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Column

Vol.126 VESアワードのノミネーション作品を選定する審査員を務めてみる

2021-03-15 掲載

ポスプロFOTOKEM

例年であればVESアワードのノミネーション作品選定審査会の会場に使用される、ハリウッドのポスプロFOTOKEMのロビー。往年のミッチェル・カメラが展示は、さすがハリウッド(昨年の審査会にて筆者撮影)
取材&写真:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

先月の本欄でもご紹介させていただいたが、今年の映画賞授賞式のスケジュールは新型コロナウイルスの影響を受け、全体的に2ケ月程後ろ倒しとなったが、その準備は着々と進められている。

その映画賞の1つ、「VFX業界のアカデミー賞」とも謳われるVESアワード。VESは4月に開催予定の授賞式に向けて、全25カテゴリーのノミネート作品を選定するための審査会VES Awards Nomination Eventを2021年2月27日(土)にワールドワイドで実施した。今年の審査会は新型コロナウイルスの影響により、初めてバーチャルでの開催となった。今月の本欄では、その模様をレポートさせていただく事にしよう。

…しかしながら、バーチャル開催のため最適な写真が無く、今回は過去のノミネーション選定審査会での写真をご紹介しながらお届けする。

VESアワードのノミネーション作品を選定する審査会

この審査会は、VESアワード授賞式の開催1~2ケ月前に実施される。例年であれば、VESと協力関係にあるポストプロダクションやVFXスタジオ等に施設を提供してもらい、そこにVESメンバーが集結、試写室などで各カテゴリー毎の応募作品のクリップを上映&審査し、投票を行う。ここLAでは、毎年バーバンクにある総合ポストプロダクションFOTOKEMで、複数のDIルームや試写室でチームに別れ、それぞれが各カテゴリーを分担して審査する。

ポストプロダクションFOTOKEM
バーバンクにある総合ポストプロダクションFOTOKEM(筆者撮影)

ハリウッドの映像業界は基本、朝型である。当日の集合時間は朝8時頃と早い。会場に到着すると、まずレジストレーションを済ませ、「ルーム1」「ルーム2」等の番号を渡され、どの試写室での審査の担当なのか知らされる。

VESアワード
ロビーには朝食やランチが用意され、食べながら久しぶりに再会したメンバー達と談笑するのが常となっている(画像は昨年の審査会で筆者撮影)

ノミネート作品を選ぶ審査員は、VES会員なら誰でも務める事ができる。VESから募集メールが届いたら、申し込みサイトから登録するというボランティア・ベース(志願制)である。しかしながら、土曜日に朝早くからバーバンクへ出向く必要があり、しかも半日以上拘束されるので、たとえLAのメンバーであってもなかなか行けないという会員も少なくないのではないだろうか。

審査するカテゴリーは自分で選ぶ事はできず、VES側によって割り振られる。その際、「自分が担当したプロジェクトの審査はできない」というルールがあるため、申し込みの際に最近参加したプロジェクト一覧を提出し、自分の担当作品が入っているカテゴリーとかち合わないよう、VES側で事前に調整が行われる。

例えば、映画「ワンダーウーマン 1984」を担当したコンポジターは、映画ではなくコマーシャル作品のコンポジット分野の審査のチームに割り振られるなど、かち合いを避けて審査に公正を保つ工夫がされている(この調整を行うVESコミッティーの皆さまのご苦労がしのばれる^^)。

しかしながら、それでも手違いで自分の審査カテゴリーに担当作品が入っていた場合、その場で手を挙げて申請すれば、そのカテゴリーだけ棄権扱いにしてもらう形を取れる。ちなみに、「自分はその作品を担当していないが、同じ勤務先の別のチームが関わっている」場合は、大丈夫だそう。あくまでも審査員本人が担当した作品は審査してはいけない、という規則である。

各カテゴリーの審査前には、VES担当者からカテゴリーの概要とガイドラインが説明される。例えば、「このカテゴリーは、デジタル・キャラクターの優れたパフォーマンスを審査します。つまり、合成やライティングの完成度の高さは審査基準には含まれません」と言った明確な基準が示される。

各応募作品は、規定に沿って一定のフォーマットに編集されているので、鑑賞しやすく、オーガナイズされている。まずハイライト・シーンのリール、続いてBefore/Afterのリールの順番に鑑賞する。しかしながら、全ての作品を審査するので、応募作品の数が多いカテゴリーは、審査にかなりの時間を要する場合がある。そのため、各チームによって、その日に担当するカテゴリー数は異なる。

「あれ、今回は2カテゴリーだけだ。ラッキー♪」とか思って試写室に入ったら、ものスゲェ作品数でビックリしたり(笑)、逆に各カテゴリーの作品数は多くないものの4カテゴリーを審査する事になったりと、そのあたりは全体の負荷と所要時間のバランスを考えてチーム毎の「番組表」が組まれている。

この投票結果がノミネート作品の選定に直接影響するのだから、投票は責任重大である。応募作品16本の中から5本を選んで投票したりと、限られた時間内に自分が投票する作品を絞るのは大変である。この審査会は朝9時から午後3時頃までを要し、そこそこ神経を使うので、終わるとけっこうグッタリする(笑)。

審査が終わっても、「投票結果に同点が出ていないか」の集計が終わるまでロビーで待機する。すると

ルーム3!同点の作品が出ました。もう1度試写室へ戻ってください。

というアナウンスが流れ、そのチームはウヒャウヒャ笑いながら試写室へと再び吸い込まれていく。同点の作品を再度上映し、どちらを選ぶか、再投票が行われる。こうしたプロセスが世界5箇所で行われ、その集計の結果、ノミネーション作品が選定されるのである。

