日本で唯一の4K・8K・VR映像に特化した映画祭として、国内外から応募された優秀な映像作品を選出し、ノミネート作品と受賞作品の上映、併せてクリエイターや専門家の講演(セミナー)等をおこなう「4K・VR徳島映画祭2021」が、今年も11月12日(金)から14日(日)までの3日間、徳島県で開催された。

今回は例年の神山町に加え、三好市の2会場での同時開催となり、さらにオンライン会場も開設、ライブ配信の視聴とVR空間での体験も可能となり、11月30日まで映像作品のオンデマンド配信が実施された。この記事では「4K・VR徳島映画祭2021」の模様を、主にシネマティックVRの観点からレポートする。

映画祭の誕生の背景

「4K・VR徳島映画祭」は、徳島県名西郡神山町を開催地として、2013年「4Kフォーラム」としてスタートし、2015年には映画の上映を加えた「4K映画祭」に。その後、VR作品も網羅すべく2018年より日本初の4K・VR映像に特化した映画祭として、進化・発展してきた歴史がある。

映画祭の舞台となる神山町は徳島県中部に位置し、徳島市街から車で40分ほどの人口わずか4,500人あまりの町である。吉野川の支流である鮎喰川流域の山地で、山並みや渓谷がとても美しい静かなところだ。しかしながら、なぜこのような山奥の過疎地で、最先端の技術で撮影された映像作品をフィーチャーする映画祭が開催されるようになったのか?

神山町では、都市部との情報格差解消のため、2004年に四国で初めて、町内全戸に光ファイバーが敷設された。ケーブルテレビの世帯普及率は、昨年3月までの調査で、9年連続で全国で1位となっている。こうした背景から、快適なブロードバンド環境と豊かな自然環境が共存するこの地に、仕事と生活の調和を見出したIT系ベンチャー企業がサテライトオフィスを開設し始めた。

とくしま4Kフォーラム実行委員会の一員として、映画祭を運営する株式会社プラットイーズは、東京に本社があり、テレビ番組やCMなどの映像コンテンツに関する業務用システムの開発やコンサルティングを行っている会社だが、そのグループ企業である「えんがわ」も、2013年、神山に築90年の古民家を改築したえんがわオフィスを開所している。

また、認定特定非営利活動法人グリーンバレーでは、1999年より、毎年海外からアーティストを神山に招聘して作品作りを支援する国際交流プログラム「神山アーティスト・イン・レジデンス」(現在はコロナ禍で延期されている)を実施。コワーキングスペース「KVSOC神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」を創設するなど、様々な地域活性化のプロジェクトを立ち上げてきた。そのような動きに呼応して、やがて、県外からもクリエイターたちが移住してくるようになった。こういった経緯から、神山は今や地方創生のシンボルともなり、「4K・VR徳島映画祭」の成り立ちにも、このような背景があるのだ。

自然が豊かで、のどかな神山町の光景

神山・三好の2会場同時開催とオンライン&バーチャル会場のハイブリッド開催

昨年の「4K・VR徳島映画祭」は、コロナ禍の影響で、全面的にオンライン開催となったが、2013年のスタートから9年目を迎える今年は、現地会場とオンラインのハイブリッド開催が実現し、「リアルとオンラインのシームレスな融合」がテーマとされた。

    
今年度の映画祭のキャッチフレーズは、「REAL×ONLINE~夢現の時空で、会いましょう。~」
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神山では例年通り、神山町立広野小学校旧校舎が会場として利用された。旧体育館には4Kシアターが設けられ、受賞作品やエントリー作品が上映され、校舎の各教室には最新機器やVR関連の展示ブース、eスポーツの会場を設置、音楽室では映像や放送界のクリエイター、専門家によるセミナーが連日開催された。屋外のフードマルシェでは、地元の飲食店や有志による屋台が出店し、学園祭さながらに来場者の交流の場となった。

神山会場は、神山町立広野小学校旧校舎が利用された
広野小学校の旧体育館には、4Kシアターが設けられ、受賞作品やエントリー作品を上映。初日には、受賞作品の発表と受賞者への表彰がおこなわれた
フードマルシェには、徳島の焼きたてチュロスの「チュチュチュロスカフェ」や自家焙煎コーヒーの「豆ちよ」、おでんの「28歩の会」などが出店した

そして、今年は神山に加え、三好と、初めて2拠点での同時開催が実現した。三好会場は徳島駅からJR徳島線の特急で70分ほどの阿波池田駅近く、江戸~明治時代の面影が色濃く残る"うだつの町並み"の一角に設けられた。大きな商家を改装して、三好市地域交流拠点施設として生まれ変わった「真鍋屋」(愛称MINDE)がその舞台である。ここでは、三好出身の注目の若手映画監督である蔦哲一朗監督の作品の特集上映、撮影エピソードを語るトークイベントが連日実施された。

