オールドポートにて(鈴木氏提供)
取材:鍋 潤太郎 写真提供:鈴木 睦英 構成:編集部

はじめに

ハリウッドの「VFXハブ」が、カナダのバンクーバーからモントリオールに移動して久しくないが、そのモントリオールでは昨年の年末頃、複数の大作映画の完了に伴い一時的なスタジオの規模縮小や、レイオフの噂などが聞こえていた。もちろん年明けからの回復が予期されていたのだが、ここに来て今度は新型コロナウイルスによる影響を受け、世界のVFX業界では多少なりとも混乱が続いている。

今回は、モントリオール在住のVFXアーティストの方に取材をお願いし、現地での生活ぶりや文化等も含め、モントリオールのVFX業界を取り巻く、さまざまなお話を伺ってみた。

取材に応じて下さったのは、こちらの方である。

鈴木 睦英(すずき むつひで)
モントリオール在住のVFXアーティスト。静岡県出身、神奈川県育ち。2018年にAcademy of Art University, Animation and Visual Effects科を卒業後、ロサンゼルスのDigital Frontier FX, Inc.でFX Artistとしてキャリアをスタート。2019年にカナダのMPC Film Montrealに在籍。今年2月に公開された映画「野性の呼び声」や「ゴジラVSコング」(仮題/年末公開予定)などに参加している。

IMDB

今回ご紹介させていただくのは、モントリオール在住の鈴木氏の現場レベルの視点から、個人としての見解だが、現地からの「生の声」として、最新動向が伝わってくるのではないだろうか。

――モントリオールとの接点は。

大学を卒業後、しばらくの間はアメリカのカリフォルニア州で仕事をしていましたが、2018年にMPCモントリオールからジョブオファーをいただきました。近年のカナダVFX業界の盛り上がりはよく耳にしていたので、この機会をチャンスだと捉え2019年にモントリオールに来ました。

モントリオールの「冬場はマイナス20度以下」という未経験な寒さに恐れていましたが、実際来てみると雪が積もって快晴の時は意外とダウンで凌げる程です。夏場の気温は高く日差しも強いので、夏冬ともに「肌に突き刺さる気候」という印象です。街並みは綺麗で、ダウンタウンにはメトロが走っており、意外に過ごしやすいコンパクトシティです。

オールドポート付近公園 クリスマス時期に撮影(鈴木氏提供)

――モントリオールはフランス語圏だそうですが、以前ご滞在されたアメリカ西海岸と比べると、いかがでしょうか。

基本的にはフランス語が主流なので、フランス語を使えた方がもちろん良いとは思いますが、どこでも大体英語は通じるので、生活に困ることはほとんどありませんでした。

1年中比較的温暖なアメリカ西海岸に比べ、冬場の期間がとても長く、出来ることも少ないので、その分のストレスを発散するかのように、夏場には音楽関係のフェスなどイベントが多くなり、「街に住む人達が全員来てるのでは」と思うくらい、賑やかで盛り上がっているのもモントリオールならではという印象を受けました。

観光都市ということもあり馬車が走っていたり、夏場にレンタル自転車が各所設置されたりと興味深いところが多いです。また、ビールなどのアルコール飲料はスーパーやコンビニ等で手に入りますが、高度数のリキュール、ワインなどは国営リカーストアに行かないと買えないのは独特ですね。

観光名所 ノートルダム大聖堂(鈴木氏提供)

――カナダの各州がハリウッドのVFX各社への誘致やTAXクレジットを打診し始めた2006年頃、「従業員の半数はカナダ人を雇わないといけない」というガイドラインが設定されていた記憶があるのですが、実際に働かれてみて、スタジオ内のクルーのナショナリティの比率はどのような印象でしょうか?

実際のところ、スタジオ内にカナダ人が半分以上いるという印象はありませんでした。

正確なところはわかりませんが、アーティストのナショナリティは多彩で、アジア、アメリカ、ヨーロッパと世界中から来ています。比率で言えば、日本人はまだ少ないと思いますが、中国、韓国、インド、アメリカ、イギリス、フランスからの方が多いと思いました。フランス語圏ということもあり、フランス語圏の人も多い感じですね。

もしかしたら、リクルーターや事務系などの他の職種は、現地カナダの方がほとんどかもしれません。

――「VFXハブ」がバンクーバーからモントリオールに移りましたが、現在、何社くらいがモントリオールに存在していますか。

近年の誘致政策もあり、大手VFXスタジオが現在10数社と、モントリオールには多くのスタジオが進出しています。CM、ゲーム、現地の制作会社など含めると約30社程はあると思います。モントリオールから電車で5時間程のトロントに本社を構えるSideFXは、VFXスタジオが集まるモントリオールでのHoudiniローンチイベントの開催なども見受けられ、モントリオールのVFXハブとしての印象は強く感じました。

モントリオールには多くのスタジオが進出している(鈴木氏提供)

