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[ココロカメラ]Vol.25 美術番組のロケハン

2018-12-18 掲載

txt:オースミユーカ 構成:編集部

巨大な青森県立美術館をどう切り取るか?

新番組の制作がはじまった。海外向けの英語チャンネル「NHK WORLD JAPAN」の美術番組「Close to ART」だ。今年のはじめに作ったパイロット版の評価が抜群に高く、めでたく月一本の制作が決定したのだ。

レギュラー化の記念すべき第一回は「青森県立美術館」。まだ私自身、一度も訪れたことがなく、行ってみたかった美術館だ。夏の青森ははじめてだし、ロケハンとねぶた祭りがきちんとかぶるし(笑)、作品やそれにまつわる文献を調べる取材作業も楽しく進んだ。

青森県立美術館外観。青空にホワイトボックスが映える

青森県立美術館はとにかく大きい。見た目はシンプルで華奢な美術館にみえるが、実は地上2階、地下2階まであって、大きな吹き抜けやら迷路のような入り組んだ道やら、順路もなく地図もない街を歩いているような迷宮感満載の巨大な建築だ。その空間をどう切り取るかを自由に考えていいなんて楽しくてワクワクする作業だ。

フォトジェニックな「あおもり犬」との格闘

逆光を背負う、奈良美智「あおもり犬」は8.5mの大きさ

ここは青森出身の作家の美術品が多く展示されているのが特色で、奈良美智もその一人。奈良の巨大オブジェ「あおもり犬」は美術館を代表する作品のひとつで、いろいろなみせ方のできるフォトジェニックな作品だ。

たとえばこの写真は、ロケハン中にたまたま出会った午後14時の光。逆光を背負った「あおもり犬」を室内からみたその空間が丸ごと美しい。この作品をみせるための美術館の導線も、なかなかよく考えられている。まず奈良美智の絵画作品などをみながら歩いていると、突然巨大なこの作品が視界に入ってくるという憎い演出なのだ。その驚かせ方が圧巻だったので、番組でもジンバルNebula 5100にα7Sを載せた主観映像で突如視界に現れる「あおもり犬」のおもしろさを撮影した。こうして自分が美術館にはじめに訪れたときに感じた気持ちや驚きをそのまま画に落とし込むことを大切にすると、いきいきとした映像が撮れる。

「あおもり犬」のまわりは観覧者も撮影可能スポットなので人が絶えない

「あおもり犬」はインスタスポットとしても大人気。やっぱりお客さんとともに作品を撮影すると、サイズ感も伝わるし、その魅力も客観的に伝わる。美術館に実際に来ている方々の目障りにならずに、動きを極力止めずに、撮影許可を取りつつ、しかも自然に撮影するのはそこそこ大変だ。でもここは青森。お客さんや美術館スタッフを含めて、みんなが青森の空気にふれてのんびりくつろいでいるので、本番でもいい映像がたくさん撮れた。

ロケハンのお楽しみは、普段お客さんとしては入れてもらえない屋上など、いろんな角度から作品を楽しめること。とにかく高いところが大好きな私は、必ず屋上など一番高い場所にのぼって俯瞰の画を確かめる。

屋上からの眺め。写真右手の緑の芝のあたりで撮影することに決めた

この「あおもり犬」は、俯瞰からみるとまるで遺跡のようで、時空を超えて地中からいま出土してきたばかりにみえる。それもそのはず、この作品は美術館のお隣にある三内丸山遺跡の発掘現場をイメージして作られたのだ。その雰囲気を伝えようと、クレーンを使って俯瞰からの撮影を試みた。これもロケハンでとりたい画を決め込めたから機材が手配できて、現実的になった。

この場所は普段、お客さんは入れない場所。撮影では、東京から運んだ簡易クレーンを、現場で組み立てる。10メートルの深さがあるので、ネジひとつでも落とさぬように慎重に作業。下にはたくさんの「あおもり犬」を観ている人々がいるので、わずか3人の撮影隊は緊張しながら慎重に進めている。この撮影楽しいな~、と写真を撮ってられるのは、ディレクターだけ(笑)。

緊張しながら作業するカメラマンの成田さん。10メートルの深さ!

ロケハンでは撮影要素すべてのあたりをつける

美術館の中は空間として魅力的な場所がたくさんある。どう切り取るかを考える作業が楽しい

その他、学芸員のインタビューを3人分撮影するので、ロケハン時に場所の目処をつけておいた。アーティストごとに、専門の学芸員がいるためだが、そのアーティストの作品前で学芸員インタビューを撮影をするのが一般的な考え方。でも今回はカメラマンと話し合って、光と空間の魅力的な場所を探ることにした。アーティストの作品はどうせインサート映像として入ってくるのだから、美術館をまるごと特集する番組として建築の魅力をみせるいいチャンスだからだ。

TV番組の演出をするときは、どうしても“わかりやすさ”というキーワードが頭についてまわるため、わかりづらいことをやろうとすると勇気もいるしブレーキもかかる。けれど今回は魅力的な場所重視でインタビューを撮ってみて結果的に成功だった。魅力的な画の中に存在すると学芸員の言葉も説得力が増すし、なにより映像が豊かになるからだ。レギュラー番組の楽しさは、自分なりの小さなチャレンジを少しずつ積み重ねていけること。

さて、番組は青森県立美術館に行ってみたい映像になっているだろうか?

NHK WORLD「Close to ART」
番組はこちらから視聴できます(全篇英語)。


WRITER PROFILE

オースミ ユーカ 映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。


[ Writer : オースミ ユーカ ]
[ DATE : 2018-12-18 ]
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