txt:小林基己 構成:編集部

4K120Pという飛び抜けたスペックを掲げたα7S III登場

お待たせいたしました、お待たせし過ぎたかもしれません!

これは、ドラマ「全裸監督」のモデルにもなっている村西とおる監督の名台詞だが、α7S IIIの登場はまさしく待たされすぎたと言っても過言じゃない。α7S IIの発売から5年、他メーカーが4K60P収録可能なカメラを出してくる中、αシリーズの上限スペックは4K30Pのままだった。

それがなんと!4K120Pという一つ飛びのスペックを掲げて登場した!

形こそスチルカメラの皮を被ってはいるものの、完全にムービーを意識してつくられたカメラだ。カメラに限らず、デジタル製品の進化は機能向上+の考え方が通例だが、α7S IIIに関しては進化させなかった部分に注目すると、このカメラの本質が見えてくる。

その最たる部分が解像度だろう。同価格帯のα7R IVが約6100万画素なのに対してα7S IIIは約1210万画素、1/5の解像度なのだ。下位機種のα7 IIIでさえ2倍の約2420万画素を謳っている。

この5年前のα7S IIから進化させなかった解像度によって得られたものが4K120Pというハイフレームレートと高感度での低ノイズだ。

そしてソニーが頑なに守ってきたチルト液晶モニターを棄てて、とうとうバリアングル液晶へと踏み出した。撮影画像はレンズの光軸に近いところで見たいというのが撮影者の思いだが、それを犠牲にしてもバリアングルの自由度はムービー撮影にとって有効だ。

渋谷の街明かりそのままISO12800で撮影

さて、実際のカメラの性能は本気で使い込んでみないと分からないというのが自分の信条で、今回も4日間の試用期間をいただいたのだが、α7S IIIのボディに加えてGM24-70、GM70-200、G20f1.8という3本のレンズをお借りして、映画トレイラー風のショートムービーを作ってみた。

カメラ到着の翌日にその撮影を設定したのは少し無謀だったが、ミシェルエンターテイメントの協力で8人の若い俳優陣に出てもらい、渋谷を舞台に制作した2分強の映像を見てほしい。

「Tokyo Night Drift」

やはり「S」の称号がついたα7の新機種ということで高感度での使用状況を試すべく、日没後の18時くらいから撮影を開始し22時には撮影を終了していた。自分で言うのもなんだが、8箇所ほどのロケ地を転々とし、特に急いだわけでもないのに驚異的なスピード撮影だ。

スタッフは私をを含めて計3人。照明技師の大島洋介氏にも協力して頂いて小さなLEDでシーンの味付けをしてもらったが、基本的には渋谷の街明かりそのままでISO12800で撮影できたことが時間短縮に貢献している。

絞りはf2.8、シャッタースピードは基本的に1/100にしている。ほとんどのシーンは60Pで撮影し、一部120PとS&Qモードの120fpsを使用している時は1/125のシャッタースピードで撮影している。1/125で撮った部分はうっすらフリッカーが出ていたが、編集時にフリッカー除去をかけた。フリッカーレス機能も搭載しているのだが、それは静止画だけの機能となる(100P設定ができれば東日本でもフリッカー気にせず撮影できるので設定の中に入れてもらいたいところだ)。ガンマ設定はS-Log2を使用した(なぜS-Log3ではなくS-Log2をしたのかは後述する)。

初めて使うカメラでISO12800を常用するというのは少し不安だったが、これは巷で噂されているα7S IIIはディアルベースISOなのではないかという情報に起因している。ソニーでもシネカメラでは使用されている技術でVENICEではISO500とISO2000、FX9ではISO800とISO4000に設定されている。それによって通常使用感度の使い勝手と高感度でノイズの少ない映像の両方を得られる。それをα7S IIIにも搭載しているのではないかということがまことしやかに囁かれているのだが、メーカー側は公表していない。その高感度設定が12800?16000?などいろいろな節があったが信用できるスジの情報からISO12800で通すことに踏み切った。

ISO16000までは常用しても耐え得る画質

今回のショートムービーもISO12800とは思えない低ノイズな映像に仕上がっている。ノイズが目立ちやすいシネライクなグレーディングを施しているがノイズリダクションは一切かけていない。