5つのタイムゾーン

この審査会は、VES設立当初はLAだけで行われていたが、VESのワールドワイドな拡大に伴い、今や世界各地で実施されるようになった。地球上を時差毎に5つのタイムゾーンに分割し、世界中それぞれの地5箇所でが実施されている。

VES
VES公式サイトから、2020年度作品の審査会のタイムゾーン

うーん、地球って丸いんだなーと実感する瞬間である(あ・ほ・か)。こうして見ると日本はオセアニアのリージョン5である。日本から審査に参加されたVES会員の方も多かったのではないだろうか。

今年の審査会はバーチャルでの開催

新型コロナウイルスの影響を受け、今年の審査会は初めてバーチャルで行われた。これまで、オン・サイトの審査会は毎年参加してきたが、これがバーチャルになるとどうなるのだろう?という点に筆者は非常に興味があった。ガイダンスのメールには、Zoomのリンクがあり、「朝9時にログインして下さい」とある。うん、早起きしてハリウッド・サインの山を越え、朝8時にFOTOKEMまで運転しなくて良いのは、ちょっと嬉しいかもしれない。

ログインしてみると、どうやら「試写室」毎のチームに既に割り振られているようで、我々のチームはVES側の人も含め、全部で9人(本当は、あと数人が参加だったが、都合によりキャンセル)。なんだか、いつもの在宅Zoomミーティングみたいな雰囲気である。VES側の司会進行役が1人、メディア再生担当者が1人、ITサポート担当者が1人、そして筆者を含めた残りの6人が審査員である。

まず最初に専用のメディア再生サイトへの接続テストを行うが、ネット環境によっては動画がフリーズしたり、エラーが出たり、音声が出なかったりと、まぁ「オンライン・ミーティングあるある」のような、ありがちな初期トラブルが起こる。ここで、各自が設定やブラウザを変えてみたり、エラーの回避方法を教わったりという調整があり、準備が完了。

我々のチームは、今回2カテゴリーの審査を担当した。どちらも応募作品の本数が多い。途中、サーバー側で動画がうまくロードされなかったり等の細々したトラブルもあったものの、全て対応可能な範囲で、審査自体は大変スムーズに進んだ。投票も、専用リンクのフォームから作品名に「V」を入れて送信するシンプルなもの。「同点」を調べる集計も短時間で完了し、我々のチームは全4時間程度で全プロセスを完了する事ができた。

ノミネート作品を絞り込む審査員の面白さとは

審査員をやってみると、そこには独特の面白さがある。

・選考して絞り込まれる前の、さまざまな応募作品を観る事ができる
1つのカテゴリーには数多くの作品がエントリーされるので、アメリカだけではなく、日本や韓国、ヨーロッパの優れた作品などを一同に観る事ができるのは興味深く、貴重な体験である。筆者の場合、日頃あまり目にする機会がない作品などを、VESアワードの審査員をした事によって知るケースも多い。もしかしたら、日本からVESアワードに応募すると、例え受賞には至らなくても審査をするVES関係者の目に止まり、それが将来ビジネスチャンスに繋がる可能性が秘められているかもしれない。

・Before/After
Before/Afterはいわゆるメイキング映像の事である。これを観ると、中には予想外の手法で作られて驚いたり、撮影ステージ上でのクルーの苦労や奮闘ぶりが写っていて思わずニンマリしてしまったりと、審査自体の参考となるのはもちろんの事、何かと勉強になる点も多い。またスタジオによっては、映画賞を意識し、Before/Afterをナレーション入りでかなり気合を入れて作っていて、感心させられる事もある。

・業界内のコネクションが築ける
毎年審査会に参加していると、自然に知り合いも増えていく。筆者自身も、ある時担当した映画のスタジオ側のVFXスーパーバイザーがVES繋がりの顔見知りで、意思疎通がスムースに進んだ経験などがある。この審査選考会で毎回顔を合わせる人も多い。コネクションを築く場としても活用できると言えそうだ。

アメリカのポスプロ
アメリカのポスプロには、試写や編集で訪れるクライアントのために、ロビーやキッチンにお菓子やスナックを常備している事が多い。VESのノミネーション選定審査会の当日、キッチン・エリアにあった「食べないで」の張り紙が笑えた。まぁ、お客さん用だもんね(笑)(画像は昨年の審査会で筆者撮影)。

ノミネート作品はこれだ!

こうしたプロセスを経て審査された作品がノミネート作品に選定される訳だが、3月2日、VESは第19回VESアワードのノミネーション作品を発表した。

今回のノミネート作品を見渡してみると、「マンダロリアン」(Disney+)が強く、13カテゴリーでノミネートされている。ピクサーの長編アニメーション「SOUL」も5カテゴリーでノミネートされ、アニメーション映画関連部門でリード。「プロジェクト・パワー」(Netflix)と「魔女がいっぱい」(HBO Max)は、それぞれ3つのノミネートを獲得している。

この後、VESメンバーによるオンラインの会員投票(3月8日~22日)を経て、全25カテゴリーの受賞作品が決定される事になる。第19回VESアワード授賞式は、バーチャル&ストリーミングで開催される予定だ。タイムゾーンに応じて、4月6日もしくは7日にストリーミング配信される。この授賞式の模様も、本欄でレポートさせていただく予定である。


WRITER PROFILE

鍋潤太郎 ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。


[ Writer : 鍋潤太郎 ]
[ DATE : 2021-03-15 ]
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