――モントリオールのVFX業界の、最近の動向はいかがですか。

モントリオールのVFXスタジオは街に点在してはいますが、コンパクトシティなので比較的他の都市と比べれば交流、情報交換が盛んかもしれません。アーティストもスタジオを転々とするので、友人との他スタジオの話や、同僚とプロジェクトの話など、交流は盛んです。

最近のモントリオールの動向はやや落ち着いてる感じです。モントリオールに大作が流れてきてはいますが、今年は比較的映画案件は例年より少ない気がしました。現に、最近はアーティスト募集も、以前ほど見かけなくなりましたし、スタジオによってはアーティストを減らしている傾向はありましたね。今は、やはりネット配信などの長編作品やドラマの制作を担うスタジオの方が、仕事はあるのかもしれません。

モントリオールですらこのような状況なので、その影響でバンクーバーも結構プロジェクトが減ったのかもしれません。バンクーバーでは残念なことにシャットダウンするスタジオも出てしまいましたし。

――モントリオールでは、他のVFXスタジオの日本人の方との交流はありますか。

稀に大きな集まりがありますが、基本的にはモントリオールのアーティストは既婚者の方が多く、飲み会、親睦会は、他の地域と比べると少ない印象です。最盛期には30人程の日本人アーティストが活躍していたのですが、自分の知る限りでは現在10数人程がモントリオールで働いています。

プロジェクトの減少もありますが、コロナショックもあり、日本へ帰国するアーティストも少なくはないです。それにより交流の機会はもっと少なくなってしまいました。また、モントリオールがもっと盛り上がれば良いんですけどね。

RODEO FXは地元ケベック・シティー発祥のVFXスタジオだ(鈴木氏提供)

――昨年の年末あたりから、モントリオールのVFX業界でレイオフが出始めているという噂を耳にしていますが、実情はいかがですか。

実際そんな傾向はありました。昨年末から年明けに公開された大作が多かったことで、複数のプロジェクトが同時期に終えた影響で、スタジオによっては規模の縮小、プロジェクトの終了と共に契約満期でスタジオを離れる人が多かったかもしれません。今回のコロナショックも被り、レイオフされたアーティストも多いです。不景気が、より不景気になってしまった印象です。また以前のように、スタジオが活発に稼働して欲しいです。

――モントリオールの、新型コロナウイルスによる影響はいかがでしょうか。

映画や、動画配信系のプロジェクトは撮影が中断されたり、企画がHOLDした作品もあり、モントリオールもその影響をすごく受けているのは肌で感じられますね。多くのスタジオでは雇用の中断や、レイオフ、無給休暇などを実施しています。

しかし、中にはネット配信系のプロジェクトで忙しくしているスタジオもあると友人から聞いています。ゲーム系のスタジオは、まだそれ程影響を受けていない印象を受けますが。

コロナショックでロックダウンされてから、リモートワークへの移行に少し時間かかった会社もあると思いますが、業界内ではほとんどリモートワークに切り替えて仕事をするスタジオが多くなりました。予期しないことだったため、瞬時にリモート移行に切り替えることは出来ず、進行中だったプロジェクトにも多々影響は出たと思います。

世界規模でのことなので、期限延期など柔軟な対応に動いていたと思います。今回の件で、よりリモートワークのシステム強化の必要性が浮き彫りになったことで、業界内でも今後色々変わってくるのではないでしょうか。

――最近、オーストラリアやフランス等がハリウッドの映画産業に対するTAXクレジットの強化を発表し、「モントリオールの次はどこだ」という声も聞こえ始めていますが。

確かに、いまオーストラリアなどに動きがあるような感じはしていますが、個人的には、どこもモントリオール程こぞって進出するまでには至らないのではないかと思っています。

というのも、今回のコロナショックの件でリモートワークのシステム見直しや強化がされたら、将来は支社の設立よりも、先にスタジオのデスクの必要性も変わってくるのではないかと。現行の誘致政策よりもリモートワークも視野に入れた新しい政策が生まれたらすごいニーズが生まれそうですね。もっとも、“ミライ”の話で、それが本当に来るかも定かではなく、そんなことが出来るかすら、わかりませんが(笑)。

只今のところ、様々な観点で都合が良く、人員が足りているとなると、VFXハブはしばらくこのままモントリオールに留まるのではないでしょうか。

――モントリオールの今後を、どのように予測されますか。

現在は新型コロナウイルスの影響で業界全体が停滞気味ですが、新型コロナウイルスの終息に伴い、また多くのVFXニーズが生まれ、活気を取り戻すのではないかと思っています。

しかしながら、残念なことに予定していた撮影などがずれ込み、公開延期になった大作も多いので、この夏に来ると思われていたVFXニーズも、今年の後半もしくは来年年明けになってしまうかもしれないですね。

また活気を取り戻して、モントリオールのスタジオが関わる沢山の作品が、また多くの人に見て頂ける日が来ることを、心から願っています。

――今日は、どうもありがとうございました。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。