Courtesy ACM SIGGRAPH

はじめに

我々VFX屋がSIGGRAPHに参加して、とりあえずは外せないのがエレクトロニック・シアターである。ここでは、世界中から応募された膨大な作品の中から、審査員によって選び抜かれた作品だけが一挙上映される。まさに全世界のCG/VFX業界における「過去1年間のハイライト作品」が楽しめる場でもあるのだ。

エレクトロニック・シアターは、アカデミー賞でお馴染み米国映画芸術科学アカデミーより「アカデミー賞 短編アニメーション部門 ノミネート作品の選考対象となるフィルム・フェスティバルの1つ」として認可されており、1999年以降、このエレクトロニック・シアターで上映された数々の作品が、アカデミー賞の短編アニメーション部門でノミネート、もしくは受賞を果している。

今年の傾向

それではさっそく、今年の傾向を、筆者独自の視点から解析してみる事にしよう。

コロナの影響により、エレクトロニック・シアターは今年もバーチャルにて開催された。また、今年初めての試みとして、チケットが初めて一般にも販売された。つまり、SIGGRAPHのコンファレンスにレジストレーションをしていなくても、誰でもチケットを単体購入出来るという画期的なものある。この試みがどれ程の売り上げに結びついたか、興味深い。また、2種類のプログラムが用意され、通常のエレクトロニック・シアター、もしくはディレクターズ・カットのどちらかを選ぶ事が出来た。

※主催者であるACM SIGGRAPHによると、10月以降にチケット売り上げの最終集計が出るそうである。

この「ディレクターズ・カット」だが、果たして何が違うのだろうか?主催者に聞いてみた。

今回「ディレクターズ・カット」という名称を使ってはいますが、尺や編集が異なるという意味ではなく、通常のエレクトリック・シアターとディレクターズ・カット、この両方で上映された作品については、内容はどちらも同じです。

では、ディレクターズ・カットは何が違うのか?と申しますと、ディレクターズ・カットでは、通常のエレクトリック・シアターのプログラムに新たに11本が追加され、全37本が上映されました。

追加された11本の内訳ですが、今年の応募作品の中から6本を追加、そして2017~2020年の作品から4本を選んでみました。また、メイキング・リール(Electronic Theater Behind the Scenes)も含まれています。 今回2017~2020年の作品4本をディレクターズ・カットに含めた理由は、これらの作品をまだご覧になられてない皆様へ、ぜひご鑑賞の機会を作りたかったという事があります。今回は、2017年から2020年までの受賞作品、特に2020年のアカデミー賞短編アニメーション部門のノミネートされた「One Small Step」も含まれています。

という事だそう。

前述のようにディレクターズ・カット版は上映本数が多く、過去の入選作も含まれている事から、当レポートでは通常のエレクトロニック・シアターの入選作26本について、ご紹介してみたい。

今年は、オーストリア、スイス、ポーランド、米国を含む13か国から400本余りの作品の応募があり、審査員によってエレクトロニック・シアターでの上映作品が選定された。そして、今年は昨年の上映作品数よりも2本少ない、全26本が上映された。

さて、今年の入選作品を国別に見てみる事にしよう。

  • フランス 8(8)
  • アメリカ 8(12)
  • カナダ 3(0)
  • イギリス 2(5)
  • スイス 2(0)
  • オーストラリア 1(0)
  • スペイン 1(0)
  • ニュージーランド 1(0)

※()内は昨年度の本数。比較用に入れてみた。
※複数の国でクレジットされている作品は、最初に記述してある国名を代表国としてカウントした。

集計しながら、「なんだかオリンピックのメダルの個数みたいだな」と思いながら数えていた筆者であった(笑)。

しかし、エレクトロニック・シアターは言ってみればCG/VFX界のオリンピックみたいなものだから、各国の熾烈なバトルの結果を鑑賞できる場、とも言えるのかもしれない。

今年もフランスからの短編作品の入選が多い印象を受けた。もしや、入選本数はフランスがトップなのでは?とも思ったのだが、実際に集計してみると、アメリカも同点の8本であった。今年はスイスやスペイン、オーストラリアからの入選も見られた。日本からは残念ながら入選が叶わなかったが、来年に期待したいところである。

入選作品をジャンル別に比較してみると、今年の傾向が見てとれる。

  • 短編アニメーション(学生作品):12(6)
  • 短編アニメーション:3(7)
  • ゲーム・シネマティック/トレイラー:3(3)
  • サイエンティフィック・ビジュアライゼーション:4(3)
  • VFX2:(5)
  • リアルタイム:1(1)
  • ミュージックビデオ:1(1)
  • 博展映像:1(1)
  • CM:0(1)
  • 長編アニメーション:0(0)

※()内は昨年度の本数。

エレクトロニック・シアターはその性格上、短編アニメーション作品の比率が多いが、今年は短編が昨年の13本より2本増え、全15本が上映された。うち学生作品の短編が昨年の6本から倍に増えて12本(!)だったのは、正直驚いた。学生勢が頑張っているのは喜ばしい限りだが、もっとプロにも頑張ってもらわねば(笑)、と切に思ってしまった。また、学生作品は相変わらずSIGGRAPH常連校からの出展が目立ち、しかもフランスの学校が強い。

