学校の廊下がうねりだし、答案用紙が逆風に煽られて舞う中、主人公・中島セナは親友のもとに駆けていく。話題のポカリスエット新CM「でも君が見えた」篇は、大胆なアイデアと、大掛かりな美術セット(しかも動く)が効いた感動の一篇。しかし撮影部にとっては難易度の高い現場になることは必至だった。数々の逆境にも負けず、アイデアを増幅させるべく切り取った60秒の舞台裏を撮影監督・岡村良憲にインタビュー。

dir:柳沢翔 DoP:岡村良憲

3つの"アゲンスト"を超えていく

その一「どうワンカットに見せるか」

──これまでも柳沢監督とタッグを組んできた岡村さんですが、本作の演出アイデアを聞いた時の第一印象は?

岡村氏:

絵コンテをもらって「今回もまたすごい企画を考えて来たな」と(笑)。

──撮影技師として、どこにゴール設定をおきましたか?

岡村氏:

①ファンタジーの様な世界をどこまでリアルに撮影する事ができるか
②どうワンカットに見せるか
③主演の中島セナさんの表情の変化などをいかに捕らえて表現できるか
この3つのポイントが鍵だと感じました。その上で、撮影手法の打ち合せからはじめたのですが、まず議題に上がったのは「カメラの動かし方」です。あの大きくて動く起伏のある美術セットの上を、最初は主人公を引っ張り、途中から追いかけながら全速で走りながら撮影する。さらに次のシーンでは宙を舞う2人の周りを…と続く。それをワンカット風に見せる、なかなかの挑戦ですがワクワクしかなかったですね。

──具体的にどのようなセッティングで挑みましたか?

岡村氏:

最終的に、廊下の大きな起伏を超えて藤棚を駆け抜ける所は「DJI Ronin 2」と言うジンバルにカメラを載せて、それをステディカムオペレーター2人掛かりで持つ事にしました。カウントに合わせ被写体を見ずに前を向いて走ってもらい、フレーミングは僕がセットの外からリモートでオペレートしています。
主人公が友達と出会う講堂のシーンは、別のスタジオにセットを組んでいて、今度は僕が1人でカメラを持ちオペレートしています。ここは被写体に合わせ直感的にカメラを動かしたかったので、それがベストだと判断しました。人の手でカメラを持って走る事で、熱量がある画になったと思います。ドローンや撮影用クレーンではできない動きです。監督の演出的な意図にも沿っていたと思うので、やはりこの方法以外無かったと確信しています。

──今回「Sony VENICE」を選択されたことで、これらのカメラワークにどう影響しましたか?

岡村氏:

特に講堂のシーンやラストの飲みカットの接写では、「Sony VENICE」だから上手くいったとも言えます。このカメラは本体とセンサーを切り離す事ができるので、講堂のシーンでは「DJI Ronin-S」にセンサーとレンズ部分のみを載せ軽量化したものを手持ちしました。
カメラ本体は背負うことで、かなりオペレートがやりやすくなったので、ワイヤーワークで宙を舞う2人の激しい動きにも対応する事ができました。商品ボトルの接写もカメラをコンパクトにしたことで近距離での撮影がしやすかったですね。

──撮影日は2日間で、1日目は動く廊下の撮影、2日目が藤棚と吊りのある講堂の撮影だったそうですが、場面ごとに撮影しながら実際はワンカットのように見せる難しさはどんなところにありましたか?

岡村氏:

最後の飲みカット前まではワンカットに見せていますが、今回は3つのカットを繋ぎ合わせています。廊下、藤棚、講堂ですね。ワンカットに見せる場合、つなぎ目がバレてしまうと見ている人の作品への感情も止まってしまいます。なので人の思考をいかに騙せるかみたいなところがあって、ある意味新しいマジックを発明するような作業です。撮影者としてはとても楽しい部分でもあります。
ただ、手持ちの画をつなぐのはとても難しいんです。過去にも柳沢監督とは「GRAVITY CAT」というCMで、手持ち撮影のカットをつないだワンカット風撮影をしているのですが、「でも君が見えた」篇では同じことをしたくなくて、それとは全く違う技法を考えました。これはポスプロの編集部とのチームワークが必須で、その綿密なやり取りの成果が出ていると思います。

その二「リアルに撮影する」

"あの奇妙な生っぽさとか、パースの付き方ってあのワイドレンズでないと出ないんですね。そこに岡村さんチームのテクニック。あれを撮るのすごく難しいんです。──柳沢監督"

──うねる廊下などファンタジーな設定を"リアリティのある画"でカメラに収めるのが、ゴールのひとつということでしたが、どう解決していったのでしょう?

