SIGGRAPH2019におけるUnreal Engineのブース(筆者撮影)

はじめに

9月のある日、LAのVFX仲間である山下祐一郎氏から、筆者の携帯にメッセージが送られてきた。

「Unreal Fellowship Program」を知っていますか?記事で紹介すると面白いかもしれません。

自分も今日でサマークラスが終わったのですが、Unrealを使って5週間、みっちりショートフィルムを作る、学校の授業みたいなものです。

…なんだか、とっても面白そうである。

そこで今回は、このUnreal Fellowship Programを実際に受講されたという山下氏に体験談を伺いながら、同プログラムについてご紹介してみる事にしよう。

※著者注:ここでご紹介しているのは2021年10月現在の情報である。時間が経過するとプログラムの内容や実施状況が変更される場合もあるので、ご興味をお持ちの方はオフィシャルサイトなどをチェックされると良いだろう

――Unreal Fellowshipとは、どのようなプログラムでしたか?

Epic Gamesが実施している、Unreal Engineを使った5週間の教育プログラムです。言ってみれば、学校です。クラスはリモートで行われます。季節ごとに年4回開催されています。

Image courtesy of Epic Games

――申し込みの方法は?

公式サイトからオンラインで申し込みます。自分の場合は、勤務先が申し込んで入れてくれました。VFXスタジオ向けの枠があるようで、いろんなVFXスタジオから来ている人もいました。

Image courtesy of Epic Games

――受講料はいくらくらいでしたか?

受講料は無料でした。太っ腹だなと思いました。

また、このトレーニング・プログラムは5週間のフルタイムのクラスなので、クラスに集中出来るよう、この期間中に仕事が出来なかったフリーランサー等を対象とした休業補償として1万ドル(便宜上1ドル100円で換算すると100万円相当)が支給される制度も用意されています。

※昨年度の年収等の規定書類を提出して申請し、一定条件をクリアすると支給されるという。会社から研修の一環として申し込んだ場合は"収入がある"と見なされ、対象外となるそうだ

著者注:

こちらの2020年7月の記事には、「Unreal Fellowshipに申し込むには、映画やテレビ、没入型エンターテインメント、ゲーム開発などで少なくとも5年の経験が必要です。応募者の中から50人が選ばれ、合格するとオリエンテーションを経て、オンラインクラスに参加出来ます。

合格者には、推定94時間のオンライントレーニングとプロジェクトベースの作業を完了することが期待される4週間の期間中の収益の損失を補うために10,000ドルが支払われます。

講義は、モデルの取り込み、アニメーション、モーション・キャプチャのインテグレーション、ルック・デベロップメント、ライティングの設定、シネマティックのストーリーテリング等をカバーし、毎週のメンターシップ・ミーティングやゲスト・レクチャーなどが含まれます。」

とある。

Image from HBO’s "Run" courtesy of Stargate Studios

――受講料が無料で、しかも休業補償が貰える教育プログラムってすごいですね。ところで、このプログラムはいつ頃から始まったのでしょうか。

自分は6期生だそうで、つまりこのプログラムは今回のサマークラスが6回目のようです。授業はカリフォルニアのLA時間の朝8時から5時まで。それ以外にも、朝の授業前のコーヒー・アワー、夕方の授業後のハッピー・アワーという、各1時間くらいのソーシャル・アワーみたいなものがあって、話好きな人達はそこでずっと喋っていました。

――「業界経験者が対象」と書かれていますが、現場経験が無いと難しいでしょうか。

サマークラスでは、全然違う分野からの参加者もいましたよ。プロデューサーや音楽系の人など、CGやVFXの経験が全くない人もいました。特に映画の撮影関係のプロデューサーが多かったように思います。

――クラスのスケジュールや、プログラムの内容を教えてください。

スケジュールはかなりタイトでした。5週間、朝8時から夕方5時まで、みっちりとクラスがあります。そして放課後に自分のショートフィルムを作るという、地獄のような5週間です(笑)。自分の場合、毎晩2時~3時までやっていました。

