長添雅嗣)「魔王」(Dir:田辺秀伸)、根岸宗一SONG BY カジヒデキ「甘い恋人」(Dir:山口保幸)、MC鬼牙「フロムNYシティ」(Dir:スミス)、金玉ガールズ「デタラメ マザコン チェリーボーイ」(Dir:深津昌和))。

Blu-rayでリリースされたタナカカツキ「ALTVISION」

AudioとVisualが対等かつ効果的に共鳴し合う視聴覚表現として、広告とは一線を画したオリジナル映像作品も、多数公開・発売された。

2008年、いち早くBlu-ray版にてHi-VISIONのCG作品集をリリースしたのは、1980年代にマンガ家としてデビューし、1990年代以降はオリジナルCGアニメーション作品を数多く手掛けているタナカカツキ。現在は、昨年ドラマ化された「サ道」原作およびサウナ大使、水草レイアウトの世界ランカー等でも人気だが、「鳥瞰」を意味する本作では圧倒的に高画質、高熱量、高密度のCG作品を制作し、多くのビューアーを魅了した。音楽は、プロデューサー・作曲家の戸田誠司による4.0chフルサラウンドシステム。視聴環境を整えることによって、見るのみならず「体感するCG」の臨場感を増長している。

タナカ氏は同年、唯一無二のインパクトを誇る「バカCG」を手がける菅原そうたの3DCGアニメ作品集「あかるい世界」を、弟子にあたる菅原とともに共同監督。登場キャラクター全員の声をひとりで担当するという離れ業を披露している。また、監修には構成作家の倉本美津留が、装丁には伊藤ガビンが名を連ね、若いクリエイターの活路を広げる契機を築いた。

日本のMVの立役者として知られる中野裕之は、1990年初頭に設立した映像プロダクション「Peacedelic」と同名のレーベルをデジタルガレージ内に立ち上げ、2008年より映像作品のリリースを開始。第一弾DVDは、映像アートグループ・輪派絵師団「en」。壁や立体物にペイントを施しては消し、また描く彼らのモーション・ペイントのパフォーマンスが収録されている。

安室奈美恵と強力コラボ「Fashion×Music×Vidal Sassoon」

最後に一際豪華なコラボレーションとして一世を風靡した作品をご紹介したい。2008年を代表する広告×音楽映像コンテンツとして最も称賛された大型キャンペーンが、Vidal Sasoonと安室奈美恵のタッグによる「FASHION × MUSIC × Vidal Sasoon」である。

世界で活躍する著名なヘアスタイリストのオーランド・ピタと、「Sex and the City」「プラダを着た悪魔」等のスタイリングで知られるパトリシア・フィールドを迎え、CMのために書き下ろされた安室奈美恵の新曲3曲のMV+CMを制作するというチャレンジングなこの企画。安室のクリエイティブアイコンとしての再評価を促す効力も発揮した。

クリエイティブ・ディレクターは佐藤秀一(カズー)。楽曲は60年代、70年代、80年代をテーマに制作され、それぞれのMV+CMの演出は日本屈指のクリエイティブオフィス「CAVIAR」のメンバーが担当した(安室奈美恵「60s NEW LOOK」Dir:児玉裕一(現VIVISION)、「70s ROCK STEADY」Dir:田中裕介、「80s WHAT A FEELING」Dir:中村剛)。

また、楽曲のシングルリリース、キャンペーンサイトでの映像公開、翌年に続く第四弾シリーズ(CM「リボーン」篇「アムロード」篇)とその発売等、連動企画を大規模に展開。相対的にMVの制作費が縮小化され、演出の視点もパーソナルかつ近視眼的に制限される傾向にある中で、一際スケール感の大きい「映像のダイナミズム」を全面に押し出し、時代の閉塞感を打ち破った。

2009年の邦楽シーンとEOS 5D Mark II

2009年は、宇川氏に引き続き人気映像クリエイターの丹下紘希がMVやオリジナル作品を収録した作品集「TANGE KOUKI VIDEO COLLECTION」をTOY’S FACTORYよりリリースするという大きなニュースとともに幕を開けた。

音楽産業自体は、前年に引き続きCDシングルのミリオンヒットはなく、紅白歌合戦出演後の翌年に累計配信数200万DLを突破した木村カエラ「Butterfly」(MV Dir:中村剛+nicographics)を筆頭に、「着うた」やiTunes(当時はiTunes Music Store)等の配信サービスの需要およびDL数が話題となる。