三好会場は、たばこ産業が発展した池田に残る美しい木造家屋が建ち並ぶ一角、”うだつの町並み”の中の旧商家をリメイクした三好市地域交流拠点施設「真鍋屋」(愛称MINDE)で開催された
三好会場は、新型コロナ感染拡大対策として、事前予約制。三好出身の映画監督蔦哲一朗氏の特集上映をおこなう「蔦哲一朗シアター」と氏の特別公演が連日開催された

さらに、今年のバーチャル会場は、日本発のメタバースプラットフォーム「cluster(クラスター)」内で開催された。clusterは、ヘッドマウントディスプレイや、パソコン、スマートフォンからアクセスすることができ、ユーザーがアバターを選んでバーチャル空間のワールドを移動したり、イベントやスポーツ、音楽などのライブに参加できるVR版SNSである。年間およそ1500イベントが開催され、累計300万人以上のユーザーが訪れている。

ユーザー同士がチャットでコミュニケーションしたり、ゲームを楽しんだりすることもできる。cluster内の映画祭の舞台は、神山が林業で栄えた昭和初期頃に創設された劇場である寄居座を3Dモデル化して再現したVR空間だ。メインのスクリーンでは、セミナーのライブ配信がおこなわれ、VR空間の寄井座内には作品上映のワープポイントが配置された。

3Dモデル化して再現された劇場寄居座のワールド。昨年はMicrosoftのAltspaceVR、今年はclusterがバーチャル会場のプラットフォームとなった

映画祭の初日に受賞作品を発表

今年の応募総数は全285作品。例年の2倍以上となった。

映画祭の開幕初日の12日には、神山会場の4Kシアターで授賞式があり、一般部門は矢野ほなみ監督「骨嚙み」、あわ文化振興部門は川口泰吾監督「『にっぽん農紀行 ふるさとに生きる』人形の国阿波に息づく伝統 徳島県編」、VR部門はジョナサン・ハガード監督「諸行無常(Replacements)」、高校生部門は宮下柚音監督「青春は密である。」が、各大賞に選ばれた。

一般部門大賞の「骨嚙み」は、父親の葬式で、父と過ごした最後の夏を思い出す少女を主人公に、しまなみ海道のちいさな島でのいとなみを描いたアニメ作品だ。作者が幼い頃に故郷である愛媛で体験した、葬儀の際に遺族が追悼の意を現すため、遺骨を噛むという風習をモチーフにしている。点描の手法と自由なカメラワークが印象的な作品である。

矢野ほなみ監督作品「骨噛み」(Trailer)

VR部門 大賞の「諸行無常(Replacements)」は、インドネシアの首都ジャカルタに存在するとされる架空の村の一角が舞台。そこに住むジャワ人の家庭を背景に、移ろいゆく人々や村の姿を描いた360°VRアニメ作品だ。監督のジョナサン・ハガード氏は、京都を拠点に活動するフランス人とインドネシア人のハーフの映画製作者兼アニメーター。ドラマチックな展開ではなく、あえて淡々と、時の流れと(360°の)空間の変化を表現していった点が、無常観を感じさせ、心に沁みいる傑作となっている。

​​​​ジョナサン・ハガード監督作品「諸行無常 (Replacements)」(Trailer)

授賞式で表彰される360°VRアニメ作品「諸行無常(Replacements)」のジョナサン・ハガード監督。各受賞者には、神山の杉でつくられたトロフィーが、授与された

VR関連のトピックス

最先端機器展示コーナーには、株式会社WOWWOW、株式会社Cinema Leapによる伊東ケイスケ監督の「Beat」の体験ブースが出展された。本作品は、ハプティクス(触覚)技術を用いて、体験者の心臓の鼓動により、ロボットに命が吹き込まれ、心を通わせながら成長していくという物語である。体験者が関わることでストーリーが展開していくVRならではの作品だ。「Beat」は、第77回ヴェネチア映画祭ノミネート作品となった他、今年、バンクーバー国際映画祭アニメーション部門でBest of Animationを受賞している。

VRシアターのコーナーでは、先に紹介した「諸行無常」に加え、VRインスタレーション・MV作品のテラサカ ルナ監督の「candy is crying」と、本映画祭高校生部門のニューフェイス賞を受賞した湯藤大知監督の「空から見る つるぎ町の魅力~晩春~」も、VRゴーグルによって上映・視聴された。

また、株式会社ロジリシティ、株式会社キャドセンターによる「どこでもバンジーVR」では、体を反転させる体験装置を用いて、本物さながらのバンジージャンプ体験を提供する移動式VRアトラクションのデモがおこなわれた。今回は、3DCGで精巧に再現された東京都庁の屋上からのバンジーを体験する内容であった。

