CM、TV番組など数多くの映像コンテンツ制作に欠かせない役割を果たしているIMAGICA Lab.で、15年以上メインエディターとしてAvid製品を使ってきた小部氏に、Avid Media Composerでの作業や使い続ける理由について伺う。

――最初に、小部さんの主な業務内容を教えてください

小部氏:

メインはTV番組制作です。BSや配信用の4Kとともに2Kバージョンも作る作業が多いです。また、8K作品もありますので作業は幅広いですね。それぞれのコンテンツにおいて、お客様に対する技術サポート、ワークフローの構築、編集、カラーグレーディング、フィニッシングまでトータルで対応しています。

小部氏が担当した番組

NHK
「魂のタキ火」

テレビ東京
「絶メシロード」

BS4K放送開始記念・民放4社共同企画
「大いなる鉄路」

BS朝日
「あなたの街の名画を旅する」
「子供たちに残したい 美しい日本のうた」

――Avid製品をいつ頃から使用していますか?

小部氏:

私は2003年入社ですが、当時はAvid DSを主に使っていました。しかしSymphony(当時提供されていたMedia Composerの上位機種)も同じノンリニアの部署にあり、そちらでの作業もしていたので、Media ComposerのUIにも慣れていました。
2013年頃にAvid DS、Symphonyがディスコンとなり( Symphonyについては一部機能がMedia Composerにオプションとして搭載されている)、その後はMedia Composerで作業をしています。

株式会社IMAGICA Lab. エディター/テクニカルアドバイザー 小部昌史氏

――Media Composerについてどのような印象を持っていますか

小部氏:

まず、ポストプロダクションでプロフェッショナルとして仕事をする際に必要な"安定感"と"信頼性"、これに尽きます。ユーザーの意図した通りに正確に動作してくれます。
例えば原因不明のトラブルが発生してその対応に時間が取られるといったことはほぼありません。限られた時間をクリエイティブな作業に集中して使えます。作業が進むにつれてシーケンスが長く複雑になっていきますが、それによってレスポンスが極端に落ちたり、突然画が出なくなったり音が出なくなったりするような、挙動が不安定になることもありません。
レンダリングについても納品物と同等以上の高品質でレンダリングをしても問題なく再生でき、最終的なアウトプットでもコマ落ちやノイズの混入といったトラブルは私は遭遇したことはありません。私の作業環境はMacベースですが、4K60p 10bitで問題なく再生しています。システム要件を満たした環境をしっかりと構築し運用していれば、安定して動作してくれます。
ポスプロというのは計画性と時間管理が非常に重要で、作業の開始から最終的な納品物の作成まで安定した環境で進めていけるという信頼性はとても大きいです。私以外のベテランAvidエディター数名にも話を聞きましたが、一番に返ってきたのはやはり「信頼性」でした。


Avid Media Composer編集画面。タイムライン左下にはシーケンスフォーマットが表示されている。その横とタイムライン右上の「10」は10bit再生を表している。シーケンスは全体で約50分あるが、全てレンダリング済みで、全くコマ落ちせずに再生できる状態だという
※画像をクリックして拡大

小部氏:

もう1つはヒューマンエラーを防ぐ設計になっていることです。例えば、タイムラインに編集されているクリップはデフォルトでは触れない(選択できない)ようになっています。そのためのツールはもちろん用意されていますが、ユーザーが意図せず不用意に選択してしまうということはありません。他社製ソフトでは簡単に選択できるものもあり、「気付かないうちにクリップを動かしてしまった」などといったトラブルを何度も見てきましたが、そのような心配とは無縁です。
また、Media Composerではプロジェクト毎にフォーマットを設定するので、編集するシーケンスの設定が素材によって左右されることがありません。どんなフォーマットの素材をタイムラインに編集しても、最終納品物の仕様と一致した設定で一貫して作業を進められます。
このように誤操作レベルのミスをさせないようになっていることで不安なく作業できますし、事故なく、不備なく納品物を仕上げなければならない環境でセーフティーネットとして働いてくれる設計になっていると考えています。

新規でプロジェクトを作成する際のウィンドウで、解像度やフレームレート、カラースペースなどをここで決定する。プロジェクト内で作るシーケンスは全てこの設定に準拠する

――Media Composerの使い勝手が良い機能を教えてください

Avidコーデックへのトランスコード

小部氏:

私が作業する際は撮影素材をDNxコーデックにトランスコードしています。もちろんそのための時間は多少必要になりますが、撮影に適したコーデックと編集に適したコーデックは違うので、レスポンスやリアルタイム性は大きく向上します。シーケンスが複雑になるほどその効果が現れてくるので、最初に時間をかけた分、終盤で楽になるイメージですね。
編集中の安定性のためにもトランスコードした方が良いと考えていますし、これにより編集用メディアを1箇所に集約できるというメリットもあります。

ビンでのやりとり

小部氏:

多くのソフトはプロジェクト単位でファイルになっていますが、Media Composerはビン単位でファイルになっています。そのため、プロジェクト全体ではなくシーケンスなどの必要なデータだけを入れたビンファイルのみを受け渡すことが可能です。また、ビンはMedia Composerのバージョン差異によって開けないといった制限がないので、引き継ぎなどの際に古いバージョンの端末に送っても気にする必要がありません。

プロジェクトの中身を見ると、ビン単位でファイルとして保存されているのがわかる

効率の良いレンダリングキャッシュ

小部氏:

