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今年のSXSWでは、VRChatの世界に再現されたバーチャルなオースティンの街中で、世界中からの参加者と交流するSocial VRが話題となりました。私も実際に体験しましたが、アバターはアニメキャラクターや動物、ロボット等から自由に選択でき、それぞれ非現実的な格好でありながら、会話時のジェスチャーや距離の取り方からは非常に人間味を感じられ、従来のオンラインコミュニケーションとは異なる感動がありました。

このような「インターネット上のもう一つの世界"メタバース"」という概念は、このコロナ禍で未来のイベント開催の形として非常に注目されています。かつてはSF小説で使われていた言葉が、今年のSXSWでは既に実現されつつあるテクノロジーとして、非常に現実味をもって扱われていました。それを象徴するように、VR空間内ではない通常のカンファレンスセッションでも、メタバースを取り上げるセッションが数多くありました。

今回はそれらのセッションをピックアップし、各業界がメタバースにどの様な可能性を感じているかを見ていきたいと思います。

イベント×メタバース | まだ理想の10%しか実現できていない

No Spectators: Community-Built Virtual Multiverses | SXSW 2021

2020年にオンライン開催されたイベント"Burning Man" "C2 Montreal" "Block by Block West"それぞれの主催者によるパネルセッション。昨年からのコロナ禍で様々なイベントがオンライン開催の可能性を模索し、いくつもの挑戦的な方法が試されました。

Burning Manはイベントコミュニティに対して、オンラインイベントが開催可能なプラットホーム開発を呼びかけ、結果的に8つの仮想世界「マルチバース」が作られました。参加者はスマホからVRヘッドセットまで、自分の好きな方法で参加でき、それぞれのプラットホームで異なる体験が用意されました。

一方、ゲーム好きのバンドマンによって企画されたBlock by Block Westは、オンライン音楽フェスのプラットホームとしてMinecraftを利用。Minecraftの世界内に複数のステージを作ってタイムテーブルを公開し、好きなバンドのライブを他のオーディエンスと一緒に楽しめる環境を用意しました。どちらのイベントもオンラインで失われがちな参加者同士の交流や、その場の盛り上がりを再現する事を目的にしていましたが、まだまだ理想の10%程度しか実現できていないそうです。これからテクノロジーが進化し、プラットホームの機能が強化されていく事で、残り90%が可能になるメタバースの今後への期待を語りました。

ファッション×メタバース | 期待される美意識や業界の変化

Out of This World: Fashioning the Metaverse | SXSW 2021

VRドキュメンタリー作家のNonny de la Pena氏と、バーチャル空間で身に着ける洋服専用のファッションブランド"The Fabricant"によるセッション。

バーチャル世界におけるアバターには、性別や体格など現実世界の身体的・社会的な制限とは無関係に、誰もが自由に自分自身を表現できるという利点があります。ファッションとは自己表現の方法であり、その点でメタバースとは非常に相性が良いと言えます。もしかすると、メタバースが浸透する事で、ファッションモデルに求める理想像や人々の美意識にも変化があるかもしれません。

また、現実に存在する洋服は素材や身に付ける人間の形にどうしても囚われてしまいますが、バーチャルになる事でその制限が取り除かれ、ファッション=アートとしての表現の可能性が広がり、これまで考えられなかったような洋服が生まれてくると言います。人々の活動の場がリアルからオンラインに移行するにつれて、ファッションの活躍する場所もリアルからオンラインに変わってくるでしょう。そうなるとバーチャルクロージングの権利をブロックチェーンで管理し売買するといった、今後必要となってくるであろう新しい制度や規制についても議論されました。

SNS×メタバース | 現実と同じくらい安全かつ多様な空間づくり

What’s Next in Social? Enter the Metaverse | SXSW 2021

現在のSNSのようなオンラインで誰かと繋がる仕組みが、メタバースの世界ではどの様に実現されるべきかが議論されたセッション。FacebookのVRプラットホーム"Horizon"の開発者や、Minecraftのマーケティング担当者が登場しました。

これからメタバースが広く普及するためには、誰しもに開かれたポジティブで安全なコミュニティを作る必要があります。そのためには、不審なユーザーをブロックする機能だけではなく、周囲の危険を察知して自動的に守ってくれる「セーフティーバブル」のような機能も必要になるのではないか等の議論がされました。また、現実よりも自由な自己表現が可能なバーチャル世界では、それが受け入れられるために、よりインクルーシブ・ダイバーシティな視点が求められます。

さらに、メタバースへの期待感には現実逃避という目的も大きく、ゲームや遊びの要素も重要だと言います。現実とは異なるもうひとつの世界という役割を与えるためには、このような様々な要素を考慮した上で、人々がアクセスしたくような機能を持つプラットホームを開発する必要があります。特にZ世代の若者はオンラインとリアルの友人関係を区別しないと言われており、メタバースの登場によって、誰かと繋がりたいという欲求が変化していく未来が訪れるかもしれません。

まとめ

未来のプラットホーム構築に向けた様々な議論が活発になっている事から、メタバースについてはまさに今が時代の転換期と言えるでしょう。今年のSXSWで議論されているような課題が、メタバースが実現した後には大きな社会問題となっているかもしれません。やがて訪れる未来の便利なバーチャル世界の登場を待つだけではなく、そこにどんな可能性や課題があるのかを想像し実践する事によって、私達もより良い未来に向けたマインドセットをしていく必要があると、SXSW 2021を通して感じました。

SXSW Online 2021の多くのコンテンツは、アーカイブとしてSXSWの公式YouTubeアカウントに順次アップされており、誰でも無料で視聴可能です。SXSWに参加された方は見逃したセッションの復習として、参加されていない方も是非SXSWでどのようなトピックが議論されているのか、この機会に覗いてみてはいかがでしょうか?

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WRITER PROFILE

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

イノベーションリサーチとコンセプトデザインが強みの未来像をつくる専門会社。SXSW Japan Officeとしても活動中。