txt:土持幸三 構成:編集部

「アートにエールを!東京プロジェクト」

みなさんは「死刑台のエレベーター」という映画をご存じだろうか?ヌーベルバーグ世代の一人、ルイ・マル監督の長編初監督作で、名作と呼ばれると同時に、当時、有名ジャズ・トランぺッターのマイルス・ディビスが、まだ音楽の付いていない作品を見ながら即興で演奏をし、それを録音したものがテーマソングとなっている(まぁ、本当に即興だったかは異論もあるらしいが)。

映画本編でなくても動画配信サイト等で探せば予告編があるので見てほしい。モノクロで哀愁漂う、筆者の大好きな素晴らしい作品である。まだ音楽の付いていない映像をミュージシャンに見せ、即興で演奏してもらうスタイルは筆者の憧れとなっている。

映画「死刑台のエレベーター」予告編

今回、東京都の芸術文化活動支援事業「アートにエールを!東京プロジェクト」で、この即興で音楽を付けてもらうことが実現した。残念ながら1チーム10人までという制限があったため短編ドラマはあきらめ、アーティストのパフォーマンスを撮影したものを見てもらい、即興で曲を付けてもらうことにした。

筆者が親しくさせていただいているジャズミュージシャン、アーティスト、撮影スタッフ10人に声をかけて応募したが、読みが浅く、抽選で選ばれたのが半分の5人で、出だしから苦難と向き合うことになった。参加者はダンサーと書道家、カメラマンと筆者、ミュージシャンが1人に、抽選に漏れた2人のミュージシャンが加わってくれた。

このプロジェクトは普段の仕事とは違い、東京都が出来上がった作品の納品を確認した後、抽選で選ばれた支給対象者に直接、お金が振り込まれる仕組みなので「制作費」というものが無い。まずはこれを参加者に理解してもらうことから始めなければならなかった。

猛暑の中、撮影が始まった

筆先を撮影することでスピード感をだす

ダンサー、書道家とは事前に打ち合わせをして、パフォーマンスの中身、衣装、メイクと撮影場所の確認を行い撮影に臨んだ。撮影はBMPCC6K/4Kの2台体制で筆者は主に引き画の撮影を担当した。真夏の太陽の中、2人とも頑張ってくれたが、本来なら4~5人のアーティストをテンポよく切り替えていく予定だったのが、2人なのでそれぞれにスピードの強弱をつけることをお願いした。特に書道はあまり速さを求められないので、筆先の動きをアップにすることでスピード感がでるよう撮影した。

久しぶりのLensbaby

ミュージシャンの撮影は前回書いた曲の録音後に行った。録音は場所と撮影クルーの人数の関係で動画と同時に撮影は出来なかったが、冒頭で述べたようにモノクロのイメージはあったのでワンライト照明でコントラストをあげ、Lensbabyの特殊なレンズも使って撮影した。

直前に録音した即興曲との演奏する動画のシンクロは無理だと判断したので、雰囲気で演奏してもらったのを撮影し、あとで曲に合った感じの部分にはめ込むことにした。なので、作品に出てくるミュージシャンの動画は曲とシンクロしたものではない。

「TOKYO IS JAZZ」

いつかやってみたい、と思っていた、映像に即興で曲を付けてもらう試みは少し違った形にはなったが達成でき、編集時にあてる曲とは全く違った興奮を覚え、本当に楽しかった。東京都に納品した作品「TOKYO IS JAZZ」は、現在公開中なのでぜひ見ていただきたい。

今回は「仕事」ではなかったので普段の制作スタイルとは違う部分を体験することができたのと、役者ではない、アーティスト達を演出する難しさも感じた。本来なら撮影場所でのリハーサルなど入念な準備が必要だったと思う。即興的な、ある意味、偶然をねらったものでも、制作者は偶然を必然にする努力を怠ってはいけないのだと改めて感じる良い経験となった。

秋に入り、実施されるか心配していた小学校での映像授業もはじまる。昨年行った鹿児島での授業はリモートで実施することになっている。筆者も初心にかえって映像制作の楽しさを伝えようと思う。

WRITER PROFILE

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。