ショートフィルムは、長さが45秒以上でキャラクターも使わなければいけない等の決まりがありました。希望すればモーション・キャプチャも取らせてもらえます。しかし、1人10分くらいしか時間が割り与えてもらえないので、その時間内で出来る範囲という事になります。

また、Epic GamesはMetaHuman Creatorというデジタル・ヒューマン作成ツールを提供していて、これを使う事も出来ました。しかし、クラスが5週間と時間が限られている事もあって、モーション・キャプチャの不具合を修正したりアニメーションを細部まで詰める時間がなく、フェイシャルも時間が掛かるのでリップシンクを合わせる所まで持っていける人は稀だったようです。

自分が参加したサマークラスの生徒は50~60人くらいでした。それを4つのチームに分けて、各チームに先生がいました。専属のTA(Teaching Assistant)が2人付き、インストラクターと専属ではないTAも20人程いました。

4チームに分ける理由は、1人の先生が同時に面倒を見切れる人数が15人位という事のようです。グループ作品ではなく、1人で1作品を作ります。生徒はヨーロッパ、アフリカ、南米、中東など世界中から集まっていましたが、リモートのクラスなので、LAとの時差も考えると、昼夜逆転でかなりキツイも人いたと思います。

クラス以外にも、ZoomのBreak Up Room機能を使ったライブのQ&Aがあり、別室でインストラクターやTAが個別に問題を解決してくれます。

Slackチャットを使って、質問をすると先生方やTAなどがすぐに答えを返してくれました。ZoomのQ&Aでみんなの前で発言するより、お気軽です。Slackチャットに質問しておけば、いつの間にかに答えが返ってくるみたいな感じです。英語で話すことに自信がない場合にも、便利だと思います。

また、Unreal Engineを使うにはある程度のマシンスペックが必要になるので、生徒全員にバーチャルマシンが用意されていました。スペックの高いバーチャルマシンにリモートアクセスして使う事が出来たので、各生徒がハイスペックなPCや高速のネット環境を持っていなくても大丈夫なように配慮されていたのが良かったです。

――5週間のスケジュールは、どのような感じでしたか?

1週間ごとに目標がありました。

0週目: オリエンテーション・デーと呼ばれる日が設けられていて、丸1日を使って「これからどういう事をやっていくか」が説明され、チームに分かれての自己紹介、自分の目標を発表します。

この日にテーマが発表され、1週目の第1日までに「ログライン」というストーリーを考えて、チーム内で発表しないといけないのです。

0週目とはいえ、結局色々やらないといけない事が多く、大変でした。特に自分の場合、0週目はまだ仕事と掛け持ちでしたので。

続いて、

1週目: 絵コンテを完成させる

2週目: ブロックアニムでのカメラカット

3週目: プレビズ

4週目: モーキャプやフェイシャルやレンダリング

5週目: ショートフィルムを完成させる

といった感じでした。

毎週金曜日には「Weeklies」があり、ここで4~5人がチーム毎に全体の前で、これまでの進行状況を発表します。これが結構面倒でした。

――Unrealの習得に加えて、いろいろ課題があって大変そうですね。

他にも、ゲストスピーカーによるレクチャーなどもありました。過去クラスの生徒だったり、DNEGやPIXOMONDOの人が来て、Unrealを使ったバーチャル・スタジオの事例を紹介したりという感じでした。

最後の最終日はフィルム・フェスティバルがあり、各チームから5作品が選ばれ、4チームで全20作品が、フェスティバルで発表されます。

Image courtesy of Epic Games

――クラスで使用される言語は?

授業は基本的に英語でした。世界中から参加しているので、ヨーロッパの人達の英語は、意外と何を言ってるか良くわからないなんて事もあります。日本人でも英語にちょっと自信があれば、問題なく授業についていけると思います。

おわりに

このように非常に興味深い教育プログラムである。 ご興味をお持ちの方は、ぜひ下記サイトをチェックしてみてはいかがだろうか。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。