テレビシリーズ/ハリウッド映画のVFXリールからの入選は、昨年の5本から大幅減の2本。VFX屋の筆者には少々食い足りない気がした。昨年のVFXリールもFramestore率が高かったが、今年は2本ともFramestoreの作品であった。前述のディレクターズ・カットではDNEGのVFXリールが入っていたのだが……。エレクトロニック・シアターで、もっと他のVFXスタジオのリールも見てみたかった。

リアルタイムは昨年と同じ1本であった。サイエンティフィック・ビジュアライゼーションは、昨年より1本増加の4本が入選。

TVコマーシャル作品は1本も入選していなかった。ユーモアやアイデアに富んだ世界中の楽しいCM作品を観るのを楽しみにしている筆者には、少々残念である。長編アニメーションも今年は0本だった。

…うーむ。あくまでも私見だが、今年のエレクトロニック・シアターのラインナップは少々アンバランスであった。コロナ渦による業界の動向の変化が影響している事も大きいのかもしれないが。

まずは、予告編から。

SIGGRAPH 2021 Computer Animation Festival Electronic Theater予告編

続いて、今年のエレクトロニック・シアターの上映作品を、筆者のひとことコメントを添え、一挙ご紹介してみる事にしよう。

※文中では、上映された映像のリンクを可能な限りご紹介しているが、映像が公開されていない作品については、類似したクリップのリンク、もしくは関連リンクをご紹介している。
※リンクは2021年8月現在のものである。日数が経過すると、リンクが切れる可能性もあるので、ご了承あれ。


What does a virus actually look like?
オーストラリア

いきなり冒頭から、コロナ・ウイルスの視覚化映像。Nanographicsによる作品である。タイムリーなテーマだが、サイエンティフィック・ビジュアライゼーション作品がトップを飾ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。

本編


Stranded
フランス

SIGGRAPH常連校の1つ、フランスのCGスクールESMAの学生作品。自然の描写や、キャラクターのディテールなどが丁寧に作られている。学生作品の水準が年々高くなっている事を痛感させられる。

予告編


The Very Hungry Duck
アメリカ

SIGGRAPH常連校の1つ、アメリカのRingling College of Art and Designの学生作品。絵本風の、一見ほのぼのムードで始まるオープニングだが、プラスチック廃棄物問題について問いかけるストーリーとなっている。

本編


Trésor
フランス

フランスのEcole des Nouvelles Imagesの学生作品。沈没船の船首像をクレーンで引き揚げようとするサルベージ業者と、海中のタコの戦いを描いたコメディ。

予告編


Twenty Something
アメリカ

ピクサーの短編である。ピクサーにしては珍しく、2Dルックな作品である。タイトルの「Twenty Something」とは、日本語でいう「20ウン才」。アメリカでの成人は21歳。その誕生日を迎えた女性の心情を、独特の視点から捉えた作品である。


Louis’ shoes
フランス

フランスのMoPAの学生作品。8歳半になる少年ルイ君が、転校先の学校に到着し、みんなの前で自己紹介を始めるところから物語はスタート。ライティングが綺麗な作品である。


Flora & Ulysses
カナダ

Framestoreによる、ディズニープラスの映画「Flora & Ulysses」のVFXリール。


Signal Lingers
アメリカ

アメリカのSchool of Visual Arts BFA Computer Artの学生作品。 シノプシスによると、「放棄された惑星を復活させ、その活気に満ちた性質を取り戻そうとしている男性の物語」とある。アセットの作りこみや、美しいライティングが印象的であった。

本編リンク


Signs of Life
アメリカ

映画「La La Land」でもおなじみ、LAのグリフィス天文台で上映されているライブ・プラネタリウム・ショーで、今年唯一の博展映像である。8Kのデジタル・プロジェクションシステムで投影される34分間のショーでは、地球上で生命がどのように発達したか、太陽系の他の場所に生命が存在する可能性があるか、太陽系外惑星に生命に適した条件が存在するか、等が紹介される。


Tipping Point
スペイン

UBISOFTによるシネマティック・トレイラー。近未来のロンドンが舞台で、フォトリアリスティックな映像が見応えあり。

予告編


Meerkat
ニュージーランド

Jury’s Choice賞 受賞

Weta Digitalによるリアルタイム作品。ミーアキャットとワシのバトルをユーモアラスに描いた短編作品だが、Unreal Engineを駆使してレンダリングされた。映画並みのクオリティをどこまで実現出来るかがチャレンジだったそう。

これまでリアルタイム作品と言えば、ゲーム系スタジオやデベロッパーからの出展だったが、VFXスタジオからリアルタイム作品が入選した最初の事例ではないだろうか。今年のJury’s Choice賞を受賞。


