■Irix CINEレンズシリーズ
EF、MTF、ソニーE、キヤノンRF、ライカL、ニコンZマウントモデルの価格
・Cine 11mm T4.3:税込206,800円
・Cine 15mm T2.6:税込193,600円
・Cine 45mm T1.5:税込206,800円
・Cine 150mm T3.0:税込193,600円
問い合わせ先:ケンコープロフェショナルイメージング

スイス、ポーランド、韓国の3カ国に拠点を置くレンズメーカー

このレンズが編集部から提案された時に、かなり前のめりになった。というのも、前に書いた新世紀シネマレンズ漂流:NewTrend 2021編「Vol.04 RED KOMODOにシネマズーム「DZOFILM Pictor Zoom」を選んだ理由」の記事でも書いたが、実はこのレンズも以前検討対象になっていたのである。ただYouTube上でもまだ情報量が少なく、その時にいろいろと見た動画では、かなりあっさりした印象があって最終的には「選ばない」選択となったのは記憶に新しい。それでもどこかの店頭で実物を見た時に、「ああ、なんか悪くないぁ」と感じていたので、前のめりになる理由もそこにあった。

この価格帯のプライムレンズが本当に使えるのか?

そう疑問に思うプロの方々は多いと思う。その点も含めて実機をテストできるのは大変興味深く、良い機会をいただけている。これからの制作現場はコストとの戦いになるのは間違いなく、撮影のたびにレンタルというのは予算のない現場には厳しく、また映像を仕事としていくには機材を揃えられているというのは必須になっていくだろう。そういう意味で良い機材を安価(お手頃)に揃えられるというのは良い時代だと思う。さらに機材が手元にあれば、映画で言えば役者がいれば作ることができるので頑張りどころ以外の言葉が見つからない。

そこでこの「Irix CINEレンズ」だが、ネーミングに捻りがない。改めて執筆しながらホームページの中を探して名前の確認をしているが、結論はやはり「Irix CINEレンズ」で、カテゴリの名称ではなく、製品のシリーズ名だった(笑)。

ただずまいはリングカラーを「赤」ではなく、あえて「青」にしており、流行りに乗る方向を選ばず独自色を出してきているところは好感度が高く、質感、デザインもシンプル・スタイリッシュな感じは嫌いではない。手にした時の質感も軟さはなく、同じスチルレンズシリーズとの差別化もしっかりできている。正直、ネーミングでツッコんでネガティブなのかと言うとそうではなく、むしろかなり気になっていたレンズでもあり、後述するレビューでも触れるが、かなりポジティブである。

この「Irix」はスイスの新興レンズメーカーで、設計はスイス、製造は韓国で行なっている。また、研究開発は韓国とポーランドである。この辺でちまたの批評で「韓国のレンズ」と言われているのかもしれないが、実はヨーロッパのレンズである。興味深いのは新興レンズメーカーというと中国勢を思い浮かべると思うが、ヨーロッパから起業されていることは嬉しい。

自動車もそうだが、モノづくりはその土地の空気感でデザインや乗り心地(例えば石畳での乗り心地)を積み上げていく。なのでレンズで言えば、その地での映り方で反射などを見ながらコーティングを決めたりしている。このメーカーが韓国とポーランドどちらで色づくりをやっているかまではわからないが、前に書いたようにサンプル映像でサラッと見えたファーストインプレッションは、あながち間違いではなかったと思った。ポーランドのサラッとした気候を感じないでもない。

そしてキャッチが「写真家によって考案された写真家のための究極のレンズ」と謳っており、レンズメーカーの定番的謳い文句と思いながらも、やはり期待値は上がる。オーディオブランドでも安定した大きなメーカーよりも、音楽が本当に好きだから立ち上げた的な独立系のメーカーが良い音を出すので、ちゃんとしたものであれば支持されるはずだろう。その意味で金額がどうのではなく、そのポリシーがどこまで反映されているのか非常に気になる。

対応マウントにキヤノンRFをラインナップ

今回はシネマレンズシリーズがフルセットで送られてきた。現状は11mm T4.3、15mm T2.6、45mm T1.5、150mm T3.0の構成になっており、45mmと150mmの間が極端に飛んでいる。レンズはプライムレンズのフルセットで構成しようと考えていれば一瞬戸惑うであろう。寄りで美味しい80mm辺りが抜けているので、この間を埋めるズームレンズを揃えなければと考えてしまう。この間は後に発売されることを期待する。

