記事のタイトル

前回は、エアコンなど定常的な背景ノイズをノイズ除去フィルターで消す方法を紹介した。今回は、不必要な突発的なノイズ、例えばマイクが何かにぶつかった音やカラスの鳴き声の消し方を解説しよう。

音もレタッチできる

写真では不必要なゴミをレタッチで消すことができるが、音も同じように不必要な音のゴミを消すことができる。そのために、音の編集アプリが必要になる。今回は、AdobeのAuditionを使って音のゴミを除去する過程を紹介することにしよう。

まず、Auditionについて簡単に説明しておくと、Adobeのマルチメディア関連のアプリの1つであり、音に特化した音編集アプリだ。俗にDAWと呼ばれるものである。他社ではAvidのPro Toolsが有名だが、AuditionはPremiereからダイレクトに呼び出すことができ、Premiereでは解決できない音の処理をAuditionで修正し、そのままPremiereのタイムタインで受け取ることができる。つまり、Auditionは、Premiereのプラグインの進化版のような動作もしてくれる。

音の仕事をする場合、Auditionに動画ファイルを読み込んで、音だけを加工修正している。また、PremiereのプロジェクトをそのままAuditionで読み込むことができて、Auditionで整音やノイズ除去を施し、それをそのまま映像編集を行う技術者へ戻している。

Auditionにおける音のレタッチとは

音のレタッチに付いて解説したい。ここではAuditionの使い方については詳細は語らないが、まずはAuditionで何ができるのかを把握していただければ幸いだ。

まず、AuditionにMP4などの映像ファイルはWAVを読み込む。Auditionには3つのモードがあって、映像編集アプリのタイムラインに似ている「マルチトラックセッション」モード、個々の音声ファイル(もしくは動画ファイル)を加工する「波形編集」モード、そしてオーディオCDを作るための「CDレイアウト」だ。音の加工では、主に「マルチトラックセッション」で複数の音声ファイルを並べて(動画編集とほぼ同じ)、個々の音声の修正加工は「波形編集」モードで行う。

Auditionのマルチトラックセッションモード

実際には、マルチトラックのタイムライン上にある音声ファイルをクリックすると、波形編集モードに切り替わり、個別の音声が編集可能になる。

Auditionの波形編集モード

波形編集モード(波形ビュー)では、通常よく見かける音の強弱を表す波形と、どんな音が含まれているかを表示してくれる「周波数スペクトル表示」がある。音のゴミを除去するのに使うのが、この周波数スペクトルだ。俗に声紋と呼ばれる表示方法である。

横軸は時間(タイムライン)で、縦軸は周波数、波形の色が音の強さになる。小さな音は暗く青色、音が大きくなるにつれて赤く変化し、最大音量は白くなる。低い声だと波形は下の方が濃い色となり、高い声だと上の方が濃い色となる。正門とはよく言ったもので、波形が文様を作り、この形で音色がわかるのだ。

音のゴミを消してみよう

実際に音のゴミを消してみよう。写真のレタッチと同じで、ゴミを消しゴムで消したり、ブラシ(自動修復ツール)でぼかすことで、ゴミを軽減したり消したりすることができる。ただし、消してしまうとその部分の周波数が聞こえなくなってしまい、音質が大きく変わったり、声が聞こえなくなったりするので、使い方にはコツがある。

まず、マイクが何かにぶつかったり、息を吹きかけてしまった時に生じるポップノイズだが、これは比較的簡単に除去することができる。これらのノイズは低周波ノイズなので、波形の一番下にノイズが黄色く表示される。黄色から白というのは非常に大きな音であること示しているのだが、マイクがぶつかったり、ポップノイズが発生するというのは、実は非常に大きなノイズ(音のゴミ)だということがわかる。

音のゴミは縦模様になる

実際に除去するには、スペクトル波形からノイズを見分けることがスタートだ。まず、適正音量の素材では、ノイズは黄色に見える。もちろん、大声も黄色になるので、黄色が全部ノイズというわけではない。小さな音のノイズは黄色になっていないので、単に色を見てノイズかどうかを判断するわけにはいかないが、音を再生してみて、ノイズ部分の色の分布を見ると、なんとなく色とノイズの関係がわかってくると思う。

見分け方の基本を解説すると、ポップノイズ(マイクに息を吹きかけてしまった音)の場合、波形表示の一番下に黄色い点として見える。これは比較的簡単に除去することができる。マイクが何かにぶつかった音も同様だ。