このムービーの撮影前にテストできれば良かったのだが、カメラを返す直前にやっと落ち着いてISOテストをすることができた。その映像をYouTubeに公開しているのでぜひ4Kで見てほしい。カメラの名誉のためにも言っておくとノイズが出やすい被写体を選んで1.5倍の拡大、暗部のコントラストを引き伸ばすグレーディングを施しノイズが分かりやすい仕上がりにしている。ISO3200くらいからボトルの映り込みを作っているが、もともと自分しか見ないつもりで撮影していたので許してほしい。

するとISO500や640は細かいノイズが発生しているがISO1600でそれがほとんどないツルッとした映像になる(この微細なノイズの違いはHDで見ると分からない程度なのでGoogle Chromeで4K再生で見てほしい)。それから順当にノイズが混じってきてISO10000ぐらいからかなりの粘りを見せて12800と16000でもほとんど変わらず20000ぐらいから急激に高感度特有のノイズが増していく印象だ。

そして結果的にデュアルベースISOなのかどうかということについては正直分からなかった。ただ、自分の中の判断ではISO16000までは常用しても耐え得る画質に思えた。そして特質すべきはISO1600のクリア感だ。その周辺感度をもっと細く撮っておくべきだったと悔やまれる。

被写体をタッチしてフォーカスを自動追尾させるタッチトラッキングに対応

そして、今回の撮影スピードに貢献したのは高感度だけではない。AFとタッチパネルの組み合わせが実に使いやすかった。撮影部が自分一人だった今回のような状況では大変助かる。

もともとソニーのAFは評価が高かったが、今回のような登場人物が多いケースは顔認識や瞳認識も混乱を極める。グループショットだとしてもフルサイズでf2.8ともなると、この中の誰にピントが来ているかというのははっきり分かってしまう。そんな時に狙いの人物をタッチするだけで、その人にフォーカスを合わせ続けてくれる。その解除も背面のコントロールホイールのセンターボタンを押すだけだ。顔が写っていない背後からのショットでも威力を発揮してくれた。

さすがに全速力で走る人を200mm f2.8で正面から狙った時は途中で追えなくなってしまった。このムービーに使用しているカットは追えてるところまでを使ったが、120fpsだと使える尺は十分満たしていた。というわけで今回のショートムービーでは、マニュアルフォーカスは全く出番がなかった。

AFはカメラとの対話だと思っている。α7S IIIもコンティニュアスAFで、AFトランジッション速度(7段階)とAF乗移り感度(5段階)の2つの項目で調整が効く。これに関しては実際手にして調整しながら被写体のタイプ毎に自分で掴んでいくしかない。でも、何より撮影が順調に進んだのは出演者たちの理解度の高さだろう、自分の曖昧な演出に対して、それぞれ役柄を汲み取って演技してくれた8人には感謝している。

嬉しいHDMI Type A端子の採用

さて、カメラのハードウェア的な側面から見ると自分が一番歓迎しているポイントはHDMI Type Aコネクタの採用だ。多くのカメラが採用しているマイクロHDMI接続はかなり心細い。実際、端子の故障やケーブルの不具合などが多発し、マイクロHDMIのカメラに関しては、まずカメラリグを用意してケーブル接続部分の保護を施した後でないと危なっかしくて使いづらい。それがHDMI Type Aだと、なんだろうこの安心感!しかもHDMIケーブルとマイク端子に関してはバリアングルを回転させても何の問題もない位置に端子が配置されている。

バリアングルを上向きに回転

ただし、ヘッドフォンなどでモニタリングする時は、ジャックの位置がモニターの回転に干渉するので注意が必要だ(Bluetoothなどでヘッドホンはつなぐことはできない)。

α7S IIIにもケーブルプロテクターが同梱されているが、それを付けた場合はバリアングルを開いた状態だと回転ができず、バリアングルの利点が全く発揮できない

ちなみに外部モニターに撮影情報を表示を選ぶと背面液晶の画像は出なくなる。今回は外部モニターで画面情報有りの映像の収録もしたので困ったが、通常はLCDに情報ありで出し、外部モニターには映像のスルーアウトを出すのが使いやすい。

