[SXSW2021]Vol.01 "You of Things"あなた自身がコネクテッドになる時代へようこそ!
2021-03-17 掲載

txt:西村真里子 構成:編集部
さあ、いよいよ始まったSXSW Online 2021。さすがはテクノロジーとカルチャーのトレンド発信基地、オンラインイベントでもインターフェイスやカウントダウンでのワクワク感の演出が他のオンラインイベントよりも一歩飛び抜けている。
まず注目したいのはSXSWのテックトレンドセッションだ。Future Today InstituteのファウンダーAmy Webbが毎年SXSWで発表しているセッションだが、参加者や皆さん自身も体験したとおり、2020年は様々な変化が感じられた年だったといえる。
その結果、Amy Webbが作成したテックトレンドは過去比22%増量、スライドにして504ページのボリュームになっている。全編が気になる方はこちらからダウンロード可能だ。この記事ではその中でも特に注目したトピックをピックアップしていこう。
Topics 1:You of Things~あなた自身の体がネットワークであり、コネクティッドな存在である
私たちはいまスマートフォンを通じてネットワークにアクセスするのが当たり前と思っているが、実はスマートフォンの売上げ台数は米国、世界で2018年以降下がっている。その代わりに登場したのがウェアラブルデバイスだ。特にARグラスやリングはAmazon、Apple、Facebookなども参戦しながらこの1、2年で普及し裾野を広げている。

ARグラスに関して驚いたのは付加情報をメガネが提供するだけではなく、不要な情報を削除してくれるという機能も今後実装されるだろうということだ。Amyはその現象を「Diminished Reality(減損現実)」として紹介していた。
この減損現実とはどういうことか?例えて言うならば、自分が見たくない情報を意図的に削除することができるということだ。例えば、レストランの隣の席で自分にとって不快なマナー違反な食べ方をしている人物の視覚情報を意図的に消すことができればどうだろうか?そんな技術がすでに存在するのである。

確かに公共のスペースで、言動が気になる方を見つけてしまうと集中したい会話や映画などの集中力が削がれてしまう。その際には、自分のストレスを感じるものを消すことが可能になる。まさしく驚きだがこれは現実なのか?
また、You of Things、自分自身をコネクテッドにする世界はウェアラブルだけではなく環境からも変化させることが可能だ。例えば、Amazonが現在特許申請中の超音波ウルトラソニック技術やメッシュネットワークを活用した「Amazon Sidewalk」は、音や近距離ネットワークで我々の動きと物の動きを把握可能になり、何も身につけてなくても工場や店舗にいる人の動きが取得可能になるという。
顧客データを把握するためのツールとして、社員の健康管理のためのツールとしても活用できそうだ。もちろん人間情報のネットワーク経由での管理だけではなく、紛失した鍵などモノの情報も把握でき、応用範囲は広がる。

また、家庭内ではスリープテック分野や、TOTOを代表とするようなトイレで健康管理をするソリューションも出てきてYou of Thingはウェアラブル、ベッド、トイレ、環境そのものから構築されそうだ。医者いらずの未来、過労死が防げる未来が描けそうであり、少し恐ろしくもあるYou of Thingな未来がすぐそこまでやってきているのだ。
Topics 2:Hactivism~インターネット上のアクティビズムが世界を動かす
#metooではインターネット上で声を上げることにより過去の不正を告発し、記憶に新しい米国ロビンフッド(電子株式取引上)を活用したインターネット市民によるウォールストリートのGame Stop株空売りへの対抗など、インターネットでの活動が現実世界を動かすことが増えている。
Amyはそれを「Hactivismハクティビズム」と呼び、いままで社会や産業で不正や一部の人の利益になりながらも闇に隠れていたものが顕在化し、新たな秩序構築を起こすものとして紹介している。確かに日本でも政治家の言動で、時代にそぐわないものを声を上げ、第一線から退いてもらう動きも出てきている。インターネット市民の活動が世界の新たなルールを作り始めているとも言える。
また、この動きはインターネットの一個人だけではなく、企業の活動にも現れそうだ。Amyはこの企業の新たな動きをC-DOS(シードス)と呼んでいた。Corporate Denial of Service、直訳すると企業のサービス拒否(!!)。

具体的にはTwitterやFacebookなどの一企業が特定アカウントを強制停止することを指す。トランプ前大統領のソーシャルメディア・アカウントが凍結されたことは様々な議論を呼んでいるが、このような企業によるサービス停止(C-DOS)も、テックトレンドとして見逃すことはできない。
Topics3:Synthetic Biology(合成生物学)~DNAデータを編集、バックアップ、コピペできる時代へ
最後に、これもSXSWならではのトピックだと思えるのはAmyがDNA編集について述べたことだ。いままでもSXSWではジェニファー・ダウナー博士のCRISPRについてなどを基調講演で紹介しているが、直近の話題でいうとコロナウイルスワクチンもこの合成生物を応用して作られている。Amyの例でいうと、アメリカの美味しいリンゴの木のDNAをコピペして、日本や火星にもっていくと美味しいリンゴがあらゆる場所で食べられるような世界も実現しそうだ。

