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Column

Vol.123 ハリウッドのVFX業界にユニオンはあるのか?

2020-12-02 掲載

取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

筆者が日本の方から時折頂く質問の中に、「ハリウッドのVFX業界には、ユニオン(労働組合)はあるのでしょうか?」というのがある。また、日本の方から「ハリウッドのVFX業界のみなさんは、全員ユニオンに加盟しているんですよね?」と聞かれた事もあった。いつぞやは、「ハリウッドのVFX業界の組合について、いろいろ調べているのですが」というお問い合わせを頂いた。

そこで、今回のコラムは、「ハリウッドのVFX業界にユニオンはあるのか?」という内容で、筆者が知る限りの情報をご紹介してみる事にしよう。

…しかしながら、このテーマに合った画像は手元に2枚しかないので、ロサンゼルスのクリスマス風景をお楽しみ頂きながら、お届けする事にしよう。

ハリウッドのVFX業界にユニオンはあるのか

結論から先に言ってしまえば、筆者の知る限り、ハリウッドのVFX業界には、なぜかユニオンが「ない」。アメリカ、カナダ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア等、世界中のVFXが盛んなどの国を見渡しても、ユニオンに加盟しているスタジオは、アニメーションスタジオ以外では耳にした事がない。

アメリカには、本欄でも頻繁に登場するVES(米視覚効果協会)があり、こちらはハリウッドの映画ギルドの1つではある。しかしながら、VESは現時点では組合ではなく、業界の啓蒙のための協会という位置づけに留まっており、ユニオンとは性質が異なる。

一方、ハリウツドの映画業界には、映画俳優組合、監督協会、撮影監督協会、映画編集者協会、脚本家組合など、幅広い職種でユニオンが存在している。この理由として、ハリウッドの映画スタッフは、「会社に属さないフリーランサー」がほとんどであり、ユニオンに加盟する事でベネフィット(福利厚生)が受けられたり、詳細に渡る労働条件などをユニオンが規定する事で、メンバーが守られているのである。

ハリウツドでこれらのユニオンに加盟すると、メンバーは決して安くはない入会金や年会費を支払う必要が生じる。入会金はユニオンによって異なるが、日本円にして15~30万円程である。しかしながら、個人で契約すると非常に高額なアメリカの健康保険に団体料金で入れたり、401K等のリタイアメント・プランを利用出来たり、失職しても一定期間は健康保険が継続出来るなど、ユニオンのベネフィットの恩恵が受けられる。また、ユニオンのメンバー向けの、スキルアップのトレーニング・クラスも用意され、その内容も充実している。

アメリカ西海岸のVFX業界の場合

アメリカ西海岸のVFX業界の場合、正社員もしくはフリーランス契約(契約社員)で「VFXスタジオで勤務する」労働スタイルであるため、ほとんどの場合「勤務先の企業」に属し、健康保険やベネフィット、就労ビザのサポート等が勤務先のスタジオから提供される。フリーランス契約であっても契約期間中は正社員に近いベネフィットが受けられるスタジオもあり、残業代もカリフォルニア州の厳しい労働基準法に基き、しっかりと支給される。つまり、勤務先が存在している限りは、「ユニオンを作ろう」という必然性が少ないという背景もある。

コロナ禍で、マスクをつけてソーシャルディスタンスを取りながら、クリスマスのイルミネーションを楽しむ人々(画像と本文は、あんまり関係ありません)

必然性という意味では、法律や文化が異なるイギリスの方が、VFXユニオンが求められているかもしれない。なぜなら、ロンドンのVFXスタジオでの契約は年俸制だ。つまり、残業代が支給されない。そのため、デリバリーの最後の砦となるコンポジターはどうしても“サービス残業”が増えてしまい、しかもそれが収入に反映されないという悩みを抱えている。実際、2015年にはMPCロンドンのコンポジット部門が団結してユニオン加盟を試みた経緯がある。しかし残念ながら、様々な大人の事情によって、実現には至らなかったようだ。

実はアメリカ西海岸でも、VFXプロジェクトがカナダへ大規模流出し始めたあおりを受け、2013年にRhythm&Hues Studiosを始め複数の著名VFXスタジオが倒産した際、多数の失業者が生まれ、VFXユニオンの必要性を求める声が多数上がった。しかし、現段階でもユニオンに加盟しているVFXスタジオは存在していないのが実情である。

アメリカのアニメーション業界にはユニオンが

以前このショッピングモールでは「ここのツリーは、全米で1番大きい」という看板が毎年掲げてあったが、どこかに記録を抜かれてしまったようで、最近では見掛けなくなった(写真と本文は全く関係ありません)

アメリカには、アニメーション業界を対象としたアニメーション・ギルドというユニオンが存在する。ここは1952年から続く歴史あるユニオンで、ここに加盟しているのはWalt Disney Animation StudiosやDreamworks Animation、Nickelodeon等のアニメーションスタジオで、VFX業界のスタジオは含まれない。

ちなみに、不思議な事にPixar Animation Studiosは、アニメーション・ギルドには加盟していないという。この辺りの理由などは、ハリウッドの長年に渡る歴史や文化、そしてスタジオ毎のカルチャーの違い等が影響しており、外部からは良く分からない点も多い。

これらの加盟スタジオは「ギルド・ショップ(Guild Shop)」と呼ばれる。アニメーション・ギルドに加盟しているギルド・ショップのスタジオへ入社したら、アニメーション・ギルドに入会金を支払い、個人のアカウントを新設する必要がある。後に、もし別のギルド・ショップへと転職した場合は、アニメーション・ギルドのベネフィットが継続して使用出来る。

