7月14〜16日、ワイヤレスと携帯/モバイル技術の総合ソリューション展示会「ワイヤレスジャパン2010」(主催:株式会社リックテレコム/企画運営:日本イージェイケイ株式会社)が、東京・お台場の東京ビックサイト(東・第1、2ホール)で開催された。今年で15回目を迎える本展示会は、通信事業者やネットワークベンダー、端末メーカーなどを中心に217社が出展。開催3日間の合計来場者数は49,957人で、昨年の34,312名の約1.5倍となり、その注目度の高さを示している。今回は最新のワイヤレス&モバイル技術、サービス、プロダクト、アプリケーションの発表とともに、モバイル端末による映像関連技術やサービスも数多く出展された。

「LTE」と「AR」そして「マルチメディア放送」が今年のテーマ

今回の展示における注目は、「LTE」と「AR(Augmented Reality)拡張現実」、そして「マルチメディア放送」だ。LTEは、2010年末に実用化が予定されている「Super3G」と呼ばれる次世代の高速大容量の携帯ネットワーク”LTE(Long Term Evolution第3.9世代携帯電話通信)”のこと。W-CDMAの高速化規格であり、会場で実際のLTE実演デモンストレーションが行われていたNTTドコモのブースには多くの来場者が詰めかけた。高速化の目標最大値としては、ダウンロードが最大300Mbps、アップロードでも75Mbpsの高速化実現を目指している。また映像コンテンツ等のスマートフォン利用の普及や、モバイルクラウドサービスなどのデータの大容量化にも対応することから、すでにNTTドコモを始め、KDDI、ソフトバンクモバイル、イーモバイルも採用を決めている。

 今回のワイヤレスジャパン2010で映像制作界が最も注目すべきは、なんといってもV-Hiマルチメディア放送だ。2011年7月のアナログ停波以降に空く周波数帯(207.5〜222MHz/14.5MHz幅=現在のアナログ波10〜12chに相当)のなかで、携帯電話端末の利用を想定した放送と通信の長所を併せ持つ、新たなメディアチャネルとして期待されている。

このマルチメディア放送はテレビ放送や通信事業と同じく国の許認可制により受託事業者が策定される予定だが、現時点では1ch枠のみしか公開される予定がなく、受託事業者として申請しているのはmmbiとMediaFLOの2つ。本会場ではこの2大勢力が激突、お互いのPR合戦を繰り広げていた。

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NTTドコモとフジテレビジョン、日本テレビ各放送キー局、電通などが資本参入する「mmbi/株式会社マルチメディア放送」は、新しい放送技術規格「ISDB-Tmm」方式を採用。これはNHKを中心に開発されてきた、日本のデジタル放送技術を応用発展したもの。

もう一方は、KDDIが主導する米クァルコム社の「MediaFLO(メディアフロー)」技術を採用したもので、こちらもメディアフロージャパン企画株式会社を立ち上げており、こちらは国際規格としてすでに他国も導入実績がある。さらに2008年11月より沖縄ユビキタス特区において、携帯端末向けマルチメディア放送サービスの実証実験が行われ、すでにVHF帯における電波伝搬試験やリアルタイム型チャンネル放送、リアルタイム情報配信、ファイル自動蓄積配信など様々なコンテンツ配信試験を実施しており、アナログ停波後の早期導入・運用が可能なことをメリットとしてあげている。

しかしどちらも掲げるサービス内容は、蓄積型放送(ファイルキャスティング)やリアルタイム放送(ストリーミング)、視聴履歴を解析して、好みのコンテンツをお勧めするコンテンツレコメンドサービスに、全国一斉放送など、双方とも大差はない。

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またここに来て総務省が7月14日にも事業者策定されるであろうとした決定を見送り、さらに米国ではクァルコム社がMediaFLO売却をほのめかす情報が出回るなど、情勢は混乱を極めており、依然として日本純正技術か、国際規格かの違いでどちらに軍配があがるか(採択されるか)の行方は不透明だ。ただマルチメディア放送は映像コンテンツ制作者にとって、更なる拡大市場となることも大いに期待されることから、今後この動向は見逃せないだろう。

モバイルAR技術など、スマートフォン対応の新たなベンチャー技術が多数

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今年のワイヤレスジャパンの会場内では、モバイルでの新たな動画コンテンツ技術やサービスを発表・公開しているベンチャー企業が多く出展していることも大きな潮流の一つだ。会場内でもLTE、マルチメディア放送以外で注目された展示として、モバイルAR技術が多くの注目を集めていた。ARとは「(Augmented Reality)拡張現実」のことで、セカイカメラなどで話題となっている携帯端末内で仮想の物体を表示できる機能だ。携帯電話をかざした方向に存在するエアタグを携帯のカメラのキャプチャー映像や携帯に表示された疑似空間内に3D画像などとして表示できるものなど、ARを利用したソリューションが数多く出展されていた。NTTドコモやKDDIのブース内にもARのコーナーが設けられ、新たなコンテンツの表現方法として盛況ぶりを見せた。

株式会社クウジットでは、ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発したCyberCodeを利用した、iPhone等によるコンテンツサービス「GnG(GET and GO)」を公開。これはこれまでのQRコード等と同じく、コードの中に様々な情報を埋め込む事ができ、その情報はテキストのみならず、映像、3DARモデルなど様々だ。これからのQRコードに代わる新たなサービスコード展開として期待される。

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CyberCodeが印刷されたカードにiPhoneをかざすと…

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CMの動画が映し出される。読み取りは他のiPhoneアプリのように無償でダウンロード可能

その他にも会場には必見すべきものが多く展示されていた。

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無線LAN内蔵で、カメラだけでUSTREAMへ配信できるCEREVO CAM Live!19,999円と値段も手頃。http://cerevo.com

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世界最薄の3.8mm/最軽量159gのカラー電子ペーパー(富士通)試作機。

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携帯型多視点裸眼3Dディスプレイは、丸い凹凸のレンチキュラーレンズを利用して、8方向の視点情報を提示し、眼鏡無しで広範囲の自然な立体映像が観察可能な3Dディスプレイ。これもNTTドコモのR&Dブースから。

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Mobile Fitは凹凸のある面にでもぴったりと貼り付く特殊吸着加工が施されたモバイル用の吸着ホルダー。全国の車用品専門チェーン店などで販売中。今後はiPad用などの中型モニターガジェットにも対応していく。販売は株式会社Trumpから。http://www.mobile-fit.jp

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。