どうだろうか?Amy Webbのテックトレンドの一部をご紹介したが、未来を感じるワクワクするものもあれば恐ろしくなるディストピアを予見するものもあったかもしれない。
しかし技術としては上記述べたものはすでに存在している。ここで大事なのは答えを待つだけではなく「問い」を出し続けることとAmy Webbは言及している。「この技術が普及するとどう言う世界が来るのか?それは自分にとって、組織にとってどのような効果を及ぼすのか?」を考え続けることが良い未来を作ることだ。しかも恐れず好奇心を持って問いを立たせ続けることが大事とも。
つまり未来は予測するものではなく、準備していくものなのだ。SXSW Online 2021のテックトレンドを参考に、ぜひ、一緒に未来を準備していこうではないか!
txt:西村真里子 構成:編集部
[ Category : SXSW2021, SPECIAL ]
[ DATE : 2021-03-17 ]
[ TAG : SXSW SXSW2021]
この記事に関連する記事一覧
![]() |
[SXSW2021]Vol.08 「TOKYO SESSIONS」を成功に導いたオンライン配信の魅せ方txt・構成:編集部 日本からショーケースに参加したTOKYO SESSIONS TOKYO SESSIONSは、ライブネーションが手掛ける、日本のアーティストを世界に... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.09 未発表のブレイクアウトトレンドを予報するSXSW2022へtxt:曽我浩太郎(未来予報) 構成:編集部 初めてのオンライン開催となったSXSWだが、日本からは1000人近くの方にご参加いただいた。日本の参加者の方々には、SXSWにと... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.07 ストーリーやテーマをVRで「伝える」Virtual Cimemaの多様性を説くtxt:伊藤よしこ 構成:編集部 門戸が開かれたVR 2021年のSXSWは完全オンラインで開催されたため、Virtual Cinemaの作品もオンラインで観ることができた... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.06 人々を平等に扱うメタバースの魅力txt:西村真里子 構成:編集部 SXSWの特徴の一つは我々一人ひとりが次に向かうべき方向性を示してくれることにある。北斗七星を見つければ北に進むことができるように、SXSW... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.05 今年も出会えたSXSWらしさの映画たちtxt:伊藤よしこ 構成:編集部 2021年のSXSWは3月16日から20日(米テキサス州オースティン現地時間)の5日間、「SXSW online 2021」と題して完全オン... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.04 SXSW Online XRの海を泳げ!この世界はもうすぐそこにSXSW online 2021開催の目玉は、XRをふんだんに取り入れた事。サイバー空間にいつものオースティンの街が再現されると聞き色めき立った。毎年SXSWに参加しエキスパートも... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.03 注目カンファレンステーマ「変革するエンターテインメントの世界」見逃せない3本はこれだ!txt:長谷川朋子 構成:編集部 世界最大級の映画、音楽、テクノロジーの祭典「SXSW online」で配信されたカンファレンスの中で、注目すべきテーマのひとつが「変革するエ... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.02 XRでイッキ見必至!アルゼンチン発短編映画「4 Feet High」を見逃すな!txt:長谷川朋子 構成:編集部 VR内写真:ぴちきょ(VRジャーナリスト) 世界最大級の映画、音楽、テクノロジーの祭典「SXSW」初のオンライン版が今週16日に開... 続きを読む |
![]() |
[SXSW2021]Vol.00 いよいよ開催SXSW online 2021。完全オンライン開催に最適化txt・構成:編集部 今年もSXSWの季節がやってきた。昨年はギリギリまで開催とされていたが結果オンライン開催となった。そして2021年は34年の歴史上初の完全オンラインとな... 続きを読む |
- [SXSW2019]Vol.09 これからの世界と自分を見据えるためのSXSWの歩き方 (2019-04-26)
- [SXSW2019]Vol.08 映画でSXSWを勝ち抜くためには?勝利の掟を知る (2019-04-25)
- [SXSW2019]Vol.07 データサイエンティストが見たSXSW2019の行方 (2019-04-23)
- [SXSW2019]Vol.06 SXSW2019セッション紹介。コンテンツ体験のデータ化と「想像力」 (2019-04-04)
- [SXSW2019]Vol.05 「Sony Wow Studio」三年目の施策。ソニーらしさ健在、賢者との対話に注目 (2019-04-03)
特集記事
![]() |
ARRI, my love 映画機材界の雄であるARRI。日本での販売拡大に注目されるARRIの歴史から実用例までフィーチャーする。 |
![]() |
SXSW2021 3/16~20日にオンライン開催となった「SXSW2021」をレポートする。 |
![]() |
Virtual Production Field Guide 国内のバーチャルプロダクションの展開と、映像制作ワークフローへの影響について紹介 |
![]() |
CP+2021 オンライン開催のCP+2021で発表された新製品をレポート。 |
![]() |
新世紀シネマレンズ漂流:NewTrend 2021編 2020年末から2021年に発売されたレンズ新製品をピックアップする。 |
![]() |
映像基礎講座 Episode 2 2020年8月に公開された特集「映像基礎講座」続編。引き続き映像の基本や基礎知識を学ぶ。 |
![]() |
CES2021 オールデジタルのオンライン開催となったCES2021をレポートする。 |
![]() |
年末イッキ読み! 2020年に話題になった製品の特集やコラム記事をまとめて振り返る。 |
![]() |
PRONEWS AWARD 2020 激動の1年となった2020年の映像業界を、PRONEWS編集部が総括する。 |
![]() |
再現:Inter BEE 2020-Web Trade Show- 11月18日(水)からオンライン開催されるInterBEEを解説する。 |
![]() |
ぼくらのEDIUS X 約3年ぶりのメジャーバージョンアップとなる「EDIUS X」の魅力を紹介。 |
![]() |
Broadcast & Cinema EXPO 2020 映像制作者、映像業界関係者向け情報イベント配信番組。 |
![]() |
ATEM WORLD ラインナップ充実のATEM Miniシリーズの選び方や使いこなしをご紹介。 |
![]() |
SIGGRAPH2020 オンライン開催されたVFXの祭典・SIGGRAPH2020をレポート。 |
![]() |
映像基礎講座 映像の基本や基礎知識を学ぶ。映像制作初心者はもちろん、熟練者ももう一度初心に立ち返ろう。 |