CDが売れない時代性を悲観する声も多く聞かれる一方で、2006年に「会いたかった」(MV Dir:久保茂昭)でメジャーデビューして以降、2009年リリースの14枚目のシングル「RIVER」(MV Dir:高橋栄樹)にて初めてオリコンチャート1位を獲得したAKB48の握手券や投票券付きのCDといった「音源以外の付加価値」にも注目が寄せられた。

その是非はさておき、AKB48以下関連グループのMVは2010年代に至るまで人気映像クリエイターや映画監督が演出するケースが多い。2008~09年は「大声ダイヤモンド」「10年桜」「涙サプライズ!」「言い訳Maybe」「RIVER」等のMVを、80年代より日本のMVシーンで活躍してきた高橋栄樹が手掛けている。

その「10年桜」「涙サプライズ」は、2009年に発売されたCanonのデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark II」によって撮影されたMV。発売前に、同機でMVを撮る企画が立ち上がり、高橋氏以下カメラマンが稼働力や画質を検証し、実使用するに至る。

また、90年代より高い技術力を駆使して「動くグラビア」というべき美しいMVの数々を手掛けてきた竹石渉も、浜崎あゆみ「Sunrise ~LOVE is ALL~」以下5作のMVにて同機を起用。レンズワークにこだわったり、複数台を35mmフィルムと併用したりと、様々な用途を実践し、その品質を立証した。

以降、プロユースの撮影機材と比較して安価なうえに有能なEOS 5Dシリーズを筆頭に、デジタル一眼レフカメラを使用したMVが急増し、iPhone撮影事例も登場する現在に至る。

アイドルとリアリティ

高橋氏は、その後AKB48のドキュメンタリー映画(2012年「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」、2013年「DOCUMENTARY of AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?」、2014年「DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?」)の監督も務めている。

会いに行けるアイドルとして劇場で活躍する現代のアイドルは、素顔を隠された(素顔にも演出が施された)80年代のスターアイドルとは異なり、等身大の姿や葛藤をも惜しみなく見せる。彼女たちの努力や成長、真剣勝負、時にSNSを通じて垣間見る諍いも含めて、リアルタイムで進行するドキュメンタリーを目撃する体感・体験も現代のアイドルを応援する楽しみのひとつだ。

2000年代以降はテレビのリアリティ番組も流行。2001年に放映された英「ポップアイドル」は勝ち抜き戦の歌手育性番組だが、そのフォーマットが世界各国のオーディション番組で活用され、それぞれ人気を博している。スーザンボイルを発掘した素人オーディション番組「ブリテンズ・ゴッド・タレント」も世界展開する人気番組。最近はゆりやんレトリィバァが「アメリカズ・ゴッド・タレント」に出場し、話題となった。

日本では、1990年代後半にテレビ東京「ASAYAN」内で音楽オーディション企画が多数行われた。その一環である「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーデション」にて最終選考で惜しくも落選したメンバーがモーニング娘。を結成し、1998年にメジャーデビュー。番組では、厳しい現実と直面するメンバーの葛藤および紆余曲折の様子が映された。今思えば、それが現代のアイドル像の第一歩だったのかもしれない。

また、2010年代はCDの売上低下に反し、音楽産業の要としてライブコンサートや物販の売上が再評価された年代でもある。音楽を一方的に享受するのみならず、場の共有や体感・体験を楽しむ時代。かつては照明装飾として扱われていた映像も、プロジェクションマッピングや解析技術を用いることによってステージ演出へと昇華し、視聴覚体験の臨場感を増幅させる装置として機能するに至る。詳細は次回以降、該当年代で記す。

刷新されるMV

MVの視聴環境に変化が生じた結果、2009年は前時代的なプロモーションビデオの概念を刷新する話題作が数多く登場。作品を手掛けた映像クリエイターやプロダクションの名前も、SNSでの情報拡散を通じて以前にも増して知れ渡るところとなる。

2005年に「リニアモーターガール」でメジャーデビューしたPerfumeは「ポリリズム」(2007年)のヒットを経て、「Baby cruising Love/マカロニ」「love the world」「Dream Fighter」(2008年)、「ワンルーム・ディスコ」(2009年)等、毎回手法を変え、新しい演出にチャレンジするMVに注目が寄せられた。

上記の全作品の監督は、2010年代の日本のMVシーンを牽引したミスターMVこと関和亮。当時の関氏は、80年代より日本の音楽映像やデザインにて活躍されていた永石勝率いる「OOO(トリプルオー)」に所属し、Perfumeのインディーズ時代よりジャケットデザインおよびMVのディレクションを行っている。現在は、人気映像作家の山岸聖太等とともにクリエイティブカンパニー「コエ」を立ち上げ、偉業というにふさわしい数々の傑作を手掛けている。