しかし、アニメーション・ギルドに加盟していないスタジオへ転職した場合は、アニメーション・ギルドのベネフィットの恩恵を受ける事は出来なくなる。しかしながら、自分のアカウントを「休止」扱いにして、年月を経て再びギルド・ショップの1つに戻った際には、アニメーション・ギルドのベネフィットがすぐさま再開出来る仕組みになっている。

メンバーである年数が長ければ長い程、さまざまな恩恵が得られる。その反面、半年以内や数年でアカウントを休止してしまうと、これまで収めた金額に見合う恩恵が受けられない場合もあるのが、難点と言えば難点であろう。

ひとつ興味深いのは、ギルド・ショップのスタジオでも、全社員がアニメーション・ギルドのメンバーになる訳ではないという事。例えばアニメーターはアニメーション・ギルドのメンバーとしてベネフィットを受けているが、パイプライン・エンジニアや開発系のポジションの人はメンバーではなく、勤務先からベネフィットを受けている。

つまり、同じギルド・ショップに勤務していても、ポジションによって、アニメーション・ギルドのメンバーの人と、そうでない人とに分かれる。健康保険の種類も異なり、利用出来る病院ネットワークも異なる。この辺りは不思議な現象である。

…余談だが、アニメーション・ギルドにまつわる美談として、前述のRhythm&Hues Studiosが破産宣告して給与の支払いが滞った中、残ったVFXショットを最後まで完成させようと土曜出勤して頑張る同社クルーのランチタイムに、アニメーション・ギルドからピザ64枚が無料で送り届けられたという逸話が残っている。ピザボックスには「お腹がすいてると伺いまして」というメモが張りつけてあったそうである。

アメリカのIATSEが推し進めるVFXユニオンのインフラ

このアニメション・ギルドは、映画産業の労働組合IATSE(International Alliance of Theatrical Stage Employees)が母体となっている。IATSEは直訳すると国際劇場労働組合で、1893年設立という長い歴史を持つ。映画や劇場関係に従事する様々な業種をカバーしており、11万人のメンバーを有する巨大な組合であり、アメリカとカナダに支部を持つ。

IATSEがSIGGRAPHブースで配布していたパンフレット(筆者撮影)

このIATSE、実は少なくとも10年前からVFX分野にも門戸を開き、ユニオンの浸透に向けて積極的な姿勢を示している。IATSEの担当者がLAの各VFXスタジオを訪問し、VFXユニオンの説明会や啓蒙活動を行っていたという話は、何度か耳にした事がある。

つまり、正確に言えば、アメリカにはIATSEを母体とする「VFXユニオン」というインフラ自体は準備されているものの、肝心の主だった加盟スタジオがなく、稼働していないというのが正解のようだ。その結果、アメリカのVFX業界にはユニオンが「ない」という事になる(ややこしい)。

IATSEは毎年SIGGRAPHの機器展でもVFXユニオンの啓蒙ブースを構えており、筆者もブースに立ち寄ってお話を伺った事がある。「アメリカの労働法では、VFXスタジオの従業員の過半数が同ユニオンの申し込みカードにサインして加盟を希望すると、その職場はユニオン加盟向けての一歩を踏み出せる」という事であった。

SIGGRAPHにおけるVFXユニオンのブース(筆者撮影)

従業員の過半数が賛成して、初めてIATSE担当者がVFXスタジオ側と交渉に入り、合意が得られればギルド・ショップとなり、対象となるクルーがVFXユニオンに入会金を納め、メンバーの福利厚生はVFXスタジオからユニオンに移り、などなどの複雑で時間の掛かるプロセスが発生する事や、VFXスタジオ側もその手間やコスト面などから消極的であり、なかなか実現には至らないらしい。

また、VFXユニオンは個人で加盟するものではなく、「VFXスタジオが加盟する」という括りであるため、従業員の過半数が賛成しても、肝心のVFXスタジオ側や経営者が賛同しなければ成立しにくいという側面もあるようだ。

IATSEはホームページの中で「VFX業界は、エンターテインメント業界の中で、まだ組合が整備されていない業種の1つです」と語りかけ、他のスタジオ(ただしVFXユニオンのギルド・ショップである事が前提)へ移籍しても継続出来るポータブルな医療保険とリタイヤメントプラン、最低賃金の設定などのベネフィットを提示してユニオンへの加盟を呼びかけているが、なかなか加盟スタジオの獲得には結びついていないのが現状らしい。

いつか、アメリカのVFX業界の中堅以上のスタジオが普通にVFXユニオンに加盟しているような状況が生まれ、ユニオンのメンバーがプロジェクト契約の合間/レイオフ/移籍期間中などで経済的負担を軽減したいような時に大きな助けとなる、そんな存在となるのが理想と言えるかもしれない。

おわりに

以上の事情から、アメリカのVFX業界、そして世界各地のVFX業界には、現時点ではユニオンが「ない」というのが実情である。

ちなみにアメリカのVFX業界の中で、かのデニス・ミューレン氏のように、デジタル革命以前からVFX及び映画業界に従事されているベテランの方は、カメラで撮影しオプチカル・プリンターでフィルム合成を行ってきた経緯から、ASC(撮影監督協会)に加盟している方がおられる。ASCのメンバーは、映画のエンドクレジットでも、名前の後にASCの文字が入っており、まさに権威あるユニオンである事が伺える。

VFXはまだ新しい分野であり、70年近い歴史を誇るアニメーション・ギルドやハリウッドの他の業種と比較すると、ユニオン等の整備も「まだまだ、これから」という感があるが、今後に期待が寄せられる。

もし、今後何か進展が見られた暁には、また是非レポートさせて頂ければと思う。

それでは皆様、メリークリスマス!


WRITER PROFILE

鍋潤太郎 ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。


[ Writer : 鍋潤太郎 ]
[ DATE : 2020-12-02 ]
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