あと、バリアングルの利点はRoninなどのジンバル撮影だろう。今までのチルトタイプのLCDだとジンバルのモーターの位置が干渉してかなり見難かった。それがバリアングルで横に張り出す形になりクリアに確認できる。今回は時間がなくジンバルに載せることはできなかったが、20mm f1.8のレンズはジンバルとの相性良さそうだ。

惜しむらくは、EVFを覗き忘れていたことである。αシリーズ最高となる944万ドットのOLEDがどんなものだったか確認したかったが、それをし忘れるほど動画撮影においてはファインダーを覗く機会は少ない。しかも今回のようにナイターや室内のLCDが見やすい状況なら尚更だ。

そしてもう一つ残念だったことは、CFexpress Type Aのカードを借りることができずにV90のSDカードしか使えなかったことだ。α7S IIIはスロットを2つ有していて、どちらのスロットもSDカードでもCFexpress Type Aでも使用することが可能だ。ただ、最高画質のAll-Intra撮影に関してはCFexpress Type Aしか対応していない。4K120PはCFexpress Type Aでないと収録できないのでは?という心配があったがSDカードでもLong GOPなら4K120Pで収録できた。そのため今回はAll-IntraではなくLong GOPのXAVC-HS4K(H.265)の60Pと120Pで撮影している。

4時間にわたる4K60P撮影でも熱警告はなし

4K60P撮影がスタンダードになりつつある昨今は熱停止問題もよく話題に出てくる。今回、全編4K60P以上で一部120Pを使用し4時間にわたり撮影したが、熱警告が出ることもなく、ボディが発熱することもなかった。ここでも4Kを少し上回るくらいのセンサーを使用していることでカメラ自体の負担が減っているのかもしれない。

4.2Kセンサーということで、ネイティブ4K部分を使う120p撮影時でも1.1倍のクロップで済む。この10%の拡大率は撮影時に意識する事がないくらいの差だった。加えて画素数が少ないことからローリングシャッターも軽減されている。少し前にα7R IVで撮影したのだが、ローリングシャッターの影響は大きかった。ローリングシャッターはセンサーの走査速度に依存する。センサーの画素数が少なければローリングシャッターも軽減されるというのは理にかなっている。

このフルセンサーで4.2Kという解像度はもちろん良いことばかりではない、APS-Cサイズクロップした時には4K収録はできなく、FHDのみの撮影になる。つまり、同じEマウントでもAPS-Cにしか対応していないレンズではHD収録しかできない。

シネカメラとしての完成形への道を独自に歩んでいる

さて、最後に。

後述すると言っていたS-Log2 vs S-Log3問題だが、少ないビットレートのカメラの場合、ダイナミックレンジが広いS-Log3よりも、ある程度コントラストのある(と言っても通常のガンマに比べたらかなりローコン)のS-Log2の方がグレーディング後の映像が綺麗なことが多い。

本当なら狙いのガンマ設定で撮影しあまり弄らないのが最終仕上がりが良いのは確かだが、そんなかっこいい現場は少ないので保険をとってLogで撮影することが多い。ただ、S-Log3だと保険取り過ぎな印象で、同じ情報量で撮った場合に後でコントラスト付けていく時、破綻する可能性も秘めているように感じる。

VENICEやFX9にはS-Log2がないのに対して、αシリーズにはS-Log2を残してくれているのは、そう言った意味も薄々感じる。CFexpress Type AがあってAll-Intraで撮影する事ができたらS-Log3を選んでいたかもしれない。

後で知ったのだがα7S IIIになってS-Log3がVENICEとかと共通のカラーサイエンスに変わったと聞いて、試しておけば良かったと思っている。

それ以外にもATOMOS NINJA Vなどで外部収録して16bit RAW撮影も検証してみたかったし、ジンバル撮影もしたかった。4日間では使い切れない奥の深いカメラだった。

このα7S IIIは約1210万画素というα7S初代から続く解像度を維持する事でα7Sの「S」の由来にもなるSensibility(高感度)を突き詰め、成熟した使い勝手を持って、ワンマンオペレートできるシネカメラとしての完成形への道を独自に歩んでいる印象を受けた。

■α7S III
価格:オープン。同社オンラインストアでの販売価格税別409,000円
発売日:2020年10月9日
ソニー
小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。noteで不定期にコラム掲載。

WRITER PROFILE

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、xRソリューションの会社Chapter9のCTOとしても活動。