セリフや環境音同録のススメ

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前回までで撮影現場でのマイクの選択と使用方法を解説してきた。より良い選択をしてセリフや環境音をできるだけ同録するように心がけてほしい。だが実はそういう事を強く勧める映像関係者は多いとは言えず、ハリウッド映画等はほぼ全てがアフレコで音声を作っているとも聞く。確かに音質面だけ考えれば録音スタジオの方がいいに決まっているし、音のバランスを整える整音段階でもスタジオで録った音の方が数段扱いやすい。ただし、忘れてはいけないのはしっかりしたスタジオとエンジニア、そして何よりアフレコに慣れた優秀な役者がいるという事が絶対条件だという事だ。アフレコに関しては別の機会に解説しようと思うが、いくら音質やバランスが良くてもドラマのセリフで映像と音声の感情レベルが違っていてはどうしようもない。

アフレコの現場では役者も監督も映像のタイミングに合わせる事に気を取られてしまいがちで、本番の感情レベルを再現するにはかなりの慣れと技術が必要になる。多かれ少なかれアフレコに頼らざるを得ない状況は出てくるので、その技術と人材を集めておく事も大事な事だが、その前にせっかくの生の声をできるだけ良い音で録るように心がける事は良いドラマを作る為の近道なのだ。そういう意味では現場でのオンリー録り(撮影現場で音声だけを録音する事)も有効な手段だ。もちろん細かいタイミングを後で合わせるのは大変だが、演技が終わったばかりの役者はテンポも感情レベルも覚えている事が多いのでアフレコよりはいい結果が期待できる。ノイズが多い現場なら車の中でやるのもいい。遮音性もそこそこあるし、少し静かなところへ移動してやるのもいい。

収録の要 レコーダーを考える

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前置きが長くなってしまったが、今回の本題はレコーダーだ。マイクで拾った音を何で録音しておくかという事を考えてみよう。圧倒的に後が楽なのはもちろんカメラに直接録音しておく事だが、今のビデオカメラはたとえ業務用であっても音質が優れているとはいえない。ましてや民生機やデジタル一眼になると録音機能はおまけ程度の物だと考えておくべきだろう。私がそう言い切る一つの理由がサンプリングレートという物の値で、これは映像で言うところのフレームレートのようなもの。数値が高ければ高いほど滑らかで艶のある音質になる。

現在のところほとんどのカメラが48kHzが上限で、音楽CDが44.1kHzだと言う事を考えると悪くない数値だ。しかしDVDが96kHz、Blu-rayでは192kHzの高音質で収録できる事を考えるとせっかくの現場音を48kHzでしか収録できないというのは何とももったいない話だ。映像機器メーカーの音声に対する意識は低く、以前某メーカーの新作カメラの発表会で「何故今回も48kHz止まりなのか?」と問い詰めたところ、「それ以上は音声スタッフが考えればいい事だ」と一蹴されてしまった。象徴的な話だと思う。それならその音声スタッフが使っているようなレコーダーを使って音の別録りをすればいい。確かに編集段階で同期させなくてはいけないという一手間は避けられないが、今の編集ソフトではクレジットコールやカチンコをちゃんと入れておけば大した手間ではない。

またフィールドレコーダーと呼ばれる小型録音機の発展は著しく、小型化、高機能化、低価格化とプチシネ的には大歓迎な状況だ。さすがに192kHzといったスタジオクオリティの物はまだ少し値も張り、小型の物も少ないが、96kHzでよければ3万円前後で各メーカーの様々なモデルが揃っている。それにほとんどのモデルに高性能マイクが付いており、カメラの録音ユニットだと考えてもいい。カメラの方も小型、高性能化が進んでいて、レコーダーを付けた状態でも一台のカメラとして扱えるはずだ。そしてさすがに音響機器としての機能は盛りだくさんで、レベルコントロールの種類も豊富、中には4トラックのマルチレコーディングができる物もある。そんな中からカメラのレコーディングユニットとしては何を基準に選べば良いのだろう。私の考えるポイントは次の4つだ。

  1. 最低限96kHzで録音できる
  2. マイク入力がXLR(キャノン)である
  3. ヘッドフォン出力とラインアウトが別々にある
  4. 付属マイクの品質がいい

これらの利点はVol.17でも書いているので詳しくはそちらを見直して頂きたいが、小型である事からVol.20で話したように、カメラから取り外してセットの中に隠したり、役者に持たせたりと、利用価値は大変高い。今のところこの4つの条件を全て満たしているのは私の知る限りTASCAM DR-100ぐらいしか見当たらないが、それぞれの使用法に応じて必要な条件を絞り込んで機種を選んでほしい。

アフレコを一切行わなかったショートムービー『無言歌』

私のショートムービー『無言歌』は、全編にわたり風のある海辺でロケを行いながらもアフレコを一切行わず、二つのセリフをオンリー録音した以外はすべて同録で収録できた作品。お陰で役者の自然な息づかいまでも鮮明に録る事に成功している。もちろん96kHzで、別録りした海の環境音等、フィールドレコーダー大活躍の作品だ。機会があればぜひ一度劇場でも観て(聴いて)いただきたい。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。