Unknown 9:Awakening Teaser Trailer
カナダ

Reflector EntertainmentとDigic Picturesによる、シネマティック・トレイラー。インドの街のリアルな描写もさる事ながら、キャラクターの表情も見応えあり。

予告編


Hardspace:Shipbreaker – Opening Cinematic(Early Access)
カナダ

300年後の太陽系を舞台にした、Blackbird Interactiveによる、ゲーム・シネマティック。

本編


Migrants
フランス

Best in Show賞受賞

フランスのPole3Dによる学生作品。今年のBest in Show賞を受賞した作品である。

毛糸を編んだような独特の質感が印象的な、シロクマ親子のお話。Migrantsは「移民」の意だが、流氷で流され、流された先で不遇を受けるという、考えさせられるストーリー。こちらも見応えあり。

この作品は、今年のVESアワードでもOutstanding Visual Effects in a Student Project賞を受賞している。

予告編


Carried Away
フランス

フランスのMoPAによる学生作品。

亡くなった母親の意志を果たそうと奮闘する、敵対関係にある双子の男性2人を描いたダークコメディ。

予告編


PV:The Dangers of Polycythemia Vera
アメリカ

Madmicrobe Studiosによる、真性赤血球増加症を解説する3D医療アニメーションである。


Stormzy – Superheroes
イギリス(2veinte、COMPULSORY)

イギリスの人気ラッパー、ストームジーのミュージックビデオ。誰もが、独自の魅力や可能性を秘めている事を訴えかけるストーリー。

本編


Dead End
フランス

ゲームのシネマティックかトレイラーかと思っていたら、フランスの学校NEW3DGEの学生作品らしい。プロ仕様の本格的なワークフローを採用しており、モーション・キャプチャから始まり、アセットの細部に渡る作りこみや、キャラクターの表情なども完成度が高い。


La vida de una Piñata
スイス

Lucerne University of Applied Sciences and Artsの学生作品。タイトルにも含まれているピニャータ(piñata)とは、メキシコや中南米の子供達のお誕生日などに使われる、中にお菓子やオモチャなどを詰めた紙製のくす玉人形の事である。その人形が、狂暴な女の子から逃げ回る、ドタバタコメディである。

予告編


Tour of Asteroid Bennu
アメリカ

NASA Scientific Visualization Studioによる、サイエンティフィック・ビジュアライゼーション。

NASAの宇宙探査機オサイリス・レックスが2018年12月小惑星ベンヌから持ち帰ったデータと高解像度画像によって再現された、ベンヌの地形のビジュアライゼーション映像である。


Gladius
フランス

今年、多くの作品が入選しているESMAの学生作品。古代ローマで、若き日のコロシアムでの死闘を思い出し苦悩する、主人公の心情を描いた作品。

本編


Only a Child
スイス(Amka Films Productions)

1992年、リオで開催された環境サミットにおける、セバーン・カリス=スズキによる”伝説のスピーチ”をベースに、シモン・ジャンパオロによるスーパーバイズの下、20人以上のアニメーション監督によって作成された映像詩。

予告編


The Midnight Sky
イギリス

Framestoreによる、Netflix映画「The Midnight Sky」のVFXメイキング・リール。

予告編


Super Generic
アメリカ

Ringling College of Art and Designの学生作品。

「Super Generic」の意味は、この場合、意訳すると「ありきたり」が妥当だろうか。先生から、キャラクター・デザインの課題に何度もダメ出しをされる学生の奮闘を、コミカルに描いた作品。なんだか「アートスクールあるある話」みたいで、笑える。ハリウッドのVFX現場でも、クライアントからのキックバックが続くと、似たような光景を見る事があるが(笑)。


I am a Pebble
フランス

Best Student Project賞 受賞

ESMAの学生作品。パステル画のような手描きタッチな作風で、センスの良いカラーパレットが印象的な、ほのぼのした作品。今年のBest Student Project賞を受賞した作品である。


Us Again
アメリカ

ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオによる短編である。

ご年配の夫婦、アートとドット。アートは、妻ドットからのダンスの誘いにも乗り気がしない、消沈気味な日々。ある時、突然振り出した雨に打たれた瞬間、アートは若き日の自分を思い出す。そして雨の中で、若き日の妻ドットと再会する。部屋に戻った彼らは、以前ほど活気はないものの、本来の自分達を取り戻したのだった。というお話である。

余談であるが、この作品も、前述のピクサーの短編「Twenty Something」も、誰しもが時折感じるであろう、実年齢と自分自身との葛藤や戸惑いをテーマにしている点が共通しており、興味深い。

予告編


以上が、今年上映された全26作品のご紹介である。SIGGRAPH2021に参加されなかった方は、当レポートで、エレクトロニック・シアターの楽しさや雰囲気を、少しでも感じ取って頂ければ幸いである。

ちなみにVFX JAPANでは今年も年内にElectronic Theater オンライン配信上映を予定しているそうなので、ご興味をお持ちの方はこちらを定期的にチェックしてみると良いだろう。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。