「日本ビクターからXDCAM EXのカメラが発売になるんじゃないか…。」そんな真しやかな話が聞こえてきたのが昨年の秋のこと。それは現実のものとなった。

先日発売になったハンドヘルド型のGY-HM100は、記録メディアこそSDHCカードだが、内部の記録フォーマットはXDCAM EXの記録フォーマットそのものに、さらに独自のQuickTime for Final Cut ProなるMacユーザーには待ち望んだ記録フォーマットまで引っさげて、鳴り物入りで登場した。

GY-HM100のレポートは前回の記事をご覧頂くとして、今回はショルダースタイルのGY-HM700のファーストインプレッションをお届けしたい。

このGY-HM700を単純に説明するとすれば、GY-HM100同様に、「XDCAM EXフォーマット(以下.MP4とする)とFinal Cut Pro向けのQuickTimeフォーマット(以下.MOV(FCP)とする)でSDHCカードに”記録”出来るカメラ」と言えそうだが、実はこの2機種、構造もスタンスも大きく異なるカメラなのだ。

ハンドヘルド型のGY-HM100は、確かにSDHCカードに.MP4も.MOV(FCP)も記録できるカメラだが、ショルダースタイルのGY-HM700は微妙な”大人の事情”が入り組んだため、SDHCカードの記録はややこしい条件分岐が発生してしまった。

単体のGY-HM700では、.MP4記録は行えない!?

GY-HM700は.MOV(FCP)と.MP4のハイブリッド記録が売りだ。確かにカタログにも大きくハイブリッド記録を謳っている。しかし、このハイブリッド記録はGY-HM700単体では実現できないのだ。

単体のGY-HM700では、メニュー内のFile FormatにはQuickTimeしか表示されない。要するにGY-HM700を買っただけではハイブリッド記録は出来ない。.MP4記録を有効にするにはオプションのSxSメモリーカードレコーダーKA-MR100が装着されていなければ、.MP4記録できない仕組みになっているのだ。

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SxSメモリーカードレコーダーKA-MR100を装着すると、MP4が選択可能になる

KA-MR100はSxSメモリーカードレコーダー。SDHCカードだけですべて運用するつもりのユーザーにとっては無用の長物。SxSメモリーカードを使用するつもりの無いユーザーにとってSxSスロットは必要無い。

ここに”大人の事情”が見え隠れする。 XDCAM EXフォーマットはそもそもソニーの設計したSxSメモリーカードありきのファイルフォーマットだ。どこかにSxSメモリーカードの存在場所を作らなければならなかったための苦肉の策ではないかと思わず勘ぐってしまう。

2009年9月14日追記:IBC2009にて、.MP4記録への対応が発表されました。今後出荷されるGY-HM700はオプションのSxSアダプター「KA-MR100G」を接続しない状態でも、本機のみでSDHCカードへ「MOVファイル形式」と新たに「MP4ファイル形式」が選択可能となりました。既に出荷されている製品はアップデートソフトウェアの配布にて対応予定です。
2009年12月17日追記:MP4ファイルフォーマットやSDHC Class10カードに対応したファームウェアは、こちらのメーカーサイトからダウンロードできるようになっています。

ちなみにGY-HM100やGY-HM700で撮影した.MP4ファイルだが、ソニーのXDCAM EX Clip Browserでもプレビューすることができた。

100万円以下で手に入る、唯一無二の3CCD採用レンズ交換式ビデオカメラ

付属の14倍ズームレンズはCanon製KT14×4.4KRS。これまでのGY-HD100/250はFujinonレンズを採用している点からすると、フルHD解像度を記録するカメラのためにレンズも再検討したということだろうか。

レンズの操作性だが、当然業務用レベルのレンズのため放送用のような上質なリング操作感は無いが、昔のSONYのDVCAMについていたレンズと同様の操作感と思っていただければいいだろう。残念ながらレンズフードがプラスチック製のフードになっている点とズームリングのレンズピンが取れない仕様は改善いただきたかった。

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レンズピンは固定されている。取り外しはできない

今回は試用時間も短く、追い込んだ画質評価まではできなかったが、感度は2,000lux F7~8くらいではないだろうか。というのも公称のスペックには記載が無いので、2,000lux F8相当というHVR-Z5Jと単純に横並べして比較してみたところ、1~1.5絞り分程度暗いように感じる。

カメラの明るさだけはメーカーごとに測定基準もばらばらで、きちんとした比較が数値で行えない。この点はいい加減、業界で標準規格化してもらえないだろうか。

しかし、3CCDを採用し、レンズ交換式でレンズ付属の100万円以下というカメラは今やこのGY-HM700しかない。CMOS特有の”歪み”に辟易していたユーザーや、業務用レンズを望むユーザーには、待望のカメラと言えるのではないだろうか。

なぜこの位置なのか? LCDモニター

GY-HM700を手にして最初に驚かされるのが、LCDモニターのその大きさだ。4.3型の大型液晶が本体の左側面に折りたたまれている。三脚運用時には、LCDモニターの位置はよいのだが、ショルダースタイルでは、このLCDモニターがまったく使用できない。ためしに開いたまま担いでみたが、まるで口元にマスクをしたかのような状態になってしまい、画面を見ることはほぼ無理だ。せっかくの大型LCDなのに、非常にもったいない。

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実際に担ぐとこの通り。三脚運用時の専用モニターと割り切ろう

また、ビクターお得意のグレアパネルのLCDパネルなので、映り込みが気になるユーザーは多いかもしれない。

特徴的なバックライト式カーソルキー

GY-HM700のメニュー操作やクリップ再生操作は丸いバックライトを備えた十字キーで行う。このバックライトだが、撮影時は青/紫、SDHCカードの再生などメディアモード時は緑、外部レコーダーなどIEEE経由のメディアモード時はオレンジに光る。

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舞台などの撮影で、暗転の演出時にビデオカメラの発光部が障害になり現場スタッフと揉める…などというシチュエーションがよくあるように、カメラの発光部を気にする方も多いだろう。

ご心配なく。メニュー内にMode LEDのon/off設定があり、発光しないようにすることも可能だ。

総評

ここまでいろいろと不満点を述べたが、不満以上にいいカメラだと感じる。マニュアル操作ができて、ショルダーカメラで、3CCDで、オプションをつけるとしても.MP4と.MOV(FCP)の両フォーマットがSDHCカードに記録できて、これで、100万円でお釣りがくるとは、正直信じられない。

対抗馬はパナソニックのAG-HPX305になるのだろうが、残念ながらこちらはCMOSだ。これでも100万円以上するのだから、GY-HM700がいかにコストパフォーマンスに優れているかお分かりだろう。

ダークホースが一躍人気馬に成り上がる。競馬ではないが、そんな”化ける”カメラかもしれない。

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System5 Labs

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SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。