関氏は、翌2010年に演出したサカナクション「アルクアラウンド」MVでも大きな反響を呼ぶ。そして、続く「目が開く藍色」(Dir:島田大介)や「アイデンティティ」(Dir:北澤“momo”寿志)、2011年の「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」(Dir:田中裕介)等、サカナクションの一連のMVにおける秀逸なアイデアや驚きの演出にますますの注目が寄せられることとなる。

そのムーブメントの布石となったのが、2009年の「ネイティブダンサー」(Dir:児玉裕一)だ。音に合わせてアイコニックなスニーカーがステップを踏む。そのシンプルの極みのような潔い演出には巧妙な編集が加えられており、引き込まれるように見入っているうちにすぐエンディングを迎えてしまうという中毒性がある。

同年、児玉氏は椎名林檎「都合のいい身体」「ありあまる富」等のMVも演出。前者はミュージカル仕立ての手の込んだアニメーション、後者は上空から落ちゆく富の象徴が爆発するというそれぞれ異なる演出ながら、音と徹底的に同期する動きのシンクロニシティ表現には、ビューアーを惹きつけてやまない共通の魅力がある。

様々な映像クリエイターの競演

この頃のMVが<低予算・高品質>を求められていた事情については、再三記しているので割愛するが、結果的に、ダンスのような身体表現やコマ撮り、CG技術同様の効果を人力でなんとかするといった、アナログな手法の活用が顕著に散見された。金銭的な都合のみならず、人間の身体や手で紡がれる視覚表現は、音感と絶妙に呼応する効果と面白さがある。

そうした「人間の力」を、プロフェッショナルな撮影・編集スキルによって深化させ、上質なエンターテインメントへと昇華させる。そんな創意工夫がMVの大きな魅力のひとつである。「CAVIAR」所属の田中裕介が2009年に手掛けたAPOGEE「1.2.3」MVも、下半身のみのダンサーが登場する一枚絵のインパクトがシュールながらも、秀逸なデザイン力が高品質を担保するスキルフルな名作である。

APOGEEのMVは、田中氏が「夜間飛行」「ゴースト・ソング」「グッド・バイ」を手掛け、他「Just a Seeker’s Song」(Dir:大月壮)、「五億回の瞬き」(Dir:七字重雄)、「Star Honey」(Dir:中角壮一)、「アヒル」(Dir:東弘明)等、若手映像作家による作品も話題となった。

人気ミュージシャンのMVを複数の映像クリエイターが担当する事例としては、2009年にアルバム「アルトコロニーの定理」収録曲の「おしゃかしゃま」(Dir:掛川康典・永戸鉄也)MVを公開したRADWIMPSも該当する。2006年「イーディービー〜飛んで火にいる夏の君〜」(Dir:島田大介)「有心論」(Dir:須藤カンジ)、2008年「オーダーメイド」(Dir:児玉裕一)、2009「タユタ」(Dir:掛川康典)以降、柿本ケンサクや清水康彦、ショウダユキヒロ、関和亮等の人気監督がMVを手掛けている。

2009年で10周年を迎えたm-floは「SOUND BOY THRILLER Feeeeeeeeeeat.LISA」(Dir:長添雅嗣)を公開。イケているとは言い難い少年たちの動向をネット動画のように追う内容だが、フィクションの精度を高める方向性ではなく、動画ならではの親近感を敢えて取り込むことによって時代と呼応する演出を施した。m-floのMVは、それまでも2001年「come again」(Dir:末田健)「Dispatch feat.Dev Large, Nipps & Vincento Galluo」(Dir:ELECROTNIK)、2005年m-flo loves EMYLI & Diggy-MO「DOPAMINE」(Dir:中村剛)等、力作揃いである。

次世代の表現力

デスクトップでの映像制作環境が整い、2005年にNYで開始されたライブ形式のデザインバトル「Cut&Paste」等を通じ、3DCGやモーション・グラフィックスのスキルとセンスを発揮する若い映像クリエイターが台頭する中、アニメーション作品を手がける若手や学生も軒並み増加した。

圧倒的な熱量でビューアーを魅了した作品のひとつが、2009年公開のneco眠る「ENGAWA DE DANCEGHALL」MV(リリースは2008年)。大学在学事より映像制作を始めた映像作家、坂本渉太が、江戸時代を舞台に平民も鬼も動物もみなハッピーに一同に会する平和な世界を描いた。そこに登場する独創的なキャラクターや大団円の多幸感にハマるビューアーが続出した。