伊東ケイスケ監督作品「Beat」(Trailer)

    
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ハプティクスVR作品「Beat」を体験する筆者。自身の心臓の鼓動をモニターして、作品に同期させるために、胸に聴診器を当てている様子
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VRシアターの模様。「諸行無常(Replacements))」「candy is crying」「空から見る つるぎ町の魅力~晩春~」の3作品が、VRゴーグルによって上映・視聴された

セミナーでもVR関連のセッションが実施された。11月13日の2限目には、「国内外の映画祭で注目されるXR映画~日本初のVRに特化した国際映画祭の開催レポート」と題して、Supership株式会社 XRコンテンツプロデューサーの待場勝利氏と、株式会社Cinema Leap 代表取締役 大橋哲也氏から、各国の有名映画祭におけるVRやXR部門のトレンドや動向、XR映画の広がり、ストーリーテリングの現状 、3DoFと6DoFのそれぞれの楽しみ方 、そして、お二人が企画運営を手掛け、今年2月に初開催されたVR映画に特化した国際映画祭「Beyond The Frame Festival」について詳しく語られた。

同日3限目は、「寄居座の3Dモデルができるまで」をテーマに、本映画祭のVR空間「劇場寄居座」の3Dモデル製作を担ったPracosma Inc.の小倉豪放氏から、フォトグラメトリと3Dモデリングのハイブリッドを選択した制作の手法と裏話が披露された。

また、3Dレーザー計測の最新技術を用いた点群データの取得について、徳島城跡における作例を元に解説された。6限目は筆者とキヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部の跡部浩史氏による「高品質なシネマティックVR制作を実現するキヤノンEOS VRシステムについて」のトークセッション。前回の連載でも紹介したキヤノンから12月に発売される予定のRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズの光学性能や撮影時のポイント、ワークフローについて解説すると共に、作例と新製品の実機を披露した。実機の一般公開は、この神山の地がおそらく本邦初公開だと思われる。

11月14日の5限目には、本映画祭のバーチャル会場のプラットフォームとなったクラスター株式会社COOの成田暁彦氏から「cluster~メタバースが創る新しいイベント体験」と題して、コロナ禍を経て、ますます注目が集まるバーチャルイベントの在り方について、プラットフォーム事業や法人活用事例などを引き合いに語られた。

Supership株式会社 XRコンテンツプロデューサーの待場勝利氏(左)と、株式会社CinemaLeap 代表取締役 大橋哲也氏(右)のトークセッション
Pracosma Inc.の小倉豪放氏のセミナー
キヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部 跡部浩史氏(右)と筆者 染瀬直人(左)によるトークセッション
キヤノンから12月に発売予定のRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE。本映画祭神山会場が、リアル展示においては、初お披露目となった
聴講者にも大注目だったキヤノン RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズ

未来の4KVR徳島映画祭に向けて

筆者は、2016年より「4K徳島映画祭」のフォーラムに登壇し、2019年より「4K・VR徳島映画祭」のアドバイザーを務めている。筆者なりに今年の映画祭を総括してみると、一般部門でもVR部門でもアニメ作品が健闘していたのが印象的だった。2019年の一般部門優秀賞に選出された油原和記監督の「MOWB」もそうであったように、アニメ作品と360°VRの表現は大変相性が良いと感じている。高性能、高画質のVRカメラが登場してきた今日、昨年VR賞に輝いたドリアン後藤ストーン監督のVR180作品「GEIMU」のような、骨太の実写VR作品の躍進も期待したいところだ。

VR作品については、近年ストーリーテリングの進歩など、全体の質が向上しているが、実写VRの応募作品の中の一部には、レンズ補正やVR酔いを防ぐためのスタビライズ処理などにおいて、技術的な格差が見られるものもあった。今後更なるVR撮影技術のリテラシーの底上げが待たれる。

また、映画祭全体を俯瞰した時、蔦哲一朗監督がトークセッションで述べていたように、集客においては、阿波踊りと同時期に開催するといった大胆なアプローチも考えられるかも知れないし、コロナ収束後の話にはなるが、クリエイター同士の交流会なども企画されると、制作の刺激や将来の仕事の発展のきっかけになる可能性もあると思う。

2019年より加わった「あわ振興部門」や「高校生部門」が設けられていることは、大変素晴らしい取り組みだし、今年はアフターコロナを見据えた新しいイベントの姿として、リアルの2会場とオンライン&バーチャルのハイブリッド開催が、無事実現されたことは画期的であった。自然豊かな環境の良い場所で、地元の方々と県外のクリエイターや専門家が出会い、楽しめる「4K・VR徳島映画祭」の益々の発展を願っている。

WRITER PROFILE

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。