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txt:VISIONGRAPH Inc. 構成:編集部

VRドキュメンタリーの可能性

VRが話題になり始めてからしばらく経ちますが、ようやく一般の消費者にも手に取りやすい値段でハードが売り出され、コンテンツもかなり充実してきました。加えて、今年は新型コロナウイルスによるステイホームの影響で、VRコンテンツ閲覧数が去年の同時期に比べて3.3倍増になったというデータも発表されています

VRゴーグルの一般家庭での普及率はまだ数パーセントに留まりますが、体験したことのある人は確実に増えており、一度体験すればVRの可能性に間違いなく気付く事になります。実は未来予報株式会社でも、これを機会にVRヘッドセットを導入しました。

そんなVR界隈で生み出されるコンテンツと言えばゲームのイメージが強いかもしれませんが、今回注目するのはVRドキュメンタリーです。2018年のSXSWにKeynoteとして登場したVRクリエイターNonny de la Pena氏は、ドキュメンタリーこそがVRの理想的な活用方法だと講演し、非常に話題となりました。

単に視るのではなく、自分もその場にいるかのような体験ができるVRでは、遠い世界の出来事を距離を超えて身近にしたり、過去の出来事を時を超えて体験することができます。様々な社会問題を取り上げ、世間に問いを投げかけるドキュメンタリーとの相性は抜群です。今回はそんなVRドキュメンタリーの可能性を感じる作品やサービスの事例をピックアップしてご紹介します。

未来予報01:VRでリアルな戦場を体験させ、子供達に戦争の悲惨さを伝える終戦記念日

SURVIVRは、本来は軍隊や警察の訓練用に開発されたVRトレーニングソフトで、リアルな戦場の状況において即時の判断力を鍛えることができるそうです。この技術は戦争のためではなく、平和のためにこそ応用すべきだと思いました。日本の8月は平和記念式典や終戦記念日がありますが、時が経つにつれ戦争体験を実体験として語り継ぐことのできる語り部は次第に減っていきます。

次の世代の子供達に、戦争の悲惨さと平和の大切さをどのように伝えていくかは、これからの子育て世代にとって重要な使命となるでしょう。VRで戦争の悲惨さを疑似的にでも体験できれば、単にテレビで当時のドキュメンタリー映像を見るより何倍も強烈な印象を与えることができます。終戦記念日には戦争体験者がその悲惨さを語り継ぐだけでなく、子供達がVRで戦争を疑似体験する日になるかもしれません。

未来予報02:VRゴーグルをつけて外国人の視点で生活してみる体験学習

画像は企業Webサイトより引用

Praxis Labsは、VRで自分とは異なる他者の視点を体験することで、自分が抱えている無意識のバイアスを理解するトレーニングプログラムです。昨今の多様性が重視される社会では、企業やコミュニティ内で人種や性別による差別をなくすための研修が積極的に行われるようになりました。10年前であれば問題にならなかった言動でも、今では差別発言とみなされる可能性があり、それがSNS等で拡散されれば大きな問題に発展することもあります。

差別をなくすためには、社会のマジョリティである人々が、自分自身が持つ無意識のバイアスに気付くことが必要です。例えば日本に暮らす外国人の生活と、その中で彼らが受ける差別をVRで体験すれば、日本人は外国人に対する差別を認識せざるを得なくなります。LGBTに対する意識の違いなど、様々な社会問題に対する世代間での意識のギャップを埋めることにも応用できそうです。

未来予報03:ホラー映画よりも恐ろしい児童虐待VRドキュメンタリー

児童虐待事件がニュースで報じられる度に、その悲惨さに多くの人は子供が可哀相だと口にします。しかし、虐待を受けずに成長したほとんどの人は、自分の身近に起きるわけはないと決めつけ、他人事としか捉えることができません。

Weste&Coが作成した虐待を受ける子供視点のVR映像を見て、私は子供の無力さに絶望し、親から向けられる敵意や憎悪のリアルさにゾッとしました。ホラー映画よりも恐ろしいというコメントが多く寄せられており、これが現実に起こり得るという事実が、視聴者に強烈な後味の悪さを残していることがわかります。

このようなVR体験は人々の想像力を補完し、社会問題を自分ごととして捉えるきっかけになるでしょう。もしかしたら自分の住むマンションでも児童虐待があるかもしれないという想像力を持てる大人が増えれば、助かる子供が増えるかもしれません。

未来予報04:息子からゲイとカミングアウトされたら、あなたはどうしますか?

Out of Exile:Daniel’s Story

SXSWのKeynoteとして登壇したVR映像作家のNonny de la Pena氏。彼女の作品は、様々な社会問題をVR技術によって体験可能なコンテンツに昇華しています。この作品は、ゲイの青年が家族にカミングアウトする様子を、本人の体験談と録音された音声を元にアニメーションで再現しています。周囲の人間に拒絶されるという絶望感や恐怖心を疑似体験させることで、多くの人にLGBT問題に対して当事者意識を持ってもらうことを目的としています。

実際に自分の息子からゲイだとカミングアウトされた場合に、それを拒絶せずに受け入れることのできる親は何割程度いるのでしょうか?セクシャリティだけでなく、他にも子供と親のセンシティブな問題をVRで事前にシュミレーションできる教育サービスが生まれてきそうです。

未来予報05:VRドキュメンタリーは現実の旅行体験を超えるコンテンツに

The Last Goodbye

SXSW2020のKeynoteとして登壇予定だったVRドキュメンタリー映像作家のGabo Arora氏。この作品は、ユダヤ人の老人がかつて収容されていたナチスの強制収容所を尋ねる様子に密着するドキュメンタリーで、視聴者は彼と一緒に収容所の跡地を周りながら当時の体験談を聞かされます。

映画館で単なる物語として視聴するのと比べて、VRでは自分もその場にいる感覚をもってより体験的に味わうことができます。このようなVRドキュメンタリーは、もしかすると実際にその場所を訪れる旅行よりも、体験としての価値が高いコンテンツになる可能性を感じられます。

まとめ

いくつか予報させていただきましたが、ドキュメンタリー含めて刺激が強すぎるVRコンテンツでは、現実世界と同じようにPTSD(心的外傷後ストレス障害)への懸念が大きくなっています。教育・トレーニングなどに使う際には、この分野の研究にも目を通しながら制作していくことが求められると考えています。

VISIONGRAPH Inc.のnoteでは、歴代のSXSWに関してのレポートをmagazine形式でまとめて公開中です。ぜひそちらもご覧ください。

WRITER PROFILE

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

イノベーションリサーチとコンセプトデザインが強みの未来像をつくる専門会社。SXSW Japan Officeとしても活動中。