またシネマレンズでは非常に珍しいキヤノンRFマウントが標準で用意されているところも、RED KOMODO 6Kユーザーであれば大きく気持ちが傾くのである。現状はRFマウントのシネマレンズはほぼ無いに等しいので、多くのKOMODOユーザーはPLマウントかEFマウントアダプターを噛ませて使っているはずである。

筆者はEFマウントでの展開だが、その理由はドロップインフィルター・マウントアダプターの可変式NDフィルターが使えるからだ。ドキュメンタリーだとこの構成はセッティングの手間が省けて非常に負担が少なくなる。アダプターの先のレンズ交換だけで、NDフィルターがどのレンズでも対応できるのはありがたい。ただこのフィルターの弱点はND値を高くするといきなりブルー色がガツンと出てくるので、それを頭に入れながらの撮影にはなる…。

筆者が使用しているEOS Rシステム専用マウントアダプター「ドロップインフィルター マウントアダプター EF-EOS R」

そこで今回のようにアダプターをかませずにダイレクトにカメラにマウントできる点は剛性面からも好ましいが、煩わしさのフィルター問題が発生する。コンパクトシネマレンズなので、レンズ径がスチルレンズのフィルター群と合致するものがあれば代用できるが、回転式での取り外しは意外に面倒である。レンズ保護のナチュラルフィルターも一緒に取れてしまうなど、みなさんも経験したことがあるのでは。急いでる時には「ふざけんなよぉ!」と心のなかで呟くものだ。

しかし、このIrix CINEレンズには思わぬものが同梱されていた。編集部から事前にメーカー純正のフィルターも一緒に送りますと言われ、まあ、回転式の物でしょう、と勝手に高をくくっていたのだが、取り出してみるとマグネット式ではないか!これは使える!とペタペタ付けたり取ったりしながら唸った。マグネット式マウントシステム「MMS」というらしい。こうなるとアダプターを噛ませる必要性はまったくなくなるので、さらに荷物が少なくなる利点がクローズアップ。そうなると俄然、このシネマレンズと言うより、このメーカーに対しての好感度が高くなり、ちゃんとテストしたくなった。いつもちゃんとやってますが…。装着感などは後述で。

プライムレンズだがサイズはコンパクト

ちょうど新しいプロジェクト(監督×役者の一対一で映画を撮る)を女優の夕帆と話し、盛り上がっていたこともあり、レンズテストにも引っ張り出して作品撮りをしてみた。

まずはその作品を見ていただきたい。

このロケーションは前々から気になっていた場所であり、特に夕景から日が沈んだあたりの光が好きなので繰り出してみた。今回の作品にお借りしたシネマレンズ4本を使い、余すことなくそれぞれのショットは入れてあるので、ショットとレンズの組み合わせを想像してもらうのも良いかもしれない。

まず4本の共通項でポジティブな点だが、どのレンズもレンズ径が同じなので、前述の純正フィルターが使い回せる。さらにフォーカスギアの位置が同じなので、レンズを載せ替えてもフォローフォーカスの再調整が要らないことも作業性が非常に高まる。

実際に砂浜で一人でレンズの載せ替えを行ったが、かなり負担が少なかった。最近のレンズはこのギア位置を共通にしていくことが標準になってきている感はある。カメラアシスタントがいる現場であればそれほど気にかけないポイントだとは思うが、少数スタッフでの現場ではありがたいの一言で、大変良いことだと思う。この時点で「このレンズ、なかなかいいじゃん」とまたも心の呟きが…。

フロントフィルター径は86mmで統一(11mmはフロントフィルター径に未対応)

レビューの前に、まずはレンズの紹介を先にする。このレンズの大きな特徴に、フルサイズセンサー対応のレンズで、動画では8Kにも対応することであろう。しかもフルセンサーにも対応しており、価格から見たらかなり頑張っている。またこの価格レンジのレンズでフルスペックというのはポイントが高い。しかも8Kに対応するクリア感を打ち出してくるところも自信があるのだろう。

全体に言えることは、表示されているT値より明るく感じたことだ。個別でそれぞれのレビューは後述するが、ヒストグラムを睨みながらモニターに映し出された画を見た時に、「あれ、開けすぎた?」と思うことが度々あった。モニターの輝度はいじっていないので、レンズ側の印象なのだろう。これはちょっと得した気分になる。

ズームレンズで展開している我が身とすれば、どうしても開放で「もうちょっと明るかったら…」と思うシチュエーションは多々あるからだ。ズームでT2.5より明るいのはお目にかからないので、「明るいレンズ=単眼=数を揃えなくてはならない=移動がしんどい」の方程式が浮かんでしまう。と書きつつ、今回は「プライムレンズ」であり、いわゆる本数を揃えてカバーしていくことになる「単眼」構成であるが、大きさがコンパクトなので「これで行けるかな?!」と錯覚を生んでいる。