結構厄介なのがマイクが風に吹かれた時の風切音だ。ポップやぶつかった音は、ほとんどが超低音なので、そこだけ消しゴムで消せばいいのだが、風切音は、全周波数にノイズが分布していて、消すのが難しい。風切音は非常に短い一瞬の音の繰り返しだ。スペクトルで見ると縦縞になる。ちなみに、人の声だとかカラスの鳴き声というのは、横帯状の縞に見える。

自動修復ツールで擦って消せ

実際のノイズの消し方だが、Auditionにはいくつかのツールが用意されている。1つは長方形のエリア選択ツールで、マウスを使って消したいエリアを四角く囲い、デリートキーでその部分を消すことができる。

この辺りはPhotoshopに似ていて、選択したエリアにだけフィルターを適応することもできる。同様に、投げ縄ツールもあり、任意の形で切り抜くことができる。また、選択エリアは反転も可能で、選んだ部分を残して他を消すということもできる。

しかし、四角選択や投げ縄は、その部分が完全に消えてしまい、音質がわかってしまうので使いにくい。低音部分のポップやぶつかった音であれば、このツールを使うのが楽だろう。

通常は、ブラシツール(不透明度を設定できる)を使う。ぼかしのブラシだと思うといいだろう。これは選択したエリア(筆の跡)を不透明度に応じて徐々に消す(音を小さくする)ことができる。エリア選択したら、デリートキーを押すだけだ。透明度を高くしておいて、同じ場所を複数回に分けて処理するとこで、音質を保ちつつノイズ除去ができる。

以上、四角選択にしてもブラシツールにしても、スペクトル波形でノイスがどこにあるかがわかりやすい時に使うべきツールだと言える。なぜなら、その部分の全ての音を消したり軽減してしまうからだ。例えば、ノイズと人の声が同じ周波数(音の高さ)の場合、ノイズだけでなく声も消えてしまうのだ。

自動修復選択

そこで、実際に私が通常使っているのは自動修復ツールだ。これもブラシ状になっていて、擦った部分から瞬間的に発生しているノイズだけを消してくれる。まぁ、仕組みは不明だが、さまざまな種類のノイズを消してくれる便利なツールである。筆を太くして、大雑把にノイズのある部分を選択するだけで、かなり綺麗にノイズを消してくれる。このツールは筆で触っただけで、自動的に適応されるので、先程のようにデリートキーを押すという操作は不要だ。

ノイズ除去後

風切音の修復は難しい

自動修復ツールは非常に便利で、大抵のノイズは効果的に消してくれるのだが、結構厄介なのが風切音だ。風防を付けずに録音してしまった時に生じた風切音は低音から高音まで満遍なくノイズが入ってしまうので、風切音だけを消すのは非常に手間がかかるのだ。

実際には、先程の自動修復ツールを使って、風切音のある部分全体を覆うように選択する。まずは、筆先を最大(99)にしてやってみるといい。全体を選択してダメな場合には、UNDO(やり直し)で元に戻して、筆を細くしてやってみるといい。前述したが、ノイズは黄色く見えるので、黄色い縦縞を消すつもりで自動修復ツールを使うのがコツだ。

音編集はオリジナルファイルを上書きしてしまう

最後に注意点を書き添えておく。Auditionに限らず、音編集アプリは、ビデオ編集アプリと違ってオリジナルファイルに手を加えてしまうので注意が必要だ。Auditionの場合、マルチトラック編集モードの場合にはビデオ編集アプリと同じでオリジナルファイルを加工してしまうことはないのだが、波形編集モードではオリジナルファイルを上書きしてしまう。

上書きされてしまうと元に戻せないので、細心の注意が必要だ。上書きでオリジナルファイルが失われないように、オリジナルファイルはコピーを取っておく必要があるということだ。

まとめ

波形編集に慣れてくると、スペクトルの模様を見るだけで、それが人の声だとか、車の走る音だとか、エアコンの音だとかというのが判るようになる。この連載の前号では、クロマノイズ除去を紹介したが、自動修復ツールは、さらにノイズのターゲットを絞ってノイズを消すことができる。

慣れると、公園での撮影で、役者のセリフの後ろで遠くの子供たちが遊んでいる声だけを消すこともできるようになる。河原での撮影では、トランペットの練習している音だけを消したこともある。ただし、非常に手間がかかる作業なので、やはり撮影時にノイズが入らないことを心がける方がいい。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。