TV-CMなど映像編集のポストプロダクション業務をメインに行う株式会社スタッド(STUD Co., Ltd.)。最近ではsync.devというチームも立ち上げ、Unreal Engineを使ったリアルタイムビジュアライゼーションも手がけている。

今回、STUDが海外プロダクションとTV-CMのポストプロダクション業務をリモートで行い、そのオフライン作業にAMD Ryzen Threadripper ProとDaVinci Resolveを組み合わせたワークフローを採用したという。STUDの代表である岡田太一氏に今回のワークフローや機材選定などについてお話を伺った。

STUD Co., Ltd.代表 岡田太一氏

岡田太一|プロフィール

1982年生まれ。テクニカルディレクター/フィルムエディター。CGIジェネラリストからキャリアをスタートし、フィルムエディターに転身。CM業界において一通りのポスプロ工程を経験し、2012年STUD Co., Ltd.設立。2019年R&Dチームsync.devを設立。以降映像制作だけでなくUnity/UE4によるリアルタイムCG案件をメインに、バーチャルプロダクション関連の構築、R&Dに注力。

リモート制作でもAMD Ryzen Threadripper Proが選ばれる理由は「安定性」と「信頼性」

――岡田さんはRyzen Threadripperシリーズユーザーだそうですが、Ryzen Threadripper Proの導入経緯や、気に入っているポイントを教えてください

元々、Ryzen Threadripper 2990WXを使用していましたが、リプレイスする製品をずっと考えていました。Ryzen Threadripper Proはさらにエンタープライズ向けの製品で、かつPCI Expressレーン数がRyzen Threadripper 2990WXで64レーンでしたが、Ryzen Threadripper Proでは128レーンになっており、導入(移行)を決めました。

PCI Expressレーンが128あると、どれだけたくさんのことができるようになるだろうとワクワクしていました。

リアルタイムCG向けに導入してマシンを組み立てていましたが、Ryzen Threadripper Proが万能なので、業務内容的にはなんでもこなせるだろうと思いました。

岡田氏が導入したRyzen Threadripper Pro製品一覧

Spec Sheet 3995WX 3955WX
CPU Ryzen Threadripper Pro 3995WX Ryzen Threadripper Pro 3955WX
CPU Core 64Core / 128Thread 16Core / 32Thread
MB Supermicro M12SWA-TF Supermicro M12SWA-TF
RAM DDR4 3200 256GB
(32GB×8)
DDR4 3200 64GB
(8GB×8)
Memory Channel 8 8

――今回のTV-CM案件でRyzen Threadripper Proを使用して、業務の効率化やマシンとの相性はいかがでしたか?

現在制作しているTV-CM案件で、まさにRyzen Threadripper ProのPCI Expressレーン数の多さで非常に助かったこと、利点が2つあります。

1つ目は、ストレージの処理速度が速いことです。ベンチマークソフトのCrystalDiskMarkでスピードテストをしたところ、読込速度が25GB/sと、私の人生の中で一番速い数値が出ました。純粋に撮影素材のコピーが速いです。

映像編集の素材は何百GB〜何TBと膨大ですが、そのコピーが速いです。コピー元のマシンも処理速度のスピードが求められますので、正直この性能を最大限活かしきれるマシンはなかなかないかもしれません。

CrystalDiskMarkでのスピードテスト結果

しかし、素材再生の時に処理速度の速さが利いてきます。今回のTV-CM案件では、おそらくRAWファイルの中で一番容量が重いであろう、ARRI RAW(2.8K)をレンダリングしていない状態でタイムラインに並べてもスムーズに再生できました。

非常に助かったのは、今回Proxyファイルをほとんど使用しておらず、撮影素材をそのまま取り込んで、編集しています。今回はアメリカで撮影を行っているので、海外プロダクションを通して撮影部とコミュニケーションを取っており、「Proxyファイルをこう作ってください」「オフラインメディア作ってください」などといった細かい指示で不安がありました。

実際、指示を出してやっていただきましたが、今後のことを考えるとそのままRAWファイルで作業を進めたほうがいいかなと思い、実現できてしまったことが素晴らしいです。

    
DaVinci Resolveでの編集画面
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2つ目は、今回DaVinci Resolveで編集を行いましたが、先述の通り元々はリアルタイムCG用用途で組んだシステムだったので、AJA Corvidを挿していました。AJA CorvidではDaVinci Resolveが動かないため、Blackmagic Design DeckLink 8K Proも同時に挿しました。

相性などの問題があるため、普通のマシンでは怖くてあまり両方を同時に挿すことは行いません。Ryzen Threadripper Proなら問題ないだろうと確信し、同時に挿してみたところ、予想通りなにも不具合なく動作しています。マザーボードとCPUのレーン数が十分あり、チップ設計もしっかりしているので、信頼性もあります。