日が沈み終わってのかなり暗い状態だが、モニターに映し出される画と実景との比較でもレンズの明るさが際立つ

スーパー35センサーに使いやすい45mmとT1.5の明るさが便利

で、それぞれのレビューだが、まずは「Irix 11mm T4.3」。画角123°の撮影が可能であり、大きく球体で出っ張るレンズは魚眼ではなく、超広角レンズだということに驚く。どうみても主張の強い「魚眼風体」の構えである。映りはやはり魚眼ではなく、超広角である。しかも驚くことに、見た目からしたらかなりの収差が出ると思っていたが、モニター越しに見る映りが「おお、良い感じの広がり!」とグッと来てしまった。

KOMODOはスーパー35センサーなので、35mm換算ではだいたい14mm相当になる。かなり歪むことを勝手に想像していたので、かなり前のめりになっている。もともと超広角の画作りが好きなところに刺された感じである。動画の1m58sが確実に11mmなのだが、これは収差補正をしていないものである。補正は必要と思っていたので、あらためて凄いと思っている。実は3.13%という驚異的な低ディストーションを実現しているので、結果はやはりと言う感じだ。明るさもT4.3なので明る分に光は入ってきている。

次に「15mm T2.6」であるが、これは意外とどう使うか考えてしまった。フルサイズ換算で20mm弱なので超広角の部類だが、11mmの存在があるので、個人的には思ったほど歪まない11mmを使いたくなってしまう。その気持ちがあるので、さてどうしようか?と悩んでしまった。もちろん11mmよりも明るいレンズなので、低照度のところでは使える。それでも持っていく時に本数を限った場合、持っていかないだろうと。

ただ画作りの中で、人間の眼に近似するのは28mm前後の視野角とも言われていて、パンニングのうねりが気になる向きには15mmの方が使い勝手が良いかもしれない。筆者の場合はスケール感を優先してしまうので、やはり11mmかな。動画では0m41s辺りの桟橋を渡りきって近寄るところまでを試してみたが、明るさの取れ方に余裕があるのでシャープに撮れる点は良いかもしれない。

非常にコンパクトである。なぜかレンズサポートが上側に付いていた…

そして今回のテストで一番気に入ったのが「45mm T1.5」である。というか、本気で調達しようか迷っているのである。全体的な印象でも述べたが、明るく感じるレンズ群の中でもズバ抜けて明るかったのが45mmである。T1.5なので当たり前なのだが、ズームmレンズを主に使っている筆者には、この明るさは唸るほどの衝撃であった。動画の3m06s辺りからのショットはそこそこの光があるように思われるかもしれないが、肉眼では彼女の表情はわからない暗さであった。

当然ノイズはそれなりに出ていたが、後処理でここまでは持ってこれることを考えると、明るいレンズの可能性は広がる。なので「これ欲しい!」の一言である。

また180°回転フォーカスリングが意外に使いやすい。フォーカスプラーがいるのであればピントは気にせず、撮る方に集中できるが、ワンオペで回す場合には270°回転は取り回しに苦労する時がほとんどかもしれない。フォローフォーカス・スピードクランクを付けてグイっと回す方法もあるが、フォローフォーカス自体を使わない状況の時には、スチルレンズのように回転角が少ないほうが楽かもしれない。

その代わりに非常にタイトなピンの時には苦労するかもしれないが、現状の撮影環境だと180°というのは魅力的である。また45mmというのが中途半端に感じるかもしれないが、実は「あったら良いなぁ」の焦点距離だった。正確に言えば欲しいのは40mmなのだが…。

というのも、スーパー35センサーであれば表示焦点距離より必ずクロップされるので40mmだとフルフレームで大体50mmになるからだ。なので、なかなか35mmと50mmの間を作っているところはない状況で45mmがラインナップされたのは良い感じである。

とにかく明るくコンパクトなところが気に入った

そして最後は「150mm T3.0」である。45mmで良い感じの焦点距離構成と書いておきながら、その次がいきなり150mmというのには驚く方も多いのでは。実際筆者も驚いた。11mmと15mmの間が狭く、15mmと45mmの間が結構飛んで、45mmから150mmは飛びすぎですから…。この極端な構成はどのように理解すれば良いのか正直いまだにわからない。多分途中は開発中なのであろうと勝手に思うことにした。