また、小さな惑星映像でおなじみステレオグラフィック・プロジェクションを用いたOGRE YOU ASSHOLE「ピンホール」MVも手法ともども話題となった。そのディレクションを手掛けたのはナガタタケシとモンノカヅエによる映像ユニットTOCHKA。2人は、光のストロークをコマ撮りしたアニメーション作品「PiKA PiKA」にて2006年に文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞以下、アヌシーやオタワ等の国際アニメーション映画祭の数々に入賞し、高い評価を得た。

「日々の音色」の革命

最後に、2000年代の終わりにそれまでのMVの概念を刷新し、2010年代に続く新たなMVシーンの幕開けを告げたエポックメイキング作、SOUR「日々の音色」(Dir:川村真司)をご紹介して本稿を締めたい。

世界中のSOURファン(と川村氏ご本人)が、所定の動作を各自のPC前でおこない、Webカメラで撮影。そのデータを分割画面上に配置し、それぞれの画像を関連付ける演出によって映像を紡いだ本作は、映像作品の「作り込み」とは対極の、Skype画面やYouTube動画といったPC上に現れる映像ドキュメントと近距離にある。

カメラマンは被写体であるアマチュアの参加者であり、それぞれの画像はセルフィーということになるので、プロが撮影する精度には及ばない。が、ドキュメントとしてのリアリティや親近感が、フィクションを上回る魅力としての効力を発揮する。なにより、それぞれの画像が双方向的に関連し合って全体像を結ぶ構造は、インターネットのWorld Wide Webの在り方そのものだ。

それまでのMVは、音楽からインスパイアされたイメージを映像化したコンテンツとして、テレビモニター等より一方向的にビューアーに提供されていた。しかし、世界とつながるインターネットの概念やオープンソース、作品の情報・感想を共有できるSNS等の集合知および双方的なコミュニケーション能力を前に、「誰かの答え」を一方向的に享受する(時に押し付ける)コンテンツの在り方は、その内容の良し悪しはさておき、エネルギーとして前時代的と捉えられる。

翻って「日々の音色」は、人と人とのインタラクティブなつながり、時代と呼応するコミュニケーションそのものを描いていた。出演者の等身大の笑顔は、一方通行のフィクションの提供や情報伝達の閉塞感を突破してなお、参加する楽しさや一丸となってひとつの世界を構築する喜びに満ちあふれていた。そうした素顔に近しいドキュメントを扱ったとしても、いわゆる動画ドキュメントレベルには止まらない。川村氏による全体のデザインの精度、ディレクションの絶妙な采配は、本作の「高品質な映像作品」としての完成度を極め、以降世界中で模倣作が乱立するほどの一大ムーブメントを起こすこととなる。

アナログなアイデアを、プロフェッショナルな技を通じて、いかに多くの人々を楽しませるエンターテインメントに昇華させるか。本作は、2000年代のMVが模索してきた答えの行きつく先であり、まったく新しい息吹を吹き込む革新作だった。アイドルが、作られたペルソナを提供する一方ではなく、等身大の姿を晒し、ファンとコミュニケーションする時代。そのファンは、応援する傍観者ではなく、応援会に参加する当事者となり、多くの音楽リスナーが体験・体感を享受する。

プラットフォームの移行とともに、メディアやコンテンツの概念に変化が生じた2000年代は、MVにとって、前時代的な「フィクションにとって都合の良いリアリティ」から脱し、過渡期ゆえの不都合も未知数への期待も含めた「人間の力を信じるリアル」を直視する時期であったと言えるのかもしれない。

次回は、2010年頃

2000年代は、自分が最も密にMV応援活動をおこなっていた時期だけに、予定より多めの記録となったことをお詫び申し上げたい。また、密ゆえに、いつにも増して「ナガコが見た!」バイアスが強く反映されているのだが、ここに紹介していない作品の中にも素晴らしいMVが多数あることを明記しておきたい。本稿は書籍化を目的に認めている。その際はより詳細に渡って俯瞰で記す所存である。

そして次回はようやく2010年代に突入するのだが、実はその頃当方は、MVに対して、超萎えていた。その理由も含めて記そうと思うのだが、その前に当方主催のサロンイベント「スナック永子」についてまとめるか。いや、サクサク進めるか。こうして書きながら悩んでいるあたりもご愛嬌ということで、せいぜい懸命に悩んでまた次稿をお届けするので、ご期待いただければ幸いである。

WRITER PROFILE

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。