マシンにはAJA CorvidとBlackmagic Design DeckLink 8K Proが両方接続されている

AMD Ryzen Threadripper ProとDaVinci Resolveの組み合わせで制作業務の効率化を実現

――TV-CM案件で採用したRyzen Threadripper ProとDaVinci Resolveを組み合わせた制作ワークフローの詳細を教えて下さい

編集作業(オフライン)をリモートで画面を共有しながら行いました。リモート編集にはeditleapというサービスを利用しており、SDI出力画面も表示できるため、別途ZOOMで会議しながら、監督に映像を飛ばして確認をし、作業が終わったらクライアントや代理店などの関係者チェック用にmp4に書き出しました。

弊社は今回基本的にオフライン作業のみで、グレーディングはアメリカで行うため、グレーディングを行う会社にDaVinci Resolveのプロジェクトファイルを渡す予定です。グレーディング後は別のポストプロダクションに郵送でHDDが届き、オンライン編集、完パケ・納品となります。

編集作業はリモートで行い、実際にマシンの前で作業していません。今回はプロダクションがアメリカのため、時差の関係でどうしても自宅から深夜作業になることが多く、MacBook Proを自宅に持ち帰って作業していました。

    
※画像をクリックして拡大

――今回編集作業をリモートで行った際、Ryzen Threadripper Proの有効性を感じた部分はどこでしょうか?

やはり安定性です。リモートデスクトップで会社にあるマシンを動かしているので、手元にマシンがないとPCが落ちた時には出社して復旧しなければなりません。そういった意味でも手元にマシンがないのはすごく不安なことです。監督にも画面をリモートで飛ばしているので、映像の確認中にマシンルームのPCが落ちてしまうと、作業が中断され、謝ることしかできません。

現在電源を一ヶ月程度ずっと入れたままにしていますが、落ちることは一回もなく、安定した運用を実現できています。毎日電源を落とすような普通のワークステーション的な使い方ではなく、サーバーマシンみたいな感じで使用しています。

これはOS側のメンテナンスなども関係しますが、Ryzen Threadripper 2990WXよりもRyzen Threadripper Proのシステムの方が安定感が向上していると思いました。

AMD Ryzen Threadripper Pro導入による業務環境の向上

――Ryzen Threadripper Proの処理速度などからコストパフォーマンス部分はどう感じていますか?

ある意味、並ぶ製品があまりないのでコストパフォーマンスを算定することは難しいです。弊社は「64コア/128スレッド」(Ryzen Threadripper Pro 3995WX)と「16コア/32スレッド」(Ryzen Threadripper Pro 3955WX)の2モデルを導入しましたが、16コアのコストパフォーマンスは良いと思います。64コアと比べるとコア数が1/4だから性能も1/4と思われるかもしれませんが、そうではないです。16コアとコア数が少ない分、クロックが高く設定されているため、シングルスレッド性能が高く、大抵の用途だとそんなに性能は落ちません。

いわゆる、3DCGのレンダリングのように全コア走る時には64コアの方が絶対的に速いですが、DaVinci ResolveやAdobe Premiere Pro、After Effects、Unreal Engineでしたら、よっぽど容量の大きい作業じゃない限りは16コアも64コアより少し遅いくらいです。個人的には、今後8コアモデルが発売されるといいなと思っています。

――CM案件だけでなく、3DCGやリアルタイム合成、バーチャルプロダクションなど、色々な映像制作に携わっているかと思いますが、今後Ryzen Threadripper Proを活用したい制作や案件はありますか?

Ryzen Threadripper Proは本当に万能なのでどんな案件でも使い勝手がよいのですが、ストレージ性能を考慮すると、8K60p非圧縮の案件などで性能を発揮するのではと思います。Ryzen Threadripper 2990WXで8K60p非圧縮の作業を行った際にも基本的には問題ありませんでしたが、1ストリーム流すのが精一杯でした。その時はPCI Express 3.0×4のM2 SSDの4枚をRAID0にして10GB/s出ないぐらいでした。8K60p非圧縮だと大体素で7GB/sぐらい消費するので、少し止まるとコマ落ちすることがたまにありました。なので、プレビューチェック用にしか使用できないところはありました。

Ryzen Threadripper Proであれば、ストレージパワー的にはRyzen Threadripper 2990WXよりも上位機種なので、もっとゴリゴリの編集作業にも対応できるかと思います。ただ、その処理に編集ソフトウェアがついてこれるかという問題はありますが…。EXR連番素材で使ってみたいですね。

以前行った8K60p非圧縮案件はDPXの連番ファイルでしたが、CG系の合成素材だとEXRファイルが多いです。EXRファイルはマルチチャンネル構造と呼ばれ、1ファイルの中にレイヤーみたいなものがたくさん入っているので、HDや4Kで1ファイルあたり百何十MBです。8Kだと1ファイル1GBぐらいになるかもしれないので、それとRyzen Threadripper Proのコア数を組み合わせることでどこまでいけるかは試してみたいです。そういう意味では、8K60p HDR対応のソフトウェア「Mistika」との組み合わせがおもしろいかもしれませんね。

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編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。