その150mmだが、これは謳い文句としては「マクロ倍率比1.1」で近接撮影が…とか書いてあるが、画的には平凡かと。桟橋の行き来は150mmで撮影している。絞りはT32の最高まで絞っているので、遠景の船までもしっかり捉えられているが、グッと来るようなインパクトは感じなかった。だからと言ってネガティブなのかと言われれば、そうではなくポジティブな印象なのが不思議である。それは他の焦点距離と比べてしまうからかもしれない。他が個性的なので、悪くないが印象が薄く感じてしまうのかもしれない。 

150mmなのでシネマレンズという存在感は十分にある。撮られる方は気分良いのかもしれない。聞くのを忘れたが…

4本に共通していえる光の捉え方の感じだが、フレアはかなり控えめだと思う。フレアに関しては画作りの好みに左右されるので、それ自体を嫌う人もいれば、筆者みたいに積極的に欲しがる人もいるので、有る無いでの評価はできない。ただ積極的に出るように向けていくのだが、淡白と感じる出方までしか引き出せなかった。また玉ボケだが、これも好みによるところが大きいが、個人的には綺麗な丸で出るのが好みなので、所々角ばるのが残念ではあったが、総評が良いので考えどころである。

操作系はギアが滑らかに回せるテンションであり、このフィーリングは非常に高得点だ。今使っているレンズのギアが硬めで、フォローフォーカスを外して回さなければならない時にかなり苦労している。ギアの葉が指に優しくなく痛いのである。

モデル:夕帆(所属:セントラル
ちょっと地味なフレア

マグネット式で着脱できるマグネット式マウントシステムが便利

ただ残念なところもいくつかあった。まずはレンズのフロントキャップである。かさ上げされて、さらに丸みを帯びているので、写真のように15mmのレンズを立てて置こうとした場合、レンズフードよりフロントキャップの方が出っ張ってしまって安定しない。これは痛い。

はじめは頑張ったデザイン処理のせいかと思っていたが、実はレンズのフロントキャップは4本とも共通なのである。レンズ径を揃えることによって、前述のフィルターを使い回すことができるし、キャップの使い回しもできるのだ。つまりアクセサリーの共通化によるコストダウンがされているのだろう。そこで11mmの前玉の出っ張りに合わせるとデザイン処理もこうなる。そうなるとレンズ側で立てられなくなるので使い勝手が悪くなる。

そしてレンズフードも少々ネガティブだ。脱着は回転させてロックするタイプではなく、抜き差しだけのものである。この操作はとても便利だが、キャップの形状問題で、レンズを立てるにはマウント側で行わなくてはならない。先ほども書いたように抜き差しタイプなので、レンズフードを持ってレンズを持ち上げようとすると抜けてしまい、落下という大惨事が起こりやすくなる。かと言ってマウント側で立てると頭でっかちになり、安定性に不安を覚えるので、惨事の回避ということでは回転固定のほうが良いと思った。

実際、落としてはないが、ヒヤッとすることは結構あった。写真ではギリギリ収まっているように見えるが、レンズフードの端を見ていただくと浮いているのがわかる。

レンズフードを外して収納する時、150mmでの収まり方が気持ちが良い。レンズフードを感じさせない処理に感心した。

またもう一点は150mmにだけ見られたグリスのようなものの漏れである。手にした時にヌルっとしたので確認したら、何なのかはわからないが写真のような感じであった。ただこれはヨーロッパからわざわざ送られてきたので、試作品でのテスト機かもしれない。正品では改善されていることを祈る。

最後にアクセサリーだが、純正のフィルターは本当に使い勝手が良い。マグネットの磁力の頃合いが良く、脱着のしやすさの割にはちゃんと引っ付くので、フィルターの可変もストレスなく回せる。磁力が弱いと回転させた時に外れてしまうし、逆に強いと脱着が面倒になる。この加減調整はちゃんと使い込んだ中から力の強さを設定しなければならないので、ちょうど良い頃合いで作り込まれているのは真面目であり、技術寄りの思想も活きていると思った。

Irix社は若いメーカーではあるが、かなりのチャレンジとこだわりを感じるものであった。また使用した際の満足感も高いので、コストパフォーマンスも含めかなり前向きである。TOKINA 11-20mmとIrix 11mm、45mm、そしてキヤノンRF24-105mmを基本構成にするのも良いかもしれないと本気で悩み始めた。

松本和巳(mkdsgn/大雪映像社)
東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。本年初夏に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の劇場公開に続き、広島の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画の製作中でもある。また"シンプルに生きる"をテーマに生き方を問う映像から、人に焦点をあてたオーラルヒストリー映画を積極的に取り組んでいる。代表作:「single mom 優しい家族。」「a hope of nagasaki 優しい人たち」「折り鶴のキセキ」など

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編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。