txt:染瀬直人 構成:編集部

世界初の“ポケットに入る8K 360°VRカメラ”が登場!

2019年11月に製品が発表され、年末からシッピングが開始されたQooCam 8Kは、「Beyond the Max」というキャッチフレーズの名の下に中国・深圳のKandao Technologyからリリースされた、注目の360°VRカメラの新製品だ。筆者は北京で行われた発表会に招待され、そこで初めてプロトタイプ機に触れることが出来た。

その後、テストユニットであるα版、β版を経て、製品版に至るまで、3バージョンを試用してきたが、2月中旬の原稿執筆時点では当初、発表されたすべての機能が実装されているわけではなく、Vlogモードなどは今後追加されていく予定となっている。

発売後も異例のペースでカメラ本体のファームのバージョンアップ、そして、アプリのアップデートが行われているが、この記事では現在、実現されている基本的な機能を中心に、QooCam 8Kのファーストインプレッションをお届けすると共に、このVRカメラのポテンシャルについて考えてみる。

北京での発表会の模様。KANDAOのCEOのDan Chen氏と筆者

8K動画性能のポテンシャルと驚きの価格設定

筆者がチェックしてきたテストユニットと、一番手前が開封直後の製品版のQooCam 8K

初代QooCamは2018年に発売され、360°と3D180°の実写VR撮影が1台でまかなえるという画期的な製品であった。それに対して、今回の新製品QooCam 8Kは、180°撮影の機能はないものの、コンシューマー製品として、コンパクトな筐体を保ちつつ、8Kの高解像度を達成していることから、VR業界関係者のみならず、多くのビデオグラファーや写真家からも注目を集めている。そもそもVRコンテンツでは、鑑賞者が映像や画像の全体の一部分を任意に視聴するという性質上、高解像度が要求されるのが常だ。

これまでは、コンシューマー機では6K程度の動画性能が主流で、8K以上ともなれば必ずハイエンド機を使用する必要があった。KANDAOにはObsidianというプロシューマー向けシリーズがあるが、「R」モデルでは8K30fps、「S」モデルは6K50fps/4K120fpsが撮影出来るスペックとなっており、価格も発売当初は80万円程度であった。それが、QooCam 8Kでは、7680×3840 30fps8/10bit、3840×1920 120fps8/10bitの動画性能を実現しながら、価格が67,100円という驚くべき商品設定となっている(ただし、Odsidianは360°3D撮影も出来るなど、QooCam8Kと機能が全て同等というわけではない)。

QooCam 8Kの8KVR映像(7680×3840 30fps 10bit)。8Kの高解像度と10bitカラーの高精細で滑らかな色表現のアドバンテージは高い。ピントは近景に合うように設定されているようだ

QooCam 8K低照度の作例動画(7680×3840 30fps 10bit ISO800)

継承された先進のテクノロジーと更なる進化

本機は1/1.7インチ20メガ(2000万画素)のイメージセンサーを搭載。前モデルと比較して、有効センサー範囲は246%となっている。静止画は8K(7680×3840)29メガ(2900万画素) 12bitのRAW(DNG)を撮影することができる。

さらに「DNG8」と呼ばれる機能があり、バースト撮影から8枚のRAW画像を取得して、それをRAW+というKandao独自のパソコン用ソフトウェアを用いて、16bit出力の1つのRAWデータに合成することで、幅広いダイナミックレンジを稼ぎつつ、ノイズを低減させた低照度に強い静止画のイメージを作り出すことを可能にしている。近い将来、このプロセスは「スーパーHDR」機能として、カメラ内処理で行えるようになるという。

KANDAOのRAW画像編集ソフト「RAW+」。同社のQooCamやObsidianのみならず、他社製の多くの一眼レフカメラで撮影されたRAWデータにも対応する。

同一ポジションで撮影したJPGの撮って出し静止画像と、DNG8&RAW+による画像を比較した作例。後者では、ダイナミックレンジを広く取ることができ、暗部と明部のディティールが引き出されて、ノイズも低減している。RAW現像はAdobe Lightroom Classicによる

4K動画撮影の場合には、120fpsで撮影出来るので、高速で動く被写体の描写にも有利だ。さらに、パソコン用のQooCam Studioで「AI SlowMotion」の機能を利用した場合、元の4K 120fpsのフッテージから、機械学習のアルゴリズムでフレームを補完することにより、最大10倍(4K 1200fps相当)のスーパースローモーションを実現できる。