岡村氏:

リアリティを感じる映像ってどういうことだろうという議論があり、今の僕たちが何に一番それを感じているかと言うと、普段使っているiPhoneで撮った動画。これが一番身近で現実味があるのではないかと着想しました。それでワイド感のある手持ち撮影にたどり着きました。

──使用したレンズを教えて下さい。

岡村氏:

選んだレンズは「Zeiss9.5mm」。監督との打ち合わせでワイドレンズでいくと話し合っていたので、テスト撮影で何種類かレンズを試した上で決めました。このレンズはワイドレンズ特有の歪みが少ないのが特徴です。美術セットがすでに歪んでいるので、それをレンズで相殺してはいけないと考えました。
「Zeiss9.5mm」のイメージサークルはSuper35mm用(VENICEで約4K)でしたが、撮影素材の余白が欲しくて、35mmフルサイズ(VENICE 6K)で収録しています。そうなると画面四隅にレンズのケリが出てしまいますが、監督からはさらにワイドが欲しいとの事で、任意で使えるギリギリまで画角のラインを広げています。なので正直、今回の正確なレンズミリ数と解像度は分かりません(笑)。

"美術をはじめ、すごくファンタジーな世界なので、撮影方法はラフな感じをイメージしていました。ケミカル・ブラザーズの 「Let Forever Be」のようなラフさと生っぽいカメラワーク。岡村さんからの画角のアイデアにインスピレーションをウケたところが大いにあります。──柳沢監督"

その三「役者の表情の変化をとらえる」

ポカリスエットweb movie「Behind the Scenes of POCARI SWEAT」

"被写体とレンズの距離によって、被写体の顔がすごく小さく映ったり大きくなったりしちゃうんです。しっかりととらえるには技術が問われます。それだけでなくて、レンズの歪みもあれば、うねうねの廊下を追走して撮影もしないといけない。難易度はかなり高い。──柳沢監督"

──岡村さんとして、主演の中島セナさんの表情を収めていくにあたり、特にこだわったことは?

岡村氏:

カメラアングルも大事ですが、当然撮影には光が重要です。本篇の中で中島セナさんの表情の変化がよく分かる所が主に4ヶ所ありますが、それぞれの箇所で彼女の感情に寄り添った表現をライティングでもしています。太陽光のリアリティにも拘りたいと言う意味でオープンセットという意見もありましたが、美術セットの規模感、仕掛け、準備から撮影までの時間、撮影内容を考えると、とてもじゃないけどオープンセットは無理な選択でした。
照明で太陽の光を作っていくという選択に必然的になりますが、全長85mもあるセットに対し、スタジオ内で太陽の陽射しを作るには、かなりの台数のライトを並べつなぎ合わせ、ひとつの光源に見せる必要があります。これは照明技師の高倉進さんの得意とするとこでもありました。それに対しカメラ側でも工夫をしていて、ISOを2500の高感度にしています。
VENICEにはベース感度を上げるDual Base ISOという機能があるのですが、この高感度は何度も使っていて信頼できる事を確認していました。高感度にする事によって照明の光量を減らし、膨大な数のライトの予算を抑えるようにしています。
そういった環境を整えた中、被写体に対する光、レンズフレアやハレーションをコントロールしていきました。監督の目指す作品の世界観を表現できたかなと思います。ちなみに、最後の商品を飲むシーンだけは野外で実際の太陽の下撮影しています。

──カラーグレーディングで目標とした質感は?

岡村氏:

そうですね、絵画的で水彩画と油画の間の様なトーンですね。僕はビデオカメラで撮影する時はだいたいフィルム粒子をのせています。詳しくは言えないのですが、今回は少し変わった方法で新たに粒子を作りのせています。画作りという面では、それが上手くハマったのではないかと思っています。

"僕は岡村さんに育ててもらった感覚があるんです、勝手に。たくさんの才能ある監督さんとすばらしいお仕事をされているので、おこがましいのですが。──柳沢監督"

──ありがとうございました。大仕事を終えての感想をお願いいたします。

岡村氏:

どこを取っても難易度が高い撮影でした。ですが苦労も含めとにかく楽しかったですね。各部所との綿密な打ち合わせを何度も経て、撮影本番では全スタッフが一丸となり気持ちの高ぶった、とても美しい現場だったと思います。

WRITER PROFILE

山本加奈

編集/ライター Editor RESFESTやwhite-screen.jpを通して、才能の発掘や国内外の映像文化の架け橋となるべく活動。「NEWREEL.JP」編集長。