前回に引き続き、DTVの遍歴から始めます。この過酷な時代を生きたからこそ、最新技術の利点を素早く見抜き、現場にあったモノを投入する自負はあります。技術の進歩が早すぎるのもうれしい反面、情報をキャッチアップするだけでも一苦労という側面はあります。DV+Final Cut Pro(以下FCP)がノンリニア編集(以下NLE)の普及に繋がり、P2カメラによりDTVがHDサイズを手に入れました。2002年から06年の出来事です。自分にとってはDTV修行の時期でもありました。さてここから始めましょう。

DTVのもう一つの流れ非圧縮リアルタイム編集

DV編集がNLEをスタンダードにしたのは言うまでもありません。DTVの歴史にはもう一つ大事な流れがあります。それは非圧縮リアルタイム編集です。非圧縮のMacシステムで仕事を始めたのが、2002年頃です。初期の頃は、SD-SDI出力端子が付いたSDカメラを使用して、CineWaveという非圧縮キャプチャーシステムを使用していました。カメラはもちろんプログレシッブで撮影可能なカメラを使用し、主に合成時にこのシステムを使用していました。HDもRAIDシステムが必要で、当時はかなり高額なシステムでした。

2003年アップルからXserve RAIDが発表されました。当時は驚愕の容量2TB、RAID5で構築されているので、より安全で、高い信頼性を誇っていました。これを機に非圧縮環境が格段に整い、FCPのバージョンアップと共にCineWaveも進化し、DTV上でHD非圧縮リアルタイム編集が可能になりました。

遂にFCPシステム上で、HD-SDIからの入力が可能になり、ハイエンドなHDカメラ、VaricamやCineAltaで撮影したものを非圧縮取り込みして編集・加工が可能となった訳です。とはいえ、当時はまだまだSD時代、HDサイズを利用してSDの中でトリミングしたり、AfterEffectsでズームや移動のアニメーションを付けたりと、クリエイティブの幅も広げることが出来ました。

HD環境がやってきた!

Mac用キャプチャーボードであるDecklinkシリーズやKONAシリーズが小さなプロダクションや個人で購入できる価格になり、DTVでの非圧縮編集環境が整いました。編集ハードウェア側の進化と同時に、アップルの戦略は続きます。Final Cut Pro HDという名前に変更して注目を集め、さらにmotion、DVD Studio Proなどのツールをまとめ、Final Cut Studioを発表しました。コンポジットアプリケーションShakeの価格を大幅にさげ、FCPとの連携を強化しました。そういった背景があり、アップルはMac上で「何でも出来る」というブランディングに成功したのだと思います。

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HD-SDI出力端子実装がキーポイントのXL H1

一方カメラ機材では、CanonがHD-SDI出力端子を搭載したXL H1を2005年に発表しました。 このカメラの面白さは、基本的には内蔵でHDV記録するタイプですが、この価格帯で同時に映像を出力するHD-SDI出力端子を搭載した事でした。

この時期の僕は、XL H1のHD-SDI信号をMacで直接取り込むといった事をしていました。その理由は、VTRを通さないので、全く劣化していない非圧縮データを手に入れることができたのです。合成のクオリティーは、感動そのものです。この頃の僕ははっきりいって、非圧縮オタクでした。

NAB2007が分岐点!本格的なHD時代へ

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DTVを取り巻くハードウェア、ソフトウェアの進化と様々なカメラを組み合わせて、制作してきた僕が気付いた事は、テクノロジーの進化はクリエイティブに新しい風を吹き込むという事でした。では「最新の映像テクノロジーってどないなん?」という好奇心から初のNABを覗いてみることにしました。NAB2007は、会場の規模の大きさにビックリしている暇もなく、いきなりアップルが会場の外のデッカイ壁に広告を貼り、Final Cut Studio 2(以下FCS2)を大々的に発表しました。

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Appleの発表会でサプライズ発表され会場は騒然!
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突然現れたRED。一目見るのに2時間待ち!

DTVでHD作業する身としては、新コーデックProRes422には驚かされました。非圧縮のクオリティーを保ったまま容量を約1/5にする事ができるというのです。SDにもHDにも、どんなサイズにも、どんなフレームレートにも対応し、ProRes422コーデックのシーケンスを使えば、オープンフォーマットタイムラインになりHDV、DVCPRO HD、XDCAM EX が同時に編集可能になるというのです。アップルとしては、HDコーデックが乱立する中、これに統一しましょうという一つの答えを提案してきたわけです。本当にアップルは映像制作について考えていると感心しました。

当時HD非圧縮で作業していた僕は、納品がSDなので何とかDTVで凌いでいました。これから先、HDD容量の問題やHD納品になった場合に非圧縮データでやっていけるのか心配していた矢先のProRes422の発表は、多くの映像製作者に安堵をもたらしました。なんてったって軽いんだから…。

次にFCS2から新たに仲間入りしたcolorも驚きでした。これはカラーグレーディングに特化したアプリケーションで、「FCPのカラコレは、あんまりだからAfter Effectsでやってます」と言うほとんどのユーザーを振り向かすことになったアプリでもあります。

ハードウェアで注目を集めたのが、AJA Io HDでした。FCS2から採用されたProRes422をMacに取り込むハードウェアとして登場してきたのです。SD/HD-SDI/HDMI入力が可能で、FCS2とのセットで新たなワークフローを予感させました。NAB2009で発表されたAJA KiProの元となるものです。

現在も話題をさらうRED ONE CAMERA (以下RED)が登場したのもこの年でした。「4K?で、HDも撮れて、テープレスで?ハイスピード撮影可能?RAW現像してカラコレ?」「そんで編集はFCPで?」「さらに価格が安い!」様々な言葉が飛び交いました。ここでもアップルとREDはうまくアライアンスを組んでいます。デジタルシネマカメラだから日本では台数は入ってこないかも?と思っていたら2009年現在、REDは、凄い数が日本に入って来ているという噂です。東京以外の地域に売れているらしく、これもDTV進化の影響があると考えられます。

昨日があるから未来がある。果てしなく続くワークフローの旅へ

NAB2008以降アップルは、NABに参加していません。NAB2007でアップルは、良い意味で映像業界を掌握できたと思ったのでしょう。実際にFCPのユーザー数は、増え続け、アップルブースがない、NABでも各ブースでFCPは使用されているのが何よりの証拠です。前回に引き続き、DTV歴史を紹介となってしまいましたが、新しい技術は、過去のフィードバックを元に進化を遂げているからです。過去を知ると現在の話がしやすくなると思ったからです。現在はSDからHDへの移行期でもあり、映像のデジタル化、さらにテープレス化など様々な要素が絡み合って複雑になっています。現状はクリエイティブが放置されたままでテクノロジーに翻弄されています。テクノロジーとクリエイティブは仲良しだったはずなのに。次回からは僕が経験した中から色々なワークフローを紹介、提案していきたいと思っています。

WRITER PROFILE

高野光太郎

高野光太郎

Cosaelu株式会社 代表取締役 / 映像ディレクター ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。