Media Composerのレンダリングは基本セグメント単位になっています。例えばV1からV5で5画面の映像を作って重いレンダリングをした後にその上にテロップを追加するようなケースでは、映像部分はすでにキャッシュがあるのでテロップ分だけのレンダリングで済みます。
多くの他社製ソフトではタイムラインの「状態」に対してレンダリングを行うため、下画からやり直す必要があり時間がかかってしまうことが多いですが、Media Composerでは追加分だけを考えれば良いので、複雑で重いシーケンスになるほど効率的に作業が行えます。
また、レンダリング時にDNxHR HQXなどの高品位コーデックを使っても、システムとして帯域を確保できていれば問題なく再生してくれます。この安定感も重要だと考えています。

カラーマネージメント

小部氏:

Media Composerのカラーマネージメントは、プロジェクトで設定したカラースペースとは異なる素材を使う場合、必ずその設定に変換されてしまうのではなく、どのように変換するか、また変換するかしないかを決められます。どのような素材をどのように使うかはケースバイケースなので、全て自分でコントロールして作業ができるのはとても安心感があります。

60pのプロジェクトで30pでの作業

小部氏:

4K作業は基本的に60pで行いますが、Media Composerではプロジェクトのフォーマットを60pにした上で、タイムラインの分解能を30pに設定することが出来ます。4K番組というのは4Kでの納品でおしまいということは少なく、同時に2K納品をすることが多いのですが、例えば60pで書き出したファイルを2K 60iに変換した場合、60pの時点で奇数フレームでカットチェンジしていると、2Kではフィールドでカットチェンジしてしまいます。
2Kでテロップ入れなどの編集を行う際に手間やミスの原因にもなってしまうため、これを防げるという意味で非常に助かる機能です。また、タイムコードの表示も30fpsと60fpsを切り替えられるので、作業内容に合わせて柔軟に変更しています。

プロジェクト自体のフレームレートは59.94fpsだが、「エディットタイムベース」は29.97fpsに設定可能

出力されたファイルに対する部分差し替え

小部氏:

ファイル納品作業において、書き出したファイルの最終確認でミスを見つけた場合やお客様からの直しが発生した場合など、アプリケーション標準の機能で部分差し替え(インサート)ができるのは非常に助かります。
特に4K番組は全てファイル納品が前提、かつ全編の書き出しには時間がかかるため、絶大な効果があります。

リリンクの自由度

小部氏:

Media Composerにはデコンポーズという機能があり、シーケンス(もしくはその一部)をメディアオフラインにして新たにマスタークリップを作ることができます。
また、リリンクに際してはファイル名やテープ名以外の多様なメタデータを使えますし、特定の文字列を除外して検索するなど、リリンクの条件も柔軟に設定できます。
さらにMedia Composerのリリンクは「シーケンスが参照する素材を切り替える」という動作なので、他のシーケンスには一切影響がないのもポイントです。
これらを組み合わせることで、プロキシから高解像度の素材にリンクし直したり、シーケンスの一部を差し替えた別バージョンを作るといった作業がとても柔軟に行えます。

    
BS朝日「子供たちに残したい 美しい日本のうた」の制作ワークフロー図※画像をクリックして拡大

小部氏:

上図はBS朝日「子供たちに残したい 美しい日本のうた」の制作ワークフローです。作業はまず4KHDR環境でのグレーディングからスタートします。仕上げた映像はMXFファイルとして書き出し、それを2KSDRに変換したものを素材として2Kテロップ入れとフィニッシングを先行します。
その後に4Kフィニッシングになりますが、実はテロップデータ自体は最初から4K解像度で作っているので、「2Kで作ったシーケンスのテロップ部分を流用してリリンクするだけ」と、非常に効率よく作業が行えます。
2Kも4Kも全てMedia Composerで作業しているので、編集データの受け渡しは非常にスムーズです。

Avid NEXISでの運用

小部氏:

弊社は渋谷に「渋谷スタジオ」「渋谷公園通りスタジオ」「渋谷公園通りスタジオNEXT」の3拠点があり、渋谷スタジオにAvid NEXISを設置し、他の2拠点とは社内の高速回線で繋がっています。
2K作品については全てAvid NEXIS上で作業をしています。4KについてはAvid NEXIS上での作業でも全く問題ないですが、容量が大きくなるので専用のRAIDを各拠点に置いています。
Avid NEXIS上では複数端末で1つのプロジェクトを同時に使えますが、各ビン毎に変更可能か閲覧のみかの権利を割り振ることができます。アシスタント用にシーケンスを別のビンにコピーをし、テロップを決められたタイミングで追加する作業をしてもらったり、シーケンスの後半でカラーグレーディングをしながら前半を別のビンに分けて別端末でレンダリングをしたり、完パケと白完を別のビンに分けて別端末で同時に書き出すことができます。
こういった作業は日々行われていてとても効率が良いです。また、Avid NEXIS上では各端末の帯域が確保されているので、 接続している人数を気にすることなく安定して再生できます。

――Media Composerでよく使うプラグインを教えてください

小部氏:

Neat Video、Sapphire、Baselight for Avidを使っています。Baselight for Avidは専用のUIを表示している状態でリアルタイムでSDI出力できますし、インプット、ワーキング、アウトプットのカラーパイプラインをしっかり管理してグレーディングできるのでとても気に入っています。また、Media Composer上で完結できることも重要です。複数のソフトをコンフォームして行き来するストレスがありません。

    
Media ComposerからBaselight for AvidのGUIを開いた画面。Media ComposerのUIとシームレスに連携している
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――今後のMedia Composerへの要望はありますか

小部氏:

私は元々Avid DSユーザーだったこともありますが、Media Composerのエフェクトを進化させて欲しいなと思っています。例えばグローバルDVEのような考え方など、合成系の機能がブラッシュアップされるとさらに活用する場面が増えると思います。今ある信頼性を保ちつつ、更なる進化に期待しています。

WRITER PROFILE

小池拓

有限会社PST代表取締役。1994年より Avid、Apple、Adobeなどの映像系ソフトのデモ、トレーニングを行っている。