さて「カメラを動かす」は、4回目にして完結編です。とは言ってもカメラワークについて語り尽くせる人はいないだろう。それほど自由で奥の深い物だと言えるので、最終的には皆さんが出会うシチュエーションに応じて、自分なりの感性で試行錯誤を積み重ねるべき物だと思う。少なくとも「ドキュメンタリーはこう撮らなければいけない」とか「女優はこう撮れば必ず美しい」等という固定概念には縛られないで欲しいと思う。形の決まったテレビ局や結婚式の仕事では仕方ないかもしれないが、プチシネは冒険と発見の場であってほしい。そして自信を持って冒険をするために、様々なリスクを計算できるようになって欲しい。これまでカメラを動かす事で生まれるリスクの事も書いてきたが、それは決して臆病にさせる為の物ではないという事を理解してほしい。

そうだ!ホームセンターへ行こう!

紹介したいのはそのリスクのギリギリかもしれない『ふるいちやすしの大冒険的』なカメラワークで、参考にしていただく分には構わないが、決して責任持ちません!各自自己責任の範囲内でやってみて下さい。ところで、僕が冒険の中でも絶対避けなければいけないと思うリスクとは、

  • 人が怪我する危険性
  • 高価な機材が壊れてしまう危険性
  • スケジュールを狂わせる危険性

等だが、僕は信頼されるべき映像機材メーカーを目指している訳ではないので「安い物なら1カット持てば壊れてしまってもいい」とか時間がかかってしまいそうな冒険的カメラワークもあらかじめスタッフと演者の理解を得て、それなりのスケジュールを組んでおけばいいとも考えている。そうすると案外ホームセンターには「使える」機材は転がっているものだ。その幾つかの作品(笑)を見てもらおう!

あると便利な『どこでもスケート』!

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この日曜大工感がイカすでしょ。多分2000円くらいで作ったと思うんだが、なかなかあなどれない機材です。例えばレールを借りてそれを設置するだけでも大変な事で、横移動はついつい三脚のヘッドを振るだけになってしまう。これがあれば机とか表面のきれいな物ならそのまま転がせるし、写真のように一枚きれいな板を持って行けばどこでもスムーズなスライド映像が撮れる。

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例えば車の屋根とかでもいい結果が得られる。他にも撮影現場には必ずと言っていいほど転がっている荷物用の台車も車輪に窓の隙間用のスポンジテープを貼るだけで動きはスムーズになるし、レールの代わりに厚めのゴムシートを敷くと更に良い。私もドリーくらいは持っているが、室内であってもよっぽどスムーズな床でないとレールの代わりにはならない物だが、そんな時、ゴムシートはかなり役立ってくれる。

カメラアングル自由自在『ブランコ・ネット!』

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解りにくいかも知れないが、これはバイク用の荷物ネットだ。これならレンズはもちろん、ビューファーも好きな所から出せるし、各スイッチの操作も可能だ。工夫すれば案外しっかり固定できるのでいろんな物にぶら下げられる。だが工夫しないとカメラが落下するはめになるので良い子のみんなは真似しないでね(と言っておこう。)

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写真ではマイクスタンドにぶら下げているが、必ずしっかりホールドしてなくてはならないものの、慣れればなかなか安定したクレーンワーク(?)ができる。

これらの方法を真似て欲しいという事ではなく、要は発想次第でカメラワークの可能性は広がるという事だ。もちろんお金に余裕があればちゃんとした撮影機材を買ったり借りたりした方が良いに決まっているが、余裕がないからといって諦めないでほしい。たった30cmの移動でも工夫次第でいろんな方法があるし、それは画面にダイナミックな変化を付けてくれる。三脚のフィックスかフリーハンドのどちらか、という狭い発想から抜け出してほしい。

鍛えるべきはフリーハンド

このような工夫を凝らして(凝らしてないか?)撮影機材を作るのも楽しい物だが、やはり究極の機材は人体だと思う。ロボットアームでも使えるのならいいが、人体ほど自由に意のままにコントロールできる機材はそうそうない。ただその分不安定な動きをしてしまうのも人体だ。そこさえクリアできれば映像の表現力は格段に上がるはずだ。その為には太極拳でも何でも習ってみたい物だが、少なくともカメラのホールディングの基本はしっかり身につけておこう。

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これは人によって意見の分かれる所だろうが、私はこのようにホールディングハンドルを持ち、ほぼ右手一本でカメラを支えるような事はまずしたことがない。小型の軽いカメラならまだしも、少し時間が経つと手が震えだしてしまうし、ついつい腕一本で追ってしまい、(確かにその分素早く動かせるというメリットもあるが)不安定な動きになってしまいがちだ。

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私はこの写真のようにファインダーは諦めてモニターを上へ向けお腹に抱え込むように持ち身体ごと動くようにしている。

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同じくファインダーは諦める事になるが、上のハンドルを持ち、無理矢理肩乗せ(肩当て?)のように持ったところ。この方法、意外に安定するので私は多用している。いずれにしても自分と自分のカメラに合ったホールディング姿勢を身につけ、身体ごと動くトレーニングはしておくべきだろう。

太極拳は大げさかもしれないが、ある程度の筋力としなやかな動きは求められる。様々な動きを身につける事がそのまま様々なカメラワークに、そして映像表現に繋がる。例えばカメラを動かす一つのコツだが、必ず到達点を決めておき、そこで一番楽な姿勢になるように立つ事が大事だ。始点からひねっていっては最後に苦しい姿勢のままキープしなければならない事が多い。それより到達点から一度ひねって始め、楽な姿勢に戻る方が安定する。さあ、今日からストレッチとスクワットだ!!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。