txt:江口靖二 構成:編集部

デジタルサイネージで小説を読む

街ナカのデジタルサイネージで小説を読む。こんな実証実験「STREET&BOOKS」が2020年10月31日から12月1日まで東京の恵比寿で始まった。これまでの常識ではちょっと想像しにくい利用法なので、なにはともあれ早速現場に足を運んで体験してきた。現場は恵比寿駅から恵比寿ガーデンプレイスに向かう動く通路、恵比寿スカイウォークのいちばんガーデンプレイス側だ。現場の設置状況はこの写真のとおりである。

12月11日までの作品は、芥川賞作家・平野啓一郎氏の書き下ろし小説「竜の昇る日」である

実際に表示される状況はこちらのとおり。80から90インチくらいのディスプレイに横書きで5、6行、1行は26文字だ。背景は書籍と同じく白で文字色は黒。フォントは明朝系である。この作品は全部で28話(28日分)で構成されていて、1日というか1回に表示される小説本編はこれだけだ。あとは平野氏の写真とコメント、題名の3画面が繰り返し表示されている。13日からはもう一作品、漫画家 吉本ユータヌキ作「おさんぽ恵比寿」が加わるようだ。

ディスプレイが黒くなっているのは撮影したスマホのシャッタスピードが合っていないからで、実際にはクリアに表示されている

筐体横にはQRコードが掲出されており、読み込むと公式WEBサイトにリンクされる。

WEBサイトには過去2日の放映分だけが24時間限定で公開されている。そのため筆者のようにこの日18話で初めて読んだ場合は、ここまでのストーリーを把握することや追うことはできない。

公式サイトの表示

現地は通路の途中で、通常は人が立ち止まる場所ではない。ほとんどの人は動く歩道を使うので、この設置位置だと駅に向かう人からはかなりの至近距離で真横から見ることになり、駅から来た人からは少し遠く、また多くの人は右側の地下通路に行く人が多い。ざっと見た限り、カメラなどで視認状況を計測している感じはなかった。

恵比寿駅方面へ向かう動線から

恵比寿駅方面からガーデンプレイスに向かう通路の一番奥

少なくともこの事例では、移動の途中で立ち止まって100文字ほどの文章を読むということ、そして日替わりで掲出される小説を継続的に文字だけで把握することは正直厳しい。Webに行っても全体像はわからないので、これは広告や販促的な扱いということなのだろうか。今回は1500人が予約したら書籍化するという設定になっているが、それは平野氏の作品なので、このデジタルサイネージの有無に関わらず達成されるのではないだろうか。

話題性と意外性はあると思う。プレスリリースには「限定公開となるため、まさに“今、ここでしか読めない”あなたの街の物語としてお楽しみください。」とある。確かに今だけ限定だ。ここはやはり明確に販促と位置づけるべきなのではないかと感じた。

ではこれがたとえば電車の中だとしたらどうだろう。書き下ろし小説ではないかもしれないが、中吊り広告では近い試みはあったように思う。電車内であれば歩き回ることも少なく、一定時間以上はそこに滞留する。都市部であれば通勤や通学などリピート乗車も多いので、何回かに分けても継続して読んでもらえるかもしれない。

このロケーションでは文字をじっくり読むということは向いていないが、電車の中だと話は別だ。その場合でも一話完結でなく、続きはまた来週というのは厳しい気はする(決めつけるのは危険だが)。

では書き手はいったい誰がいいのか。小説なのか散文なのか、いやいや俳句や川柳か。プロかアマチュアか。マンガという手もある。もちろんだが広告と媒体の双方がビジネスとして成立しなければ意味がない。さてビジネスとしても成立する読み物キラーコンテンツとはなんだ?

デジタルサイネージで長文を読むわけがない、という思い込みは疑っても良い気がした事例である。

WRITER PROFILE

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。