「AI SlowMotion」は、対応するNVIDIAのグラフィックボードを搭載したパソコンにおいて可能となる。これらの機能は、Obsidianや初代QooCamで培われた技術が、QooCam 8Kへと引き継がれた形になっている。

QooCam StudioのインターフェースとAI Slow Motionの設定

QooCam 8K 4K 120fps AI SlowMotion x10。AI Slow Motionを利用してx10のスーパースローモーションにした

動画を書き出せるフォーマットは、mp4(h264)、mp4(h265)、mov(ProRes)となっている

ジンバルいらずのスタビライズ性能をもつ「Super Steady」

もう1つ見逃せないポイントとしては、6軸のジャイロと加速度センサーによる強力な手ぶれ低減機能がある。手ぶれ補正というと、同じく深圳のVRカメラメーカーであるInsta360(Arashi Vision)の「Flowstate」が有名であるが、筆者はKANDAOの手ぶれ補整の実力も同等レベルと捉えている。手持ちの移動撮影や、ドローンによる撮影などに強い見方となるであろう。

2種類ある手ぶれ補正機能の比較映像
・None:補正なし
・Anti-Shake:カメラが動いている場合は、画面も一緒に動く
・Full Stabilization:カメラが動いても、画面は動かずに方向も固定される

トレンドのタッチスクリーンを採用したインターフェース

レンズの配置はコンシューマー機では、もはや定番のデュアルフィッシュアイが、フロントとリアで背中合わせに配置されている。フロントのレンズの下には、右から電源ボタン、中央がシャッターボタン、左には使用する頻度が高い設定をカスタムセッティングしてプリセットとして保存し、利用することが可能なQボタンが配置されている。

インターフェースは、2.4インチのタッチスクリーンを採用。スマホなどデバイスに接続しなくても、カメラ単体で設定や操作、プレビューを行うことができる。スワイプすることで、プレビュー中に上下左右の360°の方向を表示可能。パネルの解像度は320×240となっている。タッチスクリーンはPie Softwear(現Lab pano)の「Pilot Era」というVRカメラでいち早く実装されたが、最近ではGoPro MaxやInsta360 ONE Rなどにも見られるように、コンシューマー用VRカメラのトレンドのインターフェースとなっている。

タッチスクリーンを指でスワイプすると、360°内の方向を変更して表示できる

画面を上から下にスワイプすると、「設定」画面が現れる

画面を右から左にスワイプすると、「撮影モード」を変更する画面が表示される

画面を下から上にスワイプすると、現在の撮影モードのパラメーターが現れる

画面を左から右にスワイプすると、撮影済みの静止画と動画を再生できる

右から電源ボタン、中央が大きなシャッターボタン、左のQボタンは保存しておいた常用の設定を呼び出すことができるので便利だ

拡張性の魅力

空間音声は実装されていないが、側面には3.5mmのマイクポートが設置されているので、外部マイクを接続して使用することができる。今後、Vlogモードが追加対応された際にも、拡張マイクを活用した収録は効果を発揮するだろう。内蔵ストレージの容量は64GB、その他にマイクロSDカードのスロットも用意されているから、さらに最大256GBのストレージが追加可能になる計算だ。高解像度の動画撮影でデータが大容量になっても、安心な仕様になっている。

バッテリーは、はめ殺しで内蔵されていて、メーカー発表の当初のスペックでは動画撮影を45分程度継続できることになっていたが、その後のアップデートによる機能強化もあり、筆者がFirmware V73をテストしたところでは、8K 30fpsで1時間30分程度撮影できた(マイクロSDカードを利用して、ストレージの容量が64GB以上あった場合)。

8Kの撮影においては、発熱が懸念されるが、カメラ側面には放熱口が設けられ、さらにファンも内蔵されている。ファンは動画収録中は、デフォルトではオフになる仕様だ。熱については、筆者が撮影している限り、それなりの熱さにはなるものの、持てないほどではなかった。ただし、撮影を1時間継続した頃には、ファンを”Always”にしておいても、かなり熱くなってくる。北京の発表会では、手で保持する際に熱を遮断するためのボディ周囲に嵌めるプロテクターが展示されていたが、発売は後日になるようだ。

本体の側面に設置されたスピーカー(上)と、USB Type-Cの接続口(真ん中)、3.5mmのマイクポート(下)と、放熱口(右)

本体の側面に設置された放熱口と、マイクロSDカードスロット。UHS-3マイクロSDカードが推奨されている

モバイルデバイスとの接続と、QooCam Appの利用

スマホとの通信は、WiFi2.4/5Gで行うことができる。スマホやタブレットなどモバイルデバイスと有線で接続するための各種USBケーブルが同梱されているのも良い。ただし、アップルにはUSBケーブルによる接続の認証を申請中とのことで、まだiOSへの有線接続は不可となっている。

QooCam Appでは、360°の静止画や動画編集はもちろん、「スクショ動画」として、好きなアングルを切り出して、フラットなビデオクリップで書き出すこともできる。スマホと有線・無線で接続している場合、アプリの設定「8K急速編集」を有効にすると、プロキシファイルをダウンロードして編集でき、スマホの処理の負荷を減らせるようになる。

ただし、スマホからの書き出しは、デバイスのスペックの限界から現状最大4Kまでだ。QooCam App「Smart Crip」の中には様々な動画用テンプレートが用意されているので、面白いエフェクトを用いて、手軽に洒落たフッテージを制作し、SNSなどで披露するといった目的にも利用できる。

スマホのQooCam Appの動画撮影時の画面

「8K急速編集」を有効にし、プロキシファイルをダウンロードして、スマホで編集を行うことができる

QooCam Appの”Smart Crip”には様々なユニークな動画用テンプレートがチュートリアルと共に用意されている

まとめ

前述したように、QooCam 8Kには、当初発表されていたVlogモードなどの、まだ実現していない機能がいくつかある。また筆者が最初に試していたテストユニットでは、レンズが製品版と異なり、ステッチやブレンドの精度にも難があった。製品版はレンズが品質の高いものに変更され、その後、度重なるファームウェアのアップデートもあり、現在はそれらの性能は改善してきている。

VR動画撮影では音楽のライブ撮影に代表されるように、カメラが邪魔になる場面も多々あることから、この小さな筐体で8KのVR動画撮影を実現できるポテンシャルは高いし、その他にもQooCam 8Kでなければ撮れないテーマがあるはずだ。その意味では、このカメラが登場したメリットは大きい。

まだ一部、動作が不安定な面もあり、バグを修正しながらのアップデートも引き続き予想されるので、ユーザーにはファームアップの情報にも注意しながら、パイオニア精神を持ってこのカメラと向き合っていく姿勢が望まれる。ちなみに、Vlogモードは、4月頃に。カメラ内SuperHDRの機能は、3月の下旬にリリースされるロードマップとなっている。

原稿執筆の締め切り直前の3月1日のFirmware v79のアップデートでは、待望の4Kライブ機能が実装された。メーカーからの公式のアナウンスはまだないが、AndroidのQooCam APP 2.8.1では対応済み、iOSのアプリのアップデートは承認申請中の模様である。

出荷されたセットには、収納カバーや、プレビュー用にスマホも設置できる自撮り棒が同梱されているが、今後は別途、レンズ保護カバー、潜水用のハウジングなど、各種アクセサリーも発売予定とのことだ。

今後発売が予定されているアクセサリーのラインナップ

また、5Gに対応し8K VRライブ配信を実現。Google Street View Ready Pro仕様として、内蔵GPSを実装したプロ用モデル「QooCam 8K Enterprise」の発売も予定されているが、現時点では発売時期や価格は未定となっている。

プロ用モデル「QooCam 8K Enterprise」の発売時期や価格などは未定

現在、8K映像を再生する手段は限られているが、プラットフォームとしてはYouTubeはすでに対応しており、中国・深圳のSkyworth社から発売されている一体型ゴーグルのS1のように、ハードウェアデコーディングで8Kのフッテージをスムーズに再生できるデバイスも登場してきている。また8Kの元素材であれば、任意の画角をフラットなHDとして切り出して使用できるのも有用だ。もちろん、解像度が評価の基準のすべてではないが、これからのVR動画コンテンツには、8K以上の解像度が求められることは必須であるから、QooCam 8Kの更なるアップデートに注目していきたい。